2021年07月07日

第115話反撃の異世界軍4P5

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 イルネティア王国東側 水中 

 静かなる海、光さえも届かぬ漆黒の深き海中で、息を潜める黒い船体があった。
 日本国海上自衛隊第1潜水艦群第5潜水隊 そうりゅう は、海を無音で航行していた。
 先ほどから海中に探信音が響いている。
 海上自衛隊の誇る そうりゅう は船体すべてが水中吸音材・反射材で覆われ、探信音が来たとしても、入射音を音源と異なる方向に反射させる装備も持つ。
 入射側への反射が少ないため、グラ・バルカス帝国は付近に潜水艦が潜んでいる事を全く捕らえられないでいた。

 さらに巡航時もグラ・バルカス帝国の潜水艦と比べて航行時の雑音が極めて低く抑えられている。

「敵は気付いていないようだな」

「はい、全く気付く気配がありません」

「確認だが他の第5潜水隊はどうしている?」

「うんりゅうは、レイフォル西側海域で、グラ・バルカス帝国の潜水艦隊を壊滅させ、補給のためにムー大陸北側へ向かっています。
 はくりゅう、せきりゅうはレイフォリア西側海域で待機しております」

「了解だ。さてと……数を減らすとするか。攻撃用意」

 そうりゅう艦首上部にある6門もの魚雷発射管に89式魚雷が装填される。
 第1目標は敵空母。

 そうりゅう艦長 恒星 次男 は、部下に聞こえぬようつぶやく。

「すまんな、悪く思うなよ」

 それは、これから死ぬ者達へ向けられた言葉だった。
 僅かな黙祷の後、目をカッと見開いた。

「攻撃開始!!!」 

 微かな発射音と共に、海中に誘導魚雷が放出される。
 雷速40ノットで射程50kmとも言われる89式魚雷6発は、グラ・バルカス艦隊空母を撃滅するため、海中を疾走していった。

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第115話反撃の異世界軍4P4

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 グラ・バルカス帝国領 イルネティア地区周辺海域

 同海域には、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊所属の空母機動部隊20隻が展開していた。
 空母機動部隊と言えば聞こえは良いが、先に行われた日本国潜水艦の夜間雷撃により、艦の多くを失い、急遽規模の増強を行ったため、戦艦3隻と最新鋭駆逐艦2隻を除いて実質的に旧式艦の寄せ集めである。

 先の日本国によるものと思われる雷撃は、発射位置が全く特定出来なかったため、兵達は連日、死の恐怖に襲われ続け、発狂する者も少なくなかった。
 命令だからこの海域にいるが、日本国潜水艦が今も潜んでいるかもしれないと思うと兵達は全く気が休まらない。

 中央第2艦隊 旗艦 オリオン級戦艦コルネフォロス
 艦隊司令アケイルは、艦長イライガと周りを見渡せる艦橋で雑談をしていた。
 
「やはり先の雷撃は痛かった。兵達は日本の潜水艦は500m以上潜れるだの、海中速力が20ノットを超えるだの、海中では無音航行出来るだの、誘導魚雷を使ってくるだの、水中から空中飛翔型の誘導爆弾を撃てるだの、風評が広がっています」

「その風評通りだと、とんでもない化け物だな。馬鹿げた性能だ。
 しかし、先の夜間攻撃で捕捉できなかった事は事実。
 そのような風評が兵達に広がるのも無理はない」

 艦隊司令アケイルは、兵達の間で語られるお化けのような性能を持つ日本国潜水艦の噂を馬鹿げていると一蹴しながらも、過去の戦果からそのような噂が出てしまう事については一定の理解を示す。

「ただ、今回は最新鋭の潜水艦キラーを2隻取り寄せた。
 もう見えぬ位置からやられることはないだろう。
 最新鋭艦は探信音(水中に音波を発生)を放ち、その反射波から潜水艦の位置を特定する。
 レーダーに似ておる。
 いかなる物質でも音波の反射は防げん。
 そして、潜水艦の攻撃に限定されたと言うことは、日本国はここまで艦隊を派遣する能力は無いのだろう。
 兵達にしっかりと教養して安心させてやれ」

