鳩が異世界にいるのかと、少し驚きはしたものの、元々地球にあった国であることを思い出し、自分で納得する。
「どうやってここまで……いや……すごいな」
日本国において、伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用している。
よって、基本的に手紙も片道切符であり、その場で飼っていた所にしか戻れない、とされている。
しかし、第1次世界大戦中、他国においては基地を移動してもその移動先に伝書鳩が来る方法があったらしい。
現在その技術は伝承されておらず、ロストテクノロジーとなってしまっていた。
伝書鳩が使われていた事に、そしてその技術の高さに感嘆せざるをえない。
「会議に重要な影響を及ぼすかも知れませんので、確認してもらって構いません」
王家の紋章の入った鳩、重大な情報を運んでいるのかもしれなかったため、ミックはフレイアに手紙を見るようにした。
窓を開け、鳩の足から手紙を外す。
ゆっくりと紙を開く。
「つっ!!!!!!」
あまりにも衝撃的な事が記載してあった。
耐えよう、耐えようとしているたが、耐えきれずに涙が頬を伝う。
無言で震え出すフレイア。
「フレイア王女、大丈夫ですか?」
国と国とのやりとりに個人的感情は不要であるが、皆、娘ほどの年の少女が泣いているのを見ると心が痛んだ。
ミックが王女を気遣う。
「王と王子が幽閉され、お姉様……王女達は殺されてしまったようです」
「え??それはいったいどういう……」
「失礼、ヒノマワリ王国の諜報部とでも言いましょうか、情報に精通する貴族からの手紙です」
同貴族は王家の紋章の入った鳩の使用を許されていた。
フレイアは続ける。
「私が……グラ・バルカス帝国に食料を融通するよう、交渉に行った事は先ほどお話ししたとおりですが……帝国の実働部隊は……私の顔は知っていますが、姉妹の見分けが出来ません。
帝国外交部門から私への暗殺指示を受けた部隊は私だけでは無く……おっ……おっ……お姉様達まで……」
フレイアの感情があふれ出す。
外交の場で、泣き出してしまうなどあってはならない事だと心では理解している。
しかし、優しかったお姉様達が……殺された。
もうあの笑顔、楽しい日々は決して戻ってこない。
「ううっうううっ…」
自分が行かなければ死なずに済んだかもしれない。
自分が……原因。
「うわああぁぁつ!!」
ダラスから暗殺指示を受けた制統府は、王女暗殺を実働部隊へ指示する。
しかし、確実に暗殺せよとの指令を受けた実働部隊は、姉妹の見分けがつかない。
姉妹達は交流が多く、その家にいたからフレイアだとは限らないと判断した。
被害の規模は問わないと言われていた。
逃げられてはならないと判断し、同時に作戦を発動する事を決めた。
フレイアを襲った夜、別の王女達はグラ・バルカス帝国によって暗殺されていたのだった。
制統府は、王女暗殺が王家に伝わり、反旗を翻されては面倒なので、王家とヒノマワリ王国軍の連絡を遮断するため、すぐに王と王子達を幽閉したのだった。
「ひっ……ひっ……失礼ひっ、しました。ひっ」
フレイアは強烈に決意する。
グラ・バルカス帝国をヒノマワリ王国から排除すると。
そして、ダラス、あいつを必ずヒノマワリ王国の法で裁いてやると。
一時して彼女は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと話し出す。
「ヒノマワリ王国の王家は幽閉され、実質的に国内の権限を失いました」
復讐の炎が魂に宿る。
「私はヒノマワリ王国第3王女フレイアです。
現在国内の王家の機能は停止しているため、非常時国家保護法により、現時点をもってヒノマワリ王国の実質的権限は、すべてこのフレイアに移行いたしました」
狂気に染まりそうな心を必死で押さえる。
「非常時国家保護法により、ヒノマワリ王国内法はすべて、一時的にこのフレイアの意思により決定されます」
非常時を想定した国家保護法。ずべての国内法を乗り越え、権限を集中させた1人によりすべてが決定可能となる。
「ヒノマワリ王国として、対グラ・バルカス第二文明圏連合国家及び日本国へ、正式に要請いたします。
王国内において、国民を苦しめ続けているグラ・バルカス帝国を国外へ排除したい。
協力を……要請致します!!」
強烈な決意を示すフレイア。
歴史は動き出す。
ヒノマワリ王国からの正式要請に基づき、攻めにくいと考えていたムー及び日本国の枷は外れたのだった。
タグ:日本国召喚