第1護衛艦群からの報告を聞いていた防衛省幹部は、三津木と話をしていた。
「まったく、信じられん。空自による攻撃で簡単に撃破できる相手に艦隊決戦。しかも単艦で突入するなんて……」
戦争の常識とはかけ離れた神聖ミリシアル帝国艦隊からの申し出に、防衛省幹部は困惑する。
世界で多くの影響力を持つ帝国の意思は強いため、日本国政府も外交での問題として捕らえ、帝国の意向になるべく沿うような形をとるとの方向性を出した。
「神聖ミリシアル帝国本国の意向があると聞いています。
彼等はグラ・バルカス帝国の戦力は知っているはず……。
おそらく相当な自信があるのでしょう。
神聖ミリシアルの新鋭戦艦の戦力を見定める良い機会、護衛艦を1隻観測用に付けられないか、交渉してみましょう。
本来隠すべき奥の手でしょうが、どうも我々に見せつけたいように思えますし、可能であれば後ほどしっかりと分析したいですね」
防衛省は、護衛艦1隻の同行を要請した。
◆◆◆
ムー大陸西側海域 神聖ミリシアル帝国 混成魔導艦隊デス・バール 旗艦
オリハルコン級魔導戦艦コスモ
「司令、日本側から、観測用に1隻の護衛艦が同行したいと連絡が入っております」
艦隊司令タキオンは眉間にしわを寄せる。
「……今回は本国からも、日本へ強さを見せつけるように指示が出ている。
しかし、『日本国がいたから勝てた』と、他国に判断される可能性も排除したい。
日本へ、
本戦いは決して手を出さない。
他国に対しても、本戦闘に日本国は手を出していないと公言する。
50km以上離れる、この3点が守れるならば1隻のみなら来ても良いと伝えろ」
「はっ!!」
タキオンの言は日本側へ伝えられた。
当然目視で艦隊自体が見える距離ではないが、護衛艦は各種観測機器を備えており、どんな戦闘が行われているのかは50km程度であれば手に取るように解る。
連絡を受けた日本国では、自衛隊から政府へ迅速に情報伝達され、日本側も了承する。
海上自衛隊第1護衛隊群 第5護衛隊 イージス艦こんごう 1隻が戦艦コスモの50km後ろを追尾する事となった。
魔導戦艦コスモ 艦橋
「イレイザ艦長!!」
タキオンは艦長イレイザに話しかける。
「はい」
タキオンはにやりと笑う。
「………やっと雪辱を果たす事が出来るな」
思いを巡らす。
神聖ミリシアル帝国は最強だった。
把握されている世界の内、3つの文明圏の頂点に立ち、古を魔法帝国の研究を加速した結果、他国と隔絶した力を持つに至る。
蛮族が戦をしかけてくる事はあったが、連戦連勝を重ね、国際社会で圧倒的な地位を築いていった。
しかし、西の大地より転移国家、グラ・バルカス帝国が現れる。
彼等はあっさりと第2文明圏列強レイフォルを降し、瞬く間に支配領域を広げていった。 あげくの果てに、神聖ミリシアル帝国の主催する世界会議を奇襲、我が国最強の艦隊であった第零式魔導艦隊でさえ相打ちとなり、実質的に破れ去った。
国の威信を駆けた反攻作戦は古代兵器まで投入するも失敗。
グラ・バルカス帝国は誰もが勝てない相手だと考え始める国も現れた。
そんな不安が蔓延する中、東の島国、日本国が現れてグラ・バルカス帝国に連戦連勝し、他国の不安を払拭、期待と信頼を一気に集めた。
多くの国は神聖ミリシアル帝国に期待しなくなっていき、日本国の存在感は日々強くなるばかりである。
そんな中、帝国で最新鋭艦であるオリハルコン級戦艦が完成した。
オリハルコン合金を使用したそれは船体から兵器に至るまで酷く高価であり、艦隊が買えるのでは無いかと思われるほどの金が投入された。
連敗と国家の威信低下が軍と経済界、そして皇帝陛下を動かし、従来案より遙かに強化されるに至る。
繰り返される試験の中、その強さは海軍将校の度肝を抜き、絶対の信頼を得た。
当初の想定性能よりも大幅に強化されたオリハルコン級戦艦は、神聖ミリシアル帝国の期待を背負って本作戦に投入される事となる。
「イレイザ艦長、10隻もの敵が相手だが……出来るな?」
「はい。このオリハルコン級魔導戦艦の力は今までの戦艦を圧倒しております。
必ずや圧倒的勝利を皇帝陛下にお届けし、そこで見ている日本国の度肝を抜いてやります」
「楽しみだな」
神聖ミリシアル帝国の期待を背負い、魔導戦艦コスモは西へ向かう。
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