2020年02月11日

5巻特典ファルタス提督P7


■ 中央法王国 王城ダール・デラ

 国の代表が集まる王前会議で、国王アレンデラ6世は満面の笑みだった。
 ファルタス提督が生きていた。
 王には何よりの喜びだったが、それだけではない。

 魔法帝国製の超兵器を相手に、凄まじい戦いを繰り広げ、国内外に中央法王国の魔法技術の高さを知らしめた。
 ファルタス提督が放った『イクシオンレーザー』は、マギカライヒ共同体の人々には強烈な刺激になったらしく、この戦い以後、マギカライヒ共同体と日本国から留学の問い合わせが殺到している。
 日本国では、記録された映像が国内でニュースとして取り上げられ、国民の多くが興味を持つ国となったようだ。

 グラ・バルカス帝国との戦いでは国の威信を失ったと思っていたが、提督の思わぬ活躍で、中央法王国は国家として尊敬を集めることになった。
 
 後日、ファルタスは英雄として祭り上げられる。
 科学文明国家を相手に自信を喪失していた彼は、少しだけ立ち直ったのだった。

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5巻特典 ファルタス提督P6


「なっ――せ……戦車砲並みの威力だぞ!!」

 今の光が当たっていたら、全員殉職していた。
 敵との距離はたったの1・3qしかない。
 魔王ノスグーラの経験を元に部隊を配置していたが、近代兵器に不用意に近づいてしまったようなもので、猛烈に反省した。

「城島!! 戦闘ヘリ要請!! 敵は近代兵器クラスというのも付け加えろ!!!」

『了解! ――間に合えばいいのですが!!』

 城島はすぐに無線を飛ばす。
 敵付近の砂煙は一瞬で晴れ、その姿を現していた。
 ファルタスは古文書で見た兵器そのものの出現に、戦慄する。

「あ……あれは……ラヴァーナル帝国の陸戦兵器!!!」

「そ……そんな!」

 ルイジルもうろたえ、急激に戦意を失う。
 先ほどの丘を吹き飛ばした攻撃は、ただの陸上兵器とは思えなかった。まさに魔法帝国の力の片鱗を目の当たりにしているのだ。
 一方のファルタスは、眼前の命を守るため、そして古の超兵器に自分の力が通用するのか試したくなり、逆境の中で戦意を燃やしていた。

「ルイジル殿!! 百田殿!! これより私が使える最大級の魔法を使う!! 少し時間がかかる、敵の注意を引いてくれ!!」

 百田もルイジルも、反射的に動き出す。
 2人の迅速的確な指示が兵に伝わり、マギカライヒ首都防衛部と陸上自衛隊の攻撃が集中する。

「――はぁぁぁぁぁっ……!! 〈怒れ、金色の神獣よ。唸れ、白色の星獣よ。世は蜃気楼、時は流水、天に映るは愚者の舞踏――〉」

 ファルタスが前に手を出し、花が開くかのように重ね合わせ、全魔力を手の先に収束させた。
 長い長い詠唱は続く。

 本陣を破壊するはずの光弾が弾かれた。
 これを弾く輩が下等種にいること自体が驚きだった。
 しかし直後、猛烈な攻撃に晒される。
 万全の状態であればどうということはなかったが、さすがに防御値が最大値の2割以下というのが、焦りを誘う。
 さらに魔導アーマー内に警戒音が響き渡る。

「何っ!? 攻撃型の魔力上昇!!? こ……魔力数たった300の下等種が、攻撃力1万2千だと!? 馬鹿なっ!!! どうなっている!! 人一人の出す攻撃力を遥かに超えている!!!」

 リョノスは止まない攻撃と差し迫る危機に、半ばパニック状態に陥る。

「危険だ!! すぐに排除せねば!!」

 彼は魔力の上昇源に向かって、魔光砲を発射した。

 中央法王国の大魔導師ファルタスの手の前でエルゴ領域が拡大し、虚数空間からの膨大なエネルギーが流入する。
 流入したエネルギーを外に漏らさぬよう、通常空間を高速で圧縮し続けた。
 手の前には小さな黒い点が発生し、僅かに漏れ出たエネルギーが黒い点の周りに電撃を走らせる。
 膨大に圧縮した空間の外側に、さらに空間の湾曲を発生させ、エネルギーに指向性を持たせる。

「はぁッ……はぁッ……! 〈汝に神罰がくだされん〉……!!」

 古の刻、強大な魔導でミリシエント大陸を征服しようとした一族がいた。
 一族はやがて世界の敵となり、組織的攻撃と一部の優秀な戦士によって解体され、失脚する。
 優秀な戦士数人に、族長が負けたのが原因だった。
 子孫は二度と倒されぬよう、最大にして最強、門外不出、一子相伝の魔法を編み出した。
 その魔法の発射準備が、異国の地で整う。

「食らえ……これが……ラ・バーン家に伝わる、最大にして最強の魔法……!!」

 手の前の黒い点は空間圧縮限界を超え、エネルギーが漏れ出し、光り輝き始める。

「そして、この……ファルタスの極大攻撃魔法――」

 付近の粒子を吸い込み、光の弾はさらに大きくなる。
 まばゆい閃光を放ちながら、光弾が振動を始める。
 付近の重力が影響を受け、周りに落ちていた小石が宙に舞い始めた。

