2023年09月06日

第142話崩壊3P5

◆◆◆

 聖都セイダー テンジー城

 度重なる地響き、そして誰もが感じる死の予感に、聖都セイダーのテンジー城は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

「いったい何が起こっているのですか!!」

 聖王女ニースは従者に問う。
 しかし、答えられる者は誰もいなかった。

「キャァッ!!」

「あれは、あれは何??」

 衛兵や従者が城の東側を指差す。
 
「え?」

 黒い尻尾のような物が山から突き出ていた。
 その尾は黒い霧のようなものを纏い、周辺に稲妻が走る。

「なっ!!!」

 尻尾は山よりも遙かに大きく、海抜高度450m程度の山に対し、高度が1000mにも達するのでは無いかという程に大きかった。
 本能的に皆震え上がる。

「あれは……まさか……まさか……」

 聖王女ニースは、日本へ視察に行った際、ガハラ神国の使者が言った言葉を思い出す。

『間もなく八岐大蛇が復活する』

 他国よりヒントも与えられた。
 国を救うため、最悪の悲劇を防ごうと必死に動いた。
 でも、王族たる私が、権力をもっているはずの私が必死に動いても、国家という組織を変える事は出来なかった。
 救えなかった。
 国を……民を……自分の力不足で救えなかった。

「くそっ!!!」

 ニースは窓枠に自らの手を打ち付ける。
 手からは血が滴った。

「ニース様!!」

 騎士ミラがニースの元へ駆け寄る。
 有事に頼りがいのある者が駆けつけ、ニースは少し安堵する。

「ミラ、聖王子ヤリスラ様は何処におられるか?」

 ミラの表情が曇る。

「……あそこです。聖母ラミス様、総務郷ワイデス様もご同乗されています。
 現在王城において、最高位はニース様です」

 ニースはミラの指さす方向を見る。
 王城から西方向へ逃げるように飛んで行く飛空艦がそこにはあった。
 実際、天変地異からの避難という形で彼らは飛んで行っていた。
 同避難に関し、ニースに声はかかっていない。

「なんと!!なんと情けない!!!」

 ニースは王国臣民を見捨てて自分たちだけ逃げ出す彼らの姿に失望する。
 目を瞑る沈黙……そして決意する。

「ミラ!!非常時です。軍王に至急連絡、王都臣民の安全確保に全力を務めるよう要請!!」

「軍王様とは現在何故か連絡がとれません!!」

「ならば緊急事態条項8の11を発令、現時点をもって全ての指揮権を聖王女ニースが持ちます!!聖王直轄軍の残存兵力及び今動かせる人員は?」

「現在ワカスーカルトからこちらに向かって飛んできています。
 あと1時間20分程で聖都に到達します。
 空中戦艦はすでに日本国によって撃墜されているため、主力は飛空艦隊のみ。
 陸上兵力は、アバドン様が率いる第2魔戦騎士団4000名が聖都におります。
 また、特殊戦力として、銃神ダルサイノ様率いる特化狙撃部隊20、他警察部隊として聖都に2000、テンジー城従者430名が今動かす事が可能な者達です」

「従者はすぐに街に出て避難誘導を実施!!あれから出来るだけ遠くに聖王国臣民を離すよう指示!!!
 飛空艦隊は可能な限り早く聖都へ急行。
 ただし、あれからの攻撃が無い限り、こちらから先制攻撃はしないように。
 第2魔戦騎士団及び特化狙撃部隊は……あれが我らに仇を成す存在なら、臣民のために足止めをよろしくお願いします!!!
 私はテンジー城に残ります!!!」

「はっ!!」

 聖王女ニースは命をかけ、聖王国臣民を一人でも助けるために動くのだった。
 



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第142話崩壊3P4

◆◆◆

クルセイリース大聖王国 聖都セイダー 軍神の棟最上階

 軍神の凍最上階の儀式の間は静粛に包まれていた。
 神の魔法である国家級敵国殲滅魔法「メテオ」が防がれるなど、想定外の中の想定外であり、誰も予測していなかった。

 正に打つ手が無いとうい言葉が正しく、軍の長たる軍王の落胆は他の兵や職員に明確に伝わり、誰も言葉が出なかった。
 神通力はまだ眠っている、しかし大魔道士が1発目のメテオで殉職してしまっているため、「メテオ」はもう撃つことは出来なかった。

