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グラ・バルカス帝国 レイフォル地区 レイフォリア
昼食時、ダラスは食堂で食事をとる。
いつものように、情報収集の一環をかねてムーのテレビ放送をつけていた。
軽快な音と共に、ムー国の放送が始まる。
『こんにちは』
イケメンの男と、美人のニュースキャスターがおじぎをして、ニュースは始まった。
『ムー国政府の発表によりますと、先月未明、日本国自衛隊と神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が、グラ・バルカス帝国主力艦隊と大規模な戦闘を行っていた事が判明いたしました』
現時点、軍部から外務省へは特段の連絡が無い。
食堂はざわついた。
続けて、テレビに映像が映し出され、(ムー国政府提供)というテロップが流れた。
日本国政府がムー国政府へ送った映像データの一部が国営放送で放映される。
明らかに上空から移した映像、ぐちゃぐちゃに破壊された上部構造物、汚れたグラ・バルカス帝国海軍旗……そして旗艦のみが持つ事の出来る旗が一部破れた状態で映し出され、敵国……日本国の旗を揚げる艦が曳航していた。
「あ……あれはっ!!!」
声が詰まる。
グラ・バルカス帝国の象徴的な艦
歴史上最大にして最強とも言える艦。戦艦グレード・アトラスターがズタズタになり、見るも無惨な姿を晒していた。
テロップに、(グラ・バルカス帝国主力艦隊旗艦グレード・アトラスター)という文字が流れ、食堂は騒然となった。
『先日未明、グラ・バルカス帝国主力艦隊は、日本国自衛隊および神聖ミリシアル帝国空中戦艦連合艦隊と、ロデニウス大陸南西海上にて交戦し、グラ・バルカス帝国は数百隻を失って敗走いたしました。
繰り返しお伝えしますーーー』
ダラスは執務室に向かって走り出していた。
「バカなっ!!バカなバカなバカなバカなバカなアッ!!!」
執務室に駆け込み、急ぎ軍部に確認を取るため、電話を取ろうとした。
「お食事中に失礼します。軍部から至急連絡が来ています!!」
優秀な部下は、食事中に暗号信号を文章化し、すでに形にしていた。部下から文章を奪い取る。
「な……な……何だとっ!!そんな事がッ!!!」
そこに記された事実は、外交官ダラスに衝撃を与えるには十分すぎる内容だった。
指でなぞりながら、何度も見間違いでないか確認していく。
見間違いであってほしいという気持ちが、何度も同じ文章を読ませる。
そして、絶望が上塗りされていった。
なぞる指は震え初め、汗で書類が濡れた。
帝国海軍連合艦隊と、日本国との戦いの推移が記されていた。
○ 帝国海軍 第1先遣艦隊230隻、第2先遣艦隊210隻 全滅
○ 帝国海軍 連合艦隊 ナハナート王国西方海域で撤退
被害甚大 現在詳細調査中
○ ナハナート王国西方海域にて敵艦隊と交戦、100発を超える被弾に耐えるも戦艦グ レードアトラスターは敵に捕獲される
○ 帝国陸軍リーム王国基地 全滅
○ 帝国空軍爆撃連隊 消息不明(未帰還)
○ 帝国海軍潜水艦隊 消息不明(未帰還)
○ 帝国陸軍特殊作戦群 通信途絶
甚大とも言える損害、しかも相手の撃墜、撃破は1隻も確認出来ていないという文章も伏してある
。
敵を見ることも無く一方的に撃破された……とある。
彼の背中は汗でびっしょりと濡れ、足は震えさえも来ていた。
「まさか……まさか……」
ダラスは目を見開く。
かつて、日本の外交官が言っていた。
日本国が参戦した場合、グラ・バルカス帝国は日本国に手も足も出ずに負けると。
技術格差が70年以上の開きがあると……。
「あいつの言うことは……あいつの言っていたことは……ほ……本当だったのかぁっ!!!」
基地バルクルスが落ちた時、大規模な物量でも落とせると考えていた。
本国の懲罰艦隊がムー沖で敗れたのも、敗れた事事態は衝撃的ではあったものの、そもそも派遣した数が大国の首都を狙うには少なかった。
おそらくは物量で敗れたのであって、軍事的な戦略ミスの可能性も捨てきれなかった。
しかし今回は帝国は本気だった。
誰がどう見ても本気だった。
それが手も足も出ずに敗退したという事実。
今回は神聖ミリシアル帝国の空中戦艦も参戦したらしいが、それでも敵に全く被害を与えた確認が出来ないなどあり得ない事だった。
「まずいっ!!まずいまずいまずい……まずいぞっ!!!」
いともあっさりと滅ぼしてきた異界の蛮族達。
それを可能にしたのは圧倒的な文明格差、軍事技術格差だった。
この戦闘結果が突きつける事実は一つ。
日本の方が圧倒的に軍事技術が上。
我が国は強い。それは疑いようの無い事実。
しかし、この結果はまぐれや偶然の成せる技ではない。
もはや敵の強さに目を瞑り、帝国の強さを信じ続けることなど出来ぬほどの圧倒的敗北。
このままではいともあっさり滅ぼしてきた異界の蛮族共と同様に我が方が滅ぼされるかもしれない。
栄えあるグラ・バルカス帝国が……歴史あるグラ・バルカス帝国が……。
「そんな事……あってはならないっ!!!」
彼は自分に出来ることは何かを考える。
「同化政策をとればあるいは……」
今までただの土地と考えていた各国の使い道を考える。
ダラスはグラ・バルカス帝国の未来のため、動き続けるのだった。
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