2021年10月13日

第118話列強国の意地3P6

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 ムー大陸第2文明圏 旧レイフォル 首都レイフォリア 沖合

 沖合に展開する艦隊群。
 中央世界の世界最強たる国家、神聖ミリシアル帝国最新鋭戦艦を含む魔導艦隊と、東の最果てにあり、強烈な技術力を持つムーを超える機械文明国家。日本国海上自衛隊護衛隊群の出現は、レイフォリアの住民に大きな希望を与えた。

 神聖ミリシアル帝国艦隊は、大口径魔導砲でムー侵攻の本拠地、ラルス・フィルマイナを焼き払う準備を進める。

 旗艦たるオリハルコン級戦艦コスモの艦橋で、艦隊司令タキオンと艦長イレイザは話しをしていた。
 艦橋には魔力を凝縮する音が微かに響く。

「ついに、この時が来ましたね」

「このミリシアルの顔に泥を塗った代償を払わせてやろう。
 これから撃つ主砲は歴史に残る一撃、神聖ミリシアル帝国が異界の悪魔を葬り去った最初の一撃として歴史書に刻まれるだろう。
 その仕事にこのコスモは最良の艦だ」

「はっ!!」

『魔導砲、エネルギー充塡100%……爆縮回路準備完了』

『目標をグラ・バルカス帝国レイフォル統合基地ラルス・フィルマイナに設定』

 オリハルコン級魔導戦艦コスモに設置された旋回砲塔がゆっくりと回転を始める。
 旗艦のみではなく、他の神聖ミリシアル帝国艦の主砲も同時に旋回し、敵の基地へと狙いを定めた。
 最新鋭の演算装置が主砲の出力、目標との距離、風速、気圧から着弾地点へ適正に投射出来るかを計算する。

『仰角補正、+2度、主砲発射準備完了!!』

 発射の準備が整う。
 イレイザは艦隊司令タキオンを見る。

「3分経ったな」

「はい」

「殲滅せよ」

「はっ!!」

 艦長は、前を向く。

「目標、グラ・バルカス帝国統合基地ラルス・フィルマイナ……これより、我らに逆らった異界の蛮族どもに神罰を下す!!
 ミリシアルの怒りを思い知らせ!!
 徹底的に破壊しろ!!
 主砲、発射!!!」

 先進的艦影を持つ戦艦コスモの砲塔先からエネルギーが漏れ出し、微かに青く輝く。
 付近の粒子が魔導力に反応して可視化され、光り輝く小さな粒子が砲塔に吸い込まれていくようにも見える。
 次の瞬間、高音と共に主砲が発射された。

 コスモ型魔導戦艦の主砲は物理的コアも発射するため、その反動で微かに巨体の戦艦が傾く。
 三連装3門、計9門の主砲から発射された主砲弾。
 青色の光の尾を引き、主砲弾が空を駆けるのがはっきりと見える。

 他の神聖ミリシアル帝国艦隊も続いて砲撃を開始し、多くの光りがレイフォリアに向かって飛翔していった。

 グラ・バルカス帝国にとって……絶望の宴が始まる。

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第118話列強国の意地3P5


 慌ただしく動き回り、ラルス・フィルマイナからの一時的撤収の指揮を飛ばす司令室。
 ファンターレは艦隊を睨む。

「司令、敵艦が通信を送ってきています」

「そういうことか……」

 どうも、この世界では戦場で通信をしてくる者が多いようだ。
 この世界には、この世界なりのルールがあるのだろう。
 攻撃を受けないよう上手く立ち回れるかもしれない。
 そんなことを考えながら、ファンターレは通信を繋ぐ。

『私は神聖ミリシアル帝国混成魔導艦隊デス・バール 艦隊司令タキオンである。
 神聖ミリシアル帝国皇帝陛下の名において命令する。
 今すぐムー大陸全土のグラ・バルカス帝国軍に武装解除を命しよ。統合基地ラルス・フィルマイナにおいても降伏し、司令室上部に中央世界降伏旗を掲げよ』

 ラルス・フィルマイナだけでも降伏せよと通信してくるかと思いきや、ムー大陸すべてを武装解除せよと言う。
 そんな事が出来る訳がない。
 
 周りを見渡す。
 まだ一部の上層部と通信装置しか撤収が済んでおらず、ほとんどの兵力は統合基地にある。
 彼は策を講じることとした。

「この統合基地ラルス・フィルマイナだけであれば、私の権限で判断できるが、ムー全土となれば、本国に確認する必要がある。
 時間をくれないか?」

 無線の先から微かに聞こえる笑い声。
 その嘲りにも似た笑い声が腹立たしく感じた。

『時間稼ぎか……おおかたその間に陸軍兵力の温存にはいるのだろう?
 実に小賢しい。
 神聖ミリシアル帝国は、そう言い放った物達への回答も決まっている。
 我々は慈悲深い。3分だけ時間をやろう。
 3分以内に回答が無い場合はラルス・フィルマイナ基地に攻撃を加える。第2文明圏を戦乱に巻き込んだ事を悔い、神聖ミリシアル帝国に剣を向けた……愚かなる選択をした祖国を恨みながら死ね』

