2022年02月23日

第121話列強国の意地6P5

◆◆◆

「くるぞっ!!!!」

 敵は一斉にこちらに頭を向けた。

『対空砲は各自の判断で攻撃開始!!!』

 山から光の弾が多数、空に伸びた。
 その線の数は多く、空に光りのシャワーを生む。
 対空砲が当たった黒き雲からは、バタバタと竜が落ちた。

 しかし、恐るべしは敵の数。
 
 雲霞のごとしワイバーンは、徐々に距離を詰めていった。
 
 第2文明圏のみならず、文明圏外国家、中央世界、そして第3文明圏からかき集めた短距離離陸が可能なタイプのワイバーンは一斉にダイジェネラ山に向かうのだった。

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第121話列強国の意地6P4


◆◆◆

「ん??」

 監視塔で勤務していた陸軍兵ディーエムは、東の空に黒いシミのようなものを見つけた。
「なんだありゃ?」

 空に現れた黒いシミは、徐々に空を覆い尽くしていく。
 双眼鏡を手にとって、シミを注視した。

「……動いている?」

 微かに上下しているシミ……やがてそれは竜の形を成し、騎士達のうっすらとした輪郭が見える。

「竜騎士??え……まさかそんな……そんなばかな、ありえねぇ!」

 彼はもう一度見間違えでは無いかと双眼鏡でシミを確認した。

「何て数……信じられん数だ!!!」

 すぐに大声を張り上げた。

「敵襲!!敵襲ぅ!!!ワイバーン多数、信じられないほどとんでもない数です!!」

 慌て切ったディーエムの報告を聞き、上司が監視塔に上がってきた。

「どうしたっ!!」

 カタカタ指を震わせながら指し示す方向を見ると、黒い雲が近づいてきていた。

 いや、彼が一瞬雲と思った物は、小刻みに揺れている。
 双眼鏡をディーエムから奪い取り、それを観察した。

「なんだって??これは……な……なんだこの量はっ!!し……信じられん!!」

 ウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーー
 空爆を知らせるサイレンが鳴り響く。
 兵達は走り回った。
 練度の高い兵達はすぐに戦闘配置に着くのだった。

■ 作戦統合本部

「ワイバーンがとてつもない量近づいてきています!!」

 すでに航空兵力は無いため、空に対する攻撃は対空砲しかない。
 いままでの空爆程度だと、その対空砲を使わずともそもそも要塞にダメージは無かった。 しかし、とんでもない量のワイバーンと聞いて、幹部達は青ざめる。

「具体的な量を言わんかっ!!そんな曖昧な報告では解らぬわっ!!」

「目測で5000を超えています!!!」

「馬鹿なっ、飛龍の航続距離は短い。航続距離内に、そんな数を運用できる基地があるわけがない!
 滑走路だけでもとんでもない数いるぞ!!そんな事は不可能なはずだ!!」

 報告を聞いた司令部も、あまりの数に焦りだす。
 ワイバーンも飯を食う。 
 しかも、多飯喰らいで、運用には相当のコストがかかるはず。
 滑走路が必要な個体が多く、その整備も必要だ。
 そんな数、彼等に準備出来るはずもなく、さらに同時攻撃など出来るはずも無かった。

「いったいどううやって……」

 やり方を考える暇も無い。目前に迫っているのは事実。

 空が見えないほどのワイバーンの物量が迫ってきている。
 今までの、日本国や、ムーの航空攻撃の数とは全く異なる異次元の物量だった。
 とてつもない量のワイバーンは、対空砲の射程圏外を旋回して山を囲む様に配置した。

 とんでもない数のワイバーンに包囲される。
 迫り来る圧倒的なる物量。
 時折聞こえるワイバーンの鳴き声が、終末を予感させ、兵達の恐怖を加速させた。
 
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第121話列強国の意地6P3


◆◆◆

 翌日ーー快晴

 空は澄み、不純物も無い空気は遠くまで視界を良くしていた。
 小鳥たちはさえずり、美しい朝日、陽光が山を照らす。
 小川は水の流れる美しき音色を奏で、まるで戦争中であることが嘘の様だ。

