2020年07月29日

第105話 軍神と呼ばれし者P5

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 ナハナート王国北西海域 上空 空中戦艦パル・キマイラ

 パチン
 メテオスが指を鳴らすと、艦橋上部にモニターが映し出される。
 日本国における超望遠レンズよりも高性能、遙か200km先の海域を見通す千里眼。
 超望遠魔導波検出装置によって、グラ・バルカス帝国艦隊が映し出されていた。

 メテオスの目に、一際大きい艦が飛び込んでくる。

「グレードアトラスター……憎いねぇ。今すぐにでも君たちをひねり潰してやりたい気分だよ」

 ワナワナと右手が震え、もっていたグラスから液体がこぼれ落ちる。

「僕を冒涜した罪、ゆるさないよ」

 頭に浮かぶ先日の光景、友軍の空中戦艦パル・キマイラに敵の超大型戦艦の主砲が直撃し、魔素による装甲強化すらも貫き、醜く海に落ちる。
 僕は負け犬のように撤退した。

 このパル・キマイラが、この古の魔法帝国の超魔導技術の塊が落ちたのだ。
 憤怒による手の震えは概ね1分間続いた。

「しかし……健気だねぇ」

 グラ・バルカス帝国艦隊映像の横には地図が投影され、日本国自衛隊の位置が光点で示されていた。
 圧倒的な量の点に対して僅か8個の点。
 戦力比は明らかだ。

「彼らも命令されているのだろうが……自殺は良くないねぇ。
 物事を成すには準備と、それに至るプロセスと投入される戦力を図る事が必要だ。
 やれと言ったからやれ、という事だろうが……数を用意するという準備も無視して投入されている時点で彼らが可哀想でならない。
 精神論は全く合理性に欠く」

 彼はグラスの液体を口に含む。
 圧倒的数の光点に向かっていく僅か8つの点が、余りにも健気に見え、怒りが少し和らいだ。

 対空レーダーは今なお使用出来なかったので、自衛隊の光点は彼らの申し立てた座標を職員が手入力した位置であるため、多少のズレがあるかもしれない。

 グラ・バルカス帝国艦隊の数は今なお400を超える。
 日本国護衛艦隊たったの8隻が向かっているようだが、とてもナハナートを守れる戦力とは思えなかった。

 空中戦艦パル・キマイラの探知能力には限界があり、現在の正確な艦隊数は把握していないため、大幅に敵艦が減っている事実に彼らは気付く事が出来なかった。

「日本国自衛隊か……ムーを超える科学文明国家、か……。科学文明は合理の塊であると思っていたが、非合理的な戦力投入。歪な国で実におもしろいねぇ。
 日本国はどんな兵器を使うのか。見せてもらうよ」

 彼はイスに座って足を組み、モニターを眺める。

 その時だった。
 
 映像に映っていた艦隊のうち、12隻から猛烈な爆炎が上がる。

 艦橋がざわつく。

 敵艦隊は雨のように対空砲を撃つが、全く関係なく次々と艦を包み込むほどの爆発が続く。
 メテオスは目をカッと見開いて立ち上がり、モニターを食い入るように見た。

「なんだ……いったい何が起こっているのだ!!明らかにパル・キマイラの魔導砲より威力が高い。いや、圧倒的に高い。比較にならないほどに高い。
 まさか、この位置から撃ったというのかね!?
 こんな所から当たるわけが無いのだ」

 艦隊間距離はまだ100km以上離れている。
 常識を遙かに超える射程距離だった。

「はっ!!」

 メテオスは、敵艦周辺への海上への着弾、外れ弾が無いことに気づく。
 行き着く結論はただ一つ。

「まさか……まさか対艦型誘導魔光弾!?」

 傍らに立つ技師と目が合う。

「我が国でもまだ研究段階です、誘導魔光弾の全容は解明できていません……彼らは科学技術立国、魔法を使用せずにそんな事が可能なのか、本当に信じられません!!!」

 画面はスクロールされ、次々と着弾する対艦誘導弾によって炎上するグラ・バルカス帝国海軍艦隊の姿が見える。
 外れ弾は無く、次々と攻撃を受けるグラ・バルカス帝国。

 最強かつ最高たる神聖ミリシアル帝国と、引き分けるほどの強さを持つグラ・バルカス帝国艦隊が、あっさりと滅せられていく。

 古の魔法帝国の如き兵器が敵を滅していく姿に、メテオスは震えずにはいられなかった。
「そんなバカな。そんな事があっていいはずが無い!!
 誘導魔光弾の大規模攻撃など……科学でこんな事が出来るはずが無い!!
 魔法こそが強さの根源、科学でこの領域まで届くはずがないっ!!!」

