2021年08月21日

第117話列強国の意地2P7

「お………」

「う………」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉっ!!!!!!!」

 酒場は大いに沸き立った。

 満面の笑みになった小汚い親父が、受信機をしまいながら話す。

「どうだ?お前ら??酒のつまみになる話しだろう?」

「あれか?まもなく沖合に神聖ミリシアル帝国と、日本国?だったかの連合艦隊が現れるってことだろう?」

「つまりグラ・バルカス帝国はたたき出されるってこった!!」

「おうおうおう、酒が美味いぜぇ!!」

「おやじ、酒だ酒だ!!!こんな美味い話しはねぇ。
 今日は俺のおごりだぁ!!!」

 気の大きくなった酔っぱらい達は大いに盛り上がるのだった。
 作業員ブライツも、久々の美酒に酔いしれる。
 決して勝てることの無いと思っていた帝国の敗北は、ブライツの心を大いに奮い立たせる。

 そして、来るべきグラ・バルカス帝国戦で国家を……レイフォルを取り戻すため、全力を尽くす事を心の中で誓うのだった。
 
 後日、ブライツはレイフォルを救うため、対グラ・バルカス帝国組織と情報交換を密にし、来たるべき日のために準備を開始するのだった。

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第117話列強国の意地2P6

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国レイフォル地区 レイフォリア

「はあっ、はあっ。今日も疲れたなぁ」

 工場作業員ブライツは、今日もへとへとになりながら酒場にたどり着いた。
 明日は久々の休日であり、今日は酒でも飲んで嫌なことを忘れて寝よう。
 人生の唯一の楽しみだった。

 グラ・バルカス帝国の統治となった後、奴隷のように朝から晩まで労働を強要される。
 王宮騎士団に所属していた事は過去の栄光となり、今はただの作業員として日々帝国の奴隷として働く。

 帝国は強く、神聖ミリシアル帝国でさえも押されている。
 抜け出ることの無い閉塞感はレイフォル全体に及び、無気力な国民が増産されていた。

 レイフォルの民はグラ・バルカス帝国には絶対に勝てない。
 一時優勢になっても最後には負ける。

 ブライツも、対グラ・バルカス帝国組織に属していたが、決定的な戦力比があるため、実質的活動を行うことが出来ず、全く動く事が出来なかった。

 そんな人生でも、唯一酒場は楽しい場所だ。
 居酒屋『列強酒』まだレイフォルが列強国だった頃に作られた酒場の名前が今も残っている。
 その店名も、過去の栄光を思い出し、抜け出ることの無い閉塞感を少しは緩和することが出来る。
 酒を飲むと暴れる者も多いため、グラ・バルカス帝国人は酒場にはなかなか近づかなかった。
 
「おやじ、エールをたのむ」

「へい!!」

 氷魔法で冷されたエールが運ばれてくる。
 レイフォルのエールは国の特産品であり、ムー大陸でも美味いと評判だった。
 その1杯は、疲れた体に染み渡る。

「くーっ!!うめぇ。悪魔的に美味い!!!」

 今日も酔っ払いどもが話しをしている。
 彼等の話の中で、沸騰している話題。
 グラ・バルカス帝国の大規模統合基地ラルス・フィルマイナが空からの攻撃によって徹底的に破壊しつくされた事だった。

 基地で働いていたレイフォル人も巻き込まれて死者は出ていたが、戦争で死者が出ることがあたりまえの世界であり、犠牲者は貴い犠牲であると皆考える。
 グラ・バルカス帝国がレイフォル人の目の前で徹底的にたたきつぶされた事は、彼等にとって希望の光であった。

 情報統制の効いたレイフォルでは、グラ・バルカス帝国艦隊が日本国護衛隊群に破れた事すら多くの者には知られておらず、また、日本国の存在すら知らない国民も多かった。 酒場にやってきた作業員ブライツも、日本国のロウリア王国を降した国として知っていたが、グラバルカス帝国との大規模海戦は知らない。

