シルカーク王国 日本大使館
文明圏外国家であるシルカーク王国、日本国としては特に重要視している国では無かったため、大使館の人員は少ない。
人員が少ない場合、ひとたび大事が起これば地獄の忙しさとなる定めだった。
本国から応援は来ていたが、元々の収容人数が少ないために多くは望めない。
また、応援をもらっておいて当該職員が悠々と休む訳にもいかないため、朝田もまた、望まぬ忙しさに追い込まれていた。
シルカーク王国から発せられた、「圏外文明国侵攻の可能性」という報告は世界中を駆け回る。
中央世界や第二文明圏から日本国へ圧力は高く、日本国にあってもシルカーク王国における邦人の命を守るという名目で自衛隊の派遣を決定した。
この世界に転移した後、流れるように次々と戦いに巻き込まれていた日本国の意思決定は早く、異例の速度で派遣が決まる事となる。
しかし、事は日本国のみでは収まらなかった。
同情報は国際問題となり、各国が防衛力を強化する中、海上遠征能力を持つ国、パーパルディア皇国も海軍及び竜騎士団を派遣する事を決定。
20隻もの大型竜母を含む魔導戦列艦隊と、シルカーク駐留を含めて200騎にも及ぶ竜騎士団を派遣してくる事となった。
外務省事務員が朝田に話しかける。
「しかし、圏外文明国侵攻の可能性とはそれほどまでの事なのですか?」
「そうらしい……。
パーパルディア皇国も国際社会の信用を取り戻そうと必死だな。
カイオス首相の方針転換は大きい」
パーパルディア皇国は日本国との戦争の後、多くの国へと分裂した。
しかし、永らく国家としての運用実績が無い1地方が国際社会の枠組みが無いこの世界で国家としてやっていける訳では無く、様々な弊害が生じる事となる。
カイオスは各国平等の元、権利を残しつつ各国を一つの州とし、州の集まりとして国を成す合衆国制度を提案した。
江戸時代における日本国のような国の集合体、いや、アメリカ合衆国のような共同体が近いかもしれない。
多くの国の賛同の元でパーパルディア皇国再建にかかっている。
よって、一部反対する国は取り入れず、賛同する国のみで構成されていた。
悪名が高かったパーパルディア皇国の名を残したのは、かつての列強国時の影響力を考慮しての事であり、影響力を残しつつ、他国の信頼を勝ち取りたいと、一見矛盾する二つの果実を得るために舵取りを行っている。
国際社会では、パーパルディア皇国は生まれ変わったと見る者が多く、一定の効果が出ており、カイオスの国家運営は見事であるとの意見も多い。
そんな国際社会の信用回復という意味においても、彼等は第3文明圏と周辺国家のため、皇国軍を派遣してくるのだった。
「自衛隊はパーパルディアとの共同作戦に難色を示しています。
なんでも、敵味方識別装置が無いと撃墜してしまう可能性が高いため、足手まといになって逆に戦いにくいと」
「国際的に協力するよう求められているからな。
なるべく担当区域を分けて運用するしか無いらしいぞ。
現場は本当に大変みたいだ。さあ、仕事仕事!!」
朝田は窓の外を見る。
上空には陸自のヘリと、パーパルディア皇国竜騎士団が空を舞うのだった。
posted by くみちゃん at 22:32|
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