2020年07月29日

第105話 軍神とよばれし者P8

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 超戦艦グレード・アトラスター

「カイザル将軍、空中戦艦は第八八艦隊と戦闘中、押さえてくれています。さすがです」

 第八八艦隊は練度が極めて高い艦隊、前回の戦闘から空中戦艦対策を徹底的に練っていた故の善戦だった。

「前方に艦隊を確認!!数8、距離50、日本国艦隊です!!」

 この惑星は、地球に比べて水平線が遙か先にある。

「ついに……来たかぁ!!!」

 艦長ラクスタルの目が光る。
 カイザルは、ラクスタルに話しかける。 

「何故誘導弾を使わない?」

「さあて、我が砲がまだまだ届かぬと舐めているのか、はたまた一定の距離以下は使えないのか、もしくは本当の弾切れか……解りません。
 解りませぬが……敵は間もなく我が刃が届く距離まで来たと言うことは確かです」

 艦長ラクスタルは、大声で命令を下した。

「砲撃戦用意!!!目標!前方の日本艦隊!!
 全力で叩き潰せぇ!!!」

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」

 敵を捕らえることすら出来ずに一方的に攻撃を受けてきた。
 刃が全く届かぬ位置から一方的に壊滅的被害を与えられてきた。
 多くの味方がその血を吐くほどの訓練の成果を全く出すことが出来ずに死んだ。
 常勝無敗を誇るグラ・バルカス帝国艦隊にあってはならない事だった。

 誰しもが、悔しさに涙を我慢した。
 誰しもが、一矢報いたいと感じていた。

 今、敵が目の前にいる。

 しかも、上空にも敵はおらず、完全なる艦隊決戦。
 艦隊決戦のために生まれし艦が、主砲が1塔使えないとはいえ、性能を発揮して戦う。
 喜ばずにはいられなかった。

 下部弾薬庫から、主砲塔に巨弾、46cm砲が運ばれ、装填される。

 歴史に残る艦隊決戦が、今始まろうとしていた。


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第105話 軍神と呼ばれし者P7

◆◆◆

 ナハナート王国西方海域 日本国海上自衛隊第4護衛隊群 旗艦かが

「敵艦隊、大部分が転進、戦艦2隻を含む16隻が突っ込んできます!!このままでは砲撃戦に突入します!!!」

 坂野は胃が痛くなる。
 戦艦も相当数攻撃したが、残っていたようだった。

「空自は?」

「現在弾薬補給のため、本土に戻っています。
 本決戦には間に合いません!!!
 また、潜水艦も本海域にはおりません!!」

「大和型に準じる艦を含む艦隊16隻に、砲撃戦?冗談じゃ無い」

 愚痴が出る。
 あと、対艦誘導弾がたったの20発あれば敵をある程度無力化出来るだろう。弾が無いのが口惜しい。
 敵とは70年の技術格差があるとはいえ、砲撃の威力は敵のそれに比べると、我が方は豆鉄砲といっても差し支えない。
 大和型はすでに着弾があったようで、黒煙を上げていたためにミサイルが自動的に他の目標に向かった可能性が高い。
 撃沈していなかったのが悔やまれた。

 大和型の砲撃など、1発食らえばスクラップになってしまう。
 しかし、一度離脱すれば、ナハナート王国は基地もろとも焼き払われるだろう。
 戦艦の艦砲射撃は陸上構造物にとって、破滅的な威力をもつ。

 彼は覚悟を決める。

「司令、神聖ミリシアル帝国からグラ・バルカス帝国に語りかけている電波を拾いました」

「傍受しろ!!艦橋で音声を流せ」

「了解!!」

 アナログ電波を受信する。

『ガ……ガガガガ……グラ・バルカス帝国の諸君、私は神聖ミリシアル帝国、空中戦艦パル・キマイラ艦長、メテオスという』

『いつかの馬鹿者か、今頃何の用だ?』

『フフフ……威勢が良いねぇ。
 私は借りを返しに来たのだよ。
 大部分の兵は逃げたようだねぇ。部下が逃げたから単艦で突入かい?
 その意味の無い行動は、全く理解に苦しむ』

『逃げたのでは無い、作戦だ。戦場でいつも語りかけてくるお前の行動が、全く理解に苦しむ』

『フフ……つれないねぇ。
 もう君たちは謝っても許してやらないよ。
 パル・キマイラは君たちを撃滅する事に決めた。
 特にグレードアトラスター。君たちだけは絶対に逃がさないよ』

『威勢が良いな。紙のような装甲で良く言う。せいぜいまた、たったの1発で撃沈されんよう気をつけろよ』

 無線が終わる。

「……戦場とは思えんやりとりだな」

「はい、メテオス艦長は、軍人では無いそうなので」

「なるほどな、しかし助かったかもしれん」
 
「そうとも言い切れません。これを見て下さい」

 坂野は敵の位置を示すモニターをのぞき込んだ。

「ん?これは……」

 空中戦艦の方向に、15隻が向かう。
 そして、1隻だけが単艦でさらに速度を上げてこちらに向かってきていた。

「空中戦艦は、海抜高度を300m以上に上げる事が、何故か技術的に難しいようです。
 加えて時速200kmと快速ですが、艦体が重いため、転回や加速が非常に遅いという弱点があります。
 グラ・バルカス帝国の15隻は散開して空中戦艦に向かっている。
 戦艦の主砲クラスであれば落ちると前回の戦いで判明したため、おいそれと射程距離に近づかない。
 結果、敵の旗艦と思われるグレード・アトラスターのみがナハナートへ向かう。
 敵空中戦艦は前回中心のグレードアトラスターを狙って撃沈されたため、他の自分を撃沈しうる艦の上空を易々と通過はしないでしょう
 このままではあと一時間弱で砲撃戦に突入します!!」

