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グラ・バルカス帝国連合艦隊 旗艦グレードアトラスター
艦橋において、司令長官カイザルが海を睨んでいた。
横には艦長ラクスタルが立つ。
先ほど軍本部から、
○ リーム王国基地からの陸軍航空隊及び超重爆撃連隊の部隊が壊滅し、リーム王国前線基地が全滅した
○ 敵に、ほとんど被害を与えていない可能性が高い
との連絡があった。
さらに、帝王府から日本国へダメージを与えよとの通達が付け加えられる。
現場と本国の解離、そして未だ大艦隊を有しており、主力艦隊は日本軍と衝突していないという現実。
今までの被害。
グラ・バルカス帝国が投じ、失ったものが多すぎて後には引けなくなっていた。
帝国3将のなかでも最も階位の高いとされ、軍神カイザルとも呼ばれた男は無言で海を睨み付けていた。
「やるしか無いのか……」
一言発して沈黙する。
目を瞑り、精神を収集させた。
カイザルはカット目を見開く。
「ラクスタル艦長!!」
「はっ」
「奴らは先遣隊を全滅させ、本土の超重爆撃連隊並びに50隻の駆逐艦を主体とした艦隊を全滅させた。
当たってほしくなかった……が、最悪の中でも最も最悪な想定が当たってしまった」
「……」
「しかも……おそらく被害を全く与えていないというではないか」
艦橋に沈黙が流れる。
軍本部からのあまりにも衝撃的な連絡は、まぐれや偶発的に起こる奇跡的な戦闘結果を遙かに超えたものであり、艦隊司令部にも衝撃が走っていた。
もはや艦橋に日本国を侮る者はいない。
「我らはユグドでNo1、最強の国家、グラ・バルカス帝国だ。化け物どもめ!!ただではやられんぞ!!」
軍人は命令に忠実である。
帝王府が死ねと言えば死ぬ。やれと言われれば、どんなに困難であってもやらなければならない。
軍神カイザルの絶望などまったくしていない姿を見て、他の幹部達は希望の光を心に灯した。
カイザルは、ラクスタル艦長に他の者に聞こえぬようそっと話す。
「ラクスタル艦長、日本国に味方したナハナートを落とす事は、短い視点においての軍事的な意味はあまりないが、政治的意味合いは大きい」
「そうですな。帝国に刃向かい、日本に味方したにも関わらず国土を灰にされた……となると、今後日本へ味方する敵も少なくなりましょう」
「今回はナハナートを叩くことに全力をかける。現実的に日本国本土への刃は届かん」
「敵は強力です。帝王府の思惑との乖離はあるでしょうが、現実的に考えて致し方ありません」
「艦長、次の戦場が我らの……いや、我が艦隊の死に場所となるやもしれん。すまん」
「軍に拝命した時から、覚悟の上です」
戦場は動き続ける。
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文明圏外国家 ナハナート王国郊外 日本国自衛隊ナハナート基地 基地司令室
「南西航空方面隊第9航空団F-15、間もなく到着します」
「第4護衛隊群がナハナート海域防衛に間に合いそうです」
「陸自の地対艦ミサイル連隊も配置を完了しました」
航空基地管制センターの司令 八神 は胃がキリキリと痛む状況を覚える。
防衛省ではグラ・バルカス帝国の侵攻ルートを多数想定し、弾薬や燃料を相当数この南方の基地、ナハナートに渡してきた。
しかし、日本本土に相当数の航空攻撃が仕掛けられ、さらに同時に敵艦隊の本隊が燃料補給もせずに東進しているという。
当初の予定では、彼らの侵攻にタイムラグが生まれ、補給が十分間に合う想定だったのだが、現実は想定どおりにはいかない。
本省は、もっとも攻撃目標である可能性が高い地域として、このナハナートを上げた。
急ピッチで航空機が到着し、着々と防衛体制は整えられつつあるが、いかんせん敵の数が多すぎる。
近代軍では滅多に無いが、敵が被害無視で、決死の覚悟で攻撃してきたならば、防ぎきれないかもしれない。
それほどまでに敵の数が多すぎる。
彼が悩んでいる中、さらに彼の胃を痛めつける情報が入る
「司令、神聖ミリシアル帝国から、空中戦艦が向かってきています。
このままでは衝突時に戦場に突入する事になります!!」
「な……なんだって!?あのゆっくり低空を飛ぶ艦か?敵味方識別装置は……」
「付いておりません!!現在基地にある弾薬のうち、対艦誘導弾は対空目標アップグレード前のものですので、おそらく当たらないのでは?」
「対空誘導弾はそれでも当たるだろう。それに『おそらく当たらない』で使えるか!!
一応友軍なんだぞ。万が一当たって撃墜したら外交問題に発展してしまう。
しかし、応援のつもりなんだろうが……なんというタイミングで来てくれるんだ。
なんて迷惑な……。
通信は出来るのか?」
「確か、アナログ電波であれば送受信可能でしたので、ええと……現在ロデニウス大陸の北西を飛行中です。
防衛作戦展開中の陸自から電波を発してもらい、変換と中継を行えば出来ると思います」
「すぐに準備してくれ。
戦場で邪魔しないよう語りかけたい」
「直で言うと外交問題になりませんか?」
「本省を通じると間に合わないかも知れないしな、言葉遣いには当然気をつける。
俺を何だと思っているんだ??」
八神は、空中戦艦パル・キマイラに無線で通信を行う事を決めるのだった。