◆◆◆
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 夜
低気圧が帝都を覆い尽くし、雲は低く、雨が降り注ぐ。
帝都ラグナ、帝王グラ・ルークスの住まう邸宅の1室において、緊急の帝前会議が開催されていた。
会議上では皆暗く、特に軍上層部の面々は苦渋の表情を浮かべる。
帝王 グラ・ルークスを中心に
帝王府長官 カーツ
帝王府副長官 オルダイカ
その他各省庁の長官、次官、そして軍本部の大幹部達が並ぶ。
軍部の中には軍本部の本部長サンド・パスタル、帝国三将最後の一人、帝都防衛隊長ジークスも含まれていた。
「ようやられたようだな、サンド・パスタルよ。
今後の予定を聞かせよ」
軍本部長サンド・パスタルの額からは、滝のような汗が流れる。
「は……はっ、現在主力艦隊再建のため、カルスライン社はもちろんの事、ド・デカテオン社、ゲールズ社、ベルディエンチェ社の各主要企業には兵器の量産を指示しております」
サンド・パスタルは声を震わせて答える。
「で?」
「はっ!!兵員を拡充し……」
「聞きたいのはそこではない」
「………」
サンド・パスタルは声が出なかったため、帝都防衛隊長ジークスが話し始めた。
「今回帝国艦隊は日本国と交戦し、甚大な被害を受けました。
しかも日本国に対しては全くと言って良いほどダメージを与えていない。
強いて言うなら弾代と燃料代程度の経済的ダメージしか与えていないといっても過言ではありません。。
我々は過去の経験則から導きだした日本国はそこそこ強いと判断していました。
しかし、現実は規格外に強かった。
荒唐無稽な前線での報告はほぼすべて本当の事だった。
かなり強力な国と想定していましたが、それでも甘く見すぎていた……としか言い様がありません」
ジークスが話を続けようとしたとき、帝王府長官カーツが吼えた。
「馬鹿者っ!!甘く見すぎていたでは収まらんぞっ!!
我が国は世界に宣戦布告をしているのだっ!!
敵が思ったより強かったから、ごめんなさいで済むかあっ!!!!!!
グラ・カバル皇太子殿下の件と言い、軍部は弛んどるのかっ!!」
「軍部は決して弛んではいません。
カバル皇太子殿下の件は、軍部は反対意見を出しましたが、帝王府からの強い要請があったと聞いています」
「ぐっ!!今後はどうするのか言ってみろ!!」
「しばらくは軍備を強化し続け。防衛に徹するべきでしょう。
守る方が、攻めるよりは簡単です。
敵の出方を見て対応するしかありません」
「なんだとっ!!栄えあるグラ・バルカス帝国が守りに徹するだとぉ!!」
会議室に怒号が飛び交う。
グラ・ルークスが手を上げると皆黙った。
「それほどまでか……日本国は?」
「……はい」
「解った。ジークス、本土防衛はお前に任せる。今後どうなると考える?」
「日本国の兵器の性能は想定を遙かに超えます。
今回の海戦ではそもそも兵器の発射位置すら掴めていません。
レーダーすらも使用不能にされます。
よって、基本的に日本国との戦いではレーダーに頼りすぎる事無く、哨戒機を多数出して消息を絶った所に大量の航空機を投入、圧倒的物量でたたきつぶす方向性で行きたいと思っています。
無線も使用不能にされることもある事から、有視界飛行と発光信号の面制圧哨戒を物量で行うしかありません。
現在同戦法を行うための研究にとりかかっています」
彼は続ける。
「敵はおそらくレイフォルに攻撃を仕掛けてきます。敵陸軍兵力の大規模上陸は行われていない事から、ムーが主力、日本国がサブとなって攻めてくるでしょう。
日本国のこれまでの戦法ならば、レイフォル沖に展開する海軍を無力化し、兵糧攻めをしつつ空爆で陸軍を弱体化、最後にムーが攻め込んでくる……という戦法を取ると考えられます。
しかし、ムー国の最寄りの基地でさえレイフォル沖から800kmは離れている。
日本国の戦闘機の戦闘行動半径は、現在調査中ですが、800km以上あるなら脅威と言って良いでしょう。
ただ、我が軍の兵糧攻めを使用とした場合、主力は海軍になります。
北回りの海域に、機雷を大量に設置して完全封鎖します」
「北回りの海域を封鎖したら、今後の神聖ミリシアル帝国戦で苦労するのではないか?」
「現在はそのような状況ではありません。
帝都防衛隊長として、帝国本土だけは敵の侵略から守る必要があります。
本土防衛のため、レイフォルの陥落だけは避けたい。
レイフォルさえ陥落しなければ帝都は安全であると断言できるでしょう」