「――〈イクシオンレーザー〉だッッ!!!」

 ファルタスを中心に帯状の光が放射し、猛烈なエネルギーが射出される。
 質量を持つエネルギーは周りの空気を押し出しながら、一瞬で走る。
 マッハ7以上の速度を持つエネルギー周りでは、先端から斜め後方に向かって衝撃波を発した。
 同衝撃波境界層では、空気が粘性発熱によって超高温に達する。

 空気中の分子は原子に分解され、さらに原子もその形を保っていられなくなり、電子が飛び出してプラズマ化、付近の空気は化学平衡流と言われる状態まで達した。
 プラズマを纏ったエネルギーは直線とその周囲に影響を及ぼしながら、古の魔法帝国の超兵器へ向かった。

 ――ズァァァァァァァァァァッッ!!!

 着弾点に、目も眩むほどの光と鼓膜を裂くような轟音、圧倒的なエネルギーが解放される。
 一瞬のあとに大きな爆発が生まれ、目標付近に膨大な土煙を発生させた。

 ――ゴォォォォォ……。

 轟音が山々で反射し、しばらく続いた。

「はぁっ……はぁっ……! どうだ……!!」

 ファルタスの魔力は、その一撃で空になった。

『す……すごい! これを人間が、ただ1人で作り出せるというのか!! まるで波○砲だ』

『い……いや、どちらかというとメド○ーアのような……』

 自衛隊員たちが、無線を使って勝手に感想を並べる。
 ルイジルに至っては、あまりの凄まじい威力に固まっていた。
 轟音は止み、煙が晴れる。
 ファルタスの直線上の大地がえぐれていた。その先に、煙を出す物体が1つ。

「や、やったか!」

 煙を上げて、停止しているようにも見えた。

「やったようですな」

「「「う……うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 兵たちが、凄まじい戦いの勝利に雄叫びを上げた。そのとき、

 ――ギギギギギ……。

 敵が動き、手を司令部に向けた。

「う……動いたぞ!!?」

「バカな……不死身か!!!」

「わしの……最大奥義を以てしても……倒せぬか……!!」

 ファルタスは絶望し、百田らもただ敵を凝視した。
 向けられる手にもはや抗する術はなく、万策が尽きている。
 絶望のあまり、ルイジルが上を向く。
 その視線の先で、光の矢が上空を通り過ぎた。

「え?」

 突如として現れた光の矢は、敵に向かう。
 敵も気づいて避けようとするが、誘導されたそれは致命傷を負った魔導アーマーの装甲をいとも容易く貫通し、突き刺さってその威力を解放した。

「なっ――」

 爆散し、破壊し尽される魔導アーマー。
 誰が見ても確実な破壊が起きる。
 陸上自衛隊戦闘ヘリ『AH−1S』から放たれた空対地誘導弾、地獄の炎、ヘルファイアの名を冠した兵器は、その名の通り敵にとって地獄の炎を発生させ、古の魔法帝国製汎用人型陸戦兵器を破壊した。

「ぐ……おぉ……ぉぉぉぉ……」

 リョノスは割れた装甲から何とか脱出し、地面を這っていた。
 片足は失われ、もはや虫の息だ。

「そんな……あの……あの魔力を感じぬ攻撃は……一体何なんだ……!」

 理解が追いつかない。

「おい! いたぞ!!!」

 彼が下等種と呼んでいた生物が迫る。

「この私が……こんなところで……!」

 古の魔法帝国の遺伝子操作生物リョノスは、マギカライヒ共同体に捕らえられた。
 彼は神聖ミリシアル帝国に送られ、国際社会の監視下に置かれることになる。
 さらに古の魔法帝国の情報を引き出すために、長く壮絶な生を強いられるのだった。

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5巻特典 ファルタス提督P5


「おおぉぉぉぉ! これはすごい!!」

 ファルタスは圧巻の戦術を目の当たりにし、素直に感嘆した。

「これが、魔力の少ない者でも簡単に扱える銃を有効利用した戦法です。通常の魔導師をこれだけの数投入することは不可能です。しかし兵器が魔導師並みの域に達すれば、こういった戦法も可能となります」

「なるほどな……これを極めた国がグラ・バルカス帝国だったというわけか……」

 ファルタスの脳裏を、急降下してくる敵の飛行機械、そして船をも砕く光弾の連続着弾が過った。
 思い出した恐怖を悟られないよう、必死で記憶を振り払おうとする。

「ぬ!? あれは……」

 戦場に変化が訪れた。
 ゴーレムが4体現れ、その影に隠れるようにゴブリンたちが配置する。
 銃弾はゴーレムという岩の塊にはじき返され、すぐさま砲撃が再開された。
 煙に包まれる戦場。砲弾が命中したゴーレムは粉々に吹き飛ばされ、周囲のゴブリンも運命をともにする。
 しかし――

「ゴーレム1体!! 走ってきます!! 砲撃当たりません!!!」

「何ィっ!? あんなに速く走るゴーレムなんているのか!!?」

 そのゴーレムは、左翼に展開する歩兵小隊に突入した。
 弾き飛ばされる歩兵たち。味方がいるため、砲撃も銃撃も一時止めざるを得ない。
 陣形が初めて崩れ、兵の心に恐怖が宿る。

