「以上がナハナート王国西側海上で行われた大規模衝突の概要です。
なお、この時日本国が使用した対艦誘導弾の推定性能は、誘導機能、速度、射程距離、威力が遺跡から推定される古の魔法帝国の対艦型誘導魔光弾に酷似しています。
ただ、低空を這う能力は誘導魔光弾にはありませんので、機能的には日本国の誘導弾の方が上です。
彼らはこの兵器よりも遙かに速く飛翔する誘導魔光弾も開発が完了し、さらに射程距離を伸ばしたタイプも開発中との事です」
「ばかなっ!!映像の兵器ですら防げる者は世界にいないのに、さらに高性能な兵器を開発しているというのかっ!!
一体何のため……まさか……彼等も覇を唱えるつもりか」
軍務大臣シュミールパオが日本の兵器開発に不安を呈す。
「彼らも古の魔法帝国の復活を恐れているのでしょう。
誘導魔光弾、いや、対艦誘導弾を防がれる事を想定し、より当たりやすい兵器を開発する。
彼らの元いた世界では、グラ・バルカス帝国戦に使用した対艦誘導弾の波状攻撃を防ぐような国があったと聞きます。
その時に、より当たりやすくするため、速度を遙かに上げたタイプが開発されたと。
彼等のいた世界で誘導弾を防ぐ国があったなら、古の魔法帝国に対しても当然防がれるかもしれない」
「日本国は……本気で古の魔法帝国に勝つつもりなのか?」
シュミールパオの心に屈辱と希望が入り交じる。
「おや?軍務大臣は来たるべき……古の魔法帝国が復活した際に屈するおつもりか?」
「いや、もちろん我が命をかけて古の魔法帝国とは戦うつもりだ。
各国とも、そのつもりで調整を行っていた。
ただし、伝承に伝わる奴らの技術はあまりにも高すぎる。
古代兵器が発掘されるたび、そのすさまじさに驚愕せざるをえない。
技術力が違いすぎる相手には物量は意味を成さない。文明圏外国家の大物量に我が国が負けないのはそういう理由というのは知っておろう」
話しは続く。
「我が国は世界最強を自負していたが、対グラ・バルカス帝国戦で思った程の戦果を上げる事が出来なかった。
しかも、空中戦艦さえも撃墜されてしまった。
奴らは確かに強かった。
しかしどうだ?日本国は奴らを赤子の手をひねるかのように、僅かな数の戦力で退けた。 彼等の被害といえば、弾薬や燃料程度の取るに足らない金額を失ったのみだ。
我が魔導艦隊では古の魔法帝国どころか、日本国にも勝てないだろう」
軍務大臣として、皇帝の前でする発言内容では無い。
しかし、彼は盲目的に自国の軍事力を信じるほど頭の悪い男ではなかった。
「もしも日本が覇を唱えたなら非常にまずいことになるな」
日本が覇を唱えた場合の脅威度は飛び抜けて高い。
しかも現時点日本国に対抗出来るのは発掘兵器だけ。
議論が脱線しそうだったので、アルネウスは再び発言する。
「日本国は憲法で相当な縛りがあるため、覇を唱える可能性は限りなく少ないと考えます。 確かに、日本国の軍事力は情報局の想定をも遙かに上回るほど凄まじいものでした。
ただ、覇を唱える気が無い者達が強いのは良いことです。
今後のグラ・バルカス帝国戦、そして古の魔法帝国戦で大いに役に立ってくれる事でしょう。
さて、本来の議題に戻りましょう。
軍務大臣殿、議案があるのでしょう?」
「あ……ああ、そうだった国防省長官!!」
「はっ!!」
国防省長官アグラが指示すると、お付きの軍幹部が迅速にペーパーを配る。
配られた資料には日本国から連絡のあった、今後の作戦概要が記されていた。
作戦の必要性が解らず、外務省統括官リアージュが問う。
「ヒノマワリ王国奪還?あのような都市国家とも言える小さき王国を奪還して何になるというのですか?
