2024年01月29日

第143話命をかける者たちP3

のたうち回る化け物、山々が破壊される轟音が響く中、ダルサイノは静かに目を瞑った。
 轟音がまるで別の世界の出来事であるかのように、心が静まる。

「総員残弾を置き、下山。聖都臣民の避難誘導に当たれ」

 ダルサイノから出た言葉に、部下達は耳を疑う。
 武器もまだある。 
 目以外は銃弾など通さない程強力な鱗で覆われていたとしても、撤退は許されないだろう。 まして、目を狙うなら同時に多くの者が攻撃した方が当たりやすいに決まっている。
 部下達は命令の不可解さにかたまる。
 
 ダルサイノは再度命じた。

「さっさと下山して避難誘導をしろ!!
 のたうち回るあの蛇の目に弾を当てる事が出来るのは、この俺だけだ!!
 お前達は邪魔だ、速く聖都臣民の避難誘導を行え!!
 ……自分たちの家族も避難させる事を忘れるなよ」

 固まる部下に檄を飛ばす。

「ここから先は俺の仕事だ!!さっさと行け!!行けえええっ!!!」

 部下達はダルサイノの意図に気づく。

「銃神ダルサイノの命に従います……どうか、無事帰ってきて下さい」

 振り返らず、化け物を睨み付けるダルサイノの大きな背中……部下達は目に焼き付ける。

 彼らは下山を開始する。


 一人残されたダルサイノは微笑んだ。

「これが……俺の最後の大仕事だ」

 彼は長年使い込んできた銃を手に取った。

◆◆◆

 ターン……ターン……ターン

 クルセイリース大聖王国伝説級魔導狙撃銃「エターナルクルス」の銃声が連続してこだまする。
 山をも越える体躯を持つ大蛇の目を狙う。

 魔法により、5kmは重力の影響を受ける事無くまっすぐに弾道が安定し、その後放物線を描いて飛翔する伝説の名工が作りし銃がなければ、とても戦えないだろう。
 のたうち回る蛇の眼球付近に弾丸が集中する。

 しかし、動き回る彼らの目に当てる事は困難を極めた。
 減り続ける銃弾、化け物は何処から狙撃されているのか解らず、のたうち回りながら付近の山々を粉砕していく。

 ダルサイノのいる山が粉砕されなかったのは、運が良かっただけだった。

「くそっ!!当たらない」

 銃神ダルサイノは焦る。
 やがて、部下の置いていった銃弾が残り1発となる。

(落ち着け、息を止めて銃身をブレさせるな、緊張でガク引きだけは絶対にするな!!)

 ダルサイノは銃身のブレを防止するため息さえも止め、集中力を上げる。
 自分の心臓音がやけに大きく感じた。

 ターン

 銃声がこだまする。
 銃弾は魔導レールにより、5kmは安定して進み、そこから放物線を描く。
 訓練され尽くした銃神の腕で、銃弾は化け物の目にまっすぐと向かっていった。
 
 !!!!

「くっ!!くそっ!!!」

 化け物の瞬きによって銃弾は跳弾し、まぶたを微かに傷つけるにとどまる。



 聖都の燃える炎が天を焦がす。
 最後の1発が外れ、ダルサイノは絶望と共に立ち尽くしていた。

 万策が尽き、もはややれることは何も無い。 
 化け物はまぶたを傷つけられ、怒りに狂う。
 奴は聖都に頭を向け、進み始めた。

「終わった……これまでか……」

 絶望が全身を支配したとき、光の閃光が天空を駆ける。

 閃光は大蛇に当たって爆発した。

「なにっ!!」

 ダルサイノは西の空を見る。

「あれはっ!!!飛空……艦隊?王家の残存艦隊!!」

 聖都の燃える炎によって照らし出された空、船にプロペラを付けた艦隊が見える。


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第143話命をかける者たちP2


 焼け焦げた鼻をつく匂いが離れていても伝わる。

『敵認定!!攻撃を開始します!!』

「パト・イナリ分隊から攻撃許可が出ています!!

「許可する。各時敵がどんな動きをするのか、しっかり見て確認しろ!!」

 通常、狙撃で遙か離れた化け物を狙うこと等出来ない。
 しかし、クルセイリース大聖王国の名工の作りし魔導狙撃銃はその名のとおり、魔力によって弾道を導き、銃として見ると信じられない程の射程を手にしていた。

 ダルサイノから西側の山にいたパト・イナリ分隊が、狙撃を開始する。
 夜の山に銃声がこだました。

 着弾補正を行うためだろうが、狙撃に曳光弾が使用された。
 夜の山を多くの弾が飛び出し、化け物に向かう。
 
 やがて、レーザーを発した化け物の頭に多くの弾が命中し、そのうちの1発が片目を潰す。
「ギョアアアアァァァアァツ!!!」

 化け物の頭の一つはのたうち回り、光が飛んできた山を睨み付けた。

「まずいっ!!」

 化け物の目からは再度赤いレーザーが発せられ、パト・イナリ分隊のいた山を粉砕する。
 山に大きな貫通痕を残し、土煙が上がった。

「パト・イナリ分隊通信途絶!!」

「な……なななっ!!山ごと粉砕したぞ!!」

「化け物めっ!!」

 常軌を逸した攻撃力、ダルサイノは一瞬で決断した。

「目だ!!目を狙うぞ。
 各分隊に攻撃部位を割り当て、光球魔法を空に使用し、奴の注意が閃光球に集中して動きが鈍った瞬間に一斉射撃ですべての目を同時に潰す!!
 曳光弾は使うなよ!!」

