翌日早朝 クルセイリース大聖王国属領タルクリス 西側約150km 海上
ほのかに明るくなり始めた空、水平線からは海から太陽が顔を出す。
海の波は低く、そよ風が吹いていた。
島はどこにも見えず、360度見渡しても水平線が見える海に、8つの航跡が現れる。
■ 海上自衛隊第4護衛隊群 旗艦 かが 戦闘指揮所
大小様々なディスプレイが並び、各艦の状況が集約される。
ハイテクの塊たる戦闘指揮所において、艦隊司令である海将補平田の額からは汗がこぼれ落ちていた。
「敵基地が近すぎる。
これほどまでに胃にくるものか……」
近代戦としては敵に近すぎる位置。地球であれば地対艦誘導弾の射程圏にすでに入っている。
シルカーク王国侵攻の第1波を退けた報告を受けた日本国政府は中央世界等からの外圧もあり、出撃してきた敵の基地に対する攻撃を決定。
各自衛隊に早急なる敵軍事施設への攻撃を指示した。
しかし、シルカーク王国は固定翼機を運用出来る飛行場が無く、ロデニウス大陸から空中給油機を使用した飛行では、1回の投射力がどうしても低くなる。
衛星写真等からの分析結果により、クルセイリースには強力な地対艦兵器は無いであろうと判断。
主に政治的圧力から、投射力に優れる海上自衛隊が第1撃を加え、少数の空自が上空支援につく事となった。
敵の島に近づき過ぎる行為は相当に危険であり、反対意見も出たが、「政府の意思」という言葉に消された。
日本国政府の意思決定が迅速に行われたため、海上自衛隊はクルセイリースとの戦闘の後、相手の体制が立て直される前に攻撃を行う事を決定、夜通し走り続けて同海域に至った。
「タルクリスの統合基地、射程に入りました」
パーパルディア皇国戦で判明したSSM1-B(艦対艦誘導弾)の地上攻撃能力。
プログラミングの変更により、地上攻撃も可能となり、さらに空中目標に対しても、今回の戦闘で試射する事としていた。
それではSSMという言い方はどうかという議論も出たが、海上自衛隊では変わらずSSMという名称を使用している。
「この位置は危険すぎる。早く撃って離脱するぞ」
横に立つ幹部に話しかける。
「確かに、先の戦いでの敵対空戦闘は我々の想定を上回っていました。
線状のレーザーのような光、そして炎の壁、最後はCIWSの様な光弾の連射、結果勝利しましたが、どの様な兵器を使用してくるのか解らない状況です。
私も早く離脱すべきと考えます」
平田は重責を実感した。
とにかく敵に近い。
自分が死ぬだけなら良い。しかし多くの部下の命が自分の采配にかかってくる事がこれほどまでに重い事とは……。
しかも、敵の兵器形態は訳が解らない。
本当にファンタジーだと嘆きたくなった。
部下は……言い方は悪いが、例えどんなにショボく見える男であっても、家族がおり、一家の大黒柱となってプライドを持って働いている。
自分の采配は多くの部下の命と、その家族の人生を左右する。
「絶対にミスは許されない!」
自分に言い聞かす。
この指示は、敵を多く殺し、その家族の多くを悲しませる事となるだろう。
彼は目を瞑る。
「業深き仕事よ……」
仕事であり、相手を殺さないと自分たちや守る者たちの家族が死ぬ。解ってはいても、敵とはいえ人が大量に死ぬことになる命令には覚悟がいる。
彼は黙祷する……覚悟が決まった。
彼は目を見開いた。
「攻撃開始、目標を撃破せよ」
「攻撃開始!!攻撃開始!!!」
復唱され、ミサイル発射ボタンが押される。
護衛艦に搭載された筒状のものから対艦誘導弾が射出された。
衛星からの情報を元に、あらかじめ割り当てられた各施設、そして基地上空を警戒中の飛空艦を目標として攻撃は開始された。
澄んだ空に線状の煙が多数出現する。
ロケットモーターによる轟音は空気を震わせ、多数の射出されたミサイルはタルクリスに向かって飛ぶ。
発射されたミサイル群はロケットモーターによる初期加速を終えた後、ターボジェットエンジンによる飛行に切り替わった。
クルセイリース大聖王国飛空艦隊にとっては破壊神の降臨……絶望の宴が始まろうとしていた。
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