 3分では何も出来ない。
 車を使用したとしても、この司令所から基地の外までの時間すら足りない。
 双眼鏡で沖合の戦艦を見ると、回転砲塔がゆっくりとこちらを向く。
 
「お前たちもすぐに撤収しろ!!間に合わないと判断したら、地下室へ向かえ!!私は……残る!!」

「司令も撤収するべきです!!」

「良いから行け!!議論している時間が無駄だ。
 この時間はお前たちの命を左右するぞ!!
 私は、栄えある帝国陸軍の司令官として、けじめをつけなくてはならないのだっ!!!」

 ファンターレの気迫は凄まじかった。部下達は、迅速に退室する。

 一人残ったファンターレ。
 彼は双眼鏡で艦隊を見る。

 一番大きな戦艦の回転砲塔がこちらを向いている。
 やがて、3連装の砲の先が青く輝き始めた。

「つくづく異世界だな」

 波一つ無い水面のように、心は穏やかで冷静だった。
 生まれてから今までの思い出が、頭に浮かぶ。
 優しかった母、厳しくも愛情を持って育ててくれた父、脳天気だった妹、そして学生時代の友人達。

 美しい女性との恋、そして結婚。
 どんな時も支えてくれた妻、可愛い3人の子供達。
 思い返せば幸せだった。 

「……あまり、遊んでやれなかったな」

 忙しくも仕事に突っ走り、お世辞にも良い親、良い夫とは言えなかったかもしれない。 このまま家族に何もせず、人生が間もなく終わる。 

「いやだ!!死にたくない!!!」

 急に心が荒ぶり、感情の波が溢れる。
 気付けば涙が頬を伝う。
 周りに部下達はもういない。

「私はまだ家族に……お世話になった方々に恩返しをしていない!!!」

 ただ一人のこされたファンターレ、誰もいないこの空間で、心の底にあった本音が吹き出る。

「私は……私はっ!!こんな所でっ!!こんな事で人生を終わるのは……」

 視線の先で、神聖ミリシアル帝国戦艦の主砲が放たれた。

「ああああぁつ!!!」

 彼が思考を続ける間、敵が待ってくれる訳では無い。

 青い尾を引き、主砲が打ち上がる。放物線を描いてこちらに飛翔してくる悪魔の光。
 彼は複雑な感情をもって、その光りを眺めるのだった。 

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第118話列強国の意地3P4

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国統合基地 ラルス・フィルマイナ

 敵国の艦隊がレイフォリア沖合20数キロメートルという至近距離に現れた。
 陸軍司令ファンターレは、沖合に現れた艦隊を、絶望的な気持ちで眺める。

 彼等の想定よりも早く、イルネティア王国付近に展開していた艦隊は破れた事を痛烈に実感した。

 帝国陸軍の火砲の射程外であり、基地の航空戦力は全滅。
 各地に散らばる残存航空戦力は、未だラルス・フィルマイナの滑走路の準備が整っていなかったため未だこの場にはいない。
 一方的にやられる可能性がある状況下で、何故彼等は撃ってこないのかを疑問にすら感じた。

 途中、敵艦隊は機雷が多くある海域を通ったはずだが、どうやら効果は無かったらしい。
 基地はすでに戦闘態勢に移行し、多くの陸軍軍人の士気は高かったが……。

 戦艦はただ1隻で、空を埋め尽くす爆撃機による航空攻撃と同等の投射力を持つ。

 それが艦隊を成し、沖合に展開している。
 艦砲射撃の投射力は陸軍のそれとは次元が違うため、恐ろしさを知るファンターレは震えが止まらない。
 
「何故……撃ってこない!!!」

 額ににじみ出る玉のような汗、彼は艦隊を睨む。
 自分の生死を決めるボタンを敵が握っていると思うと、吐きそうになった。
 今すぐに基地を放棄して逃げ出したい衝動に駆られるが、すでにダイジェネラ山への兵力は振り分けられていた。
 ここにおいて、ファンターレは戦力を温存する決断をする。

「可能な限り、各部隊は一時的に街中へ移動し、ラルスフィルマイナから遠ざかれ!!!
 残存航空戦力があれば、レイフォル沖合の艦隊を攻撃するよう指示を出せ!!
 ……もっとも、準備を整えて飛んでこれる飛行機は少ないだろうがな……。
 ランボール、すぐにここから去って、私に万が一の事があったと判断したならば、一時的に君が私の名の下に陸軍の指揮を取れ!!
 状況が落ち着いたら、階級が上の者に引き継ぐのだ。
 混乱が生じている時は、誰が現時点一番上の階級かなど解らん事が多くなる。
 指揮系統はしっかりと保持しなければならない」

「し……しかし!!」

「解らんのか??もう終わったのだよ」

 沖合に展開する艦隊に、現時点打つ手は無い。
 流れる沈黙、そして有無を言わせないファンターレの気迫に、ランボールは反抗せずに従う事とする。

「……はっ、承知いたしました」

 ランボールはすぐにラルス・フィルマイナにいる他の省庁職員に伝達し、自らも撤退を開始する。
 陸軍部隊も基地から撤収準備に入るのだった。

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