2018年03月26日

特典3−4 皇国の分析

■ パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局

 暫定国家元首カイオスのもとで働く、外務局長エルト。彼女は対日本戦後、皇国再興のために奔走しており、現在も日本に関する情報をかき集めていた。
 彼女の独自の情報網の一端を担う、有能な諜報員であるイアノスが、報告のために執務室に訪れる。

「報告します――」

 銀髪のボブカットに青い瞳を持つ、17歳くらいの女性。黒髪黒目のエルトと並ぶと対照的で、お互いの特徴が際立って見える。

「――まずは日本の航空戦力についてですが、正直皇国……いや、神聖ミリシアル帝国の制空型『天の浮舟』を以てしても、日本国の航空自衛隊には太刀打ちできないでしょう」

 イアノスの断言に、エルトは怪訝な顔を見せた。

「随分と買いますね。具体的な説明をお願いできますか?」

 提出された資料には、兵器の詳細なデータが書き込まれている。しかし、目を通してもピンとこない。
 イアノスはエルトにわかるように、日本が保有する航空機の性能をかみ砕いて説明した。
 曰く、ただの警戒機が時速900q近くで飛行したり、索敵半径が800qにも及んだり、戦闘機は時速1千q近くで巡行したり、瞬間的には時速2千qを超えたりする、と。
 100qを超える射程距離の攻撃兵器を持っていることなども挙げられ、エルトはそんなものを敵に回していたのかと軽く頭痛を覚えた。

「まさか……では前線の兵士たちの言っていたことは正しかったのですね」

「はい。その兵器はたとえるならば、古の魔法帝国が使用したとされる超兵器……『誘導魔光弾』です」

「……」

「誘導魔光弾様の兵器は対地、対艦、対空とそれぞれ種類があるようで、いずれも1度発射されてしまうと我が軍――いや、神聖ミリシアル帝国の兵器でさえも、回避はできないでしょう」

「飛行機械もその『ミサイル』というのも速すぎて、1機も落とすことはできないと?」

「迎撃不可能です」

「航空戦力はわかりました。では日本の艦に損害を与えようとするならば、相当数のワイバーンが必要になるのでしょうね……」

「エルト様。日本の艦の対空性能は、魔法帝国以上です。現在、皇国に存在するワイバーンロード全竜騎士団が出撃しても、ただの1艦に傷つけることすらできないでしょう。特に『イージス艦』と呼ばれる船の対空性能は、戦慄を覚えます。同時に200体以上を追尾し、12ほどの目標に対し同時に攻撃可能です。しかもその射程距離は戦闘機に積載するものと同様、100qを超えるものもあるのです。実際にロウリア王国はワイバーン数百騎をこのイージス艦に差し向けましたが、すべて撃墜されました」

「そうですか……それほど差があったのに、我が国は開戦を選んでしまったのですね。列強という驕りが、己が身を滅ぼしたと。しかし、そのような神話の如き兵器を持っているとは……彼らは一体何と戦っていたのでしょうね」

「当初の日本の外交姿勢からは想像もできないことですが、彼らは前世界において、約70年前は覇権主義国家だったようです。当時の前世界での列強国を東アジアと呼ばれる地域から駆逐し、そして前世界における最大にして最強たる国家と激突したとか……国力比でその差10倍は開いていたというのに開戦に踏み切ったと、日本の歴史書に書かれていました」

「10倍もの国力が開いていても、戦わざるを得ない理由があったのでしょうか。で、その戦いはどうなったのですか?」

「戦いは激戦を極め、日本国はその国土の多くが焼かれたようですね。それでも徹底抗戦の姿勢を崩さず、日本国の敵対国は最後に『1撃で都市を消滅させる兵器を使用した』と……」

「え? 1撃で……ですか?」

「はい、『核兵器』と呼ばれる兵器だそうです。そのあまりの威力に、際限ない使用は世界そのものを滅ぼしかねないと判断されたため、彼らの世界では日本に使用された2発目以降、実験以外に使用されたことはないとか」
「まるで魔法帝国が、竜神の国インフィドラグーンに使用したとされる、コア魔法のような兵器ですね。日本国もそれを所有しているのですか?」

