2019年04月29日

第90話 帝国激震1P4


◆◆◆

 第2文明圏 列強ムー 首都オタハイト 日本大使館

 透き通るような青空が広がり、ほのかに涼しく、乾いた風が吹く。
 鳥はさえずり、人々の平和な日常が始まる。

 少し速く出勤してきた朝田は、モーニングコーヒーを口に運ぶ。
 雑味が少なく、美味い。
 ムー国の新聞に目を通した。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 すでに先に来ていた部下が、仕事の準備を始めていた。

「戦争が始まりましたね、もうしばらくは外務省の出番は少ないかもしれません」

「そうか?俺は……嫌な予感がするぞ。また休みが無くなりそうな、そんな予感が」

「止めて下さいよ。この世界に国ごと転移して、朝田大使はカンがするどくなっていますから、また言い当てるかもしれません。
 特に、休みが消える予感は当たりすぎです。100%言い当ててませんか?」

「ああ、魔法でも身につけたかな?」

 冗談を飛ばす朝田、部下はパソコンを起動し、メールの確認を行う。

「ええと……」

 受信メール一覧を開き、固まった。

「まじですか……」

 漏れ出る独り言。

「どうした?」

「緊急通達が出ています。グラ・バルカス帝国皇太子グラ・カバルが捕虜となったそうです。
 1ヶ月以上前の話ですね……治療に時間を要し、本人確認が遅れたため、通達文は今になったようです。
 帝国から当たりがあるかもしれないから、連絡があれば本国へ速報するようにと、後で詳細は決裁いたします」

 朝田は頭を抱えた。

「皇太子……皇族ともなると、さすがに当たりがあるだろうな」

 机の上の電話が鳴り響く。
 嫌な予感がする。

「はい、朝田です」

『ムー国より至急の連絡が来ています。グラ・バルカス帝国の戦艦1隻が、戦時外交旗を掲げてムー大陸東側を北上中との事です。
 戦艦はグレードアトラスターと思われ、首都に向かってきているため、戦時外交旗を掲げているとはいえ、沖合100mでムー国海軍が接触を行う予定とのこと。
 外交官の交渉は、そこからムーが首都まで送り、従わない場合は撃沈するとの事です』

「戦時外交旗か……この世界ならではだな。ムー国への連絡を密にし、帝国の狙いを探るぞ。
 忙しくなるぞ!!」

 朝田は残りのコーヒーを一気に飲み干し、仕事に向かう。

 数時間後……

「朝田大使!!」

「ムー国に連絡をとっていた部下が、大きな声で呼ぶ」

 少しうるさいと感じならも朝田は部下の方を見た。

「ムー国より連絡です。
 グレード・アトラスターにはグラ・バルカス帝国大使が乗船しており、訪問目的は日本国外務省に対する用件であり、本件訪問は日本国へ対するものであるとの事です!!」

「え?」

 ムー国の首都に戦艦で乗り付け、日本国へ用件があると切り出す。
 驚きであるが、現在帝国と日本国は戦争状態にあり、戦争に対する窓口はこのムー国大使館である旨も伝えている。
 
「俺の仕事か……」

 また忙しくなることを覚悟しつつ、朝田はグラ・バルカス帝国大使を日本大使館へ呼ぶよう、手配するのだった。

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第90話 帝国激震1 P3


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

 静まりかえる会議室。
 帝王府長官カーツ、帝国三将を含む軍幹部、そして外務省長官、皇内省幹部、大国、グラ・バルカス帝国幹部の集まるこの場において、帝国を揺るがす……信じられないような報告がなされていた。

「……よって、レイフォルにある最前線基地、バルクルスは敵の手に落ちました。
 同行していたグラ・カバル皇太子殿下は敵に捕らわれたとの情報が入っています」

 報告者は、汗を流しながら話す。
 皇族が捕らわれるというかつて無い状況に、帝王府長官は額に青筋を浮かべ、ワナワナと震えている。

「何故だ!!何故軍部は守り切れなかったのだ!!異界の蛮族どもに負けるような帝国軍ではなかろう!!」

 皇内省幹部が、軍部に食ってかかる。
 守って当たり前であり、攻撃を受けるなど言語道断、そして皇太子が捕虜となるなど、決してあってはならない事だった。

「最善を尽くすが、最前線はちょっとした物量で覆る可能性があり、危険であるためルートを考え直すように何度も皇内省には申し入れておりましたが」

 陸軍本部とて、99.9%攻撃を受けることは想定していなかった。
 海軍が、植民地護衛艦隊全滅の状況を精査中であり、陸軍に情報が行き届いていなかったとうのも原因の一つではあるが……。
 敵がバルクルスを狙っている程度の情報は仕入れていたため、念の為に反対をしていたが、皇内省がほぼ押し切る形で今回の訪問は決定したのだった。

