「王女様、その後では遅いのです。
シルカーク王国は確かに弱い。しかし、弱者なりに国を滅ぼされないために考え得るあらゆる対策を行う事でしょう。
この地の列強パーパルディア皇国に軍事支援を申し出る可能性もあります。
時間がかかればその分敵は強化されます。
我が方も強化すれば良いのですが、予算も多くかかりますし、何より兵の死者が増えるのです。
優位性は確保出来ても、人が死なぬ戦争など存在しません」
有無を言わせぬ正論に王女は黙る。
ミネートは、たたみかけた。
「それに、万が一、いや億が一、作戦が失敗して日本国やパーパルディア皇国が、我が国に攻め入って来たとしても、絶対に負ける事は無いのです。
軍は先日、黒月族の遺産、しかも神話級古代兵器を発見いたしました」
場がざわつく。
総務郷が興奮してミネートに尋ねた。
「ミネート殿、神話級古代兵器とはいったい?」
一時の沈黙……ミネートはニヤリと笑って話し出す。
「黒月族の対魔帝決戦兵器、キル・ラヴァーナルです。
しかも残存魔力は最大で、兵器が100%可動出来る事も確認されています」
『オオォォォォォ!!!!』
ムードは一気に戦争開始に傾く。
「キル・ラヴァーナルか。
圧倒的なる神話の遺産。負けん……負けるはずが無いっ!!」
総務郷は目を輝かせた。
「私も見つけた時は震えが来ました。
クルセイリース大聖王国は、現代においても神の祝福を受けているとしか思えません」
ミネートの発言で、場が盛り上がる。
彼は誰にも聞こえぬ小声でつぶやいた。
『それに……黒月族と我が国の技術融合と、伝説の国宝、古代アーティファクトを組み合わせた超魔法があれば、仮にラヴァーナルが攻めてきたとしても、1回であれば、必ず艦隊を消滅させる事が出来る』
ミネートは絶対の自信をもって宣言する。
「この戦いは決して負けません。
クルセイリース大聖王国は更なる栄華を極め、1000年以上に渡って繁栄し続ける事となるでしょう。
皆さん、異論はありませんな?」
「我が国の更なる繁栄が約束されているのに、異論などあるはずが無い!!!」
総務郷のワイデスが賛成する。
「全く、ミネート殿の手腕は素晴らしい」
外務郷サトシルも満足して頷く。
「ま……待ってください!!!」
このままでは亡国の道をたどる。
聖王女ニースは立ち上がる。
日本国の国力を知る者として、愛する国が滅びへ向かう事を見過せない。
「日本国の国力は規格外です。
このままでは取り返しのつかない事になります。
仮に、相手に時間を与えたとしても、攻め難くなったとしても、日本国の国力を確認してから事を運ぶべきです」
ニースは食い下がった。
しかし……。
「ニースさん!!!」
聖母ラミスはニースを睨みつける。
「軍王ミネートは、事前に新世界漂流者からの調査により、日本国などと言う国の影響力は新世界には無いとの調査結果が出ている。新興国とするならば、短期間にそこまで国力を上げることは出来ない。
それは理解出来ますね?」
聖母ラミスはニースに問う。
「……はい」
「で、あるならばシルカーク王国の発言は、強力な後ろ盾があるように見せようとする小国の足掻きです。
そして、これ以上調査期間を長引かせ、敵の戦力が上がると我が国の兵の被害が大きくなる。
これも解りますね?」
「……はい」
「あなたの調査団は幻惑魔法にかけられた可能性が高い。
もしも貴女の意見を取り入れ、その結果我が国の兵の被害が増大し、死ぬことになった者達の家族、妻や子供に貴女は何と説明するつもりですか!?
国民の命は単に数字で表すべきものではありません。
1つ1つが意思を持ち、家族を持っているのです!!
貴女の意見は不幸の増大にしかなりません!!!」
「しかしっ!!!」
「くどいっ!!!」
聖母の一括に、場が静まった。
「軍王ミネートの今までの数々の実績は、今更言うまでもありません。
ミネートには絶対の信頼を置いています。
私は今回の新世界への侵……開拓に賛成いたします。
聖王子様もよろしいですか?」
「はい、母様」
会議は難航したが、暫定的に実権を握る5歳の聖王子ヤリスラの決定により。、クルセイリース大聖王国は北西新世界への侵攻を決定、文明圏外国家シルカーク王国へ軍を派遣する事となった。
posted by くみちゃん at 00:39|
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