2021年08月21日

第117話列強国の意地2P7

「お………」

「う………」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉっ!!!!!!!」

 酒場は大いに沸き立った。

 満面の笑みになった小汚い親父が、受信機をしまいながら話す。

「どうだ?お前ら??酒のつまみになる話しだろう?」

「あれか?まもなく沖合に神聖ミリシアル帝国と、日本国?だったかの連合艦隊が現れるってことだろう?」

「つまりグラ・バルカス帝国はたたき出されるってこった!!」

「おうおうおう、酒が美味いぜぇ!!」

「おやじ、酒だ酒だ!!!こんな美味い話しはねぇ。
 今日は俺のおごりだぁ!!!」

 気の大きくなった酔っぱらい達は大いに盛り上がるのだった。
 作業員ブライツも、久々の美酒に酔いしれる。
 決して勝てることの無いと思っていた帝国の敗北は、ブライツの心を大いに奮い立たせる。

 そして、来るべきグラ・バルカス帝国戦で国家を……レイフォルを取り戻すため、全力を尽くす事を心の中で誓うのだった。
 
 後日、ブライツはレイフォルを救うため、対グラ・バルカス帝国組織と情報交換を密にし、来たるべき日のために準備を開始するのだった。

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第117話列強国の意地2P6

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国レイフォル地区 レイフォリア

「はあっ、はあっ。今日も疲れたなぁ」

 工場作業員ブライツは、今日もへとへとになりながら酒場にたどり着いた。
 明日は久々の休日であり、今日は酒でも飲んで嫌なことを忘れて寝よう。
 人生の唯一の楽しみだった。

 グラ・バルカス帝国の統治となった後、奴隷のように朝から晩まで労働を強要される。
 王宮騎士団に所属していた事は過去の栄光となり、今はただの作業員として日々帝国の奴隷として働く。

 帝国は強く、神聖ミリシアル帝国でさえも押されている。
 抜け出ることの無い閉塞感はレイフォル全体に及び、無気力な国民が増産されていた。

 レイフォルの民はグラ・バルカス帝国には絶対に勝てない。
 一時優勢になっても最後には負ける。

 ブライツも、対グラ・バルカス帝国組織に属していたが、決定的な戦力比があるため、実質的活動を行うことが出来ず、全く動く事が出来なかった。

 そんな人生でも、唯一酒場は楽しい場所だ。
 居酒屋『列強酒』まだレイフォルが列強国だった頃に作られた酒場の名前が今も残っている。
 その店名も、過去の栄光を思い出し、抜け出ることの無い閉塞感を少しは緩和することが出来る。
 酒を飲むと暴れる者も多いため、グラ・バルカス帝国人は酒場にはなかなか近づかなかった。
 
「おやじ、エールをたのむ」

「へい!!」

 氷魔法で冷されたエールが運ばれてくる。
 レイフォルのエールは国の特産品であり、ムー大陸でも美味いと評判だった。
 その1杯は、疲れた体に染み渡る。

「くーっ!!うめぇ。悪魔的に美味い!!!」

 今日も酔っ払いどもが話しをしている。
 彼等の話の中で、沸騰している話題。
 グラ・バルカス帝国の大規模統合基地ラルス・フィルマイナが空からの攻撃によって徹底的に破壊しつくされた事だった。

 基地で働いていたレイフォル人も巻き込まれて死者は出ていたが、戦争で死者が出ることがあたりまえの世界であり、犠牲者は貴い犠牲であると皆考える。
 グラ・バルカス帝国がレイフォル人の目の前で徹底的にたたきつぶされた事は、彼等にとって希望の光であった。

 情報統制の効いたレイフォルでは、グラ・バルカス帝国艦隊が日本国護衛隊群に破れた事すら多くの者には知られておらず、また、日本国の存在すら知らない国民も多かった。 酒場にやってきた作業員ブライツも、日本国のロウリア王国を降した国として知っていたが、グラバルカス帝国との大規模海戦は知らない。