「くっ!!しかし、蛮族がいくらまとめてかかって来ようが関係ないだろう!!
 軍部が警戒を怠ったからだ!!」

 責任のなすりつけ合いが始まる。
 一瞬の沈黙の後、先ほどまで黙っていた帝王府長官が話し始めた。

「殿下が……殿下が捕らえられた!!なんという事だ!!なんという……最前線は危険であるという事は皇内省とて理解しているだろう!!ちょっとした物量差で落ちるのが最前線だ。何故お止め出来なかったかっ!!」

 帝王府長官カーツの怒声に、止められなかった皇内省幹部、そして侵攻を許した軍幹部の顔が青くなる。
 帝王府は各省庁よりも遙かに格上。

「殿下が捕らえられたという情報、相違ないか!!」

「複数の情報筋から入手したため、間違い有りません。
 皇太子殿下は、大やけどを負われ、ムー国では治療出来ないため、日本国へ送られたとの未確認情報もあります」

「おお、なんと!!大やけどを負われただとぉ!!!」

 場の全員が震えると共に、攻撃をしてきた国家に怒りを覚える。

「して、具体的にどうするのだ?」

 カーツの問いに外務省長官が手を上げる。
 
「殿下が日本に捕らわれた事が、本当であれば、我々は即時日本国とコンタクトを取り、容態の確認、そして殿下の引き渡しを命令いたします」

「で、引き渡しに応じない場合はどうする?」

 解っている。帝国は人質作戦には決して応じない。
 これは、帝国が貫いてきた掟であり、たとえ皇帝陛下が捕らえられても決して変えてはならない掟。
 しかし、実際皇太子殿下が捕らわれるという前代未聞の状況を前に、確認するかのようにカーツは問うた。
 彼は続ける。

「この世界の野蛮国は、自身の国力を理解出来ぬ者が多すぎる。
 普通であれば圧倒的戦力差は理解してしかるべきなのだがな」

 皆がうなずく。
 海軍幹部を除き、日本軍の本質的恐ろしさはまだ誰も知らなかった。
 軍幹部が発言する。

「軍による威嚇を行い、必ずや皇太子殿下を安全に保護いたします。
 これに応じない場合は、海軍の総力をもって日本国に懲罰を行い……首都を灰に致します」

 日本国は強い。少なくとも海軍は現時点でそう考えていた。
 今でも分析が正しいのか、解らなくなるほどだ。
 植民地護衛艦隊の全滅、アンタレス型戦闘機の侵攻部隊迎撃、そして帝国最強とも言える唯一の機械化師団、第4師団の消滅……さらに、陸軍最前線基地バルクルスの陥落。
 これらの情報が集まるまでは、神聖ミリシアル帝国こそが障害と考えられてきたが、日本国が真に気をつけるべき敵では無いのかという論調が、軍上層部では主流となりつつあった。
 が、艦艇の数が少ないことは調査で判明している。

 他官庁の幹部を前に、皇太子殿下を捕らえた日本は強いから作戦を練るのは難しいなど、決して発言出来ることではない。

 だが、いかに強くとも、弾薬も無限ではない。
 グラ・バルカス帝国の圧倒的艦隊量をもって、数の少ない、こざかしい日本軍を蹴散らし、首都に大規模攻撃を加える。
 多少の兵器性能差があろうとも可能であると、軍幹部は考えていた。

「世界連合との衝突の後、軍艦の増産をすでに指示しておりますので戦力に申し分はありません。
 必ずや……日本から殿下を取り戻します!!
 出来るな!!」

 長官は、傍らの帝国軍三将を見る。

「ははっ!!必ずや殿下を取り戻します!!」

 帝国の方針は決まる。
 グラ・バルカス帝国外務省は即時行動にとりかかるのだった。


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第90話 帝国激震1 P2


「ああ、そうだが、何の用だ?」

「日本国政府は、あなたに日本国の事を学んでもらいたいと考えています。
 不幸にも始まってしまった戦争。
 この終わらせ方、戦後の帝国に対する措置も見据えてお話がしたい。
 グラ・バルカス帝国の戦後が圧倒的不利な不平等条約を押しつけられて終わるより、傷は浅い方がお互い良いでしょう?」

