2020年04月27日

第100話超空の要塞2P4


◆◆◆

 マイラスと基地司令は管制室に移動していた。

「ECM作動!!」

 日本から見ると初歩的なECM(電波妨害)が作動する。
 大きなアンテナが、敵の進路方向に向く。

「出てきましたぞ!!」

 一方、滑走路には局地戦闘機、試作型震電改が姿を現す。

 今までのムーの常識を覆す特殊なフォルム。
 本来逆向きに進んでいるのでは無いかとすら思わせる。

 根本的に異なるエンジン音。キーンといった甲高いサウンドが、飛行場周辺を覆った。

「管制塔よりX1,離陸を許可する」

 ゴォォォォォォ!!!
 震電改の後方からは、アフターバーナーが火を噴いた。
 圧倒的な推力重量比を生かして一気に加速し、離陸する。
 一定速度を着けた後、ムー国の今までの戦闘機では決して行うことが出来ない急角度で上昇し、空へと消えた。

「高度9000……10000……11000」

 レーダーを覗く女性職員が、無機質に試作機の状況を読み上げる。

「すごい!!なんて上昇力だ!!!」

 まるで日本国の戦闘機のように、今までのムーの機体とは異次元の上昇を続ける。
 マイラスは、自国がこれほどの高性能機を、試作機とはいえ持つに至った……感動がこみ上げる。

『こちらX1、敵機を目視で捕らえた。攻撃を開始する』

 試作型震電改は、グラ・バルカス帝国超重爆撃機グティーマウンに攻撃を開始するのだった。

◆◆◆

 超重爆撃機グティーマウン18番機

「まだ無線不調は直らないのか?」

「はい、先ほどから基地との通信は途絶しています。治る気配はありません」

 敵の刃が届かぬ超高空とはいえ、敵領土上空での無線の不調は気持ちの良いものではない。
 嫌な予感がする。

「念のため、敵の攻撃には注意せよ」

「はっ!!」


 下部機銃座に座るデンタルクは、ムーの領土が広がる下を注視する。
 良く晴れた日、地上付近に雲が張り付き、対流圏よりも遙か上空、成層圏と呼ばれる領域を航行出来るに至った帝国に誇りを感じる。

「ん!?」

 下から点のようなものが一瞬見える。

「まさか?この領域に航空機?」

 デンタルクの疑問は、一瞬で確信に変わる。
 遙か後方に点のように見えた航空機は一瞬で距離を詰め、見慣れぬ航空機が姿を現す。

「て……敵襲!!!」

 デンタルクは機銃を把持し、照準を合わせようとする。

「なにっ!は……速……」

 照準器の先で、敵機が射撃を開始した。
 急激に近づいてきた敵機は、下方から上方へ抜け、さらに高空へと駆け上がる。
 バリバリといった機関砲が着弾する音が聞こえた後、何かが発火する音、そして焼けるような熱が伝わってくる。
 翼では、5発回っていたエンジンのうち、1機から火が出た後にプロペラが止まった。
 急激に薄くなる空気……。

 上部機銃員は必死で応戦しているようだ。機関砲の発射音が連続する。

 デンタルクは薄れ行く意識の中、酸素マスクに手を伸ばし、装着した。

「はあっはあっはあっ……ばかなっ!!機関砲にこんなに威力があるはずがっ……」

 超重爆撃機グティーマウンは防弾仕様である。
 通常の戦闘機が装備している12.7mm機関銃はもちろんのこと、部分的には20m
m機関砲だってそう簡単には通さない。
 しかし、敵の攻撃はあっさりと我が機に穴を開け、与圧システムが作動しなくなってきた。
 高度が落ち始めているのだろうか、微かに体が軽い。

 ビーッビーッビーッ

 機内に緊急時のブザーが鳴り響く。

『来たぞ!!あいつだっ!!ちきしょう……なんて速さだっ!!』

 デンタルクの耳に、嫌な声が聞こえてくる。
 再びバリバリという音が聞こえ、爆発音と共に翼が燃え始めた。

「操作不能!!!操作不能!!」

 重力がめまぐるしく変化する。

「もう……だめかっ!!」

 デンタルクは脱出用パラシュートを背負い、必死で非常用ハッチを開けて脱出する。
 重力によって体が加速する。
 落下速度、風圧を受けながら彼は上を見た。

「て……帝国の最新鋭機がっ!!!」

 爆発炎上しながら墜落する超重爆撃機グティーマウン。
 彼は絶望しながらムー国領内に落下していくのだった。

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第100話超空の要塞2P3

◆◆◆

 ムー国 先進技術試験基地

 ムー国統括軍所属、情報通信部 情報分析課 マイラスは、この日先進技術試験基地を訪問していた。

「マイラス技官、これが地上配置型ECMです」

 先進技術試験基地司令が得意げにマイラスに説明する。
 目の前には巨大なアンテナが数本設置され、ケーブルを介して日本から輸入した性能劣化型のパーソナルコンピューターに接続されていた。

