2017年05月01日

第66話 侮りし帝国P4


◆◆◆ 

 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 世界流通の要たる港町カルトアルパス、住人たちは岸壁に集まり、港の光景に息をのむ。
 眼前には世界の中心たる中央世界の強国達が集い、大艦隊を形成していた。
 
 その数は見える範囲だけでも250隻を超えている。

 この艦隊はムーの東方沖で第2文明圏の艦隊を交え、世界史上最強とも言える布陣でレイフォル沖へ向かう事となる。
 連合艦隊出陣の日……町はお祭り騒ぎとなった。
 グラ・バルカス帝国もこれで大打撃を被るだろう。

 港中に音楽が響き渡る。聞いていると、何か力を与えてくれそうな音だった。

「出港!!!」

 魔力によって増幅された声が響く。
 中央世界の連合艦隊は西方に展開する異界の軍、グラ・バルカス帝国を滅するために出港していった。

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 国家の異界への転移という大事件の後、その版図を拡大し続けている大帝国、グラ・バルカス帝国。

 強大な帝国を維持するため、必要な物資は現地人に機械の操作方法を教え、強制労働をさせるという形で補われていた。



 帝国 帝都ラグナ 軍本部の会議室〜

 帝国軍の幹部が集まり、会議が行われていた。
 会議には、帝国の3将とも言われる

〇 帝都防衛隊長 イジス
〇 帝国海軍東方艦隊司令長官 カイザル
〇 帝国監査軍司令 ミレケネス

 も参加していた。
 特にカイザルにあっては帝国の軍神とも言われ、彼の1言1言に軍部が注目するほどの影響力がある。
 軍の若手幹部が会議室の幹部に説明を行う。

「お手元の資のとおり、スパイからの情報ですが、異界の連合軍が本日、出港いたしました。
 カルトアルパスから旧式艦約250隻、そして神聖ミリシアル帝国の首都から空母を含む艦艇多数の出港を確認しています。
 敵軍はレイフォル沖を目指している模様です。」

 概要説明が終わる。

「……ついに奴らが本気を出して来たか……。」

 自分達を倒すために向けられた異世界の主力とも言える大艦隊……軍部に僅かな緊張が走る。

 つり目の女性……帝国監査軍司令ミレケネスが発言を始める。

「本来ならば、帝国監査軍が対応すべき事案ではありますが、敵の量は多く、神聖ミリシアル帝国の艦対も向かってきている。
 監査軍だけでは荷が重いですね。」

「フフ……。」

 会議室に似合わぬ笑い、帝国海軍東方艦隊司令長官 軍神カイザルが話始める。

「確かにな……帝都の防衛は帝都防衛隊と西部方面艦隊に任せ、我が兵……帝国海軍東部方面艦隊主力の力をもって一気に叩き潰す事としよう。」

 彼は一気に敵主力を殲滅するつもりだった。
 軍神とも言われる彼の言葉に口を挟む者はいない。

「東部方面隊主力が出るのであれば、ムーも神聖ミリシアル帝国の主力も、本戦いで消滅してしまうでしょうな。」

「久々の東方艦隊の全力出撃、全世界以来ですね。」

 幹部たちが感想を述べる。
 すでに軍の方針は決まり、雑談のような会議が続いた。

「そういえば、同じ異世界からの転移国家と思われる日本国は、敵艦隊に混じっているのか?」

 日本国の事が心のどこかに引っかかるカイザルは若手幹部に尋ねた。

「いえ、今回は確認されておりません。仮に参加していたとしても、大勢に影響はないかと考えられます。」

「しかし、日本国の巡洋艦は多数の我が帝国海軍航空隊を落とした。巡洋艦が多数いれば脅威になる可能性もあるのではないか?」

「はっ!確かに対空能力は特化しておりますが、対艦能力は極めて低いと考えられます。対艦戦闘を他国の船に任せ、対空に専念されると厄介ではあると考えられますが、それに対応する戦術も考えてありますし、今回の侵攻には日本国は参加していませんので、問題は無いかと思われます。」

「そうか……。」

 会議は終了する。
カイザルは、何故か日本国の事が気になるのだった。

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第66話 侮りし帝国P3


◆◆◆

 夕刻〜

 ナグアノはその日の仕事が終わり、家に帰る準備を行っていた。

「部内郵便が届きました。」

 声がかかり、1つの袋が彼の前に置かれた。
 レイフォルの現地人を雇い、一般人のフリをしてムーに向かわせ、様々な情報を集めさせる。
 そのうちの1つが、彼の元に送られてきた。

