2019年02月13日

4巻特典 魔導師キャンディーの研究活動

タイトル:実録・魔導師キャンディーの研究活動

■ 1641年2月某日

「これが日本国の化粧品なのね」

 中央世界において、美肌魔法の最高峰とされる魔導師キャンディー。
 その外見は、実年齢よりも遥かに若い。
 しかし、だからこそ彼女の実年齢を尋ねることは、タブーとされてきた。
 世界に類を見ないほどの効果を持つ魔導師キャンディーの美容魔法。その価値はすさまじく、強国の貴族たちがこぞって購入するため、ものによっては値段が天文学的数値まで跳ね上がり、彼女自身もそのあり余る金で豪遊している。
 そんな彼女の前には、日本国と呼ばれる文明圏外国家で製造・使用されている化粧品と、美容雑誌が並んでいた。研究のために、行商人に手配させたのである。豪遊もするが、元来は研究熱心で仕事熱心なのだ。
 行商人のサービスで、雑誌を読むために翻訳した紙も添えられていた。

 ――カチャッ。

 研究室の扉が開き、ショートカットのエルフの少女が入ってきた。

「わー……キャンディー様、これが例の、日本国の化粧品なんですね」

 研究助手のメルである。実年齢が20代前半の彼女の肌はきめ細かく、張りと艶があってぴちぴちとしている。
 若作りのキャンディーと比べると、本当に若いメルとの間には、手の届かないほど遠い肌年齢の壁があった。この張りと艶をどう出すのかが、キャンディーの今後の課題でもある。

「そう……研究すべき対象よ」

 最近神聖ミリシアル帝国では、第三文明圏東側に位置する文明圏外国家・日本国という国から輸入された、質のいい化粧品が大量に出回っている。その効能はキャンディーの美容魔法ほどではないが、張り、艶がよくなり、シワが取れると評判だ。しかもキャンディーの化粧品に比べると圧倒的な量で供給されるため、キャンディーの化粧品もまた値崩れを起こし始めていた。
 キャンディーが化粧品に手をかざす。

「……魔力は感じないわね」

「えええ!? 魔力なしの化粧品なんて、効果あるんですかぁ?」

 キャンディーが化粧品の箱を手に取り、よく観察する。極めて質感の高い入れ物に入れられていて、これだけでも品物になりそうだ。
 そのままメルに手渡した。

「メル、開けてみて」

「はい」

 箱を開けたメルは、成分分析の魔法を使用した。
 これで、ある程度の属性と成分、効能の分析が可能だ。

「すごい……」

 魔鉱石や微生物の反応はまったくない。
 そして主成分の粒子は小さく、ヒトの若い者が多く持つ物質が感じ取れた。

「キャンディー様、日本国には魔法はないと聞いていますが、魔法なしでこんな高度な化粧品が大量生産できるはずはないと思います!!」

 これほどの物質が、魔力合成なしに生成できるはずがない。

「そ……そうよね、できるわけないわ」

 分析結果を見て、キャンディーも同意する。
 彼女は雑誌の訳書に視線を走らせた。
 どうやら表紙に写る若い女性の下に、「美魔女」と書いてあるようだ。

「見なさい。ここ、やっぱりね……表紙にも美魔女と書いてあるわ」

「あ、本当だ!! やっぱり魔女が日本にも存在するんだ……だからこんな高度な製品を作れるんですね、おかしいと思った。ええと……え!? この人の年齢、45歳って書いてありますよ!!」

「ウソ!? ――日本にもすごい魔女がいるみたいね……」

 表紙の魔写の女性は、どう見ても20代後半から30代前半にしか見えない。
 いや、もしかしたら日本という民族そのものが若作りなのかもしれない。
 キャンディーとメルは化粧品をひとまず置き、雑誌を読み進めていく。

「なるほど……加齢とともに失われる成分を補充、定着させることによって若さを保つのね。このやり方だと、私の化粧品と同じように表層の若さしか保てない。その辺は彼女らもまだ、本当に若返る方法には到達していないのね」