「確かに、最新鋭駆逐艦は探信音を放つことで、海中の近づく者を探知いたします。
 元々探信音の技術はあったのですが、従来のものよりも遙かに遠くまで探知可能となりました。
 もう潜水艦の不意打ちに怯える事もないでしょう」

「すぐにこういった艦を派遣してくるとは……我が国ながら、やはり帝国は凄まじい国だと思うよ」

「まったくでございます。これで日本国の潜水艦の脅威は去る事でしょう」

「はっはっは!!これで攻撃できまい。日本国めざまぁ見ろだ!!」

『あーっはっはっは!!』

「お話中失礼します」

 若手幹部が話しに割って入る。
 彼は続ける。

「総合基地ラルス・フィルマイナが大規模攻撃を受け、レイフォリア周辺の制空権が失われました。
 レイフォル沖合で警戒任務にあたれと司令がまいりました」

「ほう?解った。では、レイフォルへ向かうとしよう」

 グラ・バルカス帝国 中央第2艦隊 空母機動部隊20隻はレイフォルへ向かい始める。
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第115話反撃の異世界軍4P3

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 グラ・バルカス帝国レイフォル地区 レイフォリア 統合基地ラルス・フィルマイナ

 陸軍司令ファンターレと将校ランボールは、日本国による空襲の被害把握のために走り回る。
 攻撃から日数が経過するにつれて、被害状況が徐々に明らかになって来た。
 積み上がる被害規模に血の気が引く。

 陸軍将校ランボールは、ファンターレに報告する。

「日本国は、統合基地ラルス・フィルマイナへの攻撃と時を同じくして、レイフォルに点在する陸軍の拠点、駐屯地及びすべての航空基地を攻撃し、ほとんどの航空機及び機械戦力が地上撃破されました。
 さらに、すべての空港は爆弾によるクレーターが多く見られ、使用不能です。
 作戦機の地上撃破数は1000を超え、未だ多くの報告が入り、被害はさらに上回ると想定します。
 基地の弾薬庫も95%以上が破壊され、主要な橋も破壊されたため、前線への補給が困難な状況です。

 軍事工場や、建設機械にも攻撃が加えられています。
 もはやレイフォル地区の工場のみで、自力で復興することは不可能です」

 ファンターレは全身からベタベタの汗がにじみ出るのを感じた。

「人的被害よりも、物的被害の方が大きすぎる。本国に連絡を……」

「すでに要請済みです。
 ただ本国も混乱しており、返信には時間がかかります」

「海軍は……海軍はどうなっている?西側に70隻以上の艦艇があったはずだ」

「レイフォル西側海域の海軍機動部隊は、誘導爆弾の大規模攻撃によって壊滅いたしました」
 
「そ……そんな……大艦隊だぞ!!グラ・バルカス帝国の70隻もの大艦隊が壊滅したというのかっ!!!では、では……」

「我が方は現在、ムー大陸での制空権を失っています。展開する陸軍機械兵力は実質的に機能していません。
 重兵装も多くを失いました。
 このような状況下であれば、日本軍はもちろんの事、ムー国陸軍レベルでも非常にまずい事になります」

「ああ……あ…お……う……」

 まずい。最悪大規模侵攻があった場合、上空支援も無く連続して敗走する可能性が出てきた。
 レイフォルが陥落などと言うことになれば、ムー大陸というこの世界制覇のための橋頭堡が失われる事になる。
 皇帝陛下の命に自分の代で逆らうこととなってしまう。

 ファンターレはショックのあまり、声が詰まる。

「海軍に問い合わせたところ、レイフォル西側の島国、イルネティア王国周辺海域に空母機動部隊20隻が展開しています。
 本国中央第2艦隊所属になりますので、本国に問いわせたところ、この中央第2艦隊を一時派遣し、警戒している間に次の手を準備するとの事です」

「次の手だと?具体的な連絡は?」

「具体的な部分はありません。内容についてはそのような回答でした」

 ラスル・フィルマイナでは未だ焼け焦げたにおいが辺りに漂う。

 どうしようもないこの状況下で、ファンターレとランボールは必死に事態打開のために頭をフル回転させるのであった。


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