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クワ・トイネ公国 第2艦隊所属 軍船ピーマ
艦長ミドリは、困惑していた。クワ・トイネ公国の経済都市マイハーク上空に、正体不明の飛行物体が飛行してきた後、何度も旋回して立ち去ったという。
ロウリア王国もしくはその息がかかった国等の奇襲を早期に探知するため、公国第2艦隊所属の軍船ピーマは、沖合へ向かっていた。
水平線上に、なにか灰色の物を発見したのは、10分ほど前、ピーマは、その物体を調べるため、船に向かっていいたが、どうも彼らも自分たちの方向へ向かってきているようにも見える。
ミドリ艦長の想定をはるかに上回る速度で、水平線上の物体は、徐々にその姿を大きくする。
「まだ大きくなるというのか!!」
「なんて大きさだ!!あれは船か!??」
「あんなのに、バリスタを撃っても意味があるのか?」
あまりの大きさに、距離を誤認している事に気付く。
彼の顔が引きつる。
やがて、減速した不審船、その起こす波だけで軍船ピーマは揺れ動いた。
彼らはこちらに敵意が無いかの如く、手を振って来る。
こんな大きな船、そして見た事の無い船に臨検しなければならない。彼は、死を覚悟し、不審船に乗り込む事を決意した。
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護衛艦いずもの最上甲板では、艦長、そして外務省の田中が、異世界でのファーストコンタクトを迎えるべく、小さな帆船に乗って来た者を出迎えるために整列していた。
「初めてですね。いったいどのような結果となるのか……」
不安を押し殺し、田中は艦長へ話しかける。
今回のコンタクトは、新世界で初めてであり、どうあっても心証の悪い状態は避けたい。仮に敵対した場合、異世界全体を敵に回す可能性すらある。
日本国は第一に食料を欲しており、1国で賄えるはずもないが、とにかく輸入先を一つでも増やす事、日本国民を飢えさせない事が、外務省に課せられた使命であった。
彼の肩に、日本国民の命という、重圧がのしかかる。
「そうですな。しかし、全く言葉が通じないでしょうから、何も進展しないかもしれませんね。」
「言語学者も連れてきています。まずは有効にコンタクトが出来たら、彼らの出番となるでしょう」
やがて、鎧に身を包んで来た者達が、階段を上がって来る。
田中が第一声を話そうとした瞬間、異世界の民が話始めた。
「私は、クワ・トイネ公国、第2艦隊所属の軍船ピーマ艦長ミドリです。このまま進むと我が国の領海に入ってしまいます。貴船の国籍と、航行目的を教えていただきたい!!」
ミドリと名乗った者は、臆する事なく、はっきりとした口調で田中たちに話しかける。
「日本語!?日本語を話している!!!」
田中は日本語を話す男に疑問を持つと共に、彼が日本語を話す……そして言葉が通じる事に歓喜する。
「失礼しました。私は、日本国外務省外交官の田中と申します。我々は貴国と将来的に友好的な関係を持つため、最初にお話しをしたいと思い参りました。我々にとっては、初の接触……という事になります。」
ミドリは目を見開く。
「友好的な関係?という事は、あなた方は日本国という国の使者で、我が国、クワ・トイネ公国と初めて接触をしたという事で間違いないでしょうか?」
「はい、そのとおりです。
外交担当部署にお取次ぎを願えませんか?我々に敵対の意志はありません」
ミドリとその他の異世界人は、一瞬ほっとしたような表情となり、話す。
「解りました。では、外交官に連絡いたします。しかし、大きい船ですね。それに帆も無い。これが噂に聞く魔導船でしょうか?」
「魔導船?魔導船とは何でしょうか?」
不思議な言葉が出てきたため、田中は彼に問う。
「?魔石を使用し、魔力を動力に変え、動く船の事でしょう?あなた方は、中央世界から来たのではないのでしょうか?このような高度な船は、文明圏外国家で作る事が出来ない事は言うまでもなく、文明圏内であっても第3文明圏では不可能でしょう。
船の規模から考えて、おそらく中央世界からわざわざ我が国と国交を結ぶために来たのかとお見受けしましたが、違うのでしょうか?」
田中は、魔力という言葉に困惑する。
「魔力?文明圏?よくわかりませんが、日本国は、ここから北東方向に約1000km行った位置に、南の島、沖縄があります。そこからさらに1000kmほど行ったところが日本国本土です」
「なんと!!中央世界ではないのですか?その位置は、群島の集まりだったはず……。しかし、それでは……。この船は、中央世界の国から購入したのでしょうか?文明圏外国家に、これほどの船を売るとは、通常は考えられない事なのですが……。」
「いや、この船は、我が国で製造しております。何と言っていいのか解りませんが、日本国は、突如としてこの世界に来た……としか、言いようがありません」
ミドリは目を細める。
「国ごと転移ですか……。ムーの神話のような話ですね。ところで、先日マイハーク上空を飛んだ飛龍は、貴国のものでしょうか?」
一瞬の沈黙。
「はい、突然の国ごとの転移により、我が国は他国と全く通信出来なくなり、状況把握のために各方面に哨戒機を飛ばしていました。
そのうちの1機が、貴国領空まで侵入したと思われます。その件につきましても、後日日本国政府から貴国へ公式に謝罪を行う予定であります」
「解りました。早急に、国ごとの転移という申し立ても含めて本国へ報告いたします。しばらく待っていただいてよろしいでしょうか?」
ミドリは立ち去ろうとする。
「はい、ええと……何日くらい待てばよろしいでしょうか?」
「?魔信ですぐに本国へ送るため、待っても1〜2時間程度かと思いますが。」
「解りました。では、お待ちします。」
ミドリは、船を一時的に立ち去る。
「艦長、私は本国に、事の成り行きを報告してまいります。しかし……。中世のようにも見えましたが、本国への通信手段があるのですね。魔信……なんでしょうか?」
「解りません。しかし、見た目ほど戦力が弱い訳ではないという事を、我々は肝に命じなければなりませんね」
田中は、無線を使用し、日本国に報告を行った。