 キャンディーの美容液には液体魔石が混じっている。故に毎朝、微弱な魔力を使用して呪文を詠唱する必要があった。
 日本国の化粧品なら、魔力が比較的少なく魔法の扱いも苦手な人間族でも十分に使え、そもそも魔法を使う機会もない一般人でも使用できる。
 しかもその効果は、化粧品の質やランクによって差はあれど、彼女――美容魔法の最高峰であるキャンディーの作る美容魔法液を利用した化粧品に準ずるほどの性能をもっている。

「すごい国ね。美に対する欲求が、他の国々とは明らかに違う!!」

 その雑誌には化粧品の紹介だけでなく、機械で霧状にした美容液を顔に噴射する方法や、電気を使用してほうれい線を消す方法などまでもが記載されていた。

「電気を使う? 雷魔法を微弱に流して……それが美にいいの?」

 一見焦げてしまいそうにも思うが、そういった美容方法もあるらしい。
 詳細も記載されていたが、よく理解できない。

「この魔導師キャンディ―様が知らない美容魔法など……世の中にあってはならない!! 一度行かなければ、そして日本国の美容魔術師……美魔女に会って、美に関する情報を交換しなければ! メル!!」

「はい?」

「日本国に行くわよ!! すぐに準備なさい!!」

「え……えええええ!? い、今からですかぁ?」

「当たり前よ! 美への追求で、私を上回る者がいてはならないの!」

「わ……わかりましたよぅ。すぐに空港に電話して天の浮舟をチャーターします……でも、行くのは文明圏外国家ですよね? 着陸場所があるかも当局に確認しないと。最悪海路になる可能性もありますよ」

「その点なら心配ないわ」

「え?」

「知らないの? 日本国は、ムーの大型機や天の浮舟の大型機の離発着ができる。結構有名な話よ」

 美容分野で世界一の魔術師キャンディーは、調査のために日本国へ赴くことを決意するのだった。

タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 21:04| Comment(80) | 小説

2019年02月11日

4巻特典 ルミエスの再訪日

タイトル:ルミエスの再訪日

■ 中央暦1642年4月18日 日本 東京

 アルタラス王国の新女王ルミエスは、国内情勢が一段落したこともあり、面倒な国政を臣下に押し付けて再度日本国を訪れていた。
 今回は短期留学という形で約2ヶ月間日本国に滞在し、2年前にも通っていた同じ大学に通う。
 彼女が選択していたのは経済学だ。日本の先進的な経済の仕組みを学び、国の発展に貢献するためである。

「よいですかルミエス様。一国の女王が留学していると知れたら大事になります。2年前は大丈夫でしたけど、ただでさえルミエス様は目立ちます。一応身分は貴族の娘ということになっていますので、くれぐれも派手な行動はお慎みくださいね。身分偽装を手伝ってくれた日本国の迷惑にならないように」

 もう何回も聞いた台詞にうんざりしつつ、伊達眼鏡をかけたルミエスは苦笑する。

「リルセイド、もう21回目ですよ……重々承知しています、私はもう子供ではありません。ちゃんと目立たないようにしますよ」

「本当に……くれぐれもよろしくお願いします」

「では、行ってきますね!」

 ルミエスは初めて1人で日本国の大学へと向かう。
 その後ろからこっそりとついていく、黒いスーツの女性の姿があった。

「これが……電車なのね!」

 2年前は大学まで歩いて通える範囲であった。今回は少し離れた場所に住まいを借りたので、ルミエスは人生で初めて電車に乗る。
 日本語を少しだけ理解できるようになっていたので、なんとか切符を購入する。

『間もなく電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側に下がってお待ちください』

 アナウンスが流れ、大きな金属製の箱が超高速で侵入してきた。

「――っ!!」

 映像や遠くからは見たことがあった。しかしこれほどの至近距離で見ると、やはり迫力が違う。
 多くの者を運べる大量輸送システム、鉄道。これを導入できれば、人の流れが劇的に発達し、経済力向上に大きく貢献することだろう。
 アルタラス王国にも早く導入したいものである。
 そんなことを考えながら、ルミエスは電車に乗り込んだ。

(うーん、人が多いわね……座れないか。仕方ない)

 ルミエスは立っていることにした。

『ドアが閉まります、ご注意下さい』

 空気が抜けるような音とともに扉が閉まり、一瞬静寂に包まれる。
 乗客が皆、何かに掴まっているのを不思議に思っていると、
 ――ガタンッ!!