「第32歩兵小隊、突破されました!!」

「なっ……馬鹿な!! あんなゴーレムは聞いたことがないぞ!!」

 焦るルイジルの隣で、ファルタスが冷静に呟く。

「あれは、ゴーレムではないのかもしれません」

 敵は平野をまっすぐ、司令部に向かって爆走する。
 第32小隊と歩兵携帯型高火力大銃大隊の間、距離500mほど開いているが、そこを一気に駆け抜けていく。

「あの突進力、大銃では効果がないぞ!! 砲を当てるしかない!!! 全火力、あのゴーレムに集中せよ!!!」

 砲が突進を続けるゴーレムに照準を合わせて、火力を集中させる。
 しかし、まったくといっていいほど当たらなかった。

「ルイジル司令、我々も攻撃してよろしいか」

 見かねた百田が、彼の前に進み出て尋ねた。

「それはもちろん助かりますが、あなた方先遣小隊は敵の脅威度を計るための隊と聞き及んでいます。魔王ノスグーラを倒したときの兵器も、砲もお持ちでないと伺っております……国としてのお客様でもある。無理はしないでいただきたい」

「お心遣い、感謝します」

 百田は城島分隊長に指令を出す。

「城島分隊長!! 01式をあのゴーレムに撃て!!」

『了解!』

 城島は直径14p、全長97pほどの筒を取り出した。

「我が国の大銃のようなものでしょうか?」

 ルイジルは、まだ1・5qも先の化け物相手に構える日本の兵を見て、不思議に思う。
 大銃弾がそのような距離を飛ぶはずもないし、ましてあれほど遠い動目標に対して、常識的に考えて当たるわけがない。

「あれは……何の魔力も感じない。またしても科学文明の兵器か……」

 ファルタスも同様に、日本国の兵を見つめていた。
 しかし、日本国がこけおどしの国ではないことは知識として認識している。
 かつて世界を恐怖に陥れた魔王を小隊で殲滅し、そして第三文明圏列強パーパルディア皇国をただ1人の兵も失うことなく降した。
 さすがに後者は噂が拡大したか、もしくは日本国が情報操作を行ったとしか思えないが、勝った事実はある。
 
 城島は迅速的確に準備を行う。
 やがて、照準器の中心に、敵ゴーレムを捉えた。
 発射準備完了の合図を送る。

『01式軽対戦車誘導弾、目標、敵人型機動兵器! 距離1300!! 発射用意!!』

『――撃てッ!!』

 轟音とともに、砲身後方に白煙が吹き出たあと、小型ミサイルが飛翔を開始した。
 01式軽対戦車誘導弾。戦車を撃破するために、人間単体で携行して運用できるよう設計された兵器は、急激に加速して目標に向かう。
 放物線を描いて飛翔したそれは、正確にゴーレムへと着弾した。

 ――ガァァァァンッッ!!!

 ゴーレムに着弾すると同時に爆音を響かせ、ミサイルはその威力を解放する。
 倒れ込んだゴーレムには、マギカライヒ陸上隊の砲撃が降り注いだ。

「日本国の兵器は素晴らしい!! まさかこれほどの距離、一撃で当てるとは!!」

 ルイジルが手放しに褒めまくる。

「ま……まだ喜ぶのは早い……!」

 警告したのはファルタスだった。彼は額が濡れるほどの冷や汗を浮かべている。

「確かに、日本国の兵器は素晴らしい……しかしあの爆炎の中、まだ魔力は尽きていない……し……信じられん!! かつて感じたことがないほど、凄まじい魔力を発しています!!!」

「な……何ですと!?」

 ルイジルたちは、煙に包まれる方向を凝視した。

 ――ビーッビーッビーッ――
 古の魔法帝国の超兵器、汎用人型陸戦補助兵器「MGZ型魔導アーマー」内で、リョノスも冷や汗で全身を濡らしていた。

「ば……馬鹿な!! 何の魔力反応もなかったぞ!!!」

 彼は魔導アーマーを偽装するために、ゴーレムのような岩を取り付けていた。
 ゴブリンを先行させ、ゴーレム数体の中に紛れて出撃した。
 おそらくゴーレムがいればケリがつく、そう思っていた。
 魔力をまったく感じない攻撃が連続し、ゴブリンたちが次々と倒れる。
 さらにゴーレムまでもが粉砕され始めた。

 強力であることは違いないが、この程度の攻撃では魔導アーマーに傷一つ付けることはできないだろう。
 元々ゴーレムやゴブリンはお遊びのようなもので、この魔導アーマー1機あれば、下等種の国など容易く根絶できる。
 リョノスは単体で敵軍本陣を破壊すべく、走り始めた。
 案の定、敵の強力な攻撃は当たらなくなり、歩兵も難なく蹴散らせた。

 まっすぐ敵本陣に向かう。

 殲滅するだけなら、最初から魔光砲を撃っていればよかった。ただ、敵の魔力を使用しない攻撃がどれほどのものか、確認しておきたかった。
 しかし、この判断がリョノスを不利へと陥れた。

