制統府 統治軍地下指令室
次々と連絡が途絶えていった。
地上で大きな爆発音が連続して発生する。
地下指令室は時折電気が消えて振動する。
「もう……何も把握できない」
上部へつながっているはずの伝令管、逐次報告が送られてきていたが、激しい爆音の後は全く報告が来ない。
報告の代わりに爆発音だけが不気味に響く。
かなりの時間が経過したようにも感じた。
「そろそろ夜が明ける」
死へのストレスと睡眠不足はどうしようもなく体力を削る。
『……せよ……』
無線が一瞬反応した。
「む?今のは何処からだ??」
『ガガガ……ガ……国自衛隊である。統治軍は直ちに白旗を上げて降伏せよ。
さもなくば、あなた方を攻撃する』
帝国の周波数を利用したとしか思えない。信じられんことだが、日本国からの降伏勧告が無線で届く。
死の恐怖の中、生き残る可能性のある言葉。敵であるはずの者からの無線が救いの声にすら聞こえる。
司令室の係員がジャギーナを見た。
(我々のしてきた事を考えるに、私は拷問の後に殺されるだろう。
しかし、このままでは100%死ぬ。
せめて部下達の命だけでも助けてもらうよう、懇願してみるか……プライドは捨てよう。
ちっ!!俺の人生もここまでか……ついてなかったな)
ただ組織に尽くしてきただけ、自分は真面目に生きてきたつもりだった。
帝国の為、帝国臣民のために身を粉にして働いたつもりだった。
植民地を効率的に統治し、帝国へ富を送る事は正義だった。
まさか自分にこんな最後が来ようとは……。
妻の顔、そして今年10歳になる息子の顔が脳裏によぎる。
「この無線が欺瞞である可能性もある。
私がこの目で地上に状況確認に向かい、降伏するかを判断する。
携帯型無線機で流すため、貴君らも傍受せよ。
仮に降伏となった場合、銃を向けられても反撃するな。それが諸君らの生き残る道だ」
ジャギーナは、ランドセルよりも大きな無線機を背負った部下を一人引き連れて地上に向かって階段を歩いた。
地上に出た後、まだ無事な建物に上がって全貌を見渡す。
「……ああ……終わった……」
対空施設のあった建物は炎に包まれ、暗いはずの空を赤く焦がす。
拠点の各橋の付近からも赤い炎が上がっていた。おそらくは配置した部下が攻撃を受けたのだろう。
赤い炎によって照らし出された空は本当に明るく、絶望の光に感じる。
空には200を超える竜が舞い、500を超える白いパラシュートが見えた。
「異世界人の反撃か……」
これほどの小国に投入する圧倒的物量は、彼等の猛烈な意思を感じずにはいられなかった。
ゆっくりと降りてくるパラシュート、絶望が全身を支配した。
「無線を……」
「はっ!!!」
重機関銃等の重火器は圧倒的な技術力でたたきつぶされ、通常戦力は圧倒的な物量でたたきつぶされる。
もうどうしようも無い事は、誰の目にも明らかであり、副主任ジャギーナは決断する。
『グラ・バルカス帝国ヒノマワリ王国制統府、副主任ジャギーナから日本国自衛隊、降伏する。
繰り返す。我々は降伏する』
日本軍から降伏を了承した旨の無線が届いた。
次の瞬間、空に大量の照明弾が上がる。
大量の照明弾は街を真昼のように照らした。
光に包まれるヒノマワリ王国首都ハルナガ京……。
「ん??あれは……」
輝く空に見慣れた航空機が見えた。
ジャギーナは目を見開く。
空には大量の竜が舞い、日本軍の特殊航空機(戦闘ヘリ)が飛んでいた。
そんな中、東の空から帝国航空機が1機突っ込んでくる。
「スタークラウド!!オルブーツの機体か!!何でまだ行ってなかったんだ?ああ、バカ止めろ、やめろぉぉぉぉぉ!!」
機体が1機、竜の群れに突っ込んでいく。
降伏の後に攻撃など、最悪だ。
機は明らかに攻撃態勢に入っていた。
偽装管制塔に攻撃を受け、保管庫の鍵確保に手間取っていたオル・ブーツはやっとの思いで離陸する。
すでに敵の作戦は次の段階に入っているようで、あの凄まじく速い戦闘機は見えなかった。
脱出出来ることを確信したオル・ブーツは、スタークラウドを操り離陸後旋回、突如敵が大量の照明弾を使用したため、大量の敵を認める。
このまま友軍の基地へ行くと、逃げ帰っただけと思われる可能性がある。
そう感じた彼は保身のため、あっさりと落とす事が出来る敵のワイバーンに攻撃を加えた後に離脱することとした。
ブーーン
甲高いエンジン音が聞こえる。
速度を増したスタークラウドは、警戒中のワイバーンに対して機関砲を発射した。
ダダダダダダッ!!!
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
ジャギーナは本気で叫ぶ。
人生は無慈悲だ。
現実は甘くない。
曳光弾は敵ワイバーンを捕らえ、搭乗員もろとも血を吹き、落下していく。
次の瞬間、敵の特殊航空機がロケットを発射、ロケットはまるで意思を持つかの如くスタークラウドへと向かっていった。
鈍い爆発音と共に、スタークラウドは上空で四散、炎をあげて落下してゆくのだった。
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