 メテオスはあまりの衝撃に呆然と立ち尽くす。
 空中戦艦パル・キマイラには録画も可能な装置が搭載されているため、この映像は神聖ミリシアル帝国上層部も見ることになるだろう。
 
 しかし、それは同時に古の魔法帝国への恐怖ともつながった。
 
「もし古の魔法帝国が相手だったとしても、グラ・バルカス帝国でさえも手も足も出ないと言うことか」

 奴らの復活は近い。
 魔導機関の出力が違いすぎるとはいえ、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦も少しは戦力になると考えられてきた。
 しかし、誘導魔光弾の大規模攻撃を食らえば、ミリシアルの戦艦部隊であっても超短時間で滅せられる可能性がある。
 
 初めて見る誘導魔光弾に近い攻撃、圧倒的格差、古の魔法帝国の影に、メテオスは震え続けるのだった。


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第105話 軍神と呼ばれし者P4

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 ナハナート王国 北方海域 日本国 海上自衛隊 第4護衛隊群 護衛艦かが

 海上自衛隊第4護衛隊群は、第8護衛隊、第4護衛隊から成る。
 今回のグラ・バルカス帝国艦隊の侵攻により、敵艦隊主力がナハナート王国への攻撃範囲に入る前になんとか同海域へたどり着けそうだった。

 ヘリコプター登載護衛艦「かが」は、一見して空母に見える。

「坂野司令、グラ・バルカス帝国艦隊の進路は変わりません。
 間もなく空自の空対艦誘導弾の周辺基地でのストックは底をつきます。
 今後は、本土まで弾薬補給に戻る必要があるので、五月雨式の攻撃となり、大きな戦力の投入は不可能かと」

 第4護衛隊司令 一等海佐である坂野は胃がキリキリと痛む思いがした。
 敵艦隊は空自の対艦誘導弾により、大きく数を減らすが、未だ400隻以上という大艦隊が残っている。
 
 現在第4護衛隊8隻は、「かが」以外が、艦対艦誘導弾をそれぞれ8発、計56発に、加え、「かが」に急ごしらえしたミサイル発射筒22発が取り付けられ合計78発。
 
 とてもではないが敵艦隊の数に対してこちらの投入戦力が足りない。
 
 砲撃戦というワードが頭をよぎる。
 弾薬が不足するのは目に見えており、命中率は高いとはいえ、大口径砲を多く持つ敵に対して砲撃戦は控えたい。

 なれど、日本国政府の命令は「ナハナート王国を防衛せよ」との事。
 足りない戦力でどうすれば良いのか。

 沈黙する坂野に幹部は続ける。

「なお、空中戦艦パル・キマイラはグラ・バルカス帝国艦隊から北へ200kmの位置まで接近し、様子をうかがっている模様です」

「神聖ミリシアル帝国か!!」

「はい、パル・キマイラは作戦司令の要望により、同場所で滞空しており、要請があれば出てくるかと」

 坂野の胃の痛みが少しだけ和らぐ。
 
「敵のトップはなおも侵攻する道を選択した。
 このままでは統率が取れる大軍と会敵する事となる。
 敵旗艦も攻撃対象へ加え、初撃で打ち抜け!!
 このまま西へ進み、敵艦隊の射程に入り次第対艦誘導弾を全弾発射!!
 着弾確認の後、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦に参戦を打診せよ」