 グラ・バルカス帝国にもたらされた圧倒的な破壊、それが何者によって成されたのかは解らないため、酔っ払いどもの推測は続いていた。
 そんな中……。

「知ってたか?今日神聖ミリシアル帝国から重大な発表があるそうだぞ。
 帝国の民間放送でニュースになる予定だ」

 顔中煤けた小汚いエルフの親父が、汚れたバッグから30センチメートル四方の箱を取り出す。

「お……おまえっ!!それは魔導波受信機じゃないかっ!!帝国に見つかったら酷い目にあうぞっ!!!」

 周波数の調整機能が入った魔導波受信機、民間の映像用、音声用はもちろんの事、軍用魔導波までもが傍受出来る優れものだった。
 列強時代でさえ、そうそうお目にかかれる者では無い。
 小汚い親父に見えるが、昔は名のある者だったのかもしれない。

「知ったことか、これほどまでに主力基地が破壊されたんだ。今頃右往左往してる事だろうさ。
 忙しすぎて、人員を割く余裕はない。どうせここには奴らは来やしないよ。
 つまらん人生を歩むくらいなら、美味い酒のつまみになる情報でも得ようじゃ無いか。
 おまえら重大発表聞きたくないか?
 間もなく始まるらしいぞ?」

「おれ……聞きたい」

「俺も」

「よし!!店の入り口を閉めろ!!」

 店主も乗ってくる。

 小汚い親父エルフは、受信機をセットした。
 音声出力を上げて、酒場の者達に聞こえるようにする。

「間もなく始まるぞ」

 酔っ払いどもは耳を澄ます。

『ガ…ガガガガ……』

 周波数を拾い、軽快な音楽が流れ始める。

「お?始まったぞ」

「しーっ!!聞こえない!!」

『ニュースの時間です。軍によりますと、本日未明、ムー大陸西側海域において、神聖ミリシアル帝国の最新鋭戦艦であるオリハルコン級戦艦1隻が、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻と戦闘いたしました。
 敵艦隊10隻の内訳は戦艦3,巡洋艦4、駆逐艦3となります。
 戦闘の推移について、間もなく軍部記者発表が行われます。
 生中継でお伝えします』

 生中継への切り替えに、多少の時間を要す。

「ムー大陸西側って、近いんだろうな」

「10対1か……いくら神聖ミリシアル帝国でも厳しすぎるだろ。
 我がレイフォル艦隊は、主力艦隊が敵の1隻に敗退している。それほどまでに奴らは強いという事だ」

「しかし、わざわざ記者発表するぐらいだ。多対1でも善戦したんじゃないか?」

 酔っ払いどもは様々な憶測を流す。

『パシャッ……パシャパシャパシャパシャッ』

 音声だけなのでいまいちピンとこないが、魔写の音だろう。

『んんっ!!うん……うん……』

 おっさんの咳払いが聞こえる。

『これより、報道発表をいたします。
 本日未明、神聖ミリシアル帝国海軍 タキオン率いる混成魔導艦隊デス・バール の旗艦、オリハルコン級魔導戦艦コスモ が、ムー大陸西方海域において、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻と戦闘状態に突入いたしました。
 オリハルコン級魔導戦艦は最新鋭艦であり、司令官のタキオンはこの規模のグラ・バルカス帝国艦隊程度であれば、1隻で十分と判断したため、1対10での決戦になりました』

 記者会見場がざわつく。
 文明圏外国家と1対10は列強国ならば良くある話しなのかもしれない。 
 しかし、相手はあのグラ・バルカス帝国の本国艦隊である。

『オリハルコン級魔導戦艦のスペック詳細は公表しかねますが、同艦艇には高威力の誘導魔光弾が登載されています。
 この誘導魔光弾も、本戦いには投入されました。
 結論から言うと、戦艦コスモは1発も被弾する事無く、敵艦隊をたったの1隻で葬り去りました。
 今まで手こずっていた相手ですが、我が軍の技術革新により、同国の艦隊規模であってもたったの1隻で葬り去る事が出来る事が証明されました。
 単艦での戦闘能力は他国を陵駕していることは言うまでもありません。
 追加で申し上げるなら、この世界に同じ事が出来る艦艇を持つ国は無いと、断言出来ます』

