聖都セイダー テンジー城
度重なる地響き、そして誰もが感じる死の予感に、聖都セイダーのテンジー城は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「いったい何が起こっているのですか!!」
聖王女ニースは従者に問う。
しかし、答えられる者は誰もいなかった。
「キャァッ!!」
「あれは、あれは何??」
衛兵や従者が城の東側を指差す。
「え?」
黒い尻尾のような物が山から突き出ていた。
その尾は黒い霧のようなものを纏い、周辺に稲妻が走る。
「なっ!!!」
尻尾は山よりも遙かに大きく、海抜高度450m程度の山に対し、高度が1000mにも達するのでは無いかという程に大きかった。
本能的に皆震え上がる。
「あれは……まさか……まさか……」
聖王女ニースは、日本へ視察に行った際、ガハラ神国の使者が言った言葉を思い出す。
『間もなく八岐大蛇が復活する』
他国よりヒントも与えられた。
国を救うため、最悪の悲劇を防ごうと必死に動いた。
でも、王族たる私が、権力をもっているはずの私が必死に動いても、国家という組織を変える事は出来なかった。
救えなかった。
国を……民を……自分の力不足で救えなかった。
「くそっ!!!」
ニースは窓枠に自らの手を打ち付ける。
手からは血が滴った。
「ニース様!!」
騎士ミラがニースの元へ駆け寄る。
有事に頼りがいのある者が駆けつけ、ニースは少し安堵する。
「ミラ、聖王子ヤリスラ様は何処におられるか?」
ミラの表情が曇る。
「……あそこです。聖母ラミス様、総務郷ワイデス様もご同乗されています。
現在王城において、最高位はニース様です」
ニースはミラの指さす方向を見る。
王城から西方向へ逃げるように飛んで行く飛空艦がそこにはあった。
実際、天変地異からの避難という形で彼らは飛んで行っていた。
同避難に関し、ニースに声はかかっていない。
「なんと!!なんと情けない!!!」
ニースは王国臣民を見捨てて自分たちだけ逃げ出す彼らの姿に失望する。
目を瞑る沈黙……そして決意する。
「ミラ!!非常時です。軍王に至急連絡、王都臣民の安全確保に全力を務めるよう要請!!」
「軍王様とは現在何故か連絡がとれません!!」
「ならば緊急事態条項8の11を発令、現時点をもって全ての指揮権を聖王女ニースが持ちます!!聖王直轄軍の残存兵力及び今動かせる人員は?」
「現在ワカスーカルトからこちらに向かって飛んできています。
あと1時間20分程で聖都に到達します。
空中戦艦はすでに日本国によって撃墜されているため、主力は飛空艦隊のみ。
陸上兵力は、アバドン様が率いる第2魔戦騎士団4000名が聖都におります。
また、特殊戦力として、銃神ダルサイノ様率いる特化狙撃部隊20、他警察部隊として聖都に2000、テンジー城従者430名が今動かす事が可能な者達です」
「従者はすぐに街に出て避難誘導を実施!!あれから出来るだけ遠くに聖王国臣民を離すよう指示!!!
飛空艦隊は可能な限り早く聖都へ急行。
ただし、あれからの攻撃が無い限り、こちらから先制攻撃はしないように。
第2魔戦騎士団及び特化狙撃部隊は……あれが我らに仇を成す存在なら、臣民のために足止めをよろしくお願いします!!!
私はテンジー城に残ります!!!」
「はっ!!」
聖王女ニースは命をかけ、聖王国臣民を一人でも助けるために動くのだった。
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