2023年07月14日

第141話崩壊2P3


 軍王は思考を止めて目を瞑った。
 神通力の使用を先祖に詫びる。
 拳を天に向けた。
 上を向く軍王の顔は晴々としていた。
 
 
「古代の掟よりも、眼前の脅威を取り除く。それが軍王たる私に課せられた使命である!!
 聖王国臣民を繁栄に導く使命が私にはある!!!
 すべては聖王家のために!!
 すべては臣民のために!!
 すべては公のために!!!
 我が決定に一片の悔いなし!!」

 軍王は誰もいない部屋で大声を張り上げる。
 強く拳を握りしめた。

「メナスはいるかっ!!!」

 隣の部屋まで聞こえる大声に、メナスはやってきた。

「……軍王様、ご決断を」

 ローブの下にはイヤラシい顔があった。

「神通力の使用による副作用の可能性はどう考えている?」

「神通力は大地より無限にあふれ出ています。
 神々の大いなる遺産が地下に眠っているとしか思えません。
 無限の神通力は、文字通り無限。
 大量使用をしたとしても、すぐに次の大魔法が連発出来るでしょう。
 副作用など無い、まさに万能なる力なのです!!
 クルセイリースは神に守護された国としか思えません。」

「……そうか、ではこれより国家級敵国殲滅魔法を使用する。
 目標は沖合に展開中の日本国艦隊だ!!!」

「承知しました……2発目として、日本国には使用しないので?」

「敵国の正確な座標が解らぬ。それに、関係ない民を巻き込んで消滅させることもあるまい」

「……ふふ…甘いですね。
 私は大魔法の補助につきましょう。
 この大いなる魔法は神の魔法。かつて名を馳せた古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国でさえもこの大魔法を防ぐ事は出来ず、国ごと尻尾を巻いて逃げ出した」

「今回あふれ出る神通力を使用するとはいえ、触媒となる「王家の秘宝」と「軍神の指輪」は相当に古く、補修に人の手も加えられている。
 使用される神通力の出力も、神の使用した星堕としに比べると遙かに低いため威力は相当に落ちる。
 しかし……」

「はい、艦隊を全滅させるなど造作も無い事」

「……儀式を開始する!!軍神の棟へ行くぞ!!!」

 軍王ミネートは、聖王国を護るため、軍神の棟へ向かうのだった。


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posted by くみちゃん at 06:51| Comment(7) | 小説

第141話崩壊2P2


 軍王ミネートは思考を巡らせる。

 当初の北西世界や日本国に対する報告書はすべて間違っていた。 
 軍の想定を遙かに上回る日本国の強さは「尋常では無い」という言葉が正しい。

 多少想定を上回る事は考えていたが、あまりにも強さがかけ離れていた。
 軍の中核たる飛空艦艦隊も効果が無く、あっさりと滅せられた報告を聞いた時、衝撃が体を駆け抜けた。

 そんな中、聖王家直轄の軍、空中戦艦が出撃すると聞いて、内心安堵したものだ。 
 いかな国の軍であろうとも、古の魔法帝国の遺産には勝てない。
 勝てるはずがない。
 別格、いや、次元そのものが違う……はずだった。

 歴史上最強の強さを誇り、神々でさえも手を焼いた最強にして最悪な帝国、古の魔法帝国の空中戦艦は1回の出撃で1国を制圧出来るほどの強さがあり、しかもその戦艦稼働率は90%を超える。
 古の魔法帝国の遺産は解析技術や劣化によって、稼働率(本来の戦力における稼働可能兵器率)が低いものが多い。
 しかし、王家の空中戦艦は90%を超える。
 いかに未知の国とはいえ、勝てるはずがあろうか……いや、無い。
 
 確信的な思いだった。
 しかし、日本国によって……しかもたったの1隻の海上艦によってその考えは粉砕されてしまう。

 今思えば聖王女による荒唐無稽な報告が正しいのだろう。

 報告書の備考欄にあった「国ごとこの世界へ転移してきたと申し立てた」との文字を見て、頭がおかしくなった、もしくは幻惑魔法にかけられた可能性が極めて高いと判断したのは間違いだったというのか?

 ……いや、そんなずはない。
 国ごと転移など、そんな事が起こりうるはずが無いではないか。

「いったい何が起きている……」

 軍王の額を汗が伝う。
 日本国という国は、全く意味がわからない。
 しかし、いくら後悔しても現実の時間は遡らない。
 彼らは聖都へ駒を進めるだろう。

 『あれ』を使用すれば、確かに敵は殲滅出来る。
 古の魔法帝国の海上要塞でさえ、1撃で葬る事が出来るだろう。

 メナスの持ち込んだ魔導技術は神通力の使用を可能とした。
 画期的な技法ではあるが、微かな出力しか出ず、魔法に比べて効率が極めて悪いと言わざるを得なかった。
 しかし、「天才」達の活躍により、この技術は神の遺産たる「王家の秘宝」と代々の軍王に貸与される「軍神の指輪」と組み合わせる事により、神通力を大量に使用する事が可能となる。
 よって、神通力を大量に消費する魔法……神の魔法とも言える国家級敵国殲滅魔法が理論上使用可能となった。
 この神通力を使用した魔法……いや、魔法ではなく神法とでも言えばいいのだろうか、これは神通力を使用し、最新の技法により成功に至る。
 微細実験でも成功しているため使用可能だろう。