 名指しはしないものの、遠回しに日本国でも同じ事は出来ないと伝える。

『同艦隊の消滅により、グラ・バルカス帝国はムー大陸周辺海域の制海権を失っています。 間もなく、神聖ミリシアル帝国と、日本国の連合艦隊はレイフォル国の首都レイフォリアの沖合まで到達するでしょう。
 以上、報道発表を終わり……』

『し……質問です!!
 第2文明圏ムーの読読新聞記者です。
 誘導魔光弾は古の魔法帝国の使用したロストテクノロジーでは無いのですか?
 神聖ミリシアル帝国ではこれを実用化しているのでしょうか?』

『詳細は報道文でお知らせしますが……そうですね、回答いたしましょう。
 神聖ミリシアル帝国は、誘導魔光弾の実用化し実戦配備をいたしました。
 残りは後ほど報道文を見て判断して頂きたい』

 神聖ミリシアル帝国の報道発表は、日本国のように記者の質問に答え続けるような性質のものではないため、このような会見となった。
 会見は終わり、女性キャスターが話し始める。 

『なんということでしょう。
 神聖ミリシアル帝国軍は、誘導魔光弾を実用化し、実戦配備を行っています。
 また、ムー大陸周辺での制海権はグラ・バルカス帝国には無いと発表しています。
 世界にこのような事が出来る艦艇を持つ国は無いとの事でしたが、これは日本国であっても同じ事を出来る艦は無いという意味でしょうか?』

 女性キャスターの質問に、男性キャスターが話し始める

『そうですね。
 日本国は、グラ・バルカス帝国海軍に比べて数は少ないのですが、性能比で強力な艦隊を持っています。
 それでもなお同じ事は出来ない。と言った意味と思われます』

『まもなくレイフォリア沖合へ到達するという事は、レイフォル奪還が近づいているという事でしょうか?』

『制空権が無ければ制海権を取れない時代です。
 つまり、制空権、制海権を握ったという事であれば、次は奪還作戦が近いという事だと思います』

 キャスター達の議論が続き、ニュースは終了した。

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第117話列強国の意地2P5

◆◆◆

 イージス艦こんごう

 1つの海戦が終わった。
 同行していた護衛艦こんごうのCICルームで艦長日高は砲術長と話しをしていた。

「もしも敵が、神聖ミリシアル帝国の誘導魔光弾と同等の兵器を使用した場合、迎撃できそうか?」

 日高は砲術長に問う。

「今回の戦いで解った事は、神聖ミリシアル帝国のミサイル様のものは、放物線を描いて亜音速で飛翔し、垂直落下時も音速を超える事はありませんでした。
 速度が遅く放物線を描くため飛翔距離は長くなり、発射から命中まで十分な時間が確保されます。
 それなりの大きさがあり、レーダー反射面積も大きく、ステルス性も無い。
 妨害電波も出ていませんでした」

 砲術長は続ける。

「イージス艦に乗っていながらあれを迎撃出来ない者は海上自衛隊にはいないでしょう。
 ミサイル本体が物理的に硬すぎて迎撃ミサイルが効かないなら話は別ですが……。
 SSM1B(海上自衛隊の艦対艦誘導弾)のようにレーダー網をかいくぐるために海面スレスレを飛んでいる訳でも無い。
 艦隊で防衛システムが構築出来る状況でしたら、例え同時に多数が飛んできても迎撃は可能です。
 ミサイルに関しては大したことがなさそうですね。見た目と格好は良いのですが。
 迎撃に関してはそうなのですが、少し気になることが……」