 突如として強烈な一撃が機体を襲う。MGZ型魔導アーマーに直撃した01式携帯式対戦車誘導弾は、装甲に取り付けた岩の部分でその威力を解放し、メタルジェットにより装甲を貫く――はずだった。
 だが岩と装甲の強度が異り、偶然に複合装甲のような状態となったため、ジェットが拡散してしまい、本体の破壊には至らなかった。
 仮に魔導アーマーが岩を纏っていなかったら、一撃で貫いていただろう。

(チィ……! 現代の下等種どもも、少しは進化したようだな……)

 今までの爆発など何の意味もなかったが、この一撃は魔素粒子を突き破り、3層の装甲すべてを破壊した。
 自分に被害がないのは、単純に運がよかっただけと言える。
 もはや装甲は当初の18%の強度しかない。

「奴らは――危険だ!!」

 リョノスは発射元である敵本陣を見て、右手を掲げた。

「排除ッッ!!」

 急激な魔力上昇、しかも攻撃魔法の術式が展開されていることに、ファルタスは素早く気づいた。

「攻撃が来るぞ!!」

 ファルタスが叫んだ次の瞬間、爆炎の中から光弾が飛び出し、本陣に向かってまっすぐ飛ぶ。

「これならっ!!」

 ファルタスは防御陣を形成し、得意な空間魔法を発動させて、わずかながら時空をねじ曲げた。
 質量が高いものには効果がないので、一か八かの賭けである。
 弾はわずかに逸れ、後方の小高い丘に着弾した。

 ――ズガァァァァァッッッ!!!

 猛烈な光と爆炎が上がり、丘の一部が消し飛ぶ。
 その威力の高さに、百田は戦慄した。

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5巻特典 ファルタス提督P4


■ バルーン平野

 少し小高い丘に移動したマギカライヒ共同体首都防衛部陸上隊は、正式な司令部を構築していた。
 眼下の広大な平野に、マギカライヒの陸軍兵たちが整然と整列する。
 陸上自衛隊の百田、そして中央法王国のファルタス提督も、同陣地から軍を眺めていた

「第2砲兵大隊、配置準備完了!」

「第4騎馬隊、準備完了!」

「第18銃歩兵大隊、配置完了!」

 伝令兵たちの報告を聞いて、陸上隊幹部が意気込む。

「砲兵だけで、木っ端微塵に塔を粉砕し、脅威を排除します!!」

 傍らに立つ隊長ルイジルは、不安を見せないよう鷹揚に頷く。

「そうだな……砲撃だけで片を付けたい。しかし、おそらくは砲撃で塔が崩壊する前に、敵が現れるだろう。小隊を滅ぼした敵だ、魔物の中には素早い個体もいる。砲撃だけでは難しいぞ」

「もちろんです。そのための、精鋭銃歩兵大隊です!!」

「フフフ……そういうことだ。銃歩兵大隊の連続隊列撃ちで、何処に逃げても当たるほどの銃弾を打ち込んでやれ!!」

 マギカライヒ共同体の銃は、自衛隊の自動小銃のように連射できない作りであるため、兵の数で装填と連射速度をカバーする。

「全部隊、配置完了!!」

 戦闘準備が整い、ルイジルの号令を待つのみとなる。

「……古の化け物め、マギカライヒをなめるなよ……! 攻撃開始ィ!!!」

「攻撃開始!!」

『攻撃開始!!』

 ルイジルの指令が復唱され、魔信によって全部隊に伝達された。
 陸上配置型科学融合魔導砲の火薬に点火され、空気がその体積を急激に膨張させる。
 魔石が塗り込まれた弾丸が押し出され、砲身内を加速する。
 砲身に光の模様が走り、砲口には六芒星の文様が浮かび上がって、弾丸の魔石と反応してさらに加速していく。
 轟音とともに、猛烈な火と煙が吹き上がり、整然と並んだ砲が、一斉に砲撃を開始した。

 ――ズガァァァァァンッッ!!!

 一帯に響き渡る轟音。森の鳥たちは恐怖のあまり、その場から泡を食って逃げ出す。
 着弾した砲弾がその威力を解放し、猛烈な爆発で塔に衝撃を与える。
 いくつもの着弾によって塔表層の岩の破片が飛び散り、煙に包まれた。
 砲撃音は鳴り止むことなく、無慈悲に攻撃が続けられた。
 ルイジルは頃合いを見計らって手を挙げる。

「打ち方止め!!」

 塔は土煙に包まれており、攻撃の効果測定のために一時砲撃が中断される。

「どうだ!!」

 岩は砕けて瓦礫となっていた。おそらくは跡形も残っていないだろう。
 しかし相手は魔帝の遺跡、何があってもおかしくない。
 ルイジルは塔のあった場所を睨みつける。
 徐々に煙が晴れていくと――
「ば……馬鹿な!!!」
 煙の中から、銀色に輝く円柱の塔が姿を現していた。
 表面を青白い光の膜が覆い、遠目には何処も傷ついていないようにさえ見える。

「し……信じられん!!」

 ルイジルや幹部らも驚愕の声を上げた。

『百田小隊長、あれは……』

 城島分隊長が百田に無線で話しかける。

「ああ。幕末レベルの陸戦用砲撃とはいえ、建物にダメージがほとんどない。建物ごと破壊するとなると、155o自走榴弾砲を使用するか、もしくは空自に爆撃を要請するしかないかもな」