 何を言っているのだろうか?彼の常識とはあまりにも離れた言葉に、カバルは固まった。
 今世界のみならず、前世界においても無敗を誇ったグラ・バルカス帝国。
 帝国の強さは、他国を圧倒する技術力もさることながら、強大な生産能力を生かした兵器の量産、戦艦でさえも量産出来、物量戦が展開出来る事である。

 たった1箇所の基地を落としただけで、日本国の政府とやらは、我々に勝つ気でいるらしい。

「滑稽だな。帝国の真の力を知らぬ愚か者の言だ。
 お前たちはこの世界の列強レイフォルがどうなったのか、パガンダ王国がどうなったのか、そしてこの世界最強の国とやらも参加した、世界連合艦隊がどうなったのか……まさか知らぬ訳ではあるまい?
 知った上でそう考えるならば、もはやそれは蛮勇だ」
 
「おっと……失礼」

 あらかじめ、勝つことが確定路線と考え、それを前提で話していた外務省職員は、自分の言動の軽率さを反省する。

「グラ・バルカス帝国が強大であり、付近の強国、この世界の列強の平均よりも、明らかに国力が上であると、我が国も分析しています。
 パガンダを制圧し、レイフォルをあっさりと滅ぼし、数万の近代的兵力を駐留させられる国力には舌をまいています。
 制圧、統治という意味合いにおいては、グラ・バルカス帝国は本当に強い」

「当然だ」

 グラ・カバルは自国を褒められた事に気を良くする。
 高田は続けた。

「しかし、皇太子殿には我が国の国力も知って頂きたく思います。
 あなたにとっては、「敵を知る」良いチャンスとも言えます。
 我々を知った上で、我が国とのつきあい方、世界との付き合い方を考えて頂ければと思います」

「そうか……しかし、それを知る間もなく、日本国は滅ぼされるかもしれぬぞ?」

「と、言いますと?」

「我が国の国民は、皇族を好いている。
 しかも、皇太子たるこのグラ・カバルが他国に捕らえられたと知ると、烈火のごとく怒り狂うだろう。
 帝国は私の安全な引き渡しを要求してくる事は間違いない。
 ちなみに人質の意味は無いぞ。
 我が国は人質を取るような者には絶対に譲歩しないという国柄、これは皇太子でも代わりはせぬ。 
 もしも、身柄引き渡しに同意しない場合、我が国の圧倒的物量を誇る本国艦隊が、お前たちの首都を全力攻撃する事になる。
 前回の世界連合艦隊でも止めることは出来ぬほどの強力な本国艦隊だ。
 首都東京は灰燼に帰す」

 カバルは続けた。

「帝国の要求に屈し、身柄を引き渡すにしても、私が怪我を負っているという事実は変わらぬ。
 この世界に対する我が国の攻撃は、さらに熾烈なものとなるだろう。
 反攻作戦に参加したムーや日本国は、降伏しない限り、熾烈な攻撃に晒されるだろう。 帝国からの距離は問題にならぬ、数万キロなど、我が艦隊はあっさりと超える」
 
「そうですか、身柄を引き渡さなかった場合、グラ・バルカス帝国海軍主力が来ると?」

「そうだ、私は皇太子だからな……本国艦隊主力が……我々のいた前世界、ケイン神王国でも防げぬほどの圧倒的量を誇る艦隊がな。
 その量を前に抗せる国など無い」

「私は外務省の一職員であり、今後日本国政府がどういった政策を実行していくのかは解りません。
 ただ、現時点の指示では、あなたの身柄は拘束させていただく。
 現状でグラ・バルカス帝国へ引き渡す訳にはいきません。
 まあまだそういった打診があった訳ではありませんが……。
 重ねてお尋ねするが、グラ・カバル殿の見立てでは、大艦隊が来るのですね?」

「ああ、そうなるだろう。そして……」

 そして、身柄を引き渡したとしても、皇族に傷をつけた国の一味であることは間違いない。
 例え降伏したとしても、大規模な懲罰的攻撃が来ることは間違いないだろう。

 グラ・カバルはそう続けたかったが、自身の安全のために言葉を飲み込んだ。

「そうですか、ではなおさら日本の事を知って頂いた方が良いでしょうね。
怪我が治り次第、ご案内さしあげますので、そのつもりでいてください」

「まあ、異国観光も良いだろう」

 捕らわれの身でありながらも、グラ・バルカス帝国皇太子グラ・カバルは自信に満ちあふれた言動をするのだった。


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