「いえ、核を落とされて降伏したことにより、大規模破壊兵器の使用はもちろんのこと、陸、海、空の軍事力もほぼそのすべてが解体されました。破壊兵器の惨禍があまりにも悲惨だったので、日本国民は『核』という言葉や物、技術そのものにアレルギーがあるようです。ただ問題なのは、簡単に作り出せる技術を今も有していることでしょうか」

「では、簡単に高威力兵器を作り出せる技術があるにもかかわらず、作らないということですか。その力があれば容易に世界を支配できるかもしれないのに、使うつもりはないと?」

「……理解し難いですが、そうなります」

「……ますます理解し難い国ですね。もっと分析が必要なようです」

 一旦報告内容の精査を終了し、エルトは雑談を振る。

「――ところで、日本に行って何か皇国民の生活向上のためになりそうな、日常的なもので有益なものはありましたか?」

 エルトの何気ない問いに、イアノスは目を輝かせて話し始めた。

「エルト様、魔導士キャンディー氏はご存じですか?」

「ええ、美容魔法を使う珍しいお方ということは……彼女の作り出す化粧品は非常に効果が高いとか、列強の貴族がこぞって購入するから値段が天文学的数値だとか……私も女ですから、一度は使ってみたいですね」

 傍目に若作りなエルトも、少し目尻のシワが隠せなくなりつつある。その視線を遠くにやりながら答えた。
 にまっと笑うイアノスは、傍らに置いた何やら上質そうで綺羅びやかな袋から、1冊の雑誌を取り出す。

「この本は日本の美容雑誌なのですが、表紙の女性は何歳だと思いますか?」

 表紙の女性の年齢よりも、この魔写をふんだんに使用した上質紙の本が、日本ではただの美容雑誌として流通しているという事実に衝撃を覚えた。
 気を取り直して、改めて女性を観察する。わざわざ聞いて来るということから、見た目よりは歳を取っているのだろう。見た目は20代後半に見える。

「34歳くらいでしょうか?」

「この方……51歳だそうです」

「なっ!! なんですって!!?」

 エルトの全身を衝撃が走る。

「この本には、表紙の人が毎日行っている、体を若く保つ方法が載っています。この人が使用している化粧品も、日本国内なら少量の金があれば大量に購入できますし、家庭用の美容機械だってこの国では一般的に普及しています! 私も個人的に香水を買ってみたのですが、とてもいい香りがするんですよ」

 不意に若かりし頃の自分を思い出すエルト。あの頃の容姿を取り戻せるかもしれない。

「こ、これは本当ですかね……ぜひ実験する必要があります。――しかし、敵国とも言える日本国の商品。大切な皇国民に、人体実験のように使わせるわけにはいきませんね。……仕方ないです、私自ら試してみましょう」

 なんというこじつけ。
 イアノスは口まで出かかるが、口元を引き締めてこらえた。

「ちなみにこの袋もその美容雑誌を買うと付録として無料で進呈されるものです、表紙にもほら、載っていますよね」

「は!?」

 ただの美容に関する情報だけで1冊の雑誌を作る点にも驚きだが、付録という概念、手間がかかっていそうなものが無料で付いてくるという価値観の違いに、どこまで豊かなのだろうかと恐ろしささえ感じる。

「では再度日本へ行き、購入してまいります」

「よろしくお願いしますね」

 後日、日本国の化粧品を使用したエルトの容姿は周囲も驚くほど若返り、一生独身かと諦めかけていた彼女の人生は一変するのだった。


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posted by くみちゃん at 23:09| Comment(2040) | 小説

