2019年11月17日

第96話 覇王の行進3 P5

◆◆◆

 ナハナート王国西方約750km
 
 日は落ち、夜に明るい月が照る。 
 海面上空100mの位置を、亜音速でそれは飛行していた。
 海に溶け込む青色は、上空からの目視を妨げ、翼に塗られた電波吸収材は、飛行機そのものがレーダーに写りにくくなる。
 日本国航空自衛隊F−2戦闘機10機は、各機が対艦誘導弾4発を抱えて飛行する。

 目標は前方に展開するグラ・バルカス帝国艦隊。
 先進11カ国会議では、海上保安庁の巡視船を撃沈し、捕らえた職員を公開処刑した。
 何度も対話を行おうとしたが、それでも侵略の手を緩めることはなく、大艦隊を繰り出して日本国本土を攻撃しようとしている。
 日本国として、心理作戦などではなく、大規模な、艦隊に致命的ダメージを与えるための攻撃、対艦誘導弾の夜間飽和攻撃が今行われようとしていた。


 後方約400km上空にはE−767早期警戒機が飛び、的確な指示を出す。
 
『攻撃開始!!攻撃開始!!』

 耳に聞こえるはっきりとした指示。
 パイロット達は、正確に仕事をこなす。

 1発1発、続けて4発のミサイルが切り離される。
 F−2戦闘機約10機から放たれた93式空対艦誘導弾(ASM−2)のターボジェットエンジンに火が灯る。
 射程170km以上とも言われる93式空対艦誘導弾40発は、グラ・バルカス帝国艦隊を滅するため、時速1150km以上の速度で飛翔していった。



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第96話 覇王の行進3 P4

◆◆◆
 
 日本国本土防衛作戦司令部

 2人の男が執務室で会話をしていた。

「潜水艦隊は初撃に成功したようですね」

 細身の三津木は、同僚に話しかける。

「ああ、潜水艦には次の作戦に移行してもらう。
 帝国の先遣隊にはF−2戦闘機とBP3−C爆撃連隊による大規模な対艦誘導弾の雨……敵が可哀想になってくるな」

「一気に来るのでは無く、先遣隊と分けてくれた事は幸運でした。
 おかげで、弾薬補給の暇が出来る。
 BP−3Cは1機で4発の対艦誘導弾を搭載出来ます。運用可能は70機、ナハナート王国と、ロウリア王国のムー空港。
 P−1は念の為、本土周辺から離せませんので、このBP−3C70機とF−2戦闘機35機が作戦初期の戦力になりますね」

「ロウリアがよく飛行場使用を了解したな」

「それだけ、グラ・バルカス帝国の覇権を脅威に感じいているのでしょう」

「しかし、一回の出撃で400発以上の対艦誘導弾を放つのか。国内工場フル稼働で対艦誘導弾を量産していて本当に良かったな」

「朝までに一番先を行く艦隊約200隻には実質的に全滅していただかないと、その後も多数来ていますしね。
 可哀想ですが、日本国民の血を一滴たりとも流すわけにはいきません。」

 戦場は動き続ける。


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第96話 覇王の行進3P3

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国第2先遣隊

 日は傾き、空が赤く染まる。
 日没を前にして、旗艦クウェーサに乗艦する司令アウロネスの精神は崩れそうになっていた。
 1発、1発と一定時間を置いて行われる敵の攻撃。
 全力で対空砲を発射するも、効果が無く、そのすべてが着弾して轟沈する。
 発射地点は未だつかめず、どこから攻撃されているのかも解らない。

 数時間にも及ぶ攻撃は休まる気配が無い。
 仲間達の突然……数百人単位の死、いつ自分に訪れるか解らぬ死がそこにある。
 数時間にも及ぶ緊張状態は兵達の精神を削り、士気は著しく下がっていた。

「間もなく日没か、敵の誘導ロケットも、光が見えなければ攻撃が出来ないかもしれない」

「夜間攻撃能力が無いことを願いますな」

「しかし……まだ敵の発射位置が見つからないのは何故だ?」

「解りませぬ。おそらく敵は潜水艦と思われますが、潜水艦ならば海中でエンジン音が出るはず。
 これだけの艦隊行動は、非常に雑音が混じりますが、敵も多いはず。
 駆逐艦が捕らえないはずがこざいませぬ」