 グラ・バルカス帝国にもたらされた圧倒的な破壊、それが何者によって成されたのかは解らないため、酔っ払いどもの推測は続いていた。
 そんな中……。

「知ってたか?今日神聖ミリシアル帝国から重大な発表があるそうだぞ。
 帝国の民間放送でニュースになる予定だ」

 顔中煤けた小汚いエルフの親父が、汚れたバッグから30センチメートル四方の箱を取り出す。

「お……おまえっ!!それは魔導波受信機じゃないかっ!!帝国に見つかったら酷い目にあうぞっ!!!」

 周波数の調整機能が入った魔導波受信機、民間の映像用、音声用はもちろんの事、軍用魔導波までもが傍受出来る優れものだった。
 列強時代でさえ、そうそうお目にかかれる者では無い。
 小汚い親父に見えるが、昔は名のある者だったのかもしれない。

「知ったことか、これほどまでに主力基地が破壊されたんだ。今頃右往左往してる事だろうさ。
 忙しすぎて、人員を割く余裕はない。どうせここには奴らは来やしないよ。
 つまらん人生を歩むくらいなら、美味い酒のつまみになる情報でも得ようじゃ無いか。
 おまえら重大発表聞きたくないか?
 間もなく始まるらしいぞ?」

「おれ……聞きたい」

「俺も」

「よし!!店の入り口を閉めろ!!」

 店主も乗ってくる。

 小汚い親父エルフは、受信機をセットした。
 音声出力を上げて、酒場の者達に聞こえるようにする。

「間もなく始まるぞ」

 酔っ払いどもは耳を澄ます。

『ガ…ガガガガ……』

 周波数を拾い、軽快な音楽が流れ始める。

「お?始まったぞ」

「しーっ!!聞こえない!!」

『ニュースの時間です。軍によりますと、本日未明、ムー大陸西側海域において、神聖ミリシアル帝国の最新鋭戦艦であるオリハルコン級戦艦1隻が、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻と戦闘いたしました。
 敵艦隊10隻の内訳は戦艦3,巡洋艦4、駆逐艦3となります。
 戦闘の推移について、間もなく軍部記者発表が行われます。
 生中継でお伝えします』

 生中継への切り替えに、多少の時間を要す。

「ムー大陸西側って、近いんだろうな」

「10対1か……いくら神聖ミリシアル帝国でも厳しすぎるだろ。
 我がレイフォル艦隊は、主力艦隊が敵の1隻に敗退している。それほどまでに奴らは強いという事だ」

「しかし、わざわざ記者発表するぐらいだ。多対1でも善戦したんじゃないか?」

 酔っ払いどもは様々な憶測を流す。

『パシャッ……パシャパシャパシャパシャッ』

 音声だけなのでいまいちピンとこないが、魔写の音だろう。

『んんっ!!うん……うん……』

 おっさんの咳払いが聞こえる。

『これより、報道発表をいたします。
 本日未明、神聖ミリシアル帝国海軍 タキオン率いる混成魔導艦隊デス・バール の旗艦、オリハルコン級魔導戦艦コスモ が、ムー大陸西方海域において、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻と戦闘状態に突入いたしました。
 オリハルコン級魔導戦艦は最新鋭艦であり、司令官のタキオンはこの規模のグラ・バルカス帝国艦隊程度であれば、1隻で十分と判断したため、1対10での決戦になりました』

 記者会見場がざわつく。
 文明圏外国家と1対10は列強国ならば良くある話しなのかもしれない。 
 しかし、相手はあのグラ・バルカス帝国の本国艦隊である。

『オリハルコン級魔導戦艦のスペック詳細は公表しかねますが、同艦艇には高威力の誘導魔光弾が登載されています。
 この誘導魔光弾も、本戦いには投入されました。
 結論から言うと、戦艦コスモは1発も被弾する事無く、敵艦隊をたったの1隻で葬り去りました。
 今まで手こずっていた相手ですが、我が軍の技術革新により、同国の艦隊規模であってもたったの1隻で葬り去る事が出来る事が証明されました。
 単艦での戦闘能力は他国を陵駕していることは言うまでもありません。
 追加で申し上げるなら、この世界に同じ事が出来る艦艇を持つ国は無いと、断言出来ます』

