2026年09月15日

第147話 逃避行P4

◆◆◆

 翌朝ーー

 空からこぼれる太陽の光。
 シエリアの意識は徐々に覚醒する。
 外は文明圏外国家故なのか、機械音は一つも無く、スズメのような鳥がさえずる。

「ふぅ……すっきりした」

 これほど深い睡眠は何年ぶりだろうか。
 一気に旅の疲れが取れた気がした。

「お目覚めですか?大広間で朝食をとりながら、本日の行程をお話します」

 エイミはシエリアに伝えた。
 二人は洗面の後、大広間へと向かう。

 大広間ーー
 
 主要メンバーが集まり、食事が始まる。エイミが立ち、グラ・バルカス帝国の重鎮に説明を始めた。
 
「結論から申しますと、商船の手配が出来ました。
 3泊分見ておきましたが、昨日優秀な部下達によって手配が出来ましたので、本日昼には出発出来そうです。
 一応宿は7泊分とってありますが、いかがしますか?」

 1日で疲れが取れていないゲスタの顔が歪む。

「もう何泊か休んでいきたいところだが……」

「いや、すぐに出発しましょう」

 ゲスタの発言に、シエリアが被せて話した。
 シエリアは続ける。

「レイフォルにおいて、私たち幹部は見つかっておらず、戦死した訳でも無い事に敵が気付き、手配をかける可能性があります。
 ワイバーンもいる。
 見た目の文明よりも情報伝達速度は遙かに速い。
 一瞬の動きの遅れが命取りになる場合があります。
 すぐに、今日出発しましょう!!」

 シエリアの正論に、ゲスタはただうなだれる。
 彼らは出発の準備を急ぐ。





◆◆◆

 レイフォル国 首都レイフォリア

 ソナル王国第一魔法剣士団

「ソナル王国第一魔法剣士団のソードという、家を捜索させてもらうぞ」

 グラ・バルカス帝国ダイジェネラ山岳要塞は、列強エモール王国「極みの雷炎龍」の攻撃により崩れ落ちた。
 グラ・バルカス帝国幹部は巻き込まれて死亡したのか、もしくは未だ王都に潜伏しているのか判明しなかったため、各連合団は手分けして「各家庭をしらみつぶしに探す」といった作戦に入っていた。
 屈辱的支配下にあったレイフォル人のほとんどは協力的であり、スムーズに事は進んでいた。
 そんな中、ソナル王国第一魔法剣士団のソードは、割り当てられた今日のノルマのうち、4件目にあたるレイメビウス商会第16別館を訪れていた。
 
 もう自分だけで311件も回っている。
 重要な仕事であることは理解していたが、度重なる「異常なし」に嫌気がさしていた。

「ソナル王国第1魔法剣士団第1大隊第5中隊第2小隊第3分団長のソードという。
 これより第二文明大陸共通緊急法案77条、グラ・バルカス帝国対策法に基づき、貴邸宅の臨検を行いたい」

「……はい」

 レイメビウス商会第16別館を管理する女はソードを中に通す。
 彼はしらみつぶしに臨検していく。

(今日も異常なしか)

 帰ろうと思ったその時、ふと本棚に目が行く。
 
(これは……)
 
 ソードは本棚の間に置かれた珍しい時計を見た。
 
(ムー式?いや、グラ・バルカスか!!?)

「おい、娘」

「はい」

「グラ・バルカス帝国を追い払う事、これは第二文明圏の意思である。
 包み隠さず話せ」

「……はい」

 レイ・メビウス商会第16別館を管理する女はあらかじめ準備された想定に従い、話しを始めた。

○ グラ・バルカス帝国の位の高い者がいたこと。
○ レイ・メビウス商会の商会長の娘を人質にとってニグラート連合に向かったこと
○ 向かった理由までは知らされていないこと
○ 人質をとられていたため、言うことを聞かざるを得なかったこと