2018年03月22日

特典3−3 歪曲された慈愛

『歪曲された慈愛』

■ 中央暦1629年5月13日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇宮パラディス城

「それでは、御前会議を開始いたします」

 時はルディアスが皇帝の座に即位して間もなくの頃まで遡る。
 会議室の円卓には、国の重役が顔を揃えていた。
 第1から第3までの外務局長、外務局監査室2年目のレミール、そして皇国軍最高司令官の他、統治機構長など、錚々たる面々である。上座には皇帝ルディアスの姿もある。

「今回の議題ですが、すでに配布の資料のとおり、北部防衛と西部方面侵攻の件になります」

 皇国拡大期である。地竜リントヴルムの部隊運用方法が確立され、北からの侵攻に心配がなくなり、西や北西への侵攻を開始していた。
 すでにいくつかの文明国の併呑を済ませたところで、現在は戦闘における双方の人的被害が問題になっている。1度の戦闘で数千、数万という人数が死んでしまう。

「相手を疲弊させて抵抗する力を奪う」という考え方もあるが、そもそも皇国の国力増強のための戦争であり、戦後の労働力をいたずらに殺すのも問題がある。

「エドリン国は属領となることを拒否しました。よって、武力制圧する必要があります」

 新設された第2外務局局長が、淡々と状況を説明した。

「エドリンに侵攻するとして、皇国軍と相手側の被害予測はどれほどになるのですか?」

 若きレミールが尋ねる。

「部隊規模から考えますと、我が国の被害は1千人以下に抑えられるでしょう。一方エドリン側の死者数は、おそらく3万人以上に上ると推定しています」

 考え込むレミール。
 皇国の被害も1千人。戦後補償も馬鹿にならない上に、敵国も蛮族とはいえ3万人の人的資源の喪失。これまでの戦争方法を続けると、支配の度に時間も労力も金もかかりすぎる。範囲を考えると、遥かに多くの血が流れるだろう。流す血は少なければ少ないほうが、お互いの利益のためだ。
 皇国に仇なす北方の国々は殲滅した。しかし、これからは違う。主な目的は資源獲得だ。これからの戦略を考えると、もっと効率化しなければならない。

(何か被害を極小に抑える方法はないものか……)

 レミールは皇族だけに、若くても場に臆することがない。

「小さな――たとえば数百人規模の町か村を1つ落とすだけなら、被害はどうなる?」

「はっ。我が国の被害はおそらく多くて数人、敵側は数十人といったところではないでしょうか」

「そうか……ではエドリンの地方の村を1つ落とし、王に降伏を迫る。聞き入れられなければ、村人を1人残らず惨殺していくのはどうですか? うまくいけばより血が少なくて済むのでは」

 それを聞いて笑う皇帝ルディアスは、大きく頷く。

「なるほど、見事だレミール。より効率的に我が国の支配圏を広げるために、被害が最も小さく、そして悲しむべき民の少ないやり方だな。皇国への恐怖も増大しよう。将軍、実行しろ」

 恐怖による支配。しかし、最も被害の少ないやり方。およそ現代の日本人がそれを許容できるはずもないが、レミールの案はルディアスに承認され、皇帝の名において実行されることになった。

 2週間後、この世から1つの村が消え、従わなければ同じ悲劇がエドリン全土に起こるだろうという勧告がなされた。一人残らず抹殺するという、あまりの惨たらしさと恐怖に震えあがったエドリンの民は、王族を追い落として即時降伏する。
 パーパルディア皇国は同様の方法を用いて、その版図をさらに拡大していった。

■ レミール邸

 レミールは中庭で紅茶を飲みながら、考えに耽る。
 蛮族とはいえ、一応は人間である、彼女は実質的に皇国兵とその家族の悲しみを減らし、そしてエドリンの民の損害も小さくなり、悲しみに暮れることはなくなった。自分はいいことをしたのだと、誇らしく思っていた。
 カップが空になったので、彼女は指を鳴らす。
 その音を聞いて、侍女が茶のお替りを持ってくる。カップにお茶を注いだ侍女は、レミールに話しかけた。