 ナグアノの部署に分析させた方が良いとの判断があったのだろうが……。
 ナグアノはうんざりした気持ちになった。
 ほとんどの場合、この手の情報はゴミである場合が多い。
 一般人が集めて来る情報など、たかが知れているのだ。
 明日開けても良いが……。
 
 郵便は、メモで小さく「日本国に関する情報」と記載してあった。
 
 帰ろうとしていたナグアノは何故か封を開けたい衝動に駆られ、郵便物を見つめていた。

「開けないのか?」

 同僚が話しかけて来る。

「ん?……日本国に関する情報?ああ、あの国か。」

「港町カルトアルパスの戦闘記録から、日本国の巡洋艦は、装備している砲も我が方と比べて豆鉄砲であり、装甲も紙のように薄い。
 彼らは技術も高そうに見えるのに、船速も25ノット程度と遅い。
 不思議に感じる。」

「確かに、艦の対空砲火の命中率が良かったようであり、もう少し強くてもおかしくはない気はするな。
 命中率を上げる事に特化し、装甲の概念が少ないのかな?」

「あるいは出力の大きいエンジンが作れず、装甲を犠牲にせざるを得なかったのかも。」

「まあ良い、明日出来る仕事は明日すれば?
 俺はもう帰るな。お疲れ様」
 
 同僚は帰宅していった。


 残されたナグアノは胸騒ぎが止まらず、袋に手を伸ばす。
 これほど本能が早く開けろと訴えかけてきた案件は、過去に無い。
 ビリビリと音をたて、封筒が破かれた。

 中には1冊の本、そしてメモのような紙が添えられていた。

『ムーにある日本国の本屋、TUTAYANで手に入れました。』

 本の題名はムーの言語に翻訳されて書かれているため、情報分析部のナグアノには読む事が出来た。
 本にはこうある。

『別冊宝大陸 日本とグラ・バルカス帝国が戦えばこうなる!』

 題名からして興味を引く内容ではあるが、彼は読み進める事とした。
 カラーの写真が印字してあり、雑誌にしては紙の質が異常に高い事に僅かな驚きを感じる。
 彼はページを開いた。

「バ……バカな!!!」

 あまりの内容に、彼の手は震え始め、背中に冷や汗が流れる。

 本には我が国の艦艇の性能や、戦い方、そして戦闘機の性能が予想として記載されており、そのどれもが詳細の数値は違えどほぼ正しい。
 さらに驚いたのが、極秘とされていた我が国最強の戦艦グレードアトラスターについての記事があり、

『第二次大戦中の大和型に酷似!!』

 と記載され、性能や断面図、どの部分が重要区画装甲になっているのかまでもが記載、そのどれもがほぼ正しい。
 最高速度と高射砲の性能、そして主砲の射撃管制方法には間違いが見受けられた。

 特に驚いたのが、グレードアトラスターの砲の口径は極秘中の極秘であり、軍部でさえも40センチメートル砲と思っている者が多い。
 しかし、この本にははっきりと46センチメートル砲と記載してあった。

「な……何故だ!!」

 彼はムー語の辞書を片手に読み進める。

「し……し……信じられん!!」

 空母機動部隊の運用方法、戦闘機の最高速度と航続距離、そして弱点、対空火砲に近接信管が使用されている可能性や、極秘中の極秘であるレーダー技術の原理と想定される性能の幅についても記載されており、詳しく書かれている。
 さらに、陸戦兵器についての記載もあり、まだこの世界で他国に対して使用していないはずの戦車についても図面、運用方法、砲の口径、装甲等が予想として書かれていた。
 
 戦車の予想については数台あり、弱いものからかなり強力なものまで想定されており、当たっているとは言えないかもしれないが、我が国の戦車がその幅の中に含まれてはいた。

 それほどまでに詳細に予測し、我が国の強き装備等を余すことなく記載しておきながら、それでも日本国が圧勝するとの記載に彼は目を疑う。

「これほどまでに予想しておきながら、圧勝だと?なめおって……。」

 何故言い切れる!その根拠は何だ!?と思いながら彼はページを進める。
 そこには……日本国に実在すると言われる兵器群が写真入りで紹介されていた。

「こ……これは?SSM1B……?」

 資料には『艦対艦ミサイル』と記載があった。
 重量660kgの爆弾が、時速1150km以上で距離にして150km以上飛翔し、動く敵に対しても爆弾が磁石のように敵に吸い付けられ、着弾する。
 海上スレスレを飛翔するため、レーダーにも写りにくく、グラ・バルカス帝国の技術では迎撃が難しいとある。

「この誘導弾という兵器……我が国では概念すらないぞ!」

 独り言が……あまりの驚き、心で思う事が声となって出て来る。
 誘導弾が海上スレスレを飛翔する事でレーダーに写りにくいと記載があるあたり、レーダーの特性を日本国が理解している事になる。