 事実とは大きく異なる想定であった。

「おのれ!!人質をとるとは何と卑怯な!!!」

 ソナル王国のソードはすぐに待機所へ戻り、魔信で報告を行う。
 帝国の残党が、人質を取って逃げようとしている。

 その情報は第二文明圏全ての国家に共有されるに至るのだった。



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 電子買ってくださった方、誠にありがとうございます。
 頑張っていこうと思います。
 やはり商用出版が出てると思うと、モチベーションが上がりますね。
 前、実質打ち切りみたいなものだった時のモチベーションの下がり方は結構すごかったです。
 ありがとうございます。皆様に感謝。
タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 19:43| Comment(1177) | 小説

第147話 逃避行P3

■ 女性陣 小部屋

「何というか……ここは雰囲気が良いな、この、畳だったか?なかなか良い」

「ですよねー!、ここは清潔感があって、ハルノーカスでは一番お気に入りの宿です。
 さあ、まずは風呂に入りましょう!!」

 体は疲れ果て、すぐにでも横になりたかったが、埃まみれで汚い体のまま寝たくは無い。
 後ひと頑張りだ。
 やっと体を洗えるという喜びに、シエリアに笑みがこぼれた。

「ああ、行こう!!」

 二人は大浴場へ向かう。



「ふーっ!!」

 石で出来た露天風呂、シエリアは体を洗った後温泉に浸かる。
 湯からは微かに湯煙が上がり、天然ラドンの泉質は、肌に潤いを与える。
 源泉掛け流しの温泉は、静かにお湯の流れる音を伝えてくる。

 ふと空を見上げた。

 木の隙間から月が見える。

 シエリアが子供の頃に見ていた月とは異なる月……しかし美しい月だった。
 ここがつくづく異世界だと思い知らされる。

「はぁーー」

 ため息がもれる。
 何故こうなってしまったのか……。

 グラ・バルカス帝国は前世界において最強の帝国だった。
 日本国さえ出現しなければ、今世界においても最強であるはずだった。
 帝国諜報部も情報を集めていたはず……しかし、度重なる成功体験が、「成功」という文字しか許されなくなり、慎重に動く事より効率的世界支配が優先されてしまった。

 慎重論や、国の方針に都合の悪い情報はことごとく封殺され、それらが積み重なった結果、第二文明圏と呼ばれる地域から、帝国は追い落とされてしまった。
 部門、部門で見るなら帝国は優秀だ。
 誰もが帝国がより良くなると信じて動いたはずだった。
 しかし、結果は惨憺たるものとなってしまった。

「……国とは難儀なものだ」

 シエリアから漏れる本音、一人の力がいかに無力なものであるのか思い知らされる。

「……商会の1部門でもまとめるのは大変です。
 国の1部門にいるシエリア様はさぞかし心労が重いものなのでしょう。
 帝国までの道が上手くいくかどうか分かりませんが、とりあえずこの宿は今は安全です。
 ゆっくり疲れを癒やして下さい」

 エイミは笑顔でシエリアに語る。

「すまない……ありがとう」

 シエリア、エイミは体をしっかりと暖めた後、温泉から上がるのだった。




◆◆◆

「今日は部屋での食事になります」

 エイミ、シエリアは座布団と呼ばれるフカフカのクッションに座り、眼前にはちょうど良い高さの台が置かれる。
 男性達は大部屋で食事をしている。

「失礼します」

 民族衣装を着た女が正座をし、二つ指そろえてフスマと呼ばれるスライドドアを開ける。

「食事をお持ちしました」

 エルフ種の女が浴衣と呼ばれる民族衣装を着て土下座と呼ばれる礼を行う。
 その礼は柔らかさを感じる動きで、その美しさにシエリアは一瞬目を奪われた。
 眼前に並べられる魚を主体としたご馳走、保存食ばかり食べていた二人は、久々のご馳走を前に腹が鳴る。

「どうぞ!食べましょう!!」

 2人は食事を始めた。
 米は帝国で食べるパサパサした米と異なり、ふっくらもちもちして、やわらかい。
 お吸い物と呼ばれるスープは味がシンプルだが奥深さを感じさせる。
 魚の煮付けは醤油ベースで甘辛く煮付けてあると聞いたが、初めて食べる味であり、日本酒と呼ばれる酒と非常に合う。

「お……おいしい!!なんて、なんておいしいの!!!」

 シエリアはカット目を見開く。

「この米、こんなもちもちした米は初めて食べた!!おかずもシンプルな味付けでこんなにおいしくなるなんて!!!」

 よく見ると、米の水分が反射して輝いて見える。
 カボチャの天ぷらを食べる。

 サクッ!!!

