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クルセイリース聖王国、聖都テンジー城において、国の幹部達が会議を行っていた。
王座には聖王ジュウジが鎮座し、
軍王ミネート
外務郷サトシル
聖王女ニース
を中心に国の幹部達が並ぶ。
内政担当郷が会議開始を宣言して話し始めた。
「お手元に配布しているのが、今年の属領からの収入と支出になります。
すでに属領に求める税金は限界の域に達しており、反発も相当に強まっています。
これ以上の増税は無理かと……」
重苦しい雰囲気が漂う。
自国の民の税は上げられず、属国からは限界まで搾り取っている。
無い袖は振れなかった。
軍王ミネートが話し始める。
「しかし、支出を押さえる訳にはいかない。
民は富み続ける事によって良く働き、富む事に慣れてしまっている。
成長が止まれば必ず統治方法が問題となるだろう」
彼は続けた。
「やはり東方国家を侵略し、新たな属領とするしかあるまい。
ジュウジ聖王様、東方国家遠征の許可をいただきたい。
これは、思いつきでは無く、前々から考え抜いた結果です」
強硬派として知られる軍王ミネートの突然の派兵意見に、皆驚きを隠せない。
「お……お待ち下さい!!」
穏健派たる聖王女ニースが慌てて止めに入る。
「今属領があるのは、飛空艦隊のおかげといっても過言ではありません。
この飛空艦隊による圧倒的な空の強さがあってこそ、他国を圧倒出来ているのです。
東方国家群までは飛空艦の航続距離が不足するはず。
軍事的アドバンテージが無ければ、被害が大きすぎます。
まして、飛空艇団抜きで一国を簡単に落とせる力があるとは到底思えません。
戦争ではなく、他の方法で国が富む方法を模索するべきです!!」
一瞬の沈黙、軍王が言葉を発す。
「ほう……さすがは王女様、軍について良く勉強しておられる。
最後に報告しようと思って、資料をお持ちしていた所ですが、今お話しましょう。
その飛空艦は、最近の技術改良によって、航続距離が300kmから1500kmへ改善されました。
これで東方国家の一部が攻撃可能圏に入ります。
また、高速海流が原因で、ほぼ未開拓だった北西新世界の調査、討伐も実施出来るでしょう」
場がざわつく。
軍王は続けた。
「また、今までは他国と大差無かった騎士団も魔道具の発展によって大幅に強化されます。 研究中だった振動波増幅装置が完成いたしました。
これで、騎士の魔法も大幅に威力が上がります。
つまり、我が国は他国を圧倒出来る軍事力、神にも等しい軍事力を手に入れたのです!!!」
国の財政が厳しく、このままでは国民の不満が出始める頃合いに、軍事力の技術革新による大幅増強。
国家を運営する物達にとって、あまりにも甘い誘惑だった。
聖王ジュウジが手を上げる。
「ミネート軍王の国を想う気持ちは嬉しく思う。
しかし、他国にも民がおり、それぞれが生活を営んでいる。
東方国家群の侵略を前に、まずは交易で栄える事が出来ぬか可能性を探るべきだ」
聖王ジュウジは強硬派が多くを占めるクルセイリース大聖王国において、相当な穏健派だった。
彼は続ける。
「軍事力を振りかざすのは最後の手段とすべきであろう。
ミネート軍王、北西世界の調査も慎重にするべきだ。
確か、北西世界には、単独国家のみではなく、文明圏と呼ばれる高度文明の共同体があるというではないか……」
ロデニウス大陸南東1300kmに位置するシルカーク王国、同国周辺から南東方向に高速海流が流れ、クルセイリース大聖王国の属領である島国、タルクリスへ時折漂流物や、漂流者がいた。
「ジュウジ聖王様、それは思慮が過ぎます。
3年前の漂流軍艦拿捕で、北西世界の文明程度はたかが知れています。
彼等が列強国と恐れるパーパルディア皇国でさえ、帆船の魔導戦列艦程度のレベルです。 空の戦力も改良型ワイバーンということではありませんか。
我が飛空艦隊をもってすれば、あっさりと勝利を治める事が出来るでしょう」
「しかし、北西方向は規模の大きな国家も多い。まずは調査だ」
「解りました……聖王様はおやさしい」
クルセイリース聖王国は、航続距離の伸びた飛空艇で、属領タルクリスを経由し、北西方向への調査団派遣を決定した。
posted by くみちゃん at 22:30|
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