 残留戦力で飛空艦を集めても、敵の弾薬を消費させる程度の効果しか得られないだろう。 文字通り日本国の的になってしまう。

「!!!!」

 不意に場にいた全員に悪寒が走った。
 それは命の危機を感じさせるほどの、かつて経験したことの無いような激しい悪寒だった。
「なっ!!何だ?今のは!!!!」

 驚愕……悪寒はその場にいた者のみではなく、クルセイリース大聖王国の国民全員が同時に感じ取るほどの凄まじいものだった。

 信じられない程の邪気。

 死の予感……いや、魂の消滅を予感させる程の凄まじい震え。

「これは……魔力暴走??」

 感じると同時に大きな地響きが国全体を襲った。

「うわぁぁぁっ!!」

「な……何だ!!何が起こっている!!!」

 兵達は狼狽する。

「狼狽えるな!!冷静になれ!!魔力の流れを測定しろ!!!」

 軍王ミネートは吼えた。
 比較的冷静な軍王の檄に、兵達は平穏心を取り戻す。

「はっ!!!」

 国から逃げ出したい気持ちに駆られる程の悪寒を感じながら、練度の高い彼らは測定器を使用して原因の特定を目指した。

 やがて……。

「これは!!神通力が弱まり、その下から凄まじい魔力があふれ出ています!!!
 魔力濃度、強さ共に計器が振り切れた、測定不能!!」

「いったい何があっているんだ!!」

 全く予想のつかない事態が起こっていた。

「ホホホ……フフフフフ……フアーァツハッハッハあっ!!!!」

 声の主の方向を見る。
 ローブを取ったメナスがそこにはいた。
 目が黒く輝き、顔の半分に大きな黒い斑点を持った人物……。
 その風貌は明らかに人間のそれではない。メナスの異変を感じ取った軍王ミネートは彼を睨み付けた。

「何がおかしい!!」

「ホッホッホッホッホ……おめでとうございまーす!!」

 メナスは不気味に、ゆっくりと拍手する。
 意味不明な光景に、皆怪訝な顔をした。

「下等生物どもの足掻き、実に愉快。軍王ミネートよ、其方も予想通りの愚かな行動を示してくれた。
 実にめでたい」

 メナスは話し方や雰囲気のみではなく、声の調子までもが変わる。
 あまりにも急な態度の変更は実に不気味であり、軍王は彼を睨む。

「能力があれば幹部にもなれる、貴国のシステムは素晴らしい。しかし、国の中枢までいれてしまった事が、今回亡国となるクルセイリース大愚王国の敗因だ
 まあ、身分確認程度はあったが、その程度の捏造はどうとでもなる」

 軍王は兵達に顎で合図を送る。
 近衛兵はすぐに反応し、メナスに向かって携帯式魔弾銃を放つ。

 破裂音と共に打ち出された魔弾は、超速でメナスに向かう。
 しかし……。
 
「な……」

 魔弾はメナス到達10cm前で減速して空中に止まる。
 メナスが微笑むと、魔弾は地面に音を立てて落ちた。

「私が無防備に反乱を起こすとでも思ったのかね?こんなもので……だから君たちは下等生物なんだよ」

 彼は続ける。

「正直日本国には驚いた。
 まさか、古代の神法たるメテオを……神が使用したものよりも遙かに威力が落ちているとはいえ、国家級殲滅魔法をたった1艦の艦で防ぐとはね。
 あの国は危険だという、私の考えは合っていたようだ。
 クルセイリース王国は消える、そして、日本国も滅ぶ。
 歴史的瞬間が間もなく来る。喜びたまえ!!フヒャヒャヒャヒャーーッ!!!!」

「お前は何を言っているんだ?」

「解らないのか?下等生物の軍王ミネート君。
 では馬鹿でも解るように説明してあげよう。
 あふれる神通力が弱まり、邪気がしみ出してきているだろう?
 今この国の地下には忌々しい神々の法により、邪神とも言える化け物が封印されている。
 邪神が出す魔力によって、封印が強まり、どんどん邪神を締め付ける封呪が施されている。 大きな神器からあふれ出る無限の神通力は完璧だった。正に古代の神々には脱帽するよ。
 しかし、古代の掟を破って、馬鹿が充填された神通力を大量使用した」

