2021年08月21日

第117話列強国の意地2P4


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 中央第2艦隊 旗艦 コルネフォロス

「敵艦から攻撃来ます!!」

 地球よりも大きいこの惑星は、空気が澄んでいると遙か遠くまで見通せる。
 それでも100kmもの距離は見えない。

 しかし、大きな青色のオーラのようなものを身に纏い、長い尾を引いた物体が3つ、高空に上がる様は、はっきりと見えた。
 間違いなく敵の攻撃だと判断した見張り員は伝令管に向かって声を張り上げる。

「この距離で撃ってきたのかっ!!」

 あり得ないほどの長距離での砲撃は、僅かに転進するだけで避ける事が出来るため、例え届いたとしても無誘導であれば全く脅威は無い。
 敵もそれを解っているはずだった。

「まさかっ!!誘導弾かっ!!!対空戦闘用意!!」

「対空戦闘よーい!!」

 兵達は走り回り、対空機関砲の準備を開始した。
 青いオーラを纏う兵器、やがて尾の部分が見えなくなり、丸く空に停止しているようにも見え始めた。

「直撃コースかっ!!!」

 上空で止まった点のように見える場合、砲弾であれば直撃コースを取っている事が多い。 艦隊は司令官の指示で右に旋回する。

 しかし……。

「弾が向きを変えている!!やはり誘導弾だっ!!!」

 艦隊からは対空砲火が放たれる。
 連続して発射される曳光弾は、空に多くの火線を引いた。
 敵の誘導弾は徐々にはっきりと見え始め、前を走る戦艦フノールへ一直線に降下した。

「だめだっ!!当たる!!!」

 アケイルは叫ぶ。
 敵の誘導弾は真ん中に本体があり、光りのオーラに包まれて青い尾を引いて天から真っ直ぐにフノールへ落下していく。
 キィィィィンといった甲高い音が先に聞こえ、光りはフノールへと落ちていった。

 猛烈な光りと爆発が戦艦フノールを直撃する。

「ああっ!!」

 神聖ミリシアル帝国オリハルコン級魔導戦艦コスモの放った艦対艦誘導魔光弾「天の火」は、戦艦フノール主砲塔部分に上空から直撃した。
 超高速魔導性流体と化したコア前部は鋼鉄の金属を貫き、内部に至る。
 内部に突入したコアの後部は爆裂魔法による爆縮で魔力融合反応を起こし、膨大なエネルギーが出現した。
 その力は凄まじく、まるで戦艦の装甲が紙であるかのように鋼鉄を吹き飛ばし、付近の海水も吹き飛ばす。
 猛烈な光と爆風が出現し、戦艦の何十倍はあろうかと思われる爆発が現れた。

「のわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 アケイルは反射的に身を屈める。
 戦場に出現した猛烈な爆発。
 巻き上げられた水と共に、艦橋すらももげて空中に放り出される。
 やがて上がった水が海に落ちる頃、戦艦フノールの姿は海面上から消えていた。
 
「フノール轟沈!!」

「まずい!!まずいぞっ!!!」

 艦隊司令アケイルは為す術も無く、嘆く。
 さらに攻撃は降り注ぎ、続いて右を走っていた戦艦マジャールに直撃した。

「なんて威力だ!!戦艦の防御力が意味をなしていないではないかっ!!」

 たったの1撃で蒸発しているのではないかと思われるほどの威力に、アケイルはどうしようも無い無力感にさいなまれる。
 爆発力はグレードアトラスターの主砲や、日本軍の誘導弾の比では無い。
 まさに、神の怒りの如き圧倒的な爆発だった。

「戦艦マジャール轟沈!!!」

「な……な……何てことダッ!!!」

 たったの1発で数千人が運用して来た艦艇が消滅する。
 たったの1発当たると確実に数千の死者が出る。
 背筋に悪寒が走った。

 キィィィィンーーー

 戦場にこだまする甲高い音。
 アケイルはまるで死に神の笛のようにも感じる。

 対空火砲の轟音。
 様々な砲が火を噴くが、敵の誘導弾には全く当たっていない。
 技術力の差はそのまま戦力の差に直結する。

「だめだっ!!ぶつかる!!!!」

 誰かが叫んだ。
 次の瞬間、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊旗艦 オリオン級戦艦コルネフォロスに誘導魔光弾が直撃。
 艦を包み込む猛烈な光り爆発は、一瞬で戦艦を引き裂いた。
 艦艇に乗っていた火薬は誘爆し、爆発は威力を増す。