「単発の威力が大きすぎる……か?」

「はい」

「確かに、今回グラ・バルカス帝国の艦艇はそのすべてがたったの1発、戦艦でさえもすべて1発で轟沈している。 兵器は敵の兵器に対応して作られる。
 神聖ミリシアル帝国は、これほどまでの高威力兵器を作る必要性を感じたという事だ。
 となると、従来の対艦誘導弾では対応出来ない敵がいる可能性も捨てきれない。
 いったい……何を想定しているのだ」

 日高は、帽子をかぶり直す。
 後々復活すると言われている全人類の敵、古の魔法帝国と衝突する可能性を考え、気を引き締めるのだった。

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第117話列強国の意地2P4


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 中央第2艦隊 旗艦 コルネフォロス

「敵艦から攻撃来ます!!」

 地球よりも大きいこの惑星は、空気が澄んでいると遙か遠くまで見通せる。
 それでも100kmもの距離は見えない。

 しかし、大きな青色のオーラのようなものを身に纏い、長い尾を引いた物体が3つ、高空に上がる様は、はっきりと見えた。
 間違いなく敵の攻撃だと判断した見張り員は伝令管に向かって声を張り上げる。

「この距離で撃ってきたのかっ!!」

 あり得ないほどの長距離での砲撃は、僅かに転進するだけで避ける事が出来るため、例え届いたとしても無誘導であれば全く脅威は無い。
 敵もそれを解っているはずだった。

「まさかっ!!誘導弾かっ!!!対空戦闘用意!!」

「対空戦闘よーい!!」

 兵達は走り回り、対空機関砲の準備を開始した。
 青いオーラを纏う兵器、やがて尾の部分が見えなくなり、丸く空に停止しているようにも見え始めた。

「直撃コースかっ!!!」

 上空で止まった点のように見える場合、砲弾であれば直撃コースを取っている事が多い。 艦隊は司令官の指示で右に旋回する。

 しかし……。

「弾が向きを変えている!!やはり誘導弾だっ!!!」

 艦隊からは対空砲火が放たれる。
 連続して発射される曳光弾は、空に多くの火線を引いた。
 敵の誘導弾は徐々にはっきりと見え始め、前を走る戦艦フノールへ一直線に降下した。

「だめだっ!!当たる!!!」

 アケイルは叫ぶ。
 敵の誘導弾は真ん中に本体があり、光りのオーラに包まれて青い尾を引いて天から真っ直ぐにフノールへ落下していく。
 キィィィィンといった甲高い音が先に聞こえ、光りはフノールへと落ちていった。

 猛烈な光りと爆発が戦艦フノールを直撃する。

「ああっ!!」

 神聖ミリシアル帝国オリハルコン級魔導戦艦コスモの放った艦対艦誘導魔光弾「天の火」は、戦艦フノール主砲塔部分に上空から直撃した。
 超高速魔導性流体と化したコア前部は鋼鉄の金属を貫き、内部に至る。
 内部に突入したコアの後部は爆裂魔法による爆縮で魔力融合反応を起こし、膨大なエネルギーが出現した。
 その力は凄まじく、まるで戦艦の装甲が紙であるかのように鋼鉄を吹き飛ばし、付近の海水も吹き飛ばす。
 猛烈な光と爆風が出現し、戦艦の何十倍はあろうかと思われる爆発が現れた。

「のわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 アケイルは反射的に身を屈める。
 戦場に出現した猛烈な爆発。
 巻き上げられた水と共に、艦橋すらももげて空中に放り出される。
 やがて上がった水が海に落ちる頃、戦艦フノールの姿は海面上から消えていた。
 
「フノール轟沈!!」

「まずい!!まずいぞっ!!!」

 艦隊司令アケイルは為す術も無く、嘆く。
 さらに攻撃は降り注ぎ、続いて右を走っていた戦艦マジャールに直撃した。

「なんて威力だ!!戦艦の防御力が意味をなしていないではないかっ!!」

 たったの1撃で蒸発しているのではないかと思われるほどの威力に、アケイルはどうしようも無い無力感にさいなまれる。
 爆発力はグレードアトラスターの主砲や、日本軍の誘導弾の比では無い。
 まさに、神の怒りの如き圧倒的な爆発だった。