「はっ!!!」

 ミネートの額に冷や汗が伝う。
 メナスは続ける。

「充填された神通力が尽き、メテオによって、将来発せられる一部の神通力も神器より使用した。
 そして地下の神通力が一時的に弱まった。
 フフフ……どうしようも無い絶望を与えてあげましょう。
 この一時的に弱まった神通力が致命的だ。この程度の力では、古代の邪神は抑えられませーん。
 フフフフフ……アーッハッハッハッハッハ!へキャッキャキャキャーーッ!!!」

「お前は……何者だ?そんなことをしてお前に何の徳がある?」

「我が一族が世界を支配するためには、神の魔法が唯一残っているクルセイリース王国は目障りだったのだよ。
 そして異世界より転移してきた日本国……強いとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。
 想定の上を行っている。
 しかし、日本国も邪神によって滅ぼされるだろう。正に一石二鳥だ」

「世界は終わる。そして、間もなく復活する忌々しき古の魔法帝国……ラヴァーナル
帝国も、邪神に滅ぼされるだろう。
 奴らのコア魔法でさえ、邪神には通用しない。
 我ら黒月族こそが、この世界を支配するのだっ!!」

 ミネートはため息をつく。

「馬鹿はお前だ」

「なっ!何だと!!下等生物たるお前がこの高等生物たる私に馬鹿と言ったのか??
 今馬鹿と言ったな!!!今馬鹿と言ったなーーっ!!!」

 メナスの語気が強まる。

「ああ、大馬鹿者だ。
 それほど強い化け物が仮に本当にいたとして、お前達はどうやって止めるつもりなのだ?
 黒月族もろとも滅ぶだろう」

「ああ、何だそんなことか。
 私たちが何の対策もせずに、邪神を世に解き放つと思ったか?
 神通力は使えぬが、我らが秘術で……倒すことは出来ないが封印する術はある。
 いずれにせよお前達は終わりだ」

 ゴゴゴゴゴ………

 大きな地響きが聖都セイダーを襲う。

「楽しみだろう?お前達クルセイリースの民は、魂まで食われる。
 輪廻転生が途切れる。正に魂が消滅するのだ。
 では、私は一足先に避難させてもらうよ。
 あ、そうそう、ワカスーカルトにある我らが遺産、キル・ラヴァーナルは後で回収させてもらうよ」

「おのれっ!!」

 近衛兵は銃のみではなく、携帯式の砲を持ち出し、メナスに向かって撃つ。
 破裂音が轟くが、メナスの姿は黒い霧に包まれた。 

「無駄だよ、さようなら」

 声だけが聞こえ、やがて黒い霧は晴れる。
 そこにはメナスの姿は無く、黒い霧と共に消えたのだった。

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第142話崩壊3P3

◆◆◆

 海上自衛隊第4護衛隊群 旗艦 かが

「目標接近中!」

 レーダー画面には、隕石と思われる物体と、ミサイルの距離が急速に縮まっている様子が映っていた。

 海将補平田は祈るように画面を見つめた。

 「頼む……当たってくれ……」

 その時、画面上で赤い点と白い点が重なった。

「命中!命中!」

 通信士が歓声を上げる。

 平田は目を見開いた。

「確認!目標は破壊されました!」

 画面には大きな隕石が小さな物体に分裂する様子が映し出される。

「よしっ!!よくやったぞ!!」

彼らは本当に隕石による攻撃を防いだのだ。

 「やったぞ!やったぞ!」

 艦内では歓喜の声があふれた。

 海将補平田は上空に目を向ける。
 超高空で大きな爆発が起こり、その様子は艦から十分に目視出来た。

 大きな白い爆炎から炎を纏った何かが四方八方に広がっていく。
 やがて、艦隊周辺に落ちてきたそれは海へ落ちる。
 神通力を纏った隕石の欠片は海へ落ちた圧力変動に呼応して大きな爆発とうい物理現象を引き起こした。

