とてつもない大きさの龍がやってくる。
情報を得たグラ・バルカス帝国ダイジェネラ山要塞総司令部は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「大きい!!大きすぎます!!体格が1kmはある!!!」
「対空砲は何をしている!!!」
「対空砲を使用するには防火扉を開ける必要があります!!ご決断を!!」
外は多く森林火災が起きている。
3層にも及ぶ防火扉を開く事によって攻撃は可能だが、防火扉を開くと、要塞内の大量の酸素を失い、最悪森林火災によって発生した1酸化炭素が要塞に入ってくる可能性すらある。
猛毒たる1酸化炭素が入ってくる事だけは避けたい。
しかし、あれほどの大きさの龍が仮に山に降りて暴れられると防火扉ごと破壊してしまう可能性もあった。
「付近は火に包まれている。防火扉は開けない」
帝国は決断する。
歴史の分岐点となる判断が降された。
◆◆◆
「ひいぃっ!!」
みっともない声をあげてしまう。
恐ろしい。恐ろしい。本能的に恐ろしい。
シエリアは、その龍を見て生物としての圧倒的な力の差、本能的に震え上がる。
黒き龍は口を開き、ダイジェネラ山に狙いを定めた。
「だ……ダメ!!!」
大きい。
龍も大きいが、光弾もあまりにも大きい。
山と龍の比が解るからこそ、そのとてつもない大きさが理解出来る。
いったい何を食べて生きているのだろうか。
グオォォォォォオッォオォォ!!!
龍は、大きな咆哮をあげる。
街全体が震えた。
レイフォリアの市民達は町中に響き渡るその声にパニックに陥った。
家の窓を閉める者、巨大な龍を見上げて震える者。
そして、その戦いを目に焼き付けようと、恐怖を押し殺して目を見開く者、レイフォリアの民達は望む、望まないに関わらず、歴史に残るであろう戦いを体験する。
キイィィィィィィン!!!
光弾のエネルギーは付近の空気を振るわせ、甲高い音が鳴り響く。
巨大な龍は光弾を発射した。
雷を纏った光弾は、一気に山との距離を詰め、山にぶつかった。
ガアァァァン!!!
開放されたエネルギーは山を包み込み、雷が山を包んだ。
雷の嵐。
開放された高温高圧のプラズマは渦を巻きながら上へと向かう。
ゴォォォォォォガアァァァァァン!!
雷と、猛烈な竜巻が発生した。
「か……火炎竜巻!!!」
山を包み込むほどの火炎竜巻が発生し、火災によって岩山と化しつつあった山の森は一瞬で消失。
比熱をもろともしない猛烈な熱に、岩石は個体を保っていられずに表層部は液体化した。
「あああっ!!!」
火炎の後に水蒸気を含んだ煙が山を包み込む。
一定の時間が経過し、徐々に山の姿が明らかになった。
表面が溶岩となった山だった者が姿を現す。
「な……なんて……」
シエリアは声を絞り出すのがやっとだった。
ダイジェネラ要塞に3層まであった防火扉はそもそも周りの岩が溶けたため、全く意味を成さなかった。
要塞内部の空気は一瞬で外部に排出され、急激な圧力変化をもたらす。
中にいた人間はこの圧力変動に耐えられず、肺がつぶれた。
ここで気を失った者はまだ幸運であったろう。
流れてくる液体岩石……気を失わなかった物達は、この溶岩に焼き尽くされる事になる。
ダイジェネラ要塞にいた物達は、その大多数が苦しみながら死ぬ事となる。
列強エモールの極みの雷炎龍の攻撃により、グラ・バルカス帝国のダイジェネラ山要塞は文字通り崩れ落ち、守備隊は全滅した。
陸軍将校ランボールは戦死、そして外務省東部方面異界担当部長ゲスタは相当に苦しみながら死亡した。
この戦いをもって、指揮系統を完全に失ったグラ・バルカス帝国陸軍は敗走し、多くの物達が戦死または降伏する事となる。
世界連合軍がグラ・バルカス帝国をムー大陸からたたき出したとういニュースは世界を駆け回り、多くの人々に希望を与えることとなる。
posted by くみちゃん at 20:17|
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