というか、元々自分の意思で降っているので奪還という言葉もおかしいのですが」
「ヒノマワリ王国内には、グラ・バルカス帝国最前線基地のバルクルスが存在していました。
この大規模基地が奪還されたため、グラ・バルカス帝国軍残党はヒノマワリ王国首都、ハルナガ京に立てこもっています。
日本国はこのバルクルス周辺に、レイフォリア沖を攻撃するための飛行場を作りたがっている。
ここから飛べば攻撃範囲に入るとの事です。
ただし、航空基地であるため、グラ・バルカス帝国の残党とはいえ、軍がヒノマワリ王国に駐留しているのは非常によろしくない。
よって、まずはヒノマワリ王国の開放が必要だということです」
「この位置からレイフォリアが戦闘行動半径に入るというのか?信じられん」
バルクルス周辺からレイフォリア沖合までは相当な距離がある。
戦闘機レベルの戦闘行動半径に入るとはとても思えない。
「いえ、戦闘機単独では戦闘行動半径に入れる事はさすがに無理でしょう。
彼等は空中給油機というのを持っている。
それであれば攻撃範囲に入るのでしょう。
それに、哨戒機にも対艦誘導弾は積載出来るようです。
戦闘機以外であれば攻撃出来るのでしょう。
また、日本国がレイフォリア沖合攻撃のために飛行場建設している予定地は当然1カ所では無いでしょう。
複数ある候補の一つがこの位置と考えるのが自然かと」
「なるほど、して、ムーは何をしているのだ?敵の大規模基地が消滅したというのに、未だヒノマワリ王国をそのままにしている理由は何だ?」
対魔帝対策庁局長ビルクバーンが疑問を呈す。
「グラ・バルカス帝国軍残党は、ヒノマワリ王国に作られた帝国外務省の建物を司令室として使用しています。
そして、その司令室は国王の住まう屋敷の直近に作られています。
そして軍の主要施設も首都の住宅街直近にある。
ムーはヒノマワリ王国がレイフォルの属国だった時も、彼等には非常に気を遣っていました。
ヒノマワリの帝国軍を攻撃すれば、相当な精密攻撃でも行わない限り、住民に相当数の死者が出る。
彼等は民間人の死者を懸念して攻撃を渋っていました」
「だが、戦局がそれを許す状況では無くなった……というところでしょうか」
配られた資料には、ヒノマワリ王国奪還後、バルクルス基地周辺の飛行場の整備、レイフォリア沖のグラ・バルカス帝国艦隊の空爆による撃滅、そして神聖ミリシアル帝国に対する艦隊派遣依頼と、制空権確保下においての海上封鎖の依頼が添付されていた。
「ん?今回の案では日本国も艦隊を覇権してくるのか。
護衛艦4、補給艦1、掃海艇2??(何だそれは……)」
神聖ミリシアル帝国として、どれほどの艦隊を派遣するべきか、議論が続く。
場はざわついた。
皇帝ミリシアル8世が手を上げると、場が静まる。
「グラ・バルカス帝国戦も先が見えてきおった。
日本国には協力すると回答、軍は調整して必要な艦隊を派遣せよ」
「ははっ!!」
「しかし日本国か……今までの腰の低さが判断を誤らせていた。
強いという想定はしていたが、それ以上だ。
日本国の軍事力は凄まじいが、さらに質を上げようとしておるとは。
戦力比において、シュミールパオの眼は正しいだろう。
日本国とは友好関係をさらに高め、少しでも日本国の技術を吸収、昇華させて戦力拡充を行え。
間違っても敵対するような発言は慎むように、外務大臣、解ったな?」
「ははっ!!」
「アルネウスよ、貴様の見立てでは日本国の軍事力は古の魔法帝国に対してどれほど通用すると思うか?」
皇帝の目はグラ・バルカス帝国戦の先を見る。
「はっ、発掘兵器から想定される古の魔法帝国の兵器群に対し、日本国の兵器はある程度は通用するのではないでしょうか?
ただ、量が少ない。
規模で押し負けるかもしれません。
発掘兵器には光翼人の多大な魔力を必要とするものがあり、まだ解っていない部分も多くあります。
つまり上限が読めない。
そして、日本国の兵器群もまだ我々は理解していません。
まさかこれほど一方的にグラ・バルカス帝国を倒すとは考えていませんでした。
彼等もまた上限が読めません」
「まあよい、今後も情報収集に励め」
「はっ!!」
神聖ミリシアル帝国は、この日、レイフォリア沖の敵艦隊の撃滅を確認した後に、海上封鎖のため魔導戦艦を主力とした艦隊を派遣することを決定した。