「りょ……了解!!しかし相手は動く目標、それをすべて同時にたったの1発で打ち抜くなんてむちゃくちゃです!!」

「ああ、むちゃくちゃだ……むちゃくちゃだけど、俺らがやらなければ聖都の……守るべき命は消える。
 俺は日頃の地獄の特訓に付いてきてくれたお前達を信じる。
 俺達の腕ならば、必ず全ての目を射抜けるはずだ。
 やるぞ……やらなくてはならない。
 今までの厳しい訓練や、我らの生きてきた理由は、今この瞬間に任務を成功させる事だ。
 まさか化け物相手になるとは思わなかったがな。
 ボーナスは弾むように言っておく」

 各人は己の与えられた使命の重さを痛感した。

「割り当て完了……いつでも行けます」
 
「よし……閃光球を敵前方上空に出現させよ!!」

 空に徐々に光が現れ、大きな輝きを放つ。
 大蛇はなにが起きたのかと、空中に現れたほのかな光を見つめた。

「今!!各隊攻撃5秒前、4……3……2……1……撃てえぇぇぇぇぇぇつ!!」

 ターーーン!!

 同時に破裂音がこだました。
  
 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は、同時発射を行い、化け物の多くの目を潰す事に成功した。
 しかし……。

「い……1発外れたっ!!!」

 誰かが叫んだ。

 ギュオォォォォォアアアアアッ!!

 凄まじい雄叫びと共に、蛇がのたうち回る。
 隣にあった山が他の狙撃部隊ごと潰され、大きな土煙があがった。
 まだ目が一つ残っている。
 この土煙が晴れた後、怒り狂った化け物は聖都に何をするのか、想像するだけでも背筋が凍る。



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posted by くみちゃん at 17:34| Comment(9) | 小説

第143話命をかける者たちP1

「ヴオォォォォォォォォ!!!!!」

 聖都全体に響き渡る地響きのような雄叫び。
 その雄叫びに地面が揺れる。

「うあぁぁぁぁつ!!!」

「きゃぁぁぁぁっぁつ!!」

 聖都の民は狼狽し、あまりの凄まじさ、禍々しさに……我先に逃げ出した。
 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は、『それ』が見える山に3部隊に分かれて昇る。

 銃神ダルサイノとその配下は聖王国の名工の作りし銃を背負い、山を駆け上がっていた。

「はあっ、はあっ……はあっ……ダルサイノ様、とんでもないのが現れましたね」

 隊員達は重い装備を背負って山を駆け上がる。
 訓練により鍛えられた肉体はその負荷に耐え、心地よい汗が出た。

「ああ、敵と判断するまでは、絶対に攻撃するなよ。
 配置についたら全部隊に伝えろ」

 普段は虫たちの心地よい鈴の音のような鳴き声が響く山々も、禍々しい生物の出現で、虫さえも黙り、静粛に包まれていたため、ダルサイノの指示は部下達にはっきりと届く。

「了解……こんなのと戦う事になるかもしれないなんて……残業手当、しっかりつけて下さいよ」

 部下は笑いながらダルサイノに話す。
 上下の厳しいこの聖王国において、銃神とまで呼ばれた男に気さくに話すことが出来る。
 この会話が許されるのは、銃神の性格の良さ故であった。

「敵では無い事を願う。あれが敵なら我らは王国臣民のために……聖都臣民が避難する時間を稼ぐために命をかけなければならない」

 ダルサイノの真っ当な発言に部下は苦笑いした。

「……ついていませんね、聖王国建国以来途轍もなく長い時間が経過しているのに、なんで神話の化け物が、私がいるこの時代の、しかもこの日に来るのか。
 来週南部のループ島に家族旅行に行く予定だったんですよ」

「そうか、ではしっかり働いて来週は思いっきり遊べよ」

「フフフ……了解」

 走りながら行われる何気ない会話。
 自分の命が消えるかもしれない緊張感。
 そして守るべき者が背後におり、決して引けぬ決意、様々な感情が入り交じる。
 やがて彼らの部隊は化け物の尾を囲むように各山に配置につく。

「それにしても……デカいな、あれが尻尾だけだと思うと、勘弁してくれと言いたくなる」

 彼らの額に汗が伝う。
 絶望的戦力差を本能で認識しながら笑った。

「まったくですよ、終わったら本当にしっかりと休みを下さいよ。また急な呼び出しは無しですからね」
 
 恐怖を押し殺すように笑う部下、その手は震えていた。

『ギャオァァァァァァッァァツ!!!!!!』

 鼓膜が破れるのでは無いかと思われるほどの雄叫びが響き、地面が大きく裂け、大きな地震が起こった。

「うおぉぉぉおっ!!」

 近くの岩にしがみつく。
 やがて……。

 大きな地響きと共に、黒い体が姿を現す。1本と思っていた尾ひれは8つ現れ、頭も8つ現れた。
 その体躯はあまりにも大きく、自分たちを例えるならば、ワイバーンにアリが戦いを挑むようなものだ。

「大事な事なのでもう一度言うぞ、全部隊に絶対にこちらからは攻撃するなと指示せよ」

「はっ!!」

 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は山に隠れ、身を潜める。
 緊張がピークに達したその時……化け物の8つある頭の内の一つ大きく上に上げた。

「ヒュオォォォォォォ」

 目が赤く光り、レーザーのようなものが放たれる。
 
「なっ!!」

 ガァァァァァァァン!!

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 強烈な爆発音と地響きにたまらず声が出る。
 
 赤いレーザーは聖都に命中し、レーザーの当たった箇所は大きな爆発を起こす。
 まさに聖都を切るという表現が正しい。

 大きな爆発が山々にこだまし、吹き上がる炎が夜空を赤く照らした。

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posted by くみちゃん at 17:33| Comment(13) | 小説