「このコンピューターは、日本国内では旧式ですが、グラ・バルカス帝国の使用するそれよりも比較にならないほど高性能です。
 きっと役にたってくれることでしょう」
 
「やはり、まだまだ飛行機に乗るサイズダウンは……」

「はい、現在の技術開示レベルと、ムーの技術では、飛行機に搭載できるまで小型化は難しいでしょう。
 ただ、この地上配備型も各空軍基地や、海軍基地に設置出来るようになると、相当な戦力となります。
 グラ・バルカス帝国の通信妨害なども可能かと」

「うむ、素晴らしいですね」

 現在のムー国技術は日本の足下にも及ばない。
 しかし、技術は積み重ね。

「いつかは追いつこう」

 思いが口に出る。

「マイラス技官、例の航空機の進捗をお見せします」

 先進技術実験基地司令は、満面の笑みを浮かべる。
 楽しみにしていたマイラスも、自然と笑みがこぼれた。
 マイラスが先進技術実験基地を訪れた理由の一つ。新型航空機の進捗を見るためだった。 
 格納庫の扉を開ける。

「こ……これはっ!!もう形が出来ているのですか?」

 主翼が後ろに付き、水平尾翼が前に付いているかのような特殊な戦闘機が眼前にある。
 緑色に塗られた特殊な機体。
 70年以上昔……大日本帝国軍の試作航空機を設計図面から再現し、足りない部品は輸入してから改造した。
 現代の日本の部品を流用しているものが多いため、パーツの強度が上がり、本来の日本軍の試作機よりも軽くなっている。

「やっぱり名前はあれですかね?」

「もちろんです。日本国に敬意を払い、震電改にしたいですね!!いや、試作型だからX震電改でしょうかね?
 それにしても……エンジンはどうやって……おや?」

 後方に回ると、その機体にはアフターバーナーが装着されていた。
 
「あれ?このエンジンは……」

 ジェットエンジンはT4のエンジンの代用検討と聞いていたマイラスは、アフターバーナーの存在に驚く。

「日本国で25年以上前に試作されていたXF3−400といった型式のジェットエンジンです」

「これは……日本の技術流出防止法にかかるのでは?いったいどうやって手に入れたのですか?」

「マイラス技官の他にも、日本の技術をムーに移植しようと躍起になっている者が多数いるのですよ。
 そして、日本国にもムーを助けたいという勢力がある。
 国益を考えての事でしょうけどね。
 今ある試作機は2機のみです。
 もしもエンジンが壊れたら、我々の技術では修復も再現も出来ない。
 部材の性能からして違いすぎますから。しかし、なんとか作れないか、もしくは部品の輸入で代替出来るものは無いか、皆必死で可能性を探しています。
 あくまでこれは試作機、エンジン出力も非常に高いものがあります」

「すばらしい。これは飛行出来るのですか?」

「すでに飛行試験は何度か行っています。が……やはり航続距離が圧倒的に足りません。
 特にアフターバーナーを使用するとすぐに燃料が底をつきます。
 都市防衛等の狭い範囲の要撃に使用するしかありません。
 この機体を揃えることが出来、一撃離脱戦法を行えばグラ・バルカス帝国が相手だとしても、相当な戦果を期待できます。
 首都防衛や、拠点防衛としては相当な戦果を発揮してくれるでしょう。
 あとはエンジンのみですが……部材が作れない場合はやはり輸入しかないでしょうね。
 なんとか輸入できれば良いのですが。
 そこでの戦いは私の範疇では無いので外交官と、国会議員に頑張って頂くしかありません」

 彼は続ける。

「武装は、機首に装着した30mm機関砲4門です。威力が高すぎるため、いかなる航空機でも撃滅出来るでしょう。
 現在改良型も考えており、1門ですが、大口径砲装着型を検討しています。空中戦艦パル・キマイラの撃墜も視野に入れ、古の魔法帝国復活時ですら通用する戦闘機を目指しています。
 大口径砲を装備した場合、反動の強度問題はこれからの課題です。
 検討段階ではありますが、空中戦艦対策用としては、戦車砲を取り付けたいと考えています」