 数々の戦歴を残すグラ・バルカス帝国中央第2艦隊旗艦コルネフォロスは艦隊司令アケイル、艦長イライガ、その他様々な人生を歩んできた多くの兵達と共にこの世を去った。


 艦隊の主力である戦艦を失った後のグラ・バルカス帝国海軍の最後は壮絶であった。
 巡洋艦1隻が誘導魔光弾で消滅し、残りの巡洋艦3隻と駆逐艦3隻は、威力を増した魔導砲によるアウトレンジ砲撃で海の藻屑と化す。

 この日、神聖ミリシアル帝国 オリハルコン級戦艦コスモはただ1隻で、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻を撃沈した。
 この戦いは、日本国の最新鋭護衛艦をもってしても不可能な偉業として後日、帝国が広報したことから情報が世界中を駆け巡り、神聖ミリシアル帝国は落ちかけていた威信を取り戻す事となる。

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第117話列強国の意地2P3


◆◆◆

 神聖ミリシアル帝国 オリハルコン級魔導戦艦 コスモ

「総員戦闘配置、総員戦闘配置」

 無機質な女性オペレーターの声が艦橋に響いた。
 遙か未来を思わせる艦橋には、様々なディスプレイが何も無いはずの空間に映し出される。

「魔導機関出力安定、魔光呪発式2段燃焼サイクルエンジン起動」

 各システムのチェックが行われる。

「装甲強化システム異常なし」

「主砲管制システム異常なし」

「誘導魔光弾発射筒魔力注入システム異常なし」

「誘導魔光弾管制システム異常なし」

「魔法力電力変換システム異常なし。誘導電波準備完了」

 異常なしの号令と共に、艦長席前の各システムを表示した部分が青く輝く。

「敵との距離、100kmを切りました」

 艦長イレイザは海の先を睨む。
 
「『天の火』の準備を行え!!目標、敵戦艦3!!」

「了解、対艦誘導魔光弾『天の火』、3発発射準備開始。
 発射筒への魔力回路開放、コアへ魔力充電開始。
 魔法種別、電1、空2、炎3、爆4……。
 エネルギー充填70%……80%……100%!!!」

 誘導魔光弾を示す光点が準備完了の緑色に光り輝く。

「対艦式誘導魔光弾でこのエネルギー充填速度とは……なんという出力か!!」

 主砲や装甲強化に比べても多くの魔力を使用する誘導魔光弾。
 艦長の横に立つタキオンは充填速度の速さに驚きの声を上げる。

「エネルギー充填完了!!続いて対象座標入力……入力完了!!」

「相対速度計算開始………計算完了」

 概ねの敵艦の位置、速度、相対速度が入力されていく。

「全システム異常なし、誘導魔光弾発射準備完了!!!!」

 艦長イレイザはタキオンを向く。

「タキオン司令、敵を殲滅してよろしいですな?」

「もちろんだ」

 イレイザは前を向き、大きな声で言い放つ。

「これより、歴史的な戦いが始まる!!我が神聖ミリシアル帝国は愚かなる悪の帝国へ神罰を降す!!
 天の火を……悪魔に落とせ!!!」

「天の火、発射!!!」

 ガッ   キィィィィィーー!!!

 魔導戦艦コスモに備え付けられた誘導魔光発射筒の上部に青い爆発が起こり、甲高い音と共に魔光弾が発射された。
 中心に魔力をとどめるコアを持ち、コアの周辺が青く輝く。
 コアの下からは青い光りの尾を引いた。
 神聖ミリシアル帝国が天の火と称したそれは、空に向かって駆け上がっていった。 
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第117話列強国の意地2P2

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 中央第2艦隊 旗艦 オリオン級戦艦 コルネフォロス

 艦隊司令アケイルは残存艦隊を見渡し、歯ぎしりをしていた。
 普段は美しい海と艦隊の優美さにほれぼれとするところだが、先ほどまでの戦闘とこれから戦うであろう相手の事を考えると美しい海も、天国へ誘う魔の海のように見える。

 艦隊としては戦艦3、巡洋艦4、駆逐艦4を残しているとはいえ、空母は壊滅しているため、空母機動部隊としての戦力は損失したと言って差し支えない。
 さらに、駆逐艦1隻を沈められた艦を救助用に残してきたため、実質的戦力は10隻。
 対して敵は日本国と神聖ミリシアル帝国の連合艦隊33隻。
 今までの日本国軍の強さを考えると戦力比は明らかだった。
 死の行軍……。

「お……おのれ……」

 万全の体制ならば良いが、戦力を欠いた状態での行軍。
 特に日本国の誘導弾を撃たれたらあっさりと終わる現実に、アケイルは怒りと恐怖がこみ上げて来ていた。

「失礼します。敵から通信が入っております」

「通信……だと??」

 かつて敵空中要塞と戦った者達が、戦いの前に通信が来たと言っていた事がある。
 返信するとこちらの位置を晒してしまう可能性があったため、無視することにした。

 繰り返される敵からの無線は、やがてこちらの座標を特定し、そこを航行しているグラ・バルカス帝国海軍10隻とまでの注釈まで着く。
 こちらの位置が完全に特定されており、話しを聞くことにする。