 しかし、建国時に刻まれた「不破の石板」の中に
    大地よりあふれ出る神通力の使用は厳禁とする
という不可解な文字が刻まれている。
 この国宝に刻まれた文字の意味は重く、相議をとるならば聖王家は神通力の大量使用に反対するだろう。 
 
 聖王子ヤリスラはまだ5歳であり、実質的に権力を握っているのは聖母ラミスである。
 ラミスからの私に対する信頼は厚く、古代魔法に必要な神器は決戦前に拝借していたため、すでに「王家の秘宝」と「軍神の指輪」は手元にある。

 聖王家は無理だが、聖王子のみの承認であるならば、最悪事後承認でも降りるだろう。

 しかし、何かが引っかかる。 
 まず、この国は何故大地から神通力があふれ出ているのか。

「まさか……建国神話が本当だというのか?」

 ミネートの考えは巡る。
 建国神話2章1項
  かつて世界に大きな災厄が訪れた。
  突如として現れし8つの首と、8つの尾を持つ山よりも巨大な邪竜は人々を襲い、多く の街を飲み込んで人類を恐怖のどん底に陥る。
  人々が絶望したとき、北西より神の化身が現れ、十字の地にこれを封印す。
  神の化身、多くの英知と力を我らに授けん。
  我らは選ばれし民、クルセイリース
  この大いなる力は人類の為に使用し、いつの日か復活する邪竜討伐のため、さらなる力 を手に入れなければならない。

 魔法とは根本的に力の種類が異なる神通力があふれ出しているのは本当に神の化身からの英知なのかもしれない。
 聖都と国土の端には、「神の棟」と呼ばれるいつ作られたのかも解らないアーティファクトがあり、神通力があふれ出ている。
 そして聖都の中心部には「軍神の棟」と呼ばれる一際大きな棟があり、神通力の濃度が高い。
 では、何故あふれ出る力の使用を禁止するのか。
 何故今は神通力が使用が出来ず、神通力に関する使用法は後世に語り継がれなかったのか。
 謎は謎を呼ぶが、今は謎解きをしている場合ではない。
 古代兵器すら倒してしまう悪魔が首都に……艦隊を率いて向かってくる可能性が高い。

「……悩む暇は無いか……決断するしかあるまい」


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posted by くみちゃん at 06:50| Comment(10) | 小説

第141話崩壊2P1

ごめんなさい、前話で、イージス艦ちょうかい が、みょうこうと記載されていました。
 今日は時間がないため、後日是正します
 誤記です。

◆◆◆◆◆
 
 クルセイリース大聖王国 聖都 セイダー 

 薄暗い部屋でロウソクの炎が揺れる。

「ぬううぅぅ……ぬぅぅぅぅっ!!」

 軍王ミネートは揺らぐ炎を見つめながら苦悶の表情を浮かべていた。
 ミネートの横にはメナスと呼ばれる男が立つ。
 いつもは白いローブを着る彼は、今日は黒色のローブに身を包んでいた。
 メナスはミネートを見てイヤラシく笑う。
 
「ミネート殿、何を悩んでいる。我らには「あれ」があるだろう?今なら沖合150kmに集中している敵艦隊を……北西世界の連合国主力艦隊を一撃で殲滅出来るのだ
 期を逸すると、悩む贅沢すら与えてもらえませんよぉ。
 最悪の想定を気にしておられるのか?
 大事を成し遂げるためには、多少の犠牲は致し方ない事だ」

「簡単に言いおるわ!メナス!!」

 ミネートの頭に「国家級敵国殲滅魔法」の文字が浮かぶ。
 星の世界より星の欠片を引き寄せるこの古代魔法は、命中誤差150m程度ではあるが、威力があまりにも凄まじく、周辺ごと消滅させる。
 「艦隊」に使用した場合、敵艦隊は殲滅出来るだろうが、引き寄せる星の欠片は1発とは限らない。
 多くの欠片のうち、1発は命中誤差150mとなるが、他の欠片は周辺に散らばる可能性もあり、もしも引き寄せたメインの欠片が空中分裂してしまえば、魔力誘導線から外れ、数百キロ離れた場所に落ちる可能性もあった。
 つまり、自国民に犠牲が出る可能性すらあったのだ。

 軍王は大きな声を出すが、メナスに動じる気配はない。
 軍王は続けた。

「ただ発言するだけの者とは違う。責任ある立場は違うのだ……少し一人にしてくれ」

 一瞬の重き沈黙が流れる。

「……解りました、ただ時間は残されていない。敵は待ってはくれないのだから……。
 隣室で待機する。準備が出来たら声をおかけ下さい……フフフ」

 メナスは退室した。

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posted by くみちゃん at 06:49| Comment(19) | 小説