「戦艦マジャール轟沈!!!」

「な……な……何てことダッ!!!」

 たったの1発で数千人が運用して来た艦艇が消滅する。
 たったの1発当たると確実に数千の死者が出る。
 背筋に悪寒が走った。

 キィィィィンーーー

 戦場にこだまする甲高い音。
 アケイルはまるで死に神の笛のようにも感じる。

 対空火砲の轟音。
 様々な砲が火を噴くが、敵の誘導弾には全く当たっていない。
 技術力の差はそのまま戦力の差に直結する。

「だめだっ!!ぶつかる!!!!」

 誰かが叫んだ。
 次の瞬間、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊旗艦 オリオン級戦艦コルネフォロスに誘導魔光弾が直撃。
 艦を包み込む猛烈な光り爆発は、一瞬で戦艦を引き裂いた。
 艦艇に乗っていた火薬は誘爆し、爆発は威力を増す。

 数々の戦歴を残すグラ・バルカス帝国中央第2艦隊旗艦コルネフォロスは艦隊司令アケイル、艦長イライガ、その他様々な人生を歩んできた多くの兵達と共にこの世を去った。


 艦隊の主力である戦艦を失った後のグラ・バルカス帝国海軍の最後は壮絶であった。
 巡洋艦1隻が誘導魔光弾で消滅し、残りの巡洋艦3隻と駆逐艦3隻は、威力を増した魔導砲によるアウトレンジ砲撃で海の藻屑と化す。

 この日、神聖ミリシアル帝国 オリハルコン級戦艦コスモはただ1隻で、グラ・バルカス帝国中央第2艦隊10隻を撃沈した。
 この戦いは、日本国の最新鋭護衛艦をもってしても不可能な偉業として後日、帝国が広報したことから情報が世界中を駆け巡り、神聖ミリシアル帝国は落ちかけていた威信を取り戻す事となる。

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第117話列強国の意地2P3


◆◆◆

 神聖ミリシアル帝国 オリハルコン級魔導戦艦 コスモ

「総員戦闘配置、総員戦闘配置」

 無機質な女性オペレーターの声が艦橋に響いた。
 遙か未来を思わせる艦橋には、様々なディスプレイが何も無いはずの空間に映し出される。

「魔導機関出力安定、魔光呪発式2段燃焼サイクルエンジン起動」

 各システムのチェックが行われる。

「装甲強化システム異常なし」

「主砲管制システム異常なし」

「誘導魔光弾発射筒魔力注入システム異常なし」

「誘導魔光弾管制システム異常なし」

「魔法力電力変換システム異常なし。誘導電波準備完了」

 異常なしの号令と共に、艦長席前の各システムを表示した部分が青く輝く。

「敵との距離、100kmを切りました」

 艦長イレイザは海の先を睨む。
 
「『天の火』の準備を行え!!目標、敵戦艦3!!」

「了解、対艦誘導魔光弾『天の火』、3発発射準備開始。
 発射筒への魔力回路開放、コアへ魔力充電開始。
 魔法種別、電1、空2、炎3、爆4……。
 エネルギー充填70%……80%……100%!!!」

 誘導魔光弾を示す光点が準備完了の緑色に光り輝く。

「対艦式誘導魔光弾でこのエネルギー充填速度とは……なんという出力か!!」

 主砲や装甲強化に比べても多くの魔力を使用する誘導魔光弾。
 艦長の横に立つタキオンは充填速度の速さに驚きの声を上げる。

「エネルギー充填完了!!続いて対象座標入力……入力完了!!」

「相対速度計算開始………計算完了」

 概ねの敵艦の位置、速度、相対速度が入力されていく。

「全システム異常なし、誘導魔光弾発射準備完了!!!!」

 艦長イレイザはタキオンを向く。

「タキオン司令、敵を殲滅してよろしいですな?」

「もちろんだ」

 イレイザは前を向き、大きな声で言い放つ。

「これより、歴史的な戦いが始まる!!我が神聖ミリシアル帝国は愚かなる悪の帝国へ神罰を降す!!
 天の火を……悪魔に落とせ!!!」

「天の火、発射!!!」

 ガッ   キィィィィィーー!!!