「イージス艦?」

 同時に200以上の目標を追尾し、その中から12以上の目標を並行して逐次迎撃出来る個艦、艦対空誘導弾という兵器を使用するため、これでは航空機はほぼ撃墜されてしまう。
 さらにこの艦は対艦誘導弾を迎撃する事を目標に作られているため、信じられん事に主砲でミサイルと呼ばれる兵器を迎撃出来るようだった。
 仮に距離に応じたミサイルの迎撃と、主砲の迎撃を潜り抜けても、最後に分速3000発もしくは4500発の20mm機関砲が迎撃をしてくる。

「こ…こ…これでは!!」

 仮にこの艦を含む艦隊がやってきた場合、帝国の空母機動部隊から飛行機がいなくなってしまう。
 潜水艦についても記載があり、日本国が対潜水艦の作戦を行った場合の想定、そして日本国の潜水艦についても記載があった。
 これについては詳しい数値が得られなかった。

 この他も、航空機、戦車についての記載があり、そのどれもがグラ・バルカス帝国のそれとは隔絶した性能が記載してある。
 特に戦闘機は音速を超え、空飛ぶレーダーサイトのような航空機や対艦ミサイルを大量に積める戦闘機など、信じられないような性能だった。
 写真を見るに、我が国では構想段階のジェットエンジンを実用化し、熟成されている。

 この本によって、神聖ミリシアル帝国強襲時に撃沈した敵巡洋艦は、巡洋艦ではなく、沿岸警備隊のような組織だったと判明した。
 逆に言えば沿岸警備隊程度の敵を相手に我が帝国の戦闘機が多数撃墜された事になる。

「こ……これは上申しなければ!」

 ナグアノは国家の戦略を揺るがしかねない、いや、このまま突き進めば、この本の情報が本当であれば国家の存亡すらも揺るがしかねない現実に戦慄が走った。
 しかし……彼の脳裏に不安がよぎる。
 信じてもらえるだろうか?いや、信じさせなければならない!!

 彼は上申のための書類を作り始めた。


 翌日〜

 ナグアノが仕事場に来ると、仕事場がざわついていた。
 
「どうしました?」

 彼は側にいた先輩に尋ねる。

「いや、東部……この世界では第3文明圏と言われている付近の沖合に偵察に出ていた東部方面潜水艦隊所属の潜水艦が1隻、消息を絶ったらしい。帰還予定からすでに1カ月が経過し、軍部は何らかの事故にあったのではと判断したらしいぞ。
 この世界で初めての大規模事故だからちょっとしたニュースになっているぞ。」

 東部方面潜水艦隊といえば……日本国の近海!!

 ナグアノは戦慄を覚えるのだった。

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第66話 侮りし帝国P2


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 レイフォル自治区 情報局技術部 レイフォル出張所

 情報技官ナグアノは、今後の戦いのため、異世界軍の分析と考察を行っていた。
 グラ・バルカス帝国情報局の中の技術部、敵国の技術レベルや取りうる戦術に関する研究を行う機関であるが、国家の大転移により、前世界の宿敵たるケイン神王国無き後、異世界の他国との連戦連勝が重なった事もあり、軍部にはあまり重要視されていなかった。
 本来ならば異世界に転移した事により、増加するはずの権限や人員は減少し続けている状態であった。
 
 情報局事態は決して軽く見られている訳ではないのだが……。

 情報技官ナグアノは、いつものように仕事をする。
 彼の前には文明圏外国家、ロウリア王国で撮影された写真があった。

「フフフ……。」

 カラーで撮影されたロウリア王国の軍船の写真、そのあまりのレトロさと、船上に整然と並べられた矢除けの盾を見て、思わず笑ってしまう。

「どうした?ナグアノ。」

 不気味に笑うナグアノを見ていた同僚が話しかけて来た。

「いや、見てくれよ、これ。帆船に矢除けの盾だぜ!どこの時代劇なのかって、見ているとおかしくなって。
 まだこんなのが現役の国が多いから、この世界は本当に面白いぜ。
 研究考察というより、もはや趣味に出来る面白さだ。」