『しかし、今回のうちらには、そのどちらも含まれていませんよ』

 日本国政府は魔王ノスグーラ級がもし現れたとしても対応できるよう、戦闘ヘリも投入する等、火力を調整していた。
 しかし意味不明な塔の出現により、より高火力が必要になる可能性が生じてしまった。

「そう……あれほど進言したのにな。想定外という言葉がまた使用されることになるのか」

『多少過剰くらいがちょうどいいんですけどね』

 戦場には静寂が訪れていた。
 マギカライヒ共同体の全火力を以てしても、塔は破壊できなかった。
 入口が何処にあるのかもわからない上、近づけば何が起るかわからないので、歩兵を突入させるわけにもいかない。

「――ッ!! 塔から魔物が多数出現!!!」

 幹部が鋭く報告する。

「あれは……ゴブリンか?」

 ルイジルも双眼鏡を塔へと向けており、その存在はすでに視認していた。
 鎧を着装し、剣と盾を持ったゴブリンが、塔から走り出てくる。

「ゴブリンですな、皮膚の色が通常のものとは少し違う気がしますが……ただ、魔力が多少強いように見えます」

 双眼鏡も覗いていないファルタスが、横から付け加えた。

 魔物たちは奇声を発しながら、マギカライヒ共同体の歩兵に向かって走る。
 その姿は、黒くうごめく絨毯が迫ってくるようにも見えた。

「あの数……大丈夫でしょうか?」

 ファルタスは懸念を示す。

「提督、中央世界の魔法文明とはひと味違う……科学文明の戦い方をご覧ください」

 ルイジルは幹部へ振り向き、話す。

「用意は出来ているな?」

「はっ!」

「攻撃を開始せよ!!」

「攻撃開始!!!」

 ルイジルの指令は正確に末端まで伝わり、横一列に並んだ歩兵が銃を構え、第1射を発射した。

 ――パパパッパパパパァァ――ンッッ!!!

 戦場に銃声がこだまする。
 最前線のゴブリンが黒い血をまき散らし、次々と倒れ込んだ。
 発砲した兵は直ちに後方へ下がり、次の列の者がすかさず前進して射撃する。
 7列にも達する銃歩兵隊は、最前列に達するまでに装填を終わらせ、連続して射撃を行う。
 途切れることのない銃弾の弾幕は、次々とゴブリンを打ち倒していった。


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5巻特典 ファルタス提督P3


■ ラヴァーナル帝国辺境統治庁 総務室

 量産型戦闘培養体コード・009、通称リョノスは、ラヴァーナル帝国辺境統治庁の一室で、魔導記憶装置を読んでいた。

「ふむ、魔帝様はこの世界に住まう神々の隕石落としから大陸を守るために、大陸ごと未来へ転移されたのか……空間を開くのに使用された魔力量は……おお、天文学的数値の魔力が使用されている。さすが魔帝様だ」

 リョノスは魔法帝国の偉大さに、感激する。

「今は……なんと! 魔帝様転移からこれほどの時間が経っているのか! 魔力使用量から予測される跳躍時間は……10年後、+−9年! なんということだ、まもなくじゃないか。今私が復活したのは、空間神の導きがあったとしか思えんな!」

 都合のいい解釈をして、ただ1体で人格破綻気味に笑う。

「座標は……なるほど、空間特定のための『僕の星』が機能しているのか。地上にも多くのビーコンがあるようだな。万単位の月日をもってしても壊れないとは、さすが魔帝様だ!! まもなく復活されるのであれば、下等種の国の1つくらいは献上せねば、魔帝様に作られた私の名が廃るというもの……」

 リョノスの独り言が続いていた。
 ――ビーッビーッビーッ――
 警戒音とともに、立体モニターに映像が映し出される。
 そのモニターには棒グラフと、魔法帝国が使用していた言語の数値が、桁を増やしながら上昇していた。

「魔力反応が上昇しいている。何者かが悪意を持って迫っている?」

 映像を見ていると、バルーン平野に展開した時代遅れな軍が接近していた。

「これは……現地人の軍隊か? 先日滅ぼした下等種の仲間か……ほう、面白い。魔帝様に支配されていた時代に比べると、さすがに文明と呼んでいいものがあるようだな。魔帝様や龍神国家に比べれば足下にも及ばんが……ふふふ、その程度の魔力で私と戦うつもりか!!」

 リョノスは不気味な笑みを浮かべる。
 席を立ち上がり、悠然と武器庫へ向かった。

「これを使うか」

 人型の、白く無機質な物体が佇んでいる。顔にあたる部分は透明で、中にヒトが入ると外が見渡せる。
 内蔵された魔導エンジンにより、魔力を発生して保存するほか、操作者の魔力を増幅して放てる。さらに手や足の力も何倍にも増幅できる、古の魔法帝国製兵器。
 汎用人型陸戦補助兵器「MGZ型魔導アーマー」
○ 高さ 2m
○ 全幅 1・2m
○ 後背部に魔導兵器を搭載可能
 防御力も、生身に比べると遥かに向上する。

