クルセイリース大聖王国 聖都防衛竜騎士団
「ん?何だ?あれは」
前方に10もの黒い点が現れる。
よく見ると、微かに上下に動いていた。
「羽ばたき?……まさか竜か!」
やっと巡ってきた竜同士の対戦、セイルートは喜びに震える。
空の主力の座を飛空艦に奪われ、ワイバーンは2級戦力だと国民には思われていた。
苦汁に満ちた日々、やっと報われる時が来た。
その相手は飛空艦ではなくワイバーンであり、友軍の方が遙かに数が多い。
「ふ……フフフ……フハハハハッ!!神は我らを見放さなかった!!!」
眼光鋭く敵を睨み付け、邪悪な笑みで微笑んだ。
『前方の敵を蹴散らせぇ!!!』
彼は大声で司令する。
『了解!!』
歓喜に震えた兵達は、士気が高く、大声で返信した。
クルセイリースの守護者達は、前方に展開する侵略者を滅するために力強く羽ばたくのだった。
◆◆◆
「ん?何故……」
クルセイリース大聖王国竜騎士団の小隊長、エジルキは違和感を覚えた。
敵よりも上をとるために上昇していたが、彼らは関係なく突っ込んでくるようにも見える。 戦術思想の違いかもしれないが、上を取った方が「圧倒的有利である」とたたき込まれていた彼にとって、それはひどく不可解に見えた。
「ふん、まあ良い。新世界の竜を、たったの十数騎葬っても自慢にもならぬが……物量で一気にカタをつけてやる!!」
竜対竜の戦いでは、集団戦術が取れる方が圧倒的有利であり、彼も勝利を疑わなかった。
間もなく空戦に至るだろう。
たたきつけられる合成風、轟音に近い風切り音。
近づく決戦、緊張がピークに達した時……エジルキの左前を飛んでいた部下の騎が突然炎に包まれた。
「ギャァァァァァッ!!!」
高熱の粘性を持った火炎に焼かれ、離れていても聞こえるほどの断末魔が響いた。
『モウブ騎被弾!!』
魔信で誰かが叫ぶ。
モウブ騎は、竜共々猛烈な炎に焼かれ、断末魔をあげながら落ちる。
「モウブ!!モーウブ!!!ちくしょう!!」
炎は上から飛んで来た。
彼は上を見る。
「くっ!!!」
太陽に隠れ、まぶしくて良く見えない。
本能的に左へ旋回した。
ゴウッ!!!
大きな火球が上から下へ通り抜けた。
火球は焼けるような熱を感じるほど近くを通り過ぎた。
まっすぐに飛んでいたら丸焼けになっていただろう。
エルジキは前進から汗が噴き出した。
次の瞬間、5騎が爆発し、炎に包まれて落下し始めた。
「敵襲!!!」
上から下へ大きなワイバーンが5騎通り抜ける。
それは今まで見たことも無い大きさで、見た事も無いほど速い。
下へ向かったそれは、すぐに猛烈な旋回能力で旋回し、ワイバーンの射程圏から抜け、上昇を開始した。
敵ワイバーンの翼端では、気圧差により翼下から上へ回り込む空気によって白い雲を引く。
「別動隊がいたのかっ!!!」
前方から来た敵も火炎弾を打ち込んで来る。
その射程は我が方よりも長い。
すぐに乱戦となった。
「くっ!!負けるものかっ!!」
大きな敵に対して闘志を燃やす。
エルジキは敵に火炎弾を当てるため、すでに射程圏外に出てしまった敵を向く。
「なっ!!!」
追いつけない。
相棒のワイバーンは必死で羽ばたいているが、全く追いつけない。
『ギャァァァァァッ!!!』
『は……速い!!なんて速さだっ!!』
『あれは化け物だっ!!あんなのに勝てる訳が無い!!』
魔信は混信し、混沌を極める。
友軍ばかりが、また落ちる。
こちらの方が数が多いはずなのに、圧倒的戦力比であるはずなのに、落ちていくのは友軍騎ばかりだった。
焼かれた竜の落下により、炎の雨が降る。
「そんなっ!!これほど……これほどまでに差があるというのかっ!!!」
自分に狙いを付けられている事に気づく。
右へ、左へ旋回して必死で避ける。
エルジキは、間違いなく国一番の竜騎士である。
自分の操竜技術を超える者はいないと自負してきた。
そんな自分が異国の竜に対して遅れをとっている。
もはや友軍の心配をしている場合では無かった。
圧倒的に速く、大きく、そして旋回能力も高く、導力火炎弾の威力も高い。
そんな敵が自分を狙ってくる。
「くそっ!!おのれ、おのれおのれおのれぇぇぇぇっ!!!」
3発の火炎弾を避けた刹那、4発目が彼の騎に着弾した。
「ぐおぉぉぉぉぉっ!!!」
敵の強さを悟った時、敵導力火炎弾の火球が被弾し、彼の意識は虚空に消えた。
posted by くみちゃん at 09:28|
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