「こらこら、そんな事言ったら所長に怒られるぞ!
 一応こんなのでも、万が一の事を考えて、相手の取りうる戦術を研究するのが仕事なんだからな。」

「ああ、すまんすまん。これは脅威度が低すぎるから後回しにしよう。」

 彼は次の写真を取り出す。
 ロウリア王国の軍船よりも遥かに大きく、帆を主体としているが側面に大量の砲が搭載されている。

「戦列艦か……。」

 第3文明圏列強国、パーパルディア皇国の誇る100門級魔導戦列艦の写真がそこにあった。
 それはもはや、骨董品であり、格好は良いので彼は胸が熱くなる。

 大砲はたったの2kmしか飛翔しないらしいため、これも全く脅威とはならないのだが……。

「面白い推進方法だな。」

 風神の涙と呼ばれる風を起こす魔法具で、帆に風を吹き付けて推進力を得るらしい。
 もちろん、吹き付ける角度を考えなければ進まないのだろうが、この道具があれば無風でも進めるため、実に面白いとナグアノは感じていた。

「これ、空母に使用したら、離陸滑走距離が短くならないかな?」

 もうちょっと風神の涙に関しては研究してみようと思い、『要研究』の印を押す。

「ちょっといい?」

 彼は同僚に話しかける。

「なんだ?」

「こんな装備で列強国だぜ?本当、我が帝国はこの世界で広大な範囲を支配する事になるだろうな……。」

 同僚は写真をのぞき込む。

「前時代的な艦、戦列艦か……回転砲塔が登場する前の艦だな。
 固定式の砲なので、大口径砲を搭載できず、数で勝負したため、これだけ無駄な作りとなる……まあ、カッコイイけどな。」

「対空能力は低そうだ……。」

 彼らはパーパルディア皇国の艦にも興味を失う。
 
 次に、この世界で第2位の国力を誇る第2文明圏列強国、ムーの写真を取り出した。

「これが次に衝突する相手の主力戦艦だが……。」

 回転砲塔が搭載されており、その大きさは先の写真、パーパルディア皇国の主力艦よりも大きい。
 神聖ミリシアル帝国を強襲した際の情報では18ノット程度の速度が出ていたとの事であった。

「この艦は、この世界では珍しく、すべて機械式らしいぞ。」

「何で国によってこんなに文明レベルや発達の方式までもが異なるのだろうな。」

「いや、しかし前世界のアルフリー地区等、何十年経っても恵まれない子供達が量産され続けるような原始的な地域もあったので、それは強国の考え方なのだろうな。」

 ナグアノはムーの戦艦を考察する。
 砲の射程、戦艦の速度、そして随伴空母からの艦載機の性能を見るに、船に関しては約50年の開きがあり、飛行機にしても20〜30年以上の開きがあるように思われた。

「飛行機の技術レベルがたったの数十年しか開きがない。航空機の発達が文明レベルからすると高いように思えるが……。
 少し脅威だな。」

「しかし、我が軍の戦法を考えるに、流れ弾でも当たらないかぎり、落ちる事は無い。
 この世界には飛龍がいるからな。仮想敵よりも有利に戦えるよう、飛行技術の進化が早かったと考えれば納得がいく。」

「確かに……戦艦も、空母機動部隊が襲いかかればすぐに沈むだろうし、さしたる脅威ではないが……。
 ただ、陸軍がどのような装備を持っているのかの情報が少ないな。もっと集めて来るように指示を出しておこう。」

 ナグアノは、次に書類の束を取り出した。


 自分達が最も重きを置く存在、軍部が最も重要視している、この世界最強の国家、神聖ミリシアル帝国である。

 魔法という良く解らない方式を極め、体系化して国家システムに取り込む。
 敵国艦隊と交戦した我が国の艦隊も、数隻が最終的に使い物にならなくなったと聞く。

 この国は間違いなく我が国の艦隊に被害を与える『力』を持ち、一番の脅威だ。
 しかし、逆にこの国さえ攻略してしまえば、世界は手に入る。
 幸いにして敵の航空戦力は大した事はなく、艦の対空兵器の命中率はかなり悪いようだった。

 前回の交戦記録から分析するに、おそらく対空兵装に近接信管が無い。
 そして、航空機の加速と旋回能力は我が方が上のようだった。
 ナグアノは同僚に話しかける。

「ムーの対空兵器は戦艦のレベルから考えると突出して高いのに、なんで神聖ミリシアル帝国の対空兵装は、戦艦の能力からすると弱いんだ?
 それでもムーよりは上だが……。」

「世界がワイバーンとかいう、低速の航空機で溢れているから必要性を感じなかったのではないか?」

「……まあ確かに、ミリシアルの兵装はムーの兵装よりは上であり、我が国がいなければ間違いなく世界一ではあるだろうな。」

「しかし、戦艦の構造が全く解らんな。材質も何なのか良く解らないし、砲撃も青白い尾を引く。」

 一体どんな原理なのか理解が出来ない。

「構造や原理は解らないが、前回の戦闘から強さの想定は出来る。やるべき事をやろう!」

 彼らは仕事に取り掛かるのだった。
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