 魔導戦艦コスモに備え付けられた誘導魔光発射筒の上部に青い爆発が起こり、甲高い音と共に魔光弾が発射された。
 中心に魔力をとどめるコアを持ち、コアの周辺が青く輝く。
 コアの下からは青い光りの尾を引いた。
 神聖ミリシアル帝国が天の火と称したそれは、空に向かって駆け上がっていった。 
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第117話列強国の意地2P2

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 中央第2艦隊 旗艦 オリオン級戦艦 コルネフォロス

 艦隊司令アケイルは残存艦隊を見渡し、歯ぎしりをしていた。
 普段は美しい海と艦隊の優美さにほれぼれとするところだが、先ほどまでの戦闘とこれから戦うであろう相手の事を考えると美しい海も、天国へ誘う魔の海のように見える。

 艦隊としては戦艦3、巡洋艦4、駆逐艦4を残しているとはいえ、空母は壊滅しているため、空母機動部隊としての戦力は損失したと言って差し支えない。
 さらに、駆逐艦1隻を沈められた艦を救助用に残してきたため、実質的戦力は10隻。
 対して敵は日本国と神聖ミリシアル帝国の連合艦隊33隻。
 今までの日本国軍の強さを考えると戦力比は明らかだった。
 死の行軍……。

「お……おのれ……」

 万全の体制ならば良いが、戦力を欠いた状態での行軍。
 特に日本国の誘導弾を撃たれたらあっさりと終わる現実に、アケイルは怒りと恐怖がこみ上げて来ていた。

「失礼します。敵から通信が入っております」

「通信……だと??」

 かつて敵空中要塞と戦った者達が、戦いの前に通信が来たと言っていた事がある。
 返信するとこちらの位置を晒してしまう可能性があったため、無視することにした。

 繰り返される敵からの無線は、やがてこちらの座標を特定し、そこを航行しているグラ・バルカス帝国海軍10隻とまでの注釈まで着く。
 こちらの位置が完全に特定されており、話しを聞くことにする。

「……通信をつなげ」

「はっ!!」

 戦場における無線のやりとり。つくづく異世界だと考えながら、艦隊司令アケイルは通信を開始する。

「私はグラ・バルカス帝国中央第2艦隊 艦隊司令アケイルである。
 何の用だ?」

 アケイルはぶっきらぼうに話す。

『やっと繋がったか。
 私は神聖ミリシアル帝国 混成魔導艦隊デス・バール 艦隊司令タキオンである。
 航行中のグラ・バルカス帝国艦隊に告げる。
 我とお前たちの戦力比は明らかである。艦隊ごと降伏せよ。
 降伏せぬ場合、逃げる事すら許さずにお前たちを全滅させる。
 一人残らずな……これは神聖ミリシアル帝国皇帝陛下から、お前たちへの最後の御慈悲だ』

 戦った後の降伏は許さないという強い意思表示だった。

「貴様らの艦隊に、我が栄えあるグラ・バルカス帝国艦隊が負けるとでも思っているのか?
 日本との混成艦隊が相手であっても、我らはお前たちが思っているほど簡単に負ける事はない!!」

『何を言っている?日本国はこの海戦に参加しない。神聖ミリシアル帝国のみで簡単に片が付く程貴様らとは、どうしようもない戦力比が生まれてしまったのだ』

 日本国は参加しない。この言葉にコルネフォロスの艦橋はざわついた。
 敵は何故か神聖ミリシアル帝国艦隊だけで戦おうと申し立てている。
 それが本当か嘘かは解らないが、本当ならば勝機が見えてくる。