 音がして、口の中に素材のうまみが広がる。
 シンプルな塩の味付けが、こんなにおいしいと感じたことは今まで無かった。

「こ……これはっ!!」

 とにかく旨かった。

 食事に酒、シエリアは大満足だった。
 いつか……平和な世界になったら日本に行ってみたい。
 そんな気持ちが彼女の中に生まれる。
 しかし、命令とは言え自分の行った日本人への仕打ちをすぐに思い出し、敵わぬ夢だと悲しくなる。
 食事を終えた彼女らはまずは休むこととし、フカフカの布団で眠るのだった。
タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 19:39| Comment(5) | 小説

第147話 逃避行P2


◆◆◆

 ニグラート連合 南方都市 港町ハルノーカス 暁の宿 周辺

 ニグラート連合の南方都市は 人種、獣人種、エルフ種の混じった多人種が往き来して活気にあふれる。
 かつて、グラ・バルカス帝国の侵攻以前はレイフォルに至る南周りの海路の中継点として、、今より遙かに活気があり、栄えていたという。

 ゲスタ、シエリア、ランボールは土煙の舞う道を歩いていた。
 列の先頭には、レイ・メビウス商会のエイミが歩く。

「げほっ、げほっ!!全く、蛮族どもの街は汚くてかなわん!!
 この野蛮なる世界も、列強と呼ばれる国でないとここまで質が落ちるのか。
 文明圏外国家など、想像もしたくないな、もはや人間の暮らしとは思えん」

 グラ・バルカス帝国の3名は、変装により高貴さはもはや微塵も無く、長らく風呂に入っていなかったため、髪は油でテカテカしており、土埃で汚く汚れて顔は黒ずんでいた。

 街には夕日が差し込み、一日の終わりを告げようとしていた。
 小汚い格好をした一団は、街の中では一際大きい宿の前で足を止める。

 エイミはシエリアを向き、満面の笑みを浮かべる。

「みなさん、着きましたよ。
 今日からこちらで7泊分の宿をとっています」

 予定では7泊分の宿をとり、内3泊中には船を手配し、グラ・バルカス帝国の秘匿された海の補給基地、ヒルカリノを目指す。
 宿は天候悪化や手配ミスをカバーするため、多めの日数が確保されていた。

「シエリア様、こちらの宿はニグラート連合でも大人気の宿で、普通はなかなかとれないのですよ。
 レイ、メビウス商会の力を使って部屋を全て確保しました」

「ええ、ありがとう」

 シエリアは、年の離れた妹のような雰囲気を持つエイミに微笑む。

「この宿の経営者は日本式温泉が大好きで、日本国における趣のある宿と温泉を再現しているそうです」

 エイミはゲスタに聞こえないよう、シエリアに小声で伝えた。

「温泉とは、地面から湧き出る温水を使用した風呂、今日はしっかりと旅の疲れを癒やしましょう!!」

「やっとお風呂に入れるのね!!」

 長らく笑顔が消えていたシエリアに笑みが戻るのだった。




「いらっしゃいませ」

 妙に和む民族衣装を着た者達が一斉に礼をする。
 部屋には縦長の布が垂らされ、何かが書かれていた。
 土間のような箇所があり、どうやら靴を脱いで上がらなければならないようだ。
 従業員は、一糸乱れずに礼をする。

「ほう……」

 疲れた彼らはそのほっとした雰囲気に和む。
 男性陣は大部屋へ、そしてエイミ、シエリア等女性達は小部屋へ案内された。

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posted by くみちゃん at 19:37| Comment(4) | 小説