「んにゃ!」

 突っ立っていたルミエスは、「ビタンッ」と音を立てて、顔面から派手に倒れた。

「……い……痛い……」

 つり革を持つ習慣がないのと、初めて乗る電車のGに反応できず、元から運動音痴のルミエスは壮大にこけたのだった。

「お、おいあの女の子、顔から倒れなかったか?」

「見ろよ、凄い美女だけど……ドジなのか?」

 かなり目立ってしまっている。
 ルミエスは頬を赤らめながら、平静を装って目的地の駅まで大人しく乗車していた。

■ 某大学 学食

 昼食の時間になり、ルミエスは前回の就学で友達になった少女たちと一緒に、学食へと訪れた。

「ルミちゃん、本当に戻ってこれてよかったよ〜」

「うん、心配かけてごめんね」

 彼女らはルミエスの素性に気付いていたが、何一つ変わらずに接してくれる。
 王女として育てられ、身分の違いから友達と呼べる存在がいなかった彼女にとって、身分関係なく個人として話しかけてくれる彼女らは、とても大切で愛おしくあった。

「そうそう、学食のメニューが変わってね、パフェができたのよ。かなり有名で人気だからルミちゃんも食べてみて」

 食後に少女が頼んだパフェは、生クリームとアイスクリームが盛り付けられ、周りに載ったフルーツが宝石のように輝く、芸術品かと思うほどのデザートであった。
 ルミエスは勧められるがまま、初めてのパフェを口にする。

「んん!!! お、美味しい!!!」

 濃厚なミルクの味の生クリームにキャラメルのソースがかかった部分はとろけるように甘く、フルーツの酸味が口の中で絶妙なハーモニーを醸し出す。

「これ、私も注文してくる! 美味しすぎる!!」

 ルミエスは、原材料を輸入し、アルタラス王国においてもパフェを流行らせようと決意する。

「ちょっとお替りしてくるね」

「え!?」

 何杯もお替りするルミエス。
 気づくと学食中の学生が、唖然とした表情で彼女を眺めていた。
 際限なく食べ続けた結果、ルミエスの前には12杯分ものパフェグラスが並んでいた。

「しまった……」

 頬を赤らめるルミエス。ただでさえ目立ってしまう容姿の持ち主なのに、食べまくる姿を晒せばこうなるのは当然であった。日頃、学生たちの雑談で賑やかな学食は、しんと静まり返る。
 そんな中、チャラチャラした男が近づいてきた。

「いやーよく食べるねぇ。君、何処の学部?」

「俺たちと他の甘いもの食べに行かねぇ?」

 ルミエスの友達の少女たちが、一様に嫌な顔をする。
 学生の間でもいわく付きの男たちで、ナンパを断ると脅してくる連中だ。
 大学の管理職の息子らしく、いくら学校で問題を起こしても放置される問題児である。そんな彼らがルミエスに目を付けたのである。

「もっとおいしいものを紹介していただけるのですか?」

 状況がつかめない彼女は、きょとんとする。

「ちょっとルミちゃん、行こう!」

 ルミエスを救うべく、少女たちが男から引き離しにかかる。

「おっと、待てよ。俺らこの美人に用事があるんだよ、行きたきゃ一人で行けよ」

 少女たちを威圧する男。やや険悪な雰囲気が漂い始めた、そんなときだった。
 地を這う黒い物体が、ルミエスの視界に入る。
 地球上で進化の最終到達点に達し、3億年も前からその姿がほとんど変わっていないという、完成された生物。

「ッッ!!!」

 油でテカる黒い全身、6本の足を素早く動かして異常な速度で移動する不快害虫に、ルミエスは声にならない悲鳴を上げた。
 それが高速で接近し、彼女の本能が最大限のアラームを鳴らす。

