「これより、皆様には日本国の軍事力について、簡単な説明を行います」
クルセイリース大聖王国調査団は、ガハラ神国との会談後、富士演習場に来ていた。
この場所への移動だけでも日本の国力には驚かされる事ばかりだった。
新幹線と呼ばれる大規模高速移動手段は時速にして270kmもの高速で安定して駆け抜ける。
しかも室内は快適な温度に保たれていた。
滑るように進んで揺れも無い。
魔法技師テタルと、魔法武具士アニーナは終始脂汗をかいていたようだ。
超高層ビル群を抜けて田舎を走り始める。
これほど遠くまで大建造物群が続いていた事にも驚く。
「もうこれ以上は驚かんぞ!!」
今まで日本の国力に驚き続けていた。
魔戦騎士団長アバドンは自分に言い聞かすようにつぶやいた。
今から軍事部門の紹介が行われるという事、自国の騎士団が日本国軍にどの程度優位性があるのか、兵の強さはどの程度かを見極めようとする。
広い敷地、眼前には雲の上まで伸びるとてつもなく高い山がそびえ立つ。
「左をご覧下さい」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
地響きかと間違うほどの音と共に、3両もの種類の異なる金属の巨大な箱のようなものが、高速で眼前に現れた。
「な……何だ?」
この箱が起こす地面の震動が圧倒的重みを、質量を物語る。
「て……鉄の塊か!?」
騎士団には無い大質量の物体。
あれがもしも高速で突っ込んできたら、我が方の爆裂魔法でも壊れないかもしれない。
「これは……脅威だな」
きっとこれは正面突破戦力なのだろう。
『これより、あちらの的を狙います』
「え?」
説明者が指示する先、遙か2kmくらいはあるだろうか。
そこには四角い板があった。
「何を言ってるんだ?あんな所まで陸上戦力による攻撃が届くはずが無い!
近づく所から始めるのか?」
アバドンが横に立つシエドロンに話しかけた。
「いや……あれは砲ではないのか?」
戦車から突き出る棒状の物体をシエドロンは指す。
「まさか……」
これほどスマートでコンパクトにまとまった砲は今まで見たことが無い。
「それにしても、遠すぎる。
とても届くとは思えんが……。
仮に届いたとしても、いったい何発打ち込むつもりなのか」
思考は巡る。
「てーーっ!!!」
ドウン!!!
陸上自衛隊10式戦車は2km先の的に向かって撃つ。
日本製鋼所製44口径120mm滑腔砲は、従来のライフル砲よりも遙かに速く飛翔し、2km先の的に向かう。
信じられないことに、直線状に飛翔した弾は的の中心を打ち抜いた。
「!!!!」
絶句……。
アバドンはかっと目を見開く。
「続けて、スラローム射撃を実施します」
戦車は走り出し、スラロームを行う。
走行しながら次々と砲を撃ち出した。
「こ……こんな事が出来るはずがっ!!」
動きながら射撃しているにも関わらず、次々と的の中心部を破壊していく。
不安定な土壌、動きながらの射撃、遠い的、当たるはずが無いのに、当てる。
「あんなの人間業では無いぞ!!」
文字通り、人間業では無かった。
弾は1発1発が、騎士団の組織級魔法よりも遙かに威力が高い。
射程、威力、おそらく防御力さえもすこぶる高いだろう。
彼は圧倒的戦力を感じざるを得なかった。
『次に、航空自衛隊F-15による機動飛行を行います。
東の空をご覧下さい』
アナウンスが流れ、東の空から矢尻のような物体が3機飛んでくる。
圧倒的とも言える速度で侵入してきたそれは、調査団の前で機首を上げる。
雷鳴のような轟きが空気を振るわせ、耳では無く体全体で轟音を感じた。
機首を上に向けたそれは、見たことも無い上昇力で空に向かい、すぐに視界から消えた。
「シエドロン飛空艦隊長、大丈夫ですか?」
ニースはシエドロンの様子がおかしく、具合でも悪いのかと思って声をかける。
シエドロンは小刻みに震え、顔からは脂汗が滴り、酷く具合が悪そうだった。
「あ…あ…ありえん!!ありえんんん!!」
「どうされました?」
ニースが聞くと、彼は日本国の者には聞こえないほど小さい声で話し始めた。
「あれは速すぎる。あんなのは対ワイバーン用の連射式魔光砲や、対空陣でも全く効果が期待できない。
はっきり言って当たらんぞ。
我が飛空艦隊の装備では制空権が確保出来ない。
この差は練度で埋められるレベルを遙かに超えている!!」
打ちのめされるシエドロン。
この日、様々な軍事技術の差を見せつけられ、調査団の一日は終了した。
posted by くみちゃん at 23:18|
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