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グラ・バルカス帝国連合艦隊 旗艦 グレードアトラスター
「巡洋艦メルト、巡洋艦ダウン轟沈!!戦艦トーガーナ被弾!!」
報告員が叫ぶ。
あまりにも慌ただしく、まさに戦場。
軍神カイザルは額から汗を流す。
敵誘導弾はすでに途切れたと思っていた。
しかし、大規模攻撃によってすでに50隻以上が轟沈されている。
敵は何処から撃ってきているのか未だ検討がつかない状態。
考えられる解は、敵が十分な弾薬を準備していたということ。
空母はすべて失い、上空支援はすでに無かった。
「飛翔体が我が艦へ向かってきます!!!」
悲鳴のような声がした次の瞬間、猛烈な閃光が目に入り、耳を劈く爆音が響き渡った。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
前方から煙が上がる。
「前部第1砲塔被弾、使用不能!!なお、火災発生のため消火活動実施します!!」
凄まじい爆発だった。
世界で最強たる砲、46cm主砲の直撃にも耐えうる装甲を持つ主砲砲塔(第1砲塔)が、1撃で使用不能になる。
弾薬に引火したら終わりだ。
「この……グレードアトラスターの主砲が!!!」
艦長ラクスタルは吼える。
数多の攻撃を防いできた圧倒的な装甲。
前世界においても、今世界においても圧倒的で信頼できる装甲。その最も厚い部分の一つである主砲砲塔がたったの1発で使用不能になった事実に彼は衝撃を受ける。
グレードアトラスターにこれほどのダメージを与える攻撃。
確かに巡洋艦ならひとたまりも無いだろう。
グレードアトラスターは3つある主砲の1つが使用不能となり、黒煙を上げる。
さらに1発が艦体側方に突入し、大爆発と火災が発生した。
消火のために動き回る兵達、皆必死だった。
「神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が現れました!!外周艦隊が攻撃をうけつつあります!!」
連続した大規模攻撃、そして手こずった空中戦艦の参戦。
「もはや……これまでか……」
司令カイザルは目を瞑る。
敵の弾薬は十分にあるように思えた。加えて空中戦艦までもがいる。
これ以上の行軍は自殺と同じ。
艦は量産出来るが、兵は量産出来ない。
頭に撤退の文字が浮かぶが、なにもせず、意地も見せず、負け犬のようにおめおめと撤退など出来ぬ。
彼は決断する。
「これより、グレードアトラスターはナハナート王国へ突入し、砲撃を実施する!!
旗艦以外はすぐに転進し、ニューランドで補給を行い、本国に帰還せよ!!!」
カイザルの意地、特攻。
部下を巻き込んだ特攻は、後の歴史家の意見を大きく分けることになる。
命令はすぐに伝達された。
旗艦周辺に展開していた膨大な量の駆逐艦、巡洋艦はすぐさま転進を開始する。
旗艦グレードアトラスターの前、艦隊が二つに割れ、左右から転進し、引き返す航路をとる。
一隻のみ、グレードアトラスターだけが割れた艦隊の中心をナハナート王国へ向け、突き進み始める。
何度も被弾した艦は煙を上げ、手負いの猛獣はただ単身で突き進む。
カイザルはラクスタル艦長に話しかける。
「ラクスタル艦長、すまんな。言い訳はせぬ」
「構いませぬ」
会話はそれだけだった。
「報告します!カイザル将軍、第八八艦隊のみ命令を無視してついてきています。
再三に渡る転進命令を無視!!」
第八八艦隊、戦艦1,巡洋艦8隻、駆逐艦6からなる艦隊で、カイザルが若き頃所属し、輝かしいまでの戦果を上げ続けていた艦隊。
幸いにして対艦誘導弾が着弾した艦はいない。
艦隊司令、そして各艦長はすべて当時の部下だった。
「馬鹿……どもが……第八八艦隊は何と言っている?」
「こちらの命令を無視、問い合わせも応答ありません」
「帰るよう伝え続けろ。特別攻撃は我らだけで十分だ」
再三にわたる命令を無視し、グレードアトラスターと第八八艦隊、の計16隻
からなる艦隊は縦1列となり、単縦陣でナハナート王国に突き進むのだった。
posted by くみちゃん at 22:53|
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