「いっ………」

 背筋や腕、脚、いたるところに走る悪寒。

「いやぁあああああ!! ――ファイアストーム!!!」

 本能的に、彼女の使用可能な魔法の中で最大級の魔法を発動させる。
 目標地点に発生した炎のうねりは、ルミエスに向かって進行してきた不快害虫を焼き尽くし、その後ろにあった椅子を焦がす。
 幸い、詠唱破棄していたおかげで威力も弱く、難燃性素材を使用していた建物は表面が焦げるに留まり、人的被害もナンパ男たちの頭がパンチパーマになっただけだった。

「ひいぃぃぃぃぃ!!!」

 不快害虫に向けた攻撃を、自分たちに向けられたものと勘違いした男たちは、走って逃げ出した。

「ああっ、お待ちください! 髪を焦がしてしまって申し訳ありません――って、行ってしまいましたわね」

 付近を見回すルミエス。

「………てへっ☆」

 かつて父王ターラに怒られたときに使っていた、ちょっとかわい子ぶった仕草で誤魔化すルミエスだった。

■ 夜

「ル・ミ・エ・ス・様ぁ!!!」

「は、はい……」

「今回の事件、火消しが大変だったんですよ!!! なんとか外交問題まで発展せずに済んだものの、明らかに目立ちすぎです! 話になりません! ゴキブリにファイアストームを使う人がいますか!!」

「ご……ごめんなさい」

「『てへっ☆』じゃありません、『てへっ☆』じゃ!!」

「ご……ごめんなさい」

 リルセイドにこってり絞られるルミエスだった。

 数年後、アルタラス王国はスイーツの美味しい国として、世界に名を轟かせることに成功する。

タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 17:00| Comment(83) | 小説

第85話 揺らぐ大帝国1 P4


「質問であります!!」

 ムー国陸軍航空隊の幹部が手を上げた。

「どうぞ」

「大型火喰い鳥は、文明圏外国家でさえも支援火力としては一線を退きつつある航空戦力です。このレベルの戦いにはついて行けないと思うのですが」
 
 火喰い鳥、地球で言うところの火喰い鳥とは違い、この世界に生息する人を乗せて飛ぶことが出来る大型の鳥類である。
 口から炎を吐く事が出来るため、太古の時代に長く空戦兵器の主力として君臨していた。
 ワイバーンに比べると速度も遅く、火炎放射の効果範囲も遙かに少ない。
 ワイバーンを空戦に使用する国が勢力を伸ばしてきたため、徐々に各国の空戦主力がワイバーンに移行し、火喰い鳥は軍事では使用されなくなっていった。
 この鳥、世界各地に生息域は散らばっているが、約1400年前に、南方の島々で火喰い鳥よりも大きな鳥が発見される。
 生態、見た目、どれを見ても火喰い鳥だったため、大型火喰い鳥と命名された。
 火喰い鳥に比べて大型で翼面積も広く、戦場に登場したこともあったが、使い勝手が悪く、小回りが聞かないため徐々に使用する国家は減っていった。
 多少は重い物を運べるため、現在は商用の輸送鳥として各国に愛用されている。

「そのとおり、空戦能力は期待していません。本来であればワイバーンもしくはワイバーンロードが良かったのですが……バルチスタ海域での戦闘時、敵航空隊による基地爆撃も合わせて行われたため、多くのワイバーンが地上撃破されてしまい、竜が足りません。
 ワイバーンは撃破されましたが竜騎士の多くは生き残っており、竜騎士は基本的に火喰い鳥を操る事が出来ます。
 よって本件作戦となりました。
 火喰い鳥に求めるのは単純に輸送能力です。
 なお、ワイバーン及び火喰い鳥が到達する頃には、敵反撃能力はほとんど残されていない予定となっております。
 おそらく残骸の上に立ち、する事は無くなるだろうと想定していますが、万が一の残存兵力の除去と、迅速な塹壕等による防御力の確保、そして敵の援軍が来た場合の一時的防御措置を担当します」

「解りました。ありがとうございます」

「制圧後の流れですが……援軍として……」

 会議は続く。
 第二文明圏……世界第2位の列強ムー国は、本格的反攻作戦に闘志を燃やすのだった。



タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 09:52| Comment(2183) | 小説