「そういえばレミール様、ロデニウス大陸の動向はお聞きになられました?」

「いや、文明圏外国家は新設の第3外務局の担当だからな……よほどのことがない限り話も聞かないんだ。何かあったのか?」

「人間種至上主義のロウリア王国が、また隣国に戦争を仕掛けたらしいですよ」

「そうか」

 この世界は戦争に満ち溢れている。特に珍しいことでもないし、蛮族同士がどうなろうと知ったことではない。レミールは興味なさそうに、適当な相槌を打つ。

「しかも、ある街で大量虐殺を行ったらしいです。老略男女関係なく……やはり文明圏外国家は蛮族ですね、なんて恐ろしいことを」

 侍女は身震いする。

「……そうだな」

 侍女は一般人である。政府の中枢がいかに高度な判断をしているのかわからないのだろうと、レミールは特に何も思わなかった。虐殺によって、結果として死ぬ人数が減るかもしれない。恐怖で支配すれば、ロウリア王国へ歯向かう他国が減るかもしれない。
 それが人々の悲劇を少なくする手段なのだ。
 一般人の、いわゆる庶民の感覚は、国家運営においてまったく通用しない。
 そんなレミールの内心を知ることなく、侍女は続ける。

「あんな恐ろしいことを平気で実行できるなんて……まったく蛮族の頭の中は理解できません。育ちも考え方も中身も、本当に野蛮人です。文明圏外国家とはいえ、王族や上層部はきらびやかな服を着ているのでしょうけど、いくら外見を良くしても、中身が野蛮では服が可哀想ですわ。まったく……汚らわしい!」

 侍女はロウリア王国を非難しているのだが、レミールは段々と自分が非難されているような気分になってきた。

「しかし、虐殺したことで全体の被害が減るやもしれんぞ? それについてはどう考える?」

 一般人の侍女に詰問するのは大人げないと思いながらも、レミールはこの娘を論破してやりたくなってきた。

「確かに、そうかもしれません。全体的に死ぬ人は減るのかもしれません。でも、そんなことを考えつく人は、同じ人間とは思えません。人の皮を被った悪魔です……1人残らず殺されるということは、自分の番が回って来るのを待つということですよ。惨たらしく殺すということは、その人の魂に恐怖を植え付けるということ。あんなことを思いついた人は、人の気持ちになって物事を考えることができないのではないかと」

 流石に苛立ちを隠せないレミール。
 彼女が高給で働けるのも、お茶を注ぐだけで多くの収入が得られるのも、皇国が版図を拡大し、属国から富を吸い上げているからこそ。その犠牲の上で贅沢な暮らしに興じられていることを、彼女は理解していない。

「では、被害が拡大するほうを選ぶか? 自分が蛮族の妻だったとして、夫が死ぬかもしれない危険を犯してまで、虐殺を止めるか? それに、損害は敵国だけではなく、自国の兵も死ぬのだ」

 侍女は口を噤んだ。
 心情的には許せなくても、大局的な目で見れば非難できない。

「……レミール様はいじわるですわね」

 雑談を切り上げて侍女が退室すると、何とも言えない気持ちになるレミール。

「答えられんか……やはり私は正しかったのだろうな」

 彼女は彼女の正義に従って、その手腕を振るい続けた。
 のちにフェン王国ニシノミヤコにおいても、日本人観光客を大量虐殺するという暴挙を行う。
 それが原因で、第三文明圏においてもっとも栄えた列強パーパルディア皇国を、滅亡寸前まで追い込むことになるとも知らずに――
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posted by くみちゃん at 21:53| Comment(466) | 小説

2018年03月20日

特典3−2 罪深き王国パガンダ

『罪深き国 亡国パガンダ』

■ 第二文明圏 ムー大陸西側 パガンダ王国 外交局

 話はグラ・バルカス帝国がこの世界に転移後、第二文明圏に対し融和政策の模索を開始した時期に遡る。

 ムー大陸西側、第5の列強レイフォルから海峡を挟んださらに西に、パガンダ島がある。この島全土がパガンダ王国で、レイフォル1の保護国だ。この島の西側に存在する文明圏外国家は、レイフォルに用がある場合、パガンダに話を通す場合が多い。
 故に国民性や王族のプライドが全体的に高く、他国を見下す傾向にあった。