「了解!!」

「頼むから……対艦誘導弾の大規模攻撃で引き返してくれよ……」

 圧倒的とも言える数の差が、性能では抑えきれずに前時代的な戦闘である「艦隊決戦」ににもつれ込ませるかもしれない。
 空自も反復攻撃を続けてくれてはいるが、いかんせん敵の数が多すぎる。
 死という可能性を前に、いや、死を部下に与える可能性を前に坂野は胃を痛めた。
 海上自衛隊第4護衛隊群は、西へ……戦闘海域へ駒をすすめるのだった。


タグ:日本国召喚
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第105話 軍神と呼ばれし者P3

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 日本国自衛隊ナハナート基地 司令室

「現在対艦誘導弾の反復攻撃実施中ですが……敵が多すぎます。このままでは空対艦誘導弾の弾薬が持ちません」

 司令は目を瞑る。

「やはり足りないか……補給も間に合いそうにもない。敵の頭は残せ。統率の取れない敵があの数で突っ込んできたら厄介だ。
 被害甚大で、かつ敵との戦力差が明らかになると、理性があるならば夜間攻撃による被害を把握したならば、撤退するはず……。
 夜明けまで五月雨で誘導弾を打ち込み、戦力と精神力を削れ。
 もちろん、空母は必ず沈めろ」

 敵旗艦がどの位置にいるのかはしっかりと把握している。
 空母を最優先に狙い、戦艦やその他の戦力はしっかりと削る。
 ただし、統率する旗艦だけは残す事にした。
 
「了解しました」

 司令室には緊迫した空気が流れ続ける。

◆◆◆

 ロデニウス大陸南方海域

 海を覆い尽くす大艦隊、数多の敵に恐怖をもたらしてきたそれは手負いの獣の様相を呈す。
 数百にも及ぶ煉獄の炎、立ち上る黒煙は、明るくなってきた青き空を黒く焦がした。

 栄えあるグラ・バルカス帝国艦隊、最強を自負してきた帝国軍人達は、圧倒的力によって恐怖に押しつぶされそうになっていた。
 飛来する敵攻撃は防ぐ手立ては無く、その命中によって少なくとも数百人は死ぬ。

 狙われたら最後、決して打ち落とす事は出来ない。
 
 力の象徴、数多の空母はすべて撃沈もしくは使用不能に陥り、制空権も失った。
 もはや作戦の失敗は誰の目にも明らか、絶望の行軍……。
  
 帝国軍人達は、無意味な死は望まなかった。


 旗艦グレードアトラスター

 夜が明け、艦隊が目視出来るようになったため、艦隊の被害状況が徐々に明らかになる
 無線を入れる間も無く撃沈された艦が多くあり、電波妨害により正確な無線は伝わらず、夜間に正確な被害は把握出来なかった。

「カイザル将軍!空母が……空母がすべて撃沈されました。
 我が方は完全に制空権を失いました」

 敵対的勢力が多くいる海域での空母の撃滅。その意味が解らぬ者はいない。
 幹部が苦渋の表情で報告する。
 空母をすべて失い、巡洋艦、戦艦の多くが黒煙を上げる。
 もはや日本国本土への攻撃は不可能ということが誰の目にも明らかとなり、艦橋にいる幹部達の間には焦燥感が漂う。

「進路ナハナート。変更は無い」
 
「敵の強さは底が知れません。撤退を……撤退を意見具申します!!」

「敵は底が知れない。が……朝にかけて攻撃の手は緩くなっている。
 弾薬切れが近い可能性が高い!!
 今撤退しては、今までの……万単位の兵の犠牲が無駄になってしまう。
 進路ナハナート!!変更は無いっ!!」

 死地へ行けと命じる立場の辛さ。
 自分の決断により、多くの兵が死ぬ。一人一人が大切に育てられ、親や家族がいる。

 しかし、グラ・バルカス帝国が全力出撃したにも関わらず、敵に傷一つ着けずにおめおめと逃げ帰るなどあってはならない。
 十分な攻撃が続いていれば撤退もあり得ただろうが、敵の弾切れが近い可能性が高い。

 無意味な死ならば撤退はしよう。しかし、大きな可能性が有る限り、いかに敵が強大であったとしても、決して譲れぬ。

 軍神と呼ばれし者 カイザルは決断を下し、遠くの海を睨み付けるのだった。
 
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posted by くみちゃん at 22:49| Comment(17) | 小説