「……通信をつなげ」

「はっ!!」

 戦場における無線のやりとり。つくづく異世界だと考えながら、艦隊司令アケイルは通信を開始する。

「私はグラ・バルカス帝国中央第2艦隊 艦隊司令アケイルである。
 何の用だ?」

 アケイルはぶっきらぼうに話す。

『やっと繋がったか。
 私は神聖ミリシアル帝国 混成魔導艦隊デス・バール 艦隊司令タキオンである。
 航行中のグラ・バルカス帝国艦隊に告げる。
 我とお前たちの戦力比は明らかである。艦隊ごと降伏せよ。
 降伏せぬ場合、逃げる事すら許さずにお前たちを全滅させる。
 一人残らずな……これは神聖ミリシアル帝国皇帝陛下から、お前たちへの最後の御慈悲だ』

 戦った後の降伏は許さないという強い意思表示だった。

「貴様らの艦隊に、我が栄えあるグラ・バルカス帝国艦隊が負けるとでも思っているのか?
 日本との混成艦隊が相手であっても、我らはお前たちが思っているほど簡単に負ける事はない!!」

『何を言っている?日本国はこの海戦に参加しない。神聖ミリシアル帝国のみで簡単に片が付く程貴様らとは、どうしようもない戦力比が生まれてしまったのだ』

 日本国は参加しない。この言葉にコルネフォロスの艦橋はざわついた。
 敵は何故か神聖ミリシアル帝国艦隊だけで戦おうと申し立てている。
 それが本当か嘘かは解らないが、本当ならば勝機が見えてくる。

「神聖ミリシアル帝国艦隊のみで戦うだと?日本に泣きつかなくて良いのか?
 負けそうになったらすぐに泣きついて、日本に助けを求めるのだろう?
 全世界に、負けそうになったら日本に助けを求めましょうと宣言してはどうだね?」

 アケイルは神聖ミリシアル帝国のプライドを刺激し、挑発した。
 日本国さえ参戦させなければ、例え数で向こうが圧倒していたとしても、神聖ミリシアル帝国艦隊程度ならば戦える。
 決して舐めてはならないが、絶望するほどの相手ではない。
 それなりにダメージを与えたら、撤退しても本国から文句は出ないだろう。

 生き残る道へ艦隊を導くため、あえて敵のプライドを刺激する。

『挑発しているつもりか?阿呆め、お前たち如きに帝国艦隊は出ない』

「何だと?」

 意味不明な言動にアケイルは不審に思う。

『我が国、最新鋭艦かつ混成魔導艦隊旗艦である、このオリハルコン級魔導戦艦コスモたった1隻でお前たち如きの相手は十分だと言っている。
 繰り返す。この1隻だけでお前たちの艦隊をたたきつぶすには十分なのだ。
 我が神聖ミリシアル帝国の技術力を身をもって知る事になるかもしれない事を幸運に思え。
 コスモ……これは降伏せぬ場合、貴様らを殺す事になる超戦艦の名前だ。
 死の寸前まで覚えておけ』
 
 艦隊司令アケイルは一瞬何を言っているのか理解出来ずに艦長イライガを向く。

「イライガ艦長、私は敵の行動が全く理解出来ないのだが、敵は狂ってしまったのか?」

「たったの1隻で我が艦隊10隻に突っ込んでくるなど、いくら単艦として強力であったとしても自殺行為です。
 しかも、艦隊が後ろに控えているにも関わらず、旗艦が突っ込むなど信じられません」

「敵は上司から責められすぎて狂ってしまっているのか?」

 グラ・バルカス帝国の常識からもかけ離れた行動に、彼等は理由を理解出来ずに議論を続ける。

「敵艦隊が参戦すれば、卑怯者と国際社会に発信するとしよう。
 仮に1隻で本当に来るならば、これは好機だ!!!」

 艦隊司令アケイルは、無線を手にする。

「このグラ・バルカス帝国艦隊に、1艦での突入や潔し!!
 降伏は無い。
 我が帝国の強さを誤認したことを悔いて死ね!!!」

『お前たちはやり過ぎた。
 我らに殺される事を光栄に思え。
 この最新鋭かつ超戦艦に負けたのであれば、後世まで言い訳が効くだろう。
 我が艦と戦った事をあの世で自慢すると良い』

 通信は途切れる。
 グラ・バルカス帝国艦隊は艦隊決戦に向けて準備を開始するのだった。


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