「すばらしいですね……」

「現在30mm機関砲もフル装備状態です。今すぐにでも戦闘できますよ。
 これより飛行試験を予定しておりますので、是非ご覧下さい」

「もちろん、見ていきます」

 マイラスはわくわくしながら滑走路へ出る。
 キーンといった音が鳴り、試作型震電改は暖機運転を始めた。
 緑色に塗られた機体。前方に装着された水平尾翼。
 神聖ミリシアル帝国の「天の浮舟」のようにプロペラが無い。
 複葉機を見慣れた者達にとっては、正に先進技術の塊に見える。

「暖機運転が終わったようです。これより、離陸訓練をお見せしま……」

「し……失礼します!!」

 若手幹部が会話に割り込んできた。

「なんだね!!」

 マイラスに説明していた先進技術試験基地司令は説明中に割って入る幹部に多少声を荒げた。

「現在我が基地に敵機が1機向かってきています!!
 ハット空軍基地上空を通過した敵大型攻撃機と思われます!!!」

 マイラスと司令は顔を見合わす。彼は続ける。

「敵攻撃機は高度15000以上の超高空を、時速600km以上の速度で向かってきています。
 主力戦闘機マリンでは……追いつくことすら出来ません!!!」

「敵は……1機だな?」

「はいっ!!」

「マイラス殿……実戦も兼ねた試験になります。是非見て行っていただきたい」

 基地司令は自信に満ちあふれる。顔には笑みさえも浮かべていた。

「もちろんです。この目で……試作型震電改の戦いを拝見させていただきます」

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第100話超空の要塞2P2

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 特殊殲滅作戦部 超重爆撃連隊 グティーマウン

 グラ・バルカス帝国海軍連合艦隊の攻撃に呼応して行われる超重爆撃機による日本国攻撃。
 200機を超える爆撃連隊の指揮機には、作戦部長アーリ・トリガーの姿があった。

「ムー国の機は遙か低空をうろうろしております。
 全く我が方に追いつく気配はございません」

 誇らしげに部下が報告を上げてくる。

「当然だ」

 現在の攻撃目標は日本国のみ、ムーなど眼中には無い。興味なさそうにアーリ・トリガーは吐き捨てた。
 今回の計画は、グティーマウンの本当の性能は、軍部ではトップシークレット。
 具体的性能を悟られぬため、今回の作戦は通常の足の長い陸軍航空機を基準にした補給回数となっている。
 
 グティーマウンの航続距離は圧倒的。本来ならば、必要の全くない補給が多数含まれていた。


 グティーマウン
 これまでのグラ・バルカス帝国製航空機とは性能が根本的に異なる。
 その開発費は、財務を担当する大臣が目を覆ったと言われる。
 しかし開発完了時、「帝国の技術水準を遙かに超える」「何故これほどの高性能機が出来たのか意味が解らない」と、軍部から言われた奇跡の航空機
 カルスライン社以外の会社が作成し、設計思想も異なる。

 超重爆撃機グティーマウン
 全長46m、全幅63m、6千馬力ものエンジンを6発搭載、最大速力は時速にして780kmにも及び、実用上昇限度は15000m以上を誇る。
 防弾版は厚く、落ちにくい上に航続距離は19400kmと、超絶に足が長い。

 空の要塞……いや、空の要塞を越える者という言葉がふさわしい化け物。
 明らかに帝国の航空機技術水準を陵駕する航空機がどうやって出来たのか。
 これも隊員達には知らされておらず、トップシークレットであり、謎が多い。

 超高空から地上を眺めていると、まるで雲が地面に張り付いているかのようにも見える。
「アーリ・トリガー様、現在18番機の第4エンジンの出力が低下しています」

「ほう、問題は無いだろうが、念の為にレイフォルのルブ基地に帰還させよ。作戦に支障は無い」

「ははっ!!」

 超重爆撃連隊は、エンジン出力の低下した1機を残し、東へ侵攻する。



 超重爆撃機 グティーマウン18番機

「機長、レイフォル基地への帰還命令が来ました」

「そうか……残りのエンジン5発でも十分に作戦遂行は可能だが……やむをえんな」

「最新鋭の重爆ですからね、地方の整備士に具体的情報を知られる訳にもいきません。
 本機は敵国上空を単機で飛行していくことになりますが、ムーには遙か低空、安全は約束されていますね」

 グティーマウン18番機は進路をレイフォルのルブ基地方向へとるのだった。


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