 外交は「国家と国家の関係を構築する」という性質上、優秀な人材が求められるのはもちろん、国の運営にもかかわるため、王族も配属されている。

「ドグラス様、文明圏外国家が話がしたいと来ております。レイフォル国、我が国と国交開設をしたいそうです」

 パガンダ外交局の窓口勤務員マーサが、レイフォルと太いパイプを持つ王族、ドグラス外交長に資料を渡すとともに、状況を説明する。

「国交開設を求めてきているのは、グラ・バルカス帝国という名の文明圏外国家です。本人たちは西から来たと言っているので、新興国家の可能性も考えられます。彼らはパルス王国に直接出向き、国交開設を求めたようです。当然ですが、パルス王国はレイフォルを通すよう指示しました。その指示を鵜呑みにして、我が国を通さずレイフォルに直接交渉に赴いたようで、門前払いを受けてようやく我が国に来ています。どうも、第二文明圏の事情をまるで知らないようですね」

 ドグラスの眉間にシワがよる。

「その国、我が国をなめておるのか? 国家運営を行う者が、第二文明圏の常識を知らぬわけがなかろう。蛮族の分際でレイフォルを直接訪れるなど……なんと恐れ多いことを。その上、レイフォルと国交を結びたいから我が国を訪れただと? 我が国との国交はどうでもいいと言っているように聞こえるではないか」

 ただでさえ気性の荒いドグラスは、不機嫌さを隠そうともせず、口汚く吐き捨てた。

「一応確認しましたが、広く国交を持ちたいため、我が国とも国交は開設したいと申し出がありました」
「ふざけおって……わしが直々に対応してやろう」

 王族であり外交長であるドグラスは、新たに訪れた新興国家、グラ・バルカス帝国の使者と会うことにした。

 グラ・バルカス帝国外交団は、控え室にて待機するように言われていた。
 この外交団には、新世界において遅々として進まない外交にしびれを切らした穏健派筆頭の、皇族ハイラス特別顧問が同行している。

「お待たせいたしました、こちらにどうぞ……外交長が対応いたします。なお、外交長は我が国の王族ですので、お言葉には十分ご注意ください」

 マーサの案内で、およそセンスがいいとは言えない、宝石でギラギラに飾った部屋に通された。

「なっ……!」

 ――グラ・バルカス帝国は前世界において、最大の強国であった。この世界においても、おそらく相当な強国の部類に入るであろう。
 そんなグラ・バルカス帝国の外交団が、片田舎の低文明弱小国家に出向いているにもかかわらず、パガンダの外交長とやらは椅子に座ったまま、足を組んで出迎えた。
 部屋には椅子が準備してあり、一時の沈黙のあとも「お座りください」の一言もない。

 およそ公的な場における態度ではない。しかも今回は帝国外務省職員の外交官だけでなく、皇族も同行しているのだ。外交官は気が気ではなくなってきた。

 帝国の議決1つ、もしくは皇族の言葉1つで、こんな島国は消し飛んでしまうのだ。
 かといって、皇族の手前、帝国の外交官たる自分たちが低文明弱小国家に侮られる姿など見せられない。グラ・バルカス帝国の一行は勝手に椅子に座る。

 顔を引きつらせながらも、グラ・バルカス帝国の使節は話し始めた。

「初めまして、我が国はここより西側に位置する国家、グラ・バルカス帝国です。今回第二文明圏全体と国交を結びたいと考え、まずは大陸西側の代表格であるレイフォル国を訪問しました。レイフォルでは、西側国家群に関して、保護国である貴国を通じて話を通すように教示いただきましたので、今回こうして足を運んだ次第です」