「大和型に類似する艦と戦わなければならないのかっ!!!私が艦隊司令の時にっ!!なんという偶然か」

 海上自衛隊第4護衛隊群
 第8護衛隊 きりさめ すずつき しまかぜ ちょうかい
 第4護衛隊 いなづま さみだれ さざなみ かが

 は、ナハナート王国の邦人を守るため、戦闘海域に向かって突き進むのだった。


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第105話 軍神と呼ばれし者P6


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国連合艦隊 旗艦 グレードアトラスター

「巡洋艦メルト、巡洋艦ダウン轟沈!!戦艦トーガーナ被弾!!」

 報告員が叫ぶ。
 あまりにも慌ただしく、まさに戦場。

 軍神カイザルは額から汗を流す。
 敵誘導弾はすでに途切れたと思っていた。
 しかし、大規模攻撃によってすでに50隻以上が轟沈されている。

 敵は何処から撃ってきているのか未だ検討がつかない状態。
 考えられる解は、敵が十分な弾薬を準備していたということ。
 空母はすべて失い、上空支援はすでに無かった。

「飛翔体が我が艦へ向かってきます!!!」

 悲鳴のような声がした次の瞬間、猛烈な閃光が目に入り、耳を劈く爆音が響き渡った。

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 前方から煙が上がる。

「前部第1砲塔被弾、使用不能!!なお、火災発生のため消火活動実施します!!」

 凄まじい爆発だった。
 世界で最強たる砲、46cm主砲の直撃にも耐えうる装甲を持つ主砲砲塔(第1砲塔)が、1撃で使用不能になる。
 弾薬に引火したら終わりだ。

「この……グレードアトラスターの主砲が!!!」

 艦長ラクスタルは吼える。
 数多の攻撃を防いできた圧倒的な装甲。
 前世界においても、今世界においても圧倒的で信頼できる装甲。その最も厚い部分の一つである主砲砲塔がたったの1発で使用不能になった事実に彼は衝撃を受ける。

 グレードアトラスターにこれほどのダメージを与える攻撃。
 確かに巡洋艦ならひとたまりも無いだろう。

 グレードアトラスターは3つある主砲の1つが使用不能となり、黒煙を上げる。
 さらに1発が艦体側方に突入し、大爆発と火災が発生した。
 消火のために動き回る兵達、皆必死だった。
 

「神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が現れました!!外周艦隊が攻撃をうけつつあります!!」
  
 連続した大規模攻撃、そして手こずった空中戦艦の参戦。
 
「もはや……これまでか……」

 司令カイザルは目を瞑る。
 敵の弾薬は十分にあるように思えた。加えて空中戦艦までもがいる。
 これ以上の行軍は自殺と同じ。
 艦は量産出来るが、兵は量産出来ない。
 頭に撤退の文字が浮かぶが、なにもせず、意地も見せず、負け犬のようにおめおめと撤退など出来ぬ。

 彼は決断する。

「これより、グレードアトラスターはナハナート王国へ突入し、砲撃を実施する!!
 旗艦以外はすぐに転進し、ニューランドで補給を行い、本国に帰還せよ!!!」

 カイザルの意地、特攻。
 部下を巻き込んだ特攻は、後の歴史家の意見を大きく分けることになる。

 命令はすぐに伝達された。
 旗艦周辺に展開していた膨大な量の駆逐艦、巡洋艦はすぐさま転進を開始する。 
 旗艦グレードアトラスターの前、艦隊が二つに割れ、左右から転進し、引き返す航路をとる。
 一隻のみ、グレードアトラスターだけが割れた艦隊の中心をナハナート王国へ向け、突き進み始める。
 

 何度も被弾した艦は煙を上げ、手負いの猛獣はただ単身で突き進む。

 
 カイザルはラクスタル艦長に話しかける。

「ラクスタル艦長、すまんな。言い訳はせぬ」

「構いませぬ」

 会話はそれだけだった。

「報告します!カイザル将軍、第八八艦隊のみ命令を無視してついてきています。
 再三に渡る転進命令を無視!!」

 第八八艦隊、戦艦1,巡洋艦8隻、駆逐艦6からなる艦隊で、カイザルが若き頃所属し、輝かしいまでの戦果を上げ続けていた艦隊。
 幸いにして対艦誘導弾が着弾した艦はいない。

 艦隊司令、そして各艦長はすべて当時の部下だった。
 
「馬鹿……どもが……第八八艦隊は何と言っている?」

「こちらの命令を無視、問い合わせも応答ありません」

「帰るよう伝え続けろ。特別攻撃は我らだけで十分だ」

 再三にわたる命令を無視し、グレードアトラスターと第八八艦隊、の計16隻
からなる艦隊は縦1列となり、単縦陣でナハナート王国に突き進むのだった。


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