 猛烈とも言える爆音が響き渡り、艦隊外周に大きな白煙のキノコ雲が多数出現した。

 船はゆっくりと進み、艦隊外周に大爆発が起こるという光景は、まるで終末を予感させ、誰もが息を飲む。

「次の攻撃に備えよ!!」
 
 平田は声を絞り出す。

 隕石の欠片であっても途轍もない威力、もしもSM3が迎撃に失敗し、艦隊近くに落ちていたら艦隊ごと蒸発していたのではないか?
 平田の額には冷や汗が伝う。


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第142話崩壊3P2

◆◆◆
 
 クルセイリース大聖王国 聖都セイダー 軍神の棟最上階

『ワカスーカルト沖合の敵艦、何かを発射した模様。
 キル・ラヴァーナルの電磁反射式レーダーで追います』
 
 ワカスーカルトに展開する黒月族の遺産、キル・ラヴァーナルから報告が入る。

「フフフ……フハハハハッ!!無駄だ無駄だ!!無駄ムダムダムだぁ!!
 我らが魔法は国家級魔法、飛空艦やワイバーンとは速度が違いすぎる!古の魔法帝国の誘導魔光弾よりも桁違いに速い。
 正に神速!!
 メテオは古の魔法帝国の対空誘導魔光弾でも防げぬわっ!」

 軍王は吼える。

「フフフ……消えゆく者達の足掻き、心地よいではありませんか。
 良い余興……。
 虫たちよ、足掻け足掻け!!フオーッホッホッホ!!」

 メナスも珍しく大きな声で笑った。

『メテオ加速中……9800…10000……12000……』

 本来ならば、メテオは魔法名であり、隕石の名前では無い。
 しかし隕石に対して軍としての名称が定められていなかったため「メテオ」という言葉を使う。
 指摘する者はおらず、言葉はそのまま、同様の意味で使われることとなる。

「なんと!!まだ加速していくぞ!!」

 事前の知識では速いという事は知っていたが、実際計測される具体的な数値、未だかつて経験したことの無い神速に軍王は興奮を隠せない。 
 魔力によって投影された映像では、隕石が3個、炎の尾をさらに大きくし、落ちていく様が映っていた。

 その場にいた者達は、神々の攻撃魔法に酔いしれ、大きな誇りを感じた。
 画像の画面を少し引いて固定する。

 速き物体が虚空を切り裂きながら進んでいる。
 隕石は高温となり、光を発しながら落ちる。
 敵の強力な艦隊を殲滅する歴史的瞬間を見ようと、誰もが画像を注視した。

「こ……これが……神々の魔法か!!」

「聖なる国、クルセイリース大聖王国万歳!!」

 場がざわつく中、冷静な報告員の声だけが不気味に響く。

『メテオ到達速度、時速5万、敵の発射した飛翔体は間もなくメテオに到達、到達まで13.12.11……』

「ご……ご……ご……5万!!なんという速度だ!!」

「無駄だ!どのような攻撃も決して当たらぬ!!速度が違いすぎる」

 メテオは強烈な神通力や同変換用魔力を使用するため、画面に投影可能であるが、敵の攻撃には魔力が無いため、投影画像は見えない。
 キル・ラヴァーナルの電磁反射式レーダーで位置のみを捕らえていた。
 
『3.2.1.今!!』

 イージス艦より発射された弾道弾迎撃ミサイルは、高空において飛翔中の隕石に命中。
 運動エネルギーによって敵の弾頭を砕くために開発されたキネティック弾頭は寸分違わず命中し、隕石をも砕くことに成功した。
 途轍もない相対速度。
 大きな運動エネルギーの衝突により、落下中のメテオの岩石は超高圧に晒されて瞬間的に内部が蒸発、膨らんだエネルギーは石の外殻を破って圧力の弱い方向へ飛び出す。
 隕石にまとわりついていた強力な神通力と反応して「メテオ」は大きな光と爆発を伴って分裂する。

 四方八方に火の雨を降らす。

「ぬおっ!!!」

 画面が白く、大きく輝きを放った。

 次の瞬間、映像には大きな白い爆炎と、そこから光の弾が白色の尾を引きながら、四方八方に飛んでいく姿火球が映し出された。
 高性能な魔力による機械は音も拾い、大きな爆発音の後、地響きとも取れる重低音が響き渡る。

「おおおおおおっ!!!!」

「そ……そんな……そんな!!」

 爆発の光と音を伴う映像はすさまじく、場は騒然となった。

「メテオは神速……神の……神の魔法なんだぞ!古の魔法帝国でも防ぐことは出来ない魔法なんだぞ!!!」

 軍王の狼狽する声が響き、メナスは目を見開いて固まる。

『飛翔体はメテオ3発全てに命中!隕石は分裂して制御を失いました!!!』

「全てに命中!?全てに命中だと!!馬鹿な時速にして5万kmは出ているのだ!!5万だぞ!!そんな事は無理だ!!そんな事は無理なんだ!!!
 あ……あ……ありえん!!」