 グラ・バルカス帝国の外交官が、こんな低文明国家に丁重に挨拶をする姿を、仮に前世界の者が見たなら、さぞや驚愕したことだろう。
 しかし、帝国は「文明圏」と呼ばれる上位共同体がこの世界に存在することを把握していた。その力が定かではない内は、軽率な行動を採るべきではない。外交官たちも、上層部の意向を無下にするような愚か者ではない。しかし――

「我が国、パガンダ王国は、第二文明圏列強国レイフォルの保護国である!」

 帝国の外交官に対し、ドグラスは突き放すように言い放つ。彼は続ける。

「貴国は世界の常識すら知らない田舎国家のようだな。いきなりレイフォル国に国交を求めに行くとは……無礼極まりない!」

 実際、ムー大陸から西方となると、大小さまざまな島々が存在するとはいえ、すべて文明圏外国家である。レイフォルの影響下で西側群島の貿易拠点として栄えるパガンダ王国と比べると、辺境と呼んで差し支えない世界であった。

 ――そう、グラ・バルカス帝国が降臨するまでは。

 帝国の外交官たちは、皇族ハイラスに対する無礼を返さなければならない。が、穏健派で融和政策を推進するハイラスの前で、強気に出すぎることもできない。徐々に国力を示すしかないと口を開いた。

「この地方の常識を認知しておらず、気分を害されたならば、大変失礼した」

「まったく……これだから田舎国家は。まあよい、俺は寛大だからな。ところで挨拶の品は持ってきておるのか?」

「挨拶の品? と申されますと?」

「そんなことも理解できんのか? ……礼を知らない文明圏外の蛮族どもめ。おい、こやつらに挨拶の仕方を教えてやれ!」

 ドグラスの指示で、パガンダ外交局職員たちが横から書類を広げた。

〇 第二文明圏との交易に際してはパガンダ王国を通し、関税をかける。関税率は項目により――
〇 パガンダ王国に対し、第二文明圏国家への口利き料金を金に建て替えて支払う。各国への額は――
〇 パガンダ王国を動かすために当外交局が稼働するため、外交長ドグラス個人に金及び関税の一部を納入する。額は――

「……これは真面目に言っておられるのですか?」

 やたらと高い関税率に加え、金の重量がとんでもない数値で、口利き料とドグラス個人への納入額だけでも、空母が1隻建造できてしまうほどの額だった。一読しただけで腐敗しきっていることが窺える。
 あまりの内容に、ハイラスも耐えきれず口を出す。

「我が帝国がこうして下手に出ているというのに、礼を失する数々の言動、目に余る……貴国らは外交相手を粗雑に扱う程度の品格しか持ち合わせておらんのか」

 グラ・バルカス帝国穏健派の中でも特に温和なハイラスが苦言を呈するほどである。外交官たちの心中は察するに余りある。

「な――なんだとぉ!? たかが文明圏外の蛮族が、このパガンダ王族に品格を説くとは……おい! こやつを不敬罪で逮捕しろ!! 即日処刑だ!!」

「「はっ!」」

 衛兵が立ち上がり、ハイラスを連れ去ろうとする。
 さすがに帝国の外交官も抗議した。

「なんたる無礼を!! 待て、その方は我が国の皇族だ! 無礼を働けば、こんな国の1つや2つ、明日にでも吹き飛ぶぞ!!!」

 ドグラスにとって、その言葉は火に油であった。

「衛兵! そやつらも一緒に連れていって処刑を観賞させてやれ! パガンダに無礼を働いた者がどうなるか、本国に知らせてやる必要があるのでな!」

「やめよ!! やめよと言うに!!!」

 グラ・バルカス帝国の皇族ハイラスは、ドグラスが独断で適用した不敬罪により公開処刑され、帝国の外交官たちは国外退去処分となった。

 この一件により穏健派は気勢を失い、力による支配を是とする強硬派勢力が国会の大半を占めるに至る。
 なお帝王グラルークスの逆鱗に触れたパガンダ王国は国民の多くが虐殺され、その宗主たるレイフォルも首都レイフォリアが灰燼に帰すこととなった。
 
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posted by くみちゃん at 11:56| Comment(314) | 小説