2022年02月23日

第121話列強国の意地6P2


「これは?」

 紙切れを開く。
 そこにはレイフォリアの住所と、現地民と思われる名前が刻まれ、ランボールのサインと押印がされている。

「私の協力者です。
 要塞から逃げて下さい。監視の兵にはシエリア殿には特務があると伝えておきます。
 そこを尋ねると、きっと守ってくれます。
 レイフォリアは……いや、ムー大陸はすべて異世界の軍勢の手に落ちるでしょう。
 絶対に出てきてはなりません。終戦まで待てば、グラ・バルカス帝国へ帰るチャンスも生まれるでしょう」

「嬉しい申し出ですが、お断りします。
 私には責任がある。
 すべての事象は自分に起因する、自分の行いが自分に返ってきただけです。
 ここで異世界軍に殺されるのであれば、それが私の運命。
 彼等に捕まったとしても、私は日本の……非軍事組織の人間の処刑を号令した者です。 死刑は免れない。
 それに、外交の幹部であれば、私より上のゲスタ部長がいます」

「……外務の方には失礼かもしれませんが、ゲスタはクズです。
 自分の保身や、欲望の為には、現地人の命などチリほどの価値も無いと本気で考えています。
 いや、帝国臣民でさえ、彼の出世のためには利用され、その結果多くが死んだとしても何とも思わないでしょう。
 私の協力者に会わせるつもりはさらさらありません。
 貴女の絶望と苦しみを生み出したのは……日本人の処刑を命じたのはゲスタではないですか。貴女は歯車として組織の命令に従っただけだ」

「確かに、命じたのはゲスタですが、私はそれを止める事も出来なかった。
 まさか、あれほどの船が非軍事組織の人間が操ってるなど、私も当初は思っていなかった。
 もっと私に力があれば……もっと早くに日本の力を知っていればやりようがあった。
 結局私に力が無かった事、そして日本の力に気付くのが遅れ、気付いた後もそれを伝え、組織を動かすほどの能力が無かった事が原因。
 それに、処刑した事実に変わりません」

「今、貴女は自分の罪を悔いている。
 日本人処刑を止められなかったこと。そして日本国の力に気付いた後は脅威を報告し続けたにも関わらず、組織が取り合わなかった事。
 結果、帝国が異世界の大陸から撤退を余儀なくされていること。
 帝国に的確に日本の脅威を認識させられなかった自分の力の無さに失望している。
 貴女は有能だ。だからこそ死では無く、生きてより多くの人が幸せに暮らせるように導く存在になるべきだ。
 私の協力者の所へ行き、生きてほしい。生きて……もし貴女がグラ・バルカス帝国へ帰る事が出来たなら、この手紙を私の家族に渡してほしい。
 そして、可能ならば……可能ならば貴女が力を手に入れ、帝国を……亡国への道に舵を切り、滅びに瀕している帝国を……私の愛するグラ・バルカス帝国を滅びから救い、繁栄に導いてほしい。
 ゲスタが何か言ってきても、こちらで上手く言っておきます。
 日本国の性格であれば、都市に対する無差別攻撃は行わないでしょう」

「日本だけではありません。相手は異世界国、日本国のように甘くは無いでしょう」

 問答を繰り返す。
 ランボールは、この後1時間に渡ってシエリアを説得した。
 
 この日、シエリアは一人要塞から出て行くのであった。
 
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posted by くみちゃん at 09:05| Comment(13) | 小説

第121話列強国の意地6P1

「シエリアさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

 夜、急ぎの指揮を終えた陸軍将校ランボールは、疲れ果てた様子でシエリアのいる控え室を尋ねていた。
 官庁は違えど、外務部門のエリートたるシエリアは、要塞という軍事施設であるにも関わらず一部屋を与えられていた。

「……どうぞ」

 4畳半程度の狭い部屋、しかし帝国の軍事施設において個室を与えられるというのは至極贅沢な事だった。
 座って一息つく。

「結論から言います。
 はっきり言ってもうこの戦いはレイフォルを手放してムー大陸から撤退するしかありません」

「つっっ!!」

 日本国と我が国の圧倒的な軍事技術の違い、勝てないことは解ってはいた。
 しかし、実際に軍を指揮する立場の人間からこうもはっきりと言われるとは……。
 シエリアは驚きを隠せない。
 ランボールは続ける。

「海は完全に閉鎖されている。
 そして、レイフォルの各地に配置された駐屯地は航空攻撃で徹底的に対空施設が破壊された後、圧倒的な量のムー国による航空攻撃に晒される。
 補給路も絶たれ、重火器も破壊され、撤退に次ぐ撤退。
 しかも、沖合の神聖ミリシアル帝国海軍は健在だ。
 友軍が艦隊を率いてやってきても、日本の空からの攻撃を防ぐことは出来ない。
 確かに、この山岳要塞ダイジェネラはそう簡単には落ちないが、落ちないだけです。
 あくまで延命措置であり、勝利する事は出来ない」

 絶望の沈黙が流れる。
 シエリアは拳握りしめ、微かに振るわせながら声を絞り出した。

「勝てないのは解りました。
 ただ、一外交官の私にそれを話して事態が好転するとは思えません。
 残念ながら日本国との外交の芽はもう絶たれています」

 ランボールは微かに笑う。

「貴女の言うとおり、事態は好転しません。
 ただ、ここにいると貴女も確実に死にます。
 私は……貴女が帝国臣民の為に身を粉にして働いてきた事を知っている。
 いや、帝国のみならず、支配地域の民の生活レベルをも向上させ、より多くの者達が幸せとなるよう必死で働いてきたことも。
 しかし、貴女も帝国という巨大な組織の歯車に過ぎなかった」

「……何が言いたいのでしょうか?」

「貴女には生きてほしい」

 ランボールはポケットから取り出したくしゃくしゃの紙切れをシエリアに手渡す。

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posted by くみちゃん at 09:04| Comment(13) | 小説