 要塞の頂上に設置された監視塔から周囲を監視していた陸軍兵ディーエムは、あまりの美しい空気に深呼吸をした。
 澄んだ空気を奥まで吸い込み、気分が良くなる。
 
「良い朝だ……異世界軍か、来るなら来やがれ!!」

 戦争の最中に有りながらも、彼は楽天的に考えていた。

 制海権は奪われ、制空権も奪われ、陸軍は敗退を繰り返している。
 しかし、ダイジェネラ山を元に作られた要塞は、難攻不落。
 十万の軍勢に取り囲まれても耐えうるはずだ。

 空爆が通用しない事はいうまでもなく、艦砲射撃で森が消し飛んでも中は安全。
 現に、神聖ミリシアル帝国の艦砲射撃を多少受けたが、被害は無い。
 対処するべきは歩兵だが、ダイジェネラ山にも多くの兵が詰めており、食料の備蓄も多い。
 3倍どころか、10倍の兵力に攻められても落ちはしないだろう。

 日本軍が今回の戦いで使った空爆による対空兵器の破壊も、ダイジェネラ要塞には通用しないだろう。
 欺瞞されつくし、小さな穴が開いているだけの砲をすべて破壊するのは実質的に不可能だ。
 圧倒的な兵糧と、大深度地下水で食料の蓄えも多い。
 例え、1年攻め続けられても決して落ちることは無い。

 圧倒的要塞ダイジェネラ山は、彼に絶対の自信を抱かせるほどに強固に作られていた。

■ 同山 作戦統合本部

「レイリングが落ちました。
 次は必ずレイフォリアを狙ってきます」

 もはや自分達が最後の砦となり、陸軍幹部達の緊張感は増していく。
 ついに来た自分たちの戦う出番が巡ってくる。
 誰もが決戦が近い事を感じ取り、緊張感が高まっていた。

 幹部達は、自分の命を奪うために進軍してくる圧倒的な数の軍勢を前に、武者震いする。
「来るなら来い、めにものを見せてくれるわっ!!」

 幹部達の気持ちが先走る。
 作戦統合本部では、新たに判明した事象が報告されつづける。 

「対空火砲及び山岳砲等、重火器の配置は完了」
 また、敵の陸軍兵力は計10万を超えている模様」

「ふん、10万如きでは、我が山岳要塞は落ちない。
 仮にレイフォリアが落とされたとしても、この要塞から敵を砲撃してくれるわ!!」

「この山岳要塞をなんとかしないかぎり、首都は落とされないだろう。
 ならば、首都は落とされないと言うことだ。」

 ダイジェネラ山が他の基地と遙かに異なり、とてつもない規模の要塞であることが、陸軍将兵達の楽観を招く。
 ランボールはその楽観論に不安を覚えたが、持てる駒は限られている。
 
 難攻不落のダイジェネラ山要塞が彼にとっても切り札。
 確かに、強力な切り札。
 やれるだけのことをやるしか無かった。

 彼は全力で戦う事を決意する。

 様々な気持ちが交錯する中、無情にも時は過ぎゆく……。


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第121話列強国の意地6P2


「これは?」

 紙切れを開く。
 そこにはレイフォリアの住所と、現地民と思われる名前が刻まれ、ランボールのサインと押印がされている。

「私の協力者です。
 要塞から逃げて下さい。監視の兵にはシエリア殿には特務があると伝えておきます。
 そこを尋ねると、きっと守ってくれます。
 レイフォリアは……いや、ムー大陸はすべて異世界の軍勢の手に落ちるでしょう。
 絶対に出てきてはなりません。終戦まで待てば、グラ・バルカス帝国へ帰るチャンスも生まれるでしょう」

「嬉しい申し出ですが、お断りします。
 私には責任がある。
 すべての事象は自分に起因する、自分の行いが自分に返ってきただけです。
 ここで異世界軍に殺されるのであれば、それが私の運命。
 彼等に捕まったとしても、私は日本の……非軍事組織の人間の処刑を号令した者です。 死刑は免れない。
 それに、外交の幹部であれば、私より上のゲスタ部長がいます」

「……外務の方には失礼かもしれませんが、ゲスタはクズです。
 自分の保身や、欲望の為には、現地人の命などチリほどの価値も無いと本気で考えています。
 いや、帝国臣民でさえ、彼の出世のためには利用され、その結果多くが死んだとしても何とも思わないでしょう。
 私の協力者に会わせるつもりはさらさらありません。
 貴女の絶望と苦しみを生み出したのは……日本人の処刑を命じたのはゲスタではないですか。貴女は歯車として組織の命令に従っただけだ」