「神聖ミリシアル帝国艦隊のみで戦うだと?日本に泣きつかなくて良いのか?
 負けそうになったらすぐに泣きついて、日本に助けを求めるのだろう?
 全世界に、負けそうになったら日本に助けを求めましょうと宣言してはどうだね?」

 アケイルは神聖ミリシアル帝国のプライドを刺激し、挑発した。
 日本国さえ参戦させなければ、例え数で向こうが圧倒していたとしても、神聖ミリシアル帝国艦隊程度ならば戦える。
 決して舐めてはならないが、絶望するほどの相手ではない。
 それなりにダメージを与えたら、撤退しても本国から文句は出ないだろう。

 生き残る道へ艦隊を導くため、あえて敵のプライドを刺激する。

『挑発しているつもりか?阿呆め、お前たち如きに帝国艦隊は出ない』

「何だと?」

 意味不明な言動にアケイルは不審に思う。

『我が国、最新鋭艦かつ混成魔導艦隊旗艦である、このオリハルコン級魔導戦艦コスモたった1隻でお前たち如きの相手は十分だと言っている。
 繰り返す。この1隻だけでお前たちの艦隊をたたきつぶすには十分なのだ。
 我が神聖ミリシアル帝国の技術力を身をもって知る事になるかもしれない事を幸運に思え。
 コスモ……これは降伏せぬ場合、貴様らを殺す事になる超戦艦の名前だ。
 死の寸前まで覚えておけ』
 
 艦隊司令アケイルは一瞬何を言っているのか理解出来ずに艦長イライガを向く。

「イライガ艦長、私は敵の行動が全く理解出来ないのだが、敵は狂ってしまったのか?」

「たったの1隻で我が艦隊10隻に突っ込んでくるなど、いくら単艦として強力であったとしても自殺行為です。
 しかも、艦隊が後ろに控えているにも関わらず、旗艦が突っ込むなど信じられません」

「敵は上司から責められすぎて狂ってしまっているのか?」

 グラ・バルカス帝国の常識からもかけ離れた行動に、彼等は理由を理解出来ずに議論を続ける。

「敵艦隊が参戦すれば、卑怯者と国際社会に発信するとしよう。
 仮に1隻で本当に来るならば、これは好機だ!!!」

 艦隊司令アケイルは、無線を手にする。

「このグラ・バルカス帝国艦隊に、1艦での突入や潔し!!
 降伏は無い。
 我が帝国の強さを誤認したことを悔いて死ね!!!」

『お前たちはやり過ぎた。
 我らに殺される事を光栄に思え。
 この最新鋭かつ超戦艦に負けたのであれば、後世まで言い訳が効くだろう。
 我が艦と戦った事をあの世で自慢すると良い』

 通信は途切れる。
 グラ・バルカス帝国艦隊は艦隊決戦に向けて準備を開始するのだった。


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第117話列強国の意地2P1

日本国 首都 東京 防衛省

 第1護衛艦群からの報告を聞いていた防衛省幹部は、三津木と話をしていた。

「まったく、信じられん。空自による攻撃で簡単に撃破できる相手に艦隊決戦。しかも単艦で突入するなんて……」

 戦争の常識とはかけ離れた神聖ミリシアル帝国艦隊からの申し出に、防衛省幹部は困惑する。
 世界で多くの影響力を持つ帝国の意思は強いため、日本国政府も外交での問題として捕らえ、帝国の意向になるべく沿うような形をとるとの方向性を出した。

「神聖ミリシアル帝国本国の意向があると聞いています。
 彼等はグラ・バルカス帝国の戦力は知っているはず……。
 おそらく相当な自信があるのでしょう。
 神聖ミリシアルの新鋭戦艦の戦力を見定める良い機会、護衛艦を1隻観測用に付けられないか、交渉してみましょう。
 本来隠すべき奥の手でしょうが、どうも我々に見せつけたいように思えますし、可能であれば後ほどしっかりと分析したいですね」