「いったいどうなってやがる!!」

 考察は続く。
 
 レーダー監視員は、全力でレーダーを見つめる。
 敵のロケットは海面に近い位置を飛んでくるため、惑星の丸みが邪魔をし、レーダーに写りにくい。
 上空に航空機を飛ばしているが、海面に溶け込むように塗装されているものも中にはあり、全集中力をもって画面を見つめていた。
 僅かに映り込む光点。

「2時の方向から攻撃来ます!!距離35km!!」

 外周の駆逐艦が対空砲を打ち始めた。

「くそっ!!また来やがった!!」

 敵のロケットは瞬く間に距離を詰め、上昇を開始した。

「あの位置なら……巡洋艦ヒルヨか!!」

 アウロネスはロケットを睨み付けた。

 ドウ…ン……

「なにっ!!!」

 別の方向から腹に響く重低音。
 アウロネスは爆発音のあった方向を見る。
 第二艦隊で最大の空母カペラの後方から大きな水柱が上がっていた。
 上部構造物に爆発は無く、艦の何十倍もの高さまで水柱が上がる。

「カペラ被弾!!後部スクリュー損傷、速力低下!!」

「今のは魚雷。雷撃かっ!!くっ!!潜水艦が艦隊内部にいるぞっ!!全力で探せ!!!」

「各駆逐艦はロケット攻撃以降、後退で速力を5ノットまで落とし、短信音を使用して潜水艦を検索しています。
 しかし、未だ探知に至っておりません!!」

「そんなバカな事があるか!!!帝国駆逐艦ソナーならば、5ノットで3324mの距離まで探知出来るはずだ!
 現在雷撃を受けた以上、必ず探知範囲内にいるはずだ!!
 まさか……魔法をしようしているのか?」

 アウロネスは、自分たちの武器の常識で魚雷の射程距離を考える。
 射程50kmを超える誘導魚雷が使用されているという考えには至らなかった。
 議論している間に対艦誘導弾は巡洋艦ヒルヨに着弾し、大きな炎を上げる。

(この世界には魔法というデタラメな機械が存在する。
 音波を跳ね返さず、消してしまうものがもしもあればとんでもないことになる)
 
 彼は思考を巡らす。
 しかし、現実はゆっくりと考える間を与えてはくれなかった。
 再び空母カペラに大きな水柱が上がった。

「カペラ、再び被弾!!」

 空母カペラの右舷に大きな破口が発生する。
 89式長魚雷の威力は、グラ・バルカス帝国の想定を遙かに超え、注水区画よりも内部を傷つける。大量の海水が艦内に流れ込み空母は傾いた。
 発進準備をしていた艦載機は、最上甲板を滑った後、おもちゃのようにパラパラと、海面に墜ちていく。
 右側を攻撃され、浸水しているため、左側に注水し、艦の平行を必死で保とうとした。 しかしダメージコントロールの限界を超える。

「カペラ、注水限界を超えました!!転覆します」

「お……おのれぇぇぇぇ!!」

 アウロネスの目が怒りのあまり、血走った。
 眼前で空母が転覆する。
 空母内部の爆弾は、ゴロゴロと転げ回りやがて1発が爆発、爆発は他の爆弾を次々に誘爆させ、爆発は上へ向かう。
 転覆した空母の船底から大きな爆発が出現、空母カペラは艦が真っ二つに折れ、乗務員を救出する間も無く海へと沈む。

「空母カペラ……轟沈!!」

 艦橋は一時沈黙した。
 グラ・バルカス帝国の艦艇が沈む。無力感が漂う。

「どうなっている!!何故雷撃してくる距離にある潜水艦が探知出来ない!!」

 絞り出すような声、得たいの知れない怖さ。
 
「解りませぬ……空母に魚雷を当てたとなると、相当に近い位置にいるはず。
 目視範囲にいてもおかしくないのですが、未だ見つからない」

「奴らの潜水艦は、我が帝国を上回る技術力でつくられたか、もしくは相当に練度が高いのか……」

「魚雷探知!!弾数2、距離12km、2時の方向からまっすぐこちらへ向かってきます!!」

 再び艦橋に緊張が走った。

「発射方向を全力で探査、魚雷位置を各艦に伝達、回避せよ」

「了解!!」

「距離が10kmで探知出来た。今回は回避できるでしょう」
 
「2発だけ撃つとは思えん。もっと弾数が多い事を想定しなければ。
 付近の潜水艦の察知をさせないため、あえて長距離から発射し、我らを欺罔させようとしているのかもしれない。
 必ず近くに潜水艦がいるはずだ。
 なんとしてでも探し出さなければ」

