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ムー国 先進技術試験基地
ムー国統括軍所属、情報通信部 情報分析課 マイラスは、この日先進技術試験基地を訪問していた。
「マイラス技官、これが地上配置型ECMです」
先進技術試験基地司令が得意げにマイラスに説明する。
目の前には巨大なアンテナが数本設置され、ケーブルを介して日本から輸入した性能劣化型のパーソナルコンピューターに接続されていた。
「このコンピューターは、日本国内では旧式ですが、グラ・バルカス帝国の使用するそれよりも比較にならないほど高性能です。
きっと役にたってくれることでしょう」
「やはり、まだまだ飛行機に乗るサイズダウンは……」
「はい、現在の技術開示レベルと、ムーの技術では、飛行機に搭載できるまで小型化は難しいでしょう。
ただ、この地上配備型も各空軍基地や、海軍基地に設置出来るようになると、相当な戦力となります。
グラ・バルカス帝国の通信妨害なども可能かと」
「うむ、素晴らしいですね」
現在のムー国技術は日本の足下にも及ばない。
しかし、技術は積み重ね。
「いつかは追いつこう」
思いが口に出る。
「マイラス技官、例の航空機の進捗をお見せします」
先進技術実験基地司令は、満面の笑みを浮かべる。
楽しみにしていたマイラスも、自然と笑みがこぼれた。
マイラスが先進技術実験基地を訪れた理由の一つ。新型航空機の進捗を見るためだった。
格納庫の扉を開ける。
「こ……これはっ!!もう形が出来ているのですか?」
主翼が後ろに付き、水平尾翼が前に付いているかのような特殊な戦闘機が眼前にある。
緑色に塗られた特殊な機体。
70年以上昔……大日本帝国軍の試作航空機を設計図面から再現し、足りない部品は輸入してから改造した。
現代の日本の部品を流用しているものが多いため、パーツの強度が上がり、本来の日本軍の試作機よりも軽くなっている。
「やっぱり名前はあれですかね?」
「もちろんです。日本国に敬意を払い、震電改にしたいですね!!いや、試作型だからX震電改でしょうかね?
それにしても……エンジンはどうやって……おや?」
後方に回ると、その機体にはアフターバーナーが装着されていた。
「あれ?このエンジンは……」
ジェットエンジンはT4のエンジンの代用検討と聞いていたマイラスは、アフターバーナーの存在に驚く。
「日本国で25年以上前に試作されていたXF3−400といった型式のジェットエンジンです」
「これは……日本の技術流出防止法にかかるのでは?いったいどうやって手に入れたのですか?」
「マイラス技官の他にも、日本の技術をムーに移植しようと躍起になっている者が多数いるのですよ。
そして、日本国にもムーを助けたいという勢力がある。
国益を考えての事でしょうけどね。
今ある試作機は2機のみです。
もしもエンジンが壊れたら、我々の技術では修復も再現も出来ない。
部材の性能からして違いすぎますから。しかし、なんとか作れないか、もしくは部品の輸入で代替出来るものは無いか、皆必死で可能性を探しています。
あくまでこれは試作機、エンジン出力も非常に高いものがあります」
「すばらしい。これは飛行出来るのですか?」
「すでに飛行試験は何度か行っています。が……やはり航続距離が圧倒的に足りません。
特にアフターバーナーを使用するとすぐに燃料が底をつきます。
都市防衛等の狭い範囲の要撃に使用するしかありません。
この機体を揃えることが出来、一撃離脱戦法を行えばグラ・バルカス帝国が相手だとしても、相当な戦果を期待できます。
首都防衛や、拠点防衛としては相当な戦果を発揮してくれるでしょう。
あとはエンジンのみですが……部材が作れない場合はやはり輸入しかないでしょうね。
なんとか輸入できれば良いのですが。
そこでの戦いは私の範疇では無いので外交官と、国会議員に頑張って頂くしかありません」
彼は続ける。
「武装は、機首に装着した30mm機関砲4門です。威力が高すぎるため、いかなる航空機でも撃滅出来るでしょう。
現在改良型も考えており、1門ですが、大口径砲装着型を検討しています。空中戦艦パル・キマイラの撃墜も視野に入れ、古の魔法帝国復活時ですら通用する戦闘機を目指しています。
大口径砲を装備した場合、反動の強度問題はこれからの課題です。
検討段階ではありますが、空中戦艦対策用としては、戦車砲を取り付けたいと考えています」
「すばらしいですね……」
「現在30mm機関砲もフル装備状態です。今すぐにでも戦闘できますよ。
これより飛行試験を予定しておりますので、是非ご覧下さい」
「もちろん、見ていきます」
マイラスはわくわくしながら滑走路へ出る。
キーンといった音が鳴り、試作型震電改は暖機運転を始めた。
緑色に塗られた機体。前方に装着された水平尾翼。
神聖ミリシアル帝国の「天の浮舟」のようにプロペラが無い。
複葉機を見慣れた者達にとっては、正に先進技術の塊に見える。
「暖機運転が終わったようです。これより、離陸訓練をお見せしま……」
「し……失礼します!!」
若手幹部が会話に割り込んできた。
「なんだね!!」
マイラスに説明していた先進技術試験基地司令は説明中に割って入る幹部に多少声を荒げた。
「現在我が基地に敵機が1機向かってきています!!
ハット空軍基地上空を通過した敵大型攻撃機と思われます!!!」
マイラスと司令は顔を見合わす。彼は続ける。
「敵攻撃機は高度15000以上の超高空を、時速600km以上の速度で向かってきています。
主力戦闘機マリンでは……追いつくことすら出来ません!!!」
「敵は……1機だな?」
「はいっ!!」
「マイラス殿……実戦も兼ねた試験になります。是非見て行っていただきたい」
基地司令は自信に満ちあふれる。顔には笑みさえも浮かべていた。
「もちろんです。この目で……試作型震電改の戦いを拝見させていただきます」