 彼がこの魔帝の兵器を身に纏うと、ずいぶん物々しい出で立ちになった。

「部下もほしいところだな、ゴーレムだけでは心許ない……。――チッ、雑魚しか残っていないか……仕方ないな」

 元いた部屋に戻って、机に設置されたディスプレイを叩いて舌打ちすると、さらに下層の部屋へと出向く。
 そこにはカプセルに入った、培養体が並んでいた。
 操作者の意思によって自由に動かせる生物兵器、培養体量産型ゴブリン。
 野生のゴブリンロード並みの強さがあるが、あくまで前時代的な戦い方しかできない。
 しかし量産が利き、コストが安く、コントローラーさえあれば人一人の意思で操作可能なため、文明水準の低い種族の支配や、恐怖支配にはうってつけだった。

「2千体、その他魔獣か……少ないが致し方あるまい」

 スイッチを操作してカプセルを開ける。
 おぞましい形相の量産型ゴブリンが寝床≠ゥら起き上がり、リョノスの指示に従って武器庫に並んだ。そこで前時代的な鎧、盾、そして剣を装備していく。

「さて、と。本来なら私一人で殲滅できるが、恐怖を煽るためには体裁も重要だからな……」

 人知れず公務員じみた判断で、リョノスは準備を整えていった。
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5巻特典ファルタス提督P2


■ マギカライヒ共同体 陸上自衛隊 ムー国派遣調査団 仮設テント

 グラ・バルカス帝国の脅威がムー国にも広がり、再三にわたる軍事支援の要請が日本国政府に対してなされていた。
 日本国政府は、本隊派遣は別として、そもそも空自や陸自がムー国へ迅速に展開可能なのか調査するため、調査団を派遣している。
 同調査団に任命されていた百田太郎は、本省から届いた辞令書に目を剥いた。

「こ……これは……」

 トーパ王国へ、有害鳥獣駆除の国際貢献として派遣された件を思い出す。
 作戦名、『オペーレーション・モモタロウ』。
 先遣小隊として派遣されたはずが、すでに民間人が食害されている状況で、本隊の到着を待っていては民間人に甚大な被害が出ると判断、本隊の到着前に魔王軍≠ニ呼称する生物群と戦った。
 個体名・魔王はとても強く、91式携帯地対空誘導弾を防ぎ、12・7o機銃をものともせず、装甲車の放つ35o機関砲を生身で防いだ。
 派遣小隊が持っていた最強の攻撃力である戦車砲、120o滑腔砲でようやく撃破に至った。
 単一の生命体としては、信じられない存在である。
 あんな害獣とは二度と戦いたくないというのが正直なところだ。

 しかし、目の前にある1枚の紙は、無慈悲である。

『マギカライヒ共同体からも、有害鳥獣駆除を目的とした自衛隊派遣依頼が来ている。
 獣の脅威度を計るため、事前調査を実施せよ。』

 前回は日本国から比較的近く、魔王軍という勢力で出現したために、調査であっても小隊を派遣できた。
 しかし、今回の害獣は単体であり、脅威度がわからないにもかかわらず、戦車を遥か遠く離れた日本国からはるばるここまで持ってくるわけにはいかない。
 上の言い分は理解できるが、今回も仮に差し迫った脅威があり、戦いに突入することになった場合、前回のノスグーラのような存在であったらと思うと、百田は気が気ではなかった。
 第二文明圏の国家が、わざわざ日本国に要請してくるほどの獣だ。隊員の命を危険にさらしてしまう可能性が高い。
 事前調査団への重武装を強く進言した結果、左記の通り調査団の派遣が決定した。

○ 軽装甲機動車3台
○ 高機動車5台 (内1台は93式近距離地対空誘導弾装備)
         (内1台 中距離多目的誘導弾装備)
○ 各種歩兵兵装搭載
○ 要請により、AH−1S 3機が出動できるよう待機

 百田としては不満な内容であったが、ないよりはマシである。
 これらの車両は空輸にて、マギカライヒ共同体首都近郊のバルーン平野へ輸送されることとなった。

■ 数日後 バルーン平野

 平野に展開する多数の兵士たち、馬に牽引された魔導砲、そして騎士たちが整然と並び、後ろには航空戦力であるワイバーン25体が控えている。
 部隊をまとめるマギカライヒ共同体首都防衛部陸上隊将官ルイジルが後方の仮設司令部で待機しており、傍らに立つファルタス提督に作戦書をチェックしつつ話しかける。

「まもなく日本軍が到着しますので、合流後、現況を併せてご説明いたします」

「わかりました。それにしても……」

 ファルタスはバルーン平野に隣接する森のほうを見る。
 突如として建ったという石の塔は、木の根や土が絡みついて禍々しく、とてつもない魔力を帯びていた。
 ファルタスは嫌な予感がして身震いする。
 しばらくして、何かを連続して叩くような音が飛来し、ルイジルたちが見たこともない形の飛行物体が現れた。

「なんと……面妖な……」

 細長い箱の上の前後で、ぐるぐると何かが回転する、数機の飛行物体だった。
 近づくにつれて大きくなる音に、思わず耳を塞ぐ。やがてそれはゆっくりと着陸し、中から機械式の車を降ろした。中には吊り下げてある車もあるようだ。
 車輌は全部で8台。配置につく頃、日本軍の展開を指示していたまだら模様の服の男が、ルイジルの前に立ち、ビシッと敬礼する。
 マギカライヒ共同体では、指揮官は比較的きらびやかな服を着る文化があるので、ルイジルから見ると日本軍はひどく野蛮に見えた。

