対空砲も曳光弾を交えて雨のように打ち込まれた。
しかし帝国の対空砲は水平よりも下を撃つことはそもそも想定しておらず、なかなか狙いが定まらない。
やがて魚雷は旗艦の近くをすり抜けて空母の方向へ向かう。
撃つ。撃つ。撃つ。
すでに付近海域は魚1匹生きるのが困難ではないかと感じるほどの爆発に包まれる。
しかし当たらない。
やがて魚雷のうち、1発が空母オグマの後部スクリューに命中した。
「ああっ!!」
旗艦の艦橋から双眼鏡で見ていた艦隊司令アケイルは、巨大空母オグマが振動し、艦隊後部に膨大な水柱が上がるのを見た。
続けて他の2発が艦の中央部を捕らえる。
海上自衛隊89式魚雷はグラ・バルカス帝国空母オグマのスクリューを破壊した後、艦底に2発命中し、魚雷に内蔵された267kgもの高性能炸薬は、その威力を開放した。
空気に比べて密度が1000倍もある海水は爆圧を逃さずに封じ込め、船体に大きなダメージを与える。
艦底を貫いた爆圧は、空母の区画をことごとく破壊し、物理的に弱い方向へ向かった。
暴れ回る炎の嵐は一瞬で空母内部を駆け回り、艦内の航空機や爆弾に誘爆、圧倒的なエネルギーは、上へ向かい、最上甲板に火柱が出現する。
火柱の周辺も圧倒的な熱波で燃え始めた。
帝国空母の何十倍もの高さまで上がった火柱は、きれいな青い空を焦がす。
艦底の大きな穴からは膨大な量の海水が流れ込んだ。
あっという間だった。
信じられないほどに早い時間で、空母オグマは航空機や乗員と共に海に消えた。
「空母オグマ轟沈!!」
無機質な報告が艦橋に響く。
眼前で、艦隊の中核戦力が為す術も無く沈むと言う現実に、艦隊司令アケイルは唖然としていた。
さらに破壊は続く。
「空母スメルトリオス被雷!!!」
莫大な水柱と、火柱がスメルトリオスから上がった。
一方的にやられる理不尽に、艦隊司令アケイルは怒りがこみ上げる。
「ち……ちくしょう!!ちくしょうめぇぇぇぇっっ!!!!!」
金属製の机を思いっきり拳で殴り、拳は血まみれになる。
前世界の宿敵ケイン神王国の艦隊でさえ、自分は巧みな指揮で戦いを有利に進めてきた。
この世界に転移してからは、連戦連勝だった。
圧倒的な自信、戦場での指揮には絶対的自信があった。
しかし、どうしようもないような圧倒的な強敵が目の前にある。
どこから攻撃されているのかも解らず、一方的に殴られる。しかも敵の弾はほぼ当たる。
やり場の無い気持ちは敵への怒りへと代わり、彼は怒り狂った。
怒っているからといって、攻撃が止む訳でもなく、空母スメルトリオスも為す術が無く海に沈んだ。
「敵は!!敵はまだ見つからんのかっ!!」
金切り声に近い声で彼は叫ぶ。
「まだ解りません!!!」
「お……おのれぇ。おのれぇ……仕方ない」
艦隊司令アケイルは屈辱的な決断をする。
「付近に爆雷を単発で投下し、水中音響を乱せ!!」
「え?」
「聞こえなかったのか?爆雷投下だ。何処にいるのか解らぬのでは、勝負にならん。
敵も潜水艦である限り、音響探知によって我が方を把握しているはず。
ならば、爆雷による音響をもって付近の海を攪乱し、敵の耳を潰しておけばその間は攻撃を防げるはずだ。
くやしいが、駆逐艦が爆雷を連続して投下している間、戦艦及び巡洋艦は付近海域を離脱し、レイフォリア西側へ急行する。
駆逐艦も爆雷投下後は艦の速力を生かして合流せよ」
命令は正確に伝達され、駆逐艦は爆雷投下を開始した。
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