 軍王の狼狽をよそに、隕石の欠片は制御を失って地上に落下していくのだった。

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第142話崩壊3P1

「弾道弾様のもの、艦隊に向け加速中!!この大きさは……まさか隕石??レーダー反射面積が異常に大きい!!」

 レーダーには、反射面積が威容に大きい3つの物体が降下している様子が映る。

「隕石?隕石堕としだと?」

 艦長、小圷は驚愕の声をあげた。

「まかさゲームに良く出てくるあのメテオか?何処までファンタジーな世界なんだ!!」

 副長が嘆く。
 ロールプレイングゲーム等において、よく使用され、ゲーム終盤で覚える強力な魔法、隕石を堕としその威力をもって敵を殲滅する「メテオ」が自分たちに向けられた可能性に、なんとも言えない気持ちになる。

「艦隊にメテオが向けられるなんて、なんて世界だ」

 誰かが叫んだ。
 イージス艦ちょうかい には、弾道弾迎撃ミサイルがあるが、小圷の額には冷や汗が伝う。
 小圷の思考は巡る。
 まず隕石の大きさや硬度が解らない。
 迎撃ミサイルのインパクト時は超高速にはなるが、果たして弾道弾迎撃ミサイルで隕石が割れるかどうかも解らない。
 そして敵の誘導方法が不明のため、隕石を割ったとしても、欠片が艦隊に向きを補正してくる可能性も否定できない。
 仮に迎撃出来たとしても、ミサイルの数には限りがあるため、ロールプレイングゲームのように連発されたら詰んでしまう。
 誘導の大元を破壊したいところだが、何処から誘導しているのか全く解らない。

 初期のみの誘導であれば高空で迎撃した方が、微かな角度であっても地上では大きな距離となるため、迎撃は早ければ早い方が良い。
 そもそもSM3は、弾道弾中間段階での迎撃を想定しており、終末段階はPAC3の領分だ。
 落ち始めた隕石に的確に実戦で当てなければならない。
 それにしても、日本国初の弾道弾迎撃ミサイルの実戦で、魔法、しかも隕石を迎撃することになるなんて、入隊時は全く想像も出来なかった。

 何れにせよ、考える時間が長くなるほど迎撃は困難となるため、艦長は即決する。

「弾道弾迎撃ミサイルを使用し、物体を破壊する
 SM3発射準備」

 艦橋に設置されたフェイズドアレイレーダーが隕石を捉える。
 反射波を感知し、瞬時に正確な高度と速度が計算され、ミサイル発射角を決める。
 
 迅速的確に迎撃ミサイルの発射準備が行われた。

「準備完了」

「撃ちぃかた始め!!」

 弾道弾は、亜音速の巡航ミサイル(時速1000km程度)や、超音速の戦闘機もしくは爆撃機(時速2500km程度)に比べ、速度が遙かに速く、文字通り桁違いの速さ(5万kmを軽く超える)であるため、かつては絶対防御不能の攻撃だった。
 数多の構想が生まれては消えていき、構想が現実となる事は無かった。
 
 やがて日本国から今までの技術を遙かに凌駕する弾頭制御技術が生まれ、空力制御の及ばない宇宙において迎撃する事が可能となる。
 ここにおいて、アメリカ合衆国の構想は実現に至る。 
 決して防ぐ事が出来なかった弾道弾という悪魔の兵器はもはや万能では無くなった。
 
 弾道弾迎撃ミサイルを搭載したイージス艦は、艦隊のみではなく、日本国そのものを護る盾の役割を与えられる。

 押された発射ボタン、電気的信号は瞬時に伝わり、その情報は前方に設置された垂直ミサイル発射装置に伝達される。
 ミサイル発射筒の蓋が開き、炎が吹き上がった。

 轟音と共に、イージス艦前部から科学技術の結晶が飛び上がる。

 神速を誇る大陸間弾道弾でさえも迎撃可能なミサイルは固体燃料ロケットに点火し、炎の尾を引きながら虚空に消えた。

 その数6発。

 イージス艦ちょうかいは、クルセイリース大聖王国の国家級敵国殲滅魔法(メテオ)に対し、弾道弾迎撃ミサイルを6発発射するのであった。

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posted by くみちゃん at 17:34| Comment(19) | 小説