「確かに、命じたのはゲスタですが、私はそれを止める事も出来なかった。
 まさか、あれほどの船が非軍事組織の人間が操ってるなど、私も当初は思っていなかった。
 もっと私に力があれば……もっと早くに日本の力を知っていればやりようがあった。
 結局私に力が無かった事、そして日本の力に気付くのが遅れ、気付いた後もそれを伝え、組織を動かすほどの能力が無かった事が原因。
 それに、処刑した事実に変わりません」

「今、貴女は自分の罪を悔いている。
 日本人処刑を止められなかったこと。そして日本国の力に気付いた後は脅威を報告し続けたにも関わらず、組織が取り合わなかった事。
 結果、帝国が異世界の大陸から撤退を余儀なくされていること。
 帝国に的確に日本の脅威を認識させられなかった自分の力の無さに失望している。
 貴女は有能だ。だからこそ死では無く、生きてより多くの人が幸せに暮らせるように導く存在になるべきだ。
 私の協力者の所へ行き、生きてほしい。生きて……もし貴女がグラ・バルカス帝国へ帰る事が出来たなら、この手紙を私の家族に渡してほしい。
 そして、可能ならば……可能ならば貴女が力を手に入れ、帝国を……亡国への道に舵を切り、滅びに瀕している帝国を……私の愛するグラ・バルカス帝国を滅びから救い、繁栄に導いてほしい。
 ゲスタが何か言ってきても、こちらで上手く言っておきます。
 日本国の性格であれば、都市に対する無差別攻撃は行わないでしょう」

「日本だけではありません。相手は異世界国、日本国のように甘くは無いでしょう」

 問答を繰り返す。
 ランボールは、この後1時間に渡ってシエリアを説得した。
 
 この日、シエリアは一人要塞から出て行くのであった。
 
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第121話列強国の意地6P1

「シエリアさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

 夜、急ぎの指揮を終えた陸軍将校ランボールは、疲れ果てた様子でシエリアのいる控え室を尋ねていた。
 官庁は違えど、外務部門のエリートたるシエリアは、要塞という軍事施設であるにも関わらず一部屋を与えられていた。

「……どうぞ」

 4畳半程度の狭い部屋、しかし帝国の軍事施設において個室を与えられるというのは至極贅沢な事だった。
 座って一息つく。

「結論から言います。
 はっきり言ってもうこの戦いはレイフォルを手放してムー大陸から撤退するしかありません」

「つっっ!!」

 日本国と我が国の圧倒的な軍事技術の違い、勝てないことは解ってはいた。
 しかし、実際に軍を指揮する立場の人間からこうもはっきりと言われるとは……。
 シエリアは驚きを隠せない。
 ランボールは続ける。

「海は完全に閉鎖されている。
 そして、レイフォルの各地に配置された駐屯地は航空攻撃で徹底的に対空施設が破壊された後、圧倒的な量のムー国による航空攻撃に晒される。
 補給路も絶たれ、重火器も破壊され、撤退に次ぐ撤退。
 しかも、沖合の神聖ミリシアル帝国海軍は健在だ。
 友軍が艦隊を率いてやってきても、日本の空からの攻撃を防ぐことは出来ない。
 確かに、この山岳要塞ダイジェネラはそう簡単には落ちないが、落ちないだけです。
 あくまで延命措置であり、勝利する事は出来ない」

 絶望の沈黙が流れる。
 シエリアは拳握りしめ、微かに振るわせながら声を絞り出した。

「勝てないのは解りました。
 ただ、一外交官の私にそれを話して事態が好転するとは思えません。
 残念ながら日本国との外交の芽はもう絶たれています」

 ランボールは微かに笑う。

「貴女の言うとおり、事態は好転しません。
 ただ、ここにいると貴女も確実に死にます。
 私は……貴女が帝国臣民の為に身を粉にして働いてきた事を知っている。
 いや、帝国のみならず、支配地域の民の生活レベルをも向上させ、より多くの者達が幸せとなるよう必死で働いてきたことも。
 しかし、貴女も帝国という巨大な組織の歯車に過ぎなかった」

「……何が言いたいのでしょうか?」

「貴女には生きてほしい」

 ランボールはポケットから取り出したくしゃくしゃの紙切れをシエリアに手渡す。

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