「日本国陸上自衛隊、国際派遣部隊先遣隊長、百田太郎と申します」

「マギカライヒ共同体のルイジルといいます。この度は学院連合(政府)の要請を受けていただき、感謝します」

「我々は脅威度を測定するための先遣隊です。概要をお聞かせ願います」

 百田は、すでに軍が展開している光景を目にし、嫌な予感がしていた。

「はい、実は……」

 ルイジルはファルタスに語った説明を百田にもする。

「なるほど、ここがその最前線というわけですね」

「ただ、その魔物は突然足を止めました。敵の出方を見ていたのですが、一夜にして、突然……あの塔が現れたのです」

 土が付着した、禍々しい石の塔を指さすルイジル。
 塔の下には何か大きな柱状のものが突き出て、地面を押し上げたようにも見える。

「では、あの塔については何もわかっていないということでしょうか?」

「はい。化け物があの場所で進軍を停止したということ、そしてあの場所にも魔帝の遺跡が存在する可能性が指摘されていた程度です」

「そうですか……」

 百田もファルタスも、嫌な予感がますます強くなる。

「自衛隊の皆様の本隊を待ってから、という意見もあったのですが、首都までたった50qという場所にできた、意味不明な塔を放っておくわけにはいきません。我々はマギカライヒ共同体首都防衛部の威信をかけて、これより塔に総攻撃をかけるつもりです。その戦いを見て、脅威度を判断して頂きたい。もしも……万が一のことがあれば、多くの部隊派遣をお願いします」

 ルイジルの目は決意に満ちていた。

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5巻特典ファルタス提督 P1

『日本国召喚 五 新世界大戦』メロンブックス特典
タイトル『ファルタス提督』

■ 第二文明圏 マギカライヒ共同体 港町ミル 日系病院

 日本国の医療はこの世界でも高い評価を得ており、セイカーロという日系の大病院は、日本と国交を正式に樹立していないにもかかわらず、マギカライヒ学院連合(事実上の政府)からの直接の依頼で、首都エーベストに近い港町ミルに設置されている。
 今、この病院は戦場の様相を呈していた。
 次々と運び込まれる負傷した兵士たち。ある者は呻き声を漏らし、重度の負傷兵に対しては現地の看護師が回復魔法をかけ続け、先進的な手術室に移送される。
 彼らは世界連合艦隊参加国の兵たちで、バルチスタ海域にほど近いこの港町ミルが、ニグラート連合で収容しきれなかった負傷者たちを受け入れているのだ。
 そんな一室で、1人の男が目を覚ました。

「うぅ……ぅぅぅ……」

 白く、無機質な天井が視界を覆う。

「お……俺は……助かった、のか……?」

 全身に痛みが走り、思うように動かせない。
 鍛え上げられた肉体を持つ中年の男ファルタスは、何があったのかを思い出す。
 中央世界の文明圏国家として、艦隊を率いて国の威信を背負い、世界連合艦隊に参加した。
 戦闘状態に突入した直後、迫り来る急降下爆撃機を魔法で迎え撃とうとした瞬間、敵から放たれた光弾が船を貫いた。
 魔法を使う暇もなく、船の爆発とともに海へ投げ出されたのだった。

「あれほど……修行に打ち込み、鍛錬したのに……まったく……実戦で、役に立つことはなかった……」

 国の代表として、自分は戦場に挑んだ。
 敵と戦うまでは、圧倒的な自信があった。

「何が大魔導士ファルタスだ……!! 何が英雄……ファルタス提督だ……!!」

 部下がどうなったのかさえわからない。自分が今までやってきたことは、まったくの無駄であったとさえ思えてくる。あまりの悔しさに、涙が頬を伝った。

「あ! 気がつきましたか! 先生――!!」

 白衣に身を包んだ女性が、ファルタスの呟きを聞いて誰かを呼んだ。

「おお! 意識が戻りましたか、よかった……貴方は生死の境をさまよっていたのですよ」

 廊下から現れたのは、白衣を着た老人だった。

「助けていただいたのですね、感謝します。ありがとう」

「あと1週間もすれば、リハビリとして街の散策もできるようになります。もう少し辛抱してください」

 担当医はファルタスの状態をチェックすると、すぐ戻っていった。
 ファルタスは、どうやって自分はここへ運び込まれたのか、戦いの結果はどうなったのかを、周囲の負傷者に聞いた。
 戦いは痛み分けに終わり、自国の軍は壊滅、部下も多くが戦死していた。
 自分は無能だ、部下の命すら救えなかったとファルタスの気分は沈んでいく。

■ 1週後

 だいぶ回復し、身体も動くようになってきた頃、ファルタスは個室へと移された。
 ――コンコンコン………。
 個室の扉がノックされ、入室を促す。

「失礼します」

 軍服に身を包んだ者たちが3人、入ってきた。

「ファルタス・ラ・バーン提督ですね? 私はマギカライヒ学院連合首都防衛部陸上隊のルイジルと申します」

「中央法王国海軍のファルタスです。何かご用件でしょうか?」

「本日は、お知恵を拝借したく参りました。提督は大魔導士でもあられるとお聞きしています。魔法帝国の魔法も研究しておられたとか」

「それはまぁ……そうですが」

 ファルタスは古の魔法帝国、光翼人が個人で使用できる魔法の研究者でもある。
 魔法帝国の魔導機関もすさまじい性能だが、個人魔法も現代魔法とは隔絶したものであった。
 ものによっては国家機密にあたるため、話すことはできない。