 グラ・バルカス帝国が水雷戦を行う場合、実有効射程距離は5kmから25kmと言われている。
 無誘導のため必中などという事はもちろん無く、数発撃って1発当たれば御の字だ。
 まして、10kmも先で魚雷発射と、斜角を探知された場合、絶対に当たることは無いだろう。
 旗艦クウェーサは、ゆっくりと回頭する。その時だった。

「敵魚雷、進行方向を変えました!我が方に向かってきます。直撃コース!!」

「な……なんだとぉ!!」

 アウロネスが驚愕している時も艦長は的確な指示を出し、再び艦首を別の角度に向ける。
「魚雷再び向きを変えました」
 
 自分たちに向けられた刃が、誘導してくる魚雷という反則的兵器、通信士は悲鳴のような声をあげた。

「ま……ま……まさか、まさか誘導魚雷だというのかっ!!」

 誘導ロケットが存在したのだから、誘導魚雷の存在も、十分に考えられた。
 しかし、未来兵器を予想して戦うと言うことが、古い軍人の場合、どうしても出来ない。
「い……いかん!!すぐに帝国本隊に、誘導魚雷の存在を教えなければ!!
 通信士、すぐに帝国本隊に無線通信、現在までの戦況の概要を流せ!!」

 通常は、ある程度戦果が決まり、まとまった後に報告するのが帝国の慣例であるが、アウロネスは早急に報告する必要性を考え、通信士に指示した。

「了解!!」

 通信士はすぐに帝国本隊に無線通信を送ろうと試し見る。しかし……。

「送れたか?」

「いえ……返信がありません、のみならず、他の艦とも連絡がとれません!!」

「報告!!レーダー画面が真っ白になりました。レーダー使用不能!!」

 迎撃不能の攻撃、そして向かってくる魚雷。
 手足を縛られた状態で、無線とレーダーという、目と口も塞がれた。
 司令アウロネスの手は震え続けるのだった。


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第96話 覇王の行進3 P2


◆◆◆

 たった1発食らえばほぼ死ぬ……帝国の強靱な防空網は役に立たない。
 兵達は事実を理解し、恐怖は伝搬していく。

「生き残った兵の救出に、駆逐艦2隻をまわせ!他の艦は敵の位置を早急に割り出せ!!」

「了解!!」

 生き残りの兵を救う。アウロネスは、的確に指示を飛ばした。

「副長、艦隊の数を考えると、それほどのダメージを受けたわけでは無い。
 敵の発射位置さえ特定出来れば、撃沈出来るはず……だな?」

「もちろんでございます。帝国をコケにした敵を殲滅してやりましょうぞ!!」

「報告!!」

 通信士が声を上げる。
 艦橋に緊張が走った。

「15時の方向から1発!攻撃来ます!!!」

「ぬぅ!!迎撃だ!!迎撃しろ!!」

 対空砲が雨のように打ち上げられる。しかし、全く当たらず、さらに1隻が沈む。
 一定の時間をおいてさらに1発、1発が到達し、艦が沈んでいった。
 艦隊は恐怖におののく。