 防衛省は、護衛艦1隻の同行を要請した。

◆◆◆

 ムー大陸西側海域 神聖ミリシアル帝国 混成魔導艦隊デス・バール 旗艦
 オリハルコン級魔導戦艦コスモ

「司令、日本側から、観測用に1隻の護衛艦が同行したいと連絡が入っております」

 艦隊司令タキオンは眉間にしわを寄せる。

「……今回は本国からも、日本へ強さを見せつけるように指示が出ている。
 しかし、『日本国がいたから勝てた』と、他国に判断される可能性も排除したい。
 日本へ、
  本戦いは決して手を出さない。
  他国に対しても、本戦闘に日本国は手を出していないと公言する。
  50km以上離れる、この3点が守れるならば1隻のみなら来ても良いと伝えろ」

「はっ!!」

 タキオンの言は日本側へ伝えられた。
 当然目視で艦隊自体が見える距離ではないが、護衛艦は各種観測機器を備えており、どんな戦闘が行われているのかは50km程度であれば手に取るように解る。
 連絡を受けた日本国では、自衛隊から政府へ迅速に情報伝達され、日本側も了承する。

 海上自衛隊第1護衛隊群 第5護衛隊 イージス艦こんごう 1隻が戦艦コスモの50km後ろを追尾する事となった。


 魔導戦艦コスモ 艦橋
 

「イレイザ艦長!!」

 タキオンは艦長イレイザに話しかける。

「はい」

 タキオンはにやりと笑う。

「………やっと雪辱を果たす事が出来るな」

 思いを巡らす。

 神聖ミリシアル帝国は最強だった。
 把握されている世界の内、3つの文明圏の頂点に立ち、古を魔法帝国の研究を加速した結果、他国と隔絶した力を持つに至る。
 蛮族が戦をしかけてくる事はあったが、連戦連勝を重ね、国際社会で圧倒的な地位を築いていった。
 しかし、西の大地より転移国家、グラ・バルカス帝国が現れる。

 彼等はあっさりと第2文明圏列強レイフォルを降し、瞬く間に支配領域を広げていった。 あげくの果てに、神聖ミリシアル帝国の主催する世界会議を奇襲、我が国最強の艦隊であった第零式魔導艦隊でさえ相打ちとなり、実質的に破れ去った。

 国の威信を駆けた反攻作戦は古代兵器まで投入するも失敗。

 グラ・バルカス帝国は誰もが勝てない相手だと考え始める国も現れた。
 そんな不安が蔓延する中、東の島国、日本国が現れてグラ・バルカス帝国に連戦連勝し、他国の不安を払拭、期待と信頼を一気に集めた。
 
 多くの国は神聖ミリシアル帝国に期待しなくなっていき、日本国の存在感は日々強くなるばかりである。
 
 そんな中、帝国で最新鋭艦であるオリハルコン級戦艦が完成した。
 オリハルコン合金を使用したそれは船体から兵器に至るまで酷く高価であり、艦隊が買えるのでは無いかと思われるほどの金が投入された。

 連敗と国家の威信低下が軍と経済界、そして皇帝陛下を動かし、従来案より遙かに強化されるに至る。
 繰り返される試験の中、その強さは海軍将校の度肝を抜き、絶対の信頼を得た。

 当初の想定性能よりも大幅に強化されたオリハルコン級戦艦は、神聖ミリシアル帝国の期待を背負って本作戦に投入される事となる。

「イレイザ艦長、10隻もの敵が相手だが……出来るな?」

「はい。このオリハルコン級魔導戦艦の力は今までの戦艦を圧倒しております。
 必ずや圧倒的勝利を皇帝陛下にお届けし、そこで見ている日本国の度肝を抜いてやります」

「楽しみだな」

 神聖ミリシアル帝国の期待を背負い、魔導戦艦コスモは西へ向かう。

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posted by くみちゃん at 09:46| Comment(30) | 小説