 名指しはしないものの、遠回しに日本国でも同じ事は出来ないと伝える。

『同艦隊の消滅により、グラ・バルカス帝国はムー大陸周辺海域の制海権を失っています。 間もなく、神聖ミリシアル帝国と、日本国の連合艦隊はレイフォル国の首都レイフォリアの沖合まで到達するでしょう。
 以上、報道発表を終わり……』

『し……質問です!!
 第2文明圏ムーの読読新聞記者です。
 誘導魔光弾は古の魔法帝国の使用したロストテクノロジーでは無いのですか?
 神聖ミリシアル帝国ではこれを実用化しているのでしょうか?』

『詳細は報道文でお知らせしますが……そうですね、回答いたしましょう。
 神聖ミリシアル帝国は、誘導魔光弾の実用化し実戦配備をいたしました。
 残りは後ほど報道文を見て判断して頂きたい』

 神聖ミリシアル帝国の報道発表は、日本国のように記者の質問に答え続けるような性質のものではないため、このような会見となった。
 会見は終わり、女性キャスターが話し始める。 

『なんということでしょう。
 神聖ミリシアル帝国軍は、誘導魔光弾を実用化し、実戦配備を行っています。
 また、ムー大陸周辺での制海権はグラ・バルカス帝国には無いと発表しています。
 世界にこのような事が出来る艦艇を持つ国は無いとの事でしたが、これは日本国であっても同じ事を出来る艦は無いという意味でしょうか?』

 女性キャスターの質問に、男性キャスターが話し始める

『そうですね。
 日本国は、グラ・バルカス帝国海軍に比べて数は少ないのですが、性能比で強力な艦隊を持っています。
 それでもなお同じ事は出来ない。と言った意味と思われます』

『まもなくレイフォリア沖合へ到達するという事は、レイフォル奪還が近づいているという事でしょうか?』

『制空権が無ければ制海権を取れない時代です。
 つまり、制空権、制海権を握ったという事であれば、次は奪還作戦が近いという事だと思います』

 キャスター達の議論が続き、ニュースは終了した。

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第117話列強国の意地2P5

◆◆◆

 イージス艦こんごう

 1つの海戦が終わった。
 同行していた護衛艦こんごうのCICルームで艦長日高は砲術長と話しをしていた。

「もしも敵が、神聖ミリシアル帝国の誘導魔光弾と同等の兵器を使用した場合、迎撃できそうか?」

 日高は砲術長に問う。

「今回の戦いで解った事は、神聖ミリシアル帝国のミサイル様のものは、放物線を描いて亜音速で飛翔し、垂直落下時も音速を超える事はありませんでした。
 速度が遅く放物線を描くため飛翔距離は長くなり、発射から命中まで十分な時間が確保されます。
 それなりの大きさがあり、レーダー反射面積も大きく、ステルス性も無い。
 妨害電波も出ていませんでした」

 砲術長は続ける。

「イージス艦に乗っていながらあれを迎撃出来ない者は海上自衛隊にはいないでしょう。
 ミサイル本体が物理的に硬すぎて迎撃ミサイルが効かないなら話は別ですが……。
 SSM1B(海上自衛隊の艦対艦誘導弾)のようにレーダー網をかいくぐるために海面スレスレを飛んでいる訳でも無い。
 艦隊で防衛システムが構築出来る状況でしたら、例え同時に多数が飛んできても迎撃は可能です。
 ミサイルに関しては大したことがなさそうですね。見た目と格好は良いのですが。
 迎撃に関してはそうなのですが、少し気になることが……」

「単発の威力が大きすぎる……か?」

「はい」

「確かに、今回グラ・バルカス帝国の艦艇はそのすべてがたったの1発、戦艦でさえもすべて1発で轟沈している。 兵器は敵の兵器に対応して作られる。
 神聖ミリシアル帝国は、これほどまでの高威力兵器を作る必要性を感じたという事だ。
 となると、従来の対艦誘導弾では対応出来ない敵がいる可能性も捨てきれない。
 いったい……何を想定しているのだ」

 日高は、帽子をかぶり直す。
 後々復活すると言われている全人類の敵、古の魔法帝国と衝突する可能性を考え、気を引き締めるのだった。

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