◆◆◆

 潜水艦おうりゅう

 水深500m、グラ・バルカス帝国では決して届かぬ深海で、音も無く海上自衛隊の最新鋭潜水艦は進んでいた。

「艦長、味方の攻撃は相当に応えているようです」

 他に同海域にあった潜水艦隊は、徐々に敵艦隊に攻撃を加えていた。
 一定時間をおいて確実に着弾させる攻撃は、敵の精神を削り、敵艦隊は乱れる。
 
「意外と早く射程距離に入ることが出来ましたな」

 敵の進路上におうりゅうはいたため、相対速度があり、予定よりも早く敵艦隊に近づく事が出来た。
 
「目標、射程距離に入りました」

 静かな艦内に静かな報告が響く。

「よし、敵大型空母を攻撃する。89式魚雷攻撃用意!!、2発使用する」

「魚雷発射管注水開始」

 魚雷発射管に注水が開始される。
 僅かに響く注水音。

「注水完了、89式魚雷発射準備完了」

「発射!!」

 艦に僅かに響き渡る音、少し遅れて2発目が発射された。

「続けて攻撃するぞ。目標敵戦艦、89式魚雷続けて2発、準備出来次第発射せよ!!」

「了解!!」
 
 潜水艦おうりゅうからは、計4発の魚雷が発射される。
 深海の化け物は、グラ・バルカス帝国に悟られること無く攻撃を開始、さらなる獲物を求めて動き出す。


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第96話 覇王の行進3 P1

「撃て撃て撃て撃てぇ!!!」

 ダダダダダッ…ダッ…ダダダダダッ

 海上に射撃音が鳴り響く。
 総数200を超える艦艇が出す砲撃音は、海上に響き渡った。
 巡洋艦テラ・バーカ艦長「パーボルト」は、攻撃目標を睨み付ける。
 先ほど1発が艦隊に紛れ込んだが、帝国の強力な防空網でたたき落す事が出来た。
 つまり、敵の攻撃は防げるという事が証明された訳だ。

「敵の攻撃はロケット弾だ!!敵を見据えつつ、撃ち落とせ!!
 機関全速!!回避運動しつつ、射撃実施!!」

 パーボルトは、敵の攻撃は正確な座標を貫く計算され尽くしたロケット弾のようなものだと考えていた。
 友軍から打ち上げられる多数の光弾……これほどの弾幕であれば、必ず防ぐことが出来るだろう。
 目標の1体が、上昇する。

「撃て撃てぇ!!狙えば当たるはずだ!!早く撃ち落とせぇ!!」

 上昇した後、頭がこちらへ向く。
 点のように見えると言うことは、この艦にまっすぐ向かってきている事を理解する。
 パーボルトの背筋に悪寒が走った。

「早く落とせぇ!!」

 艦の動きがひどくゆっくりしたものに感じ、もどかしい。
 艦の動きに合わせてロケットは向きを変え、目標が外れる気配がない。

「ロケット、ついてくるぞっ!!」

 誰かが悲鳴のように叫んだ。

「落とせるはずだ!!落とせるはず……」

 先ほどは落とせた。帝国の防空網で落とせるはずなのだ。
 しかし、全く墜ちる気配は無く、ロケットは無慈悲に距離を詰めた。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 艦橋へ向かって飛んできた対艦誘導弾はその威力を開放した。
 爆圧は弱い方向へ駆け巡り、大爆発を起こした。
 上部構造物は猛烈な爆発と共に吹き飛ばされる。

 艦長パーボルトは光と共に、この世を去った。

◆◆◆

 旗艦クウェーサ

 司令アウロネスの目に、悲劇が飛び込む。
 圧倒的な……雨とも言える対空砲火、その砲撃をかいくぐり、次々と敵の攻撃が着弾していた。
 その爆発の威力は凄まじく、巡洋艦の大きさを超える爆発が多数出現する。 

「巡洋艦テラ・バーカ大破!!」

「駆逐艦カロン轟沈!!」

 艦橋には悲劇的な報告が続く。

「ああっ!!」

 対艦誘導弾は旗艦クウェーサの右側を走っていた空母ケルベロスに突き刺さり、光を放つ。
 上部で発進待機していた爆撃機、雷撃機はすべて吹き飛ばされ、搭載していた爆弾に誘爆した。
 一際大きい爆発が出現し、海水が艦内に流れ込んだ。
 急激に艦首が上を向き、海に立つ。
 沈み行く空母ケルベロス、艦周辺に下向きの海流を生んだ。

「うわぁぁぁぁっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!助けてぇぇぇっ!!!」

 海流に巻き込まれた隊員の悲鳴が、旗艦まで聞こえる。
 アウロネスの胸は締め付けられた。
 
「被害報告!!」

 着弾した艦は急激に速度を落とし、艦隊後方へ墜ちていく。
 未だかつてアウロネスが受けた事の無い一方的な攻撃に、精神が崩れそうになった。

「敵攻撃11発、命中艦11、轟沈7、大破自走不能3、中破1、自走可能艦は、中破の戦艦アンテです」

「全弾命中だと?全く防げなかったというのか……くそっ!!」

「しかし、戦艦は敵の攻撃では撃沈出来ないという事です」

 副長の話は入ってこない。
 怒り、そして恐怖のやり場が無く、艦の壁を強く叩いた。

 帝国の防空網は簡単に突破された。
 しかも、多くの者達が見ている中、空母がたったの1撃で轟沈されるという悲劇。
 司令だけでは無く、兵達もまた戦慄した。

「発射位置の特定はまだ出来ないのか」

「出来ません!!」

「ぐっ……早く見つけろ!!」

 アウロネスは声を絞り出した。
 攻撃は一時的に止む。


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