「実は……我が国の首都北方100qに、古の魔法帝国の遺跡の1つがあります」

「ほう?」

 魔法帝国の遺跡は、各国が国家機密として取り扱っている場合がほとんどである。
 そんな国家機密の他国の軍人に話すなど、通常では考えられない。

「……先日、その遺跡の調査中に研究員があるボタンを押したところ、棺が開かれ、化け物が出現したのです」

 ルイジルの口調が重くなる。

「その化け物は我々が保有する文献には記述がなく、すさまじいまでの魔力を持ち、調査隊の隊員30人中19人が殺害されました」

「な……なんと!」

「それだけではありません。化け物討伐のために陸上隊20人を派遣したのですが、これも全滅してしまったのです!」

「軍人がやられてしまったのですか」

「ええ。しかも現在、化け物は大型ゴーレムを20体作成し、首都に向けて侵攻を開始しました。マギカライヒ共同体学院連合は、同案件を国家の非常事態と捉え、現在陸上隊主力の本格派遣を決定しています。しかし、我が国も機械文明に重きを置いた国、魔法の知識が乏しい者も多く、古の魔法帝国に精通する者が少ない。そこで、魔法に詳しいファルタス提督がセイカーロ病院に入院されていることを聞き、お話を伺いに参りました」

「回答できる範囲でお話ししましょう。化け物の特徴を教えていただけますか?」

「背丈は人間の成人男性ほどの大きさです。全身が……ぶつぶつした皮膚に覆われ、強力な魔力を帯びています。魔法を使用する際は、背中から光の翼が生えたかのごとく輝きます」

「ま……まさか、光翼人そのものではないでしょうね?」

「いえ、光翼人は目鼻口の顔立ちが整った、肌も人間に近い色白であったと文献に残っていますので……今回の化け物は肌が青だったり緑だったり、部分的にまだらです。目もどす黒く、魔物に分類できると思います。口から強力な魔力弾を放ち、その威力はワイーバーンロードの導力火炎弾を上回ります。さらに、魔力障壁も展開できるようで、小銃弾が弾き返されたとの報告も受けています」

 ファルタスは特徴を黙って聞いていたが、ある可能性に至る。

「まさか……研究中だったとされる、量産型ノスグーラでは?」

「ノス……? それは?」

 量産型ノスグーラ。古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国は生物学において、新種の生物を創造できる領域まで研究が進んでいた。
 竜魔大戦で多くの戦死者を出した帝国は、自分たちに変わる戦闘生物を研究していたとされる。
 その試作型の一種が、おとぎ話に語られる魔王ノスグーラであった。
 試作型戦闘生物たったの1体で、過去文明水準が低かった各種族は絶滅寸前まで追い込まれたのだ。
 古の勇者たちによって封印された魔王ノスグーラが先日復活し、トーパ王国の総力と科学文明国家日本国により駆逐されたという話は記憶に新しい。
 ただ中央法王国の文献では、ノスグーラを製造する上で使用する魔力量が尋常ではなく、あまりにもコストパフォーマンスが悪かったため、型式の異なる少数が製造されたのみで量産には至らなかったと記述されていた。
 余りある魔力量、この惑星に存在する魔物を操る念動力、そして高い忠誠心、そして永遠の寿命を与えたが故に、さすがの光翼人も再考せざるを得なかったようだ。

 これを反省した魔法帝国は、魔力量を抑え、念動力を削り、適度な戦闘能力と知能を与え、魔導兵器を自ら操れる程度の廉価版≠設計することとなる。結果、光翼人を模した形が最適と考え、魔力を放出する際は光の翼を展開する化け物が完成した。
 仮称・量産型ノスグーラは型式も様々であったとされるが、翼のような光を発する化け物であれば、おそらくそれであろう。
 ファルタスはこのように説明した上で、マギカライヒ共同体の使者に尋ねる。

「その化け物は、よもや魔導兵器は持っていませんでしたか? もしも古の兵器を持っていたら、非常に厄介ですぞ」

 古の魔法帝国兵が陸戦で使用した数々の兵器群は、どれも伝え聞くだけで現在の文明水準の戦況を覆しうるほどの兵器であり、仮に使用されていれば、敵が単体とはいえマギカライヒ共同体では荷が重いだろう。

「いえ、魔導兵器のようなものは今のところ確認されておりません。しかし、ただの魔物ではなく古の兵器の一種だったとは……これは……他国にも支援を仰ぐ必要もありますね」

「私もその化け物を一目見てみたいものです。何かお力になれるかもしれませんし」

「是非お願いしたい。提督の魔物の知識は、我々には非常に助かります」

 いくつかの確認事項を経て、マギカライヒの軍人たちは本部に戻っていった。

古の魔法帝国製兵器≠ェ絡む問題、そして万が一の場合は国家級の危機になると考えたマギカライヒ共同体は、過去に同様の兵器を駆逐した日本国に対し、自衛隊の派遣を要請。

 これを受けた日本は、有害鳥獣駆除の国際貢献の名の下、陸上自衛隊の派遣が決定した。

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