2024年01月29日

第143話命をかける者たちP6


◆◆◆

 ワカスーカルト沖合

 日本国海上自衛隊 第4護衛隊群 イージス艦ちょうかい

「小圷艦長、パーパルディア皇国の生存者は概ね救助致しました。
 行方不明になっている者もまだおりますが……」

「うむ……」

 人型巨大兵器は敵の隕石攻撃後、しばらくその場所にとどまっていたが、急に転進し、東方向(陸方向)へ向かい始めた。
 進行速度が遅いため、まだ目視範囲にいるが、おそらくは人型兵器の射程外と思われたため、周囲を監視しながらイージス艦「ちょうかい」は沈められたパーパルディア皇国艦隊の兵達の救助にあたっていた。

 救助されたパーパルディア皇国兵は涙を流して助かった命に喜ぶ。

 皇国兵の中には波に飲まれた者や海底に沈んだ者も多く、いつ敵の攻撃があるか解らない戦場での救助は困難を極める。
 そんな中、多くの皇国兵の救助は成功に至る。

 レーダーを監視していた南野は、全身に悪寒が走った。

「な……なんだ?これは!!!」

 周囲の山の先に、山よりも大きい何かが映り込む。
 それはワカスーカルトへ向かっていた。

「レーダーに感有り、何かが……途轍もなく大きな何かが陸からこちらへ向かっています!!」

「なにっ!!」

 小圷はレーダーをのぞき込んだ。

「これは……これは一体なんだ??信じられん、敵は何て大きな兵器を持っているんだ!!」

「レーダーの示す大きさは周囲の山を軽く超えています!!そんな兵器が移動して来るなんて!!」

「なんてファンタジーな世界だ!!」

 小圷は総員戦闘配備を指示、「ちょうかい」は戦闘行動を開始するため、沖合へ舵を切るのだった。



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 遅くなってすいません。
 もっと更新速度を上げるよう、なるべく調整していきます。
「夏以降はだいぶ上がる見込みなんですが」

 あと、クルセイリース編後は、グラ・バルカス編の続きを書いていこうと思っています
 よろしくお願いします。
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posted by くみちゃん at 17:40| Comment(16050) | 小説

第143話命をかける者たちP5


◆◆◆

 猛将シエドロンはリンクされた艦を絶妙に操作し、化け物に対して円形の配置を空に引く。 発射後のエネルギーが聖都にかからぬよう、射線の角度をつけた。

「全艦魔法発動陣形完了、多次元魔力爆縮放射砲発動」

 円形に配置された数百もの艦隊の内部に巨大な球形の立体的魔方陣が出現する。
 エネルギーが魔方陣中心部に収束を始めた。

「エネルギー充填98%……100%突破……うむ、制御が上手く出来ぬ……120%……やっとエネルギーが安定したか。
 多次元魔力の流入確認。
 圧縮開始……空間制御により指向性を確保……」

 魔力が球形魔方陣の中心部に収束し始める。
 中心部が光り輝き、周りに微粒子が飛んだ。
 化け物は、多くの目が潰れ、最後の目の瞼に傷を負っているようで、傷口から泡が噴いている。
 動きが鈍かった。
 
「これが我が国が今使える最大最強の攻撃だ!!」

 シエドロンは目を見開く。
 死ぬかもしれない……彼の脳裏に今までの人生が走馬灯のように駆けた。
 家族が……今は成人したが、小さい頃の息子の笑顔が脳裏を過る。
 シエドロンは燃える聖都、そして眼前の化け物を見ながら小さくつぶやく。

「仕事人間で、家族らしい事は何一つしてやれなかったな……。
 だがな……父ちゃんが……お前達の命、そして未来は護ってやる!!」

「……メルガランテ……」

 シエドロンはスイッチを押し込んだ。
 魔方陣中心部から、化け物に向かい猛烈な青白いエネルギーが解き放たれる。
 エネルギーの波は化け物に命中し、間をすり抜けた波は後方の山を粉砕した。
 エネルギー波の直線上の大地は砕け、土煙が上がるのだった。

◆◆◆

 テンジー城

 まるで神々の戦いかのような光景が眼前で繰り広げられていた。
 現れた巨大な化け物は、たった数十人の狙撃部隊によって目を潰され、足止めされる。
 再び歩みを開始しようとしたとき、王家飛空艦隊が現れ、攻撃を開始した。
 
 しかし、あまりの巨大を誇る相手には通用せず、何機も撃墜される。
 王家残存艦隊は、見たことも無い超高威力の魔法に踏み切った。
 
 途轍もないエネルギー波の放出により、山は砕けて化け物がいた付近は土煙に包まれている。

 聖王女ニースはその光景に目を奪われていた。

「ああっ!!!」

 聖王女は目を見開く。
 王家の誇る飛空艦隊が……まるでただの船になったかのごとく、空から降る。
 多くの艦が……艦隊が雨のように空から降り、地上に当たって大きな爆発を起こす。
 

 全ての魔力を失った艦隊は、浮遊する事すら出来ずに地上に落下、魔法に参加出来なかった旧式艦6隻を除いて全滅した。

「うううっ!!」 

 なんとうい光景か……聖王国の守護者として、聖都を護るために戦い、艦隊が全滅する。
 その凄まじい信念、そして自分の無力さ……。
 聖王女ニースは涙が止まらなかった。
 
「ニース様、聖都の三分の二の人口が、都から待避出来ました。残ると言い張る者達もいて、すべての民を誘導するのは難しい状況です」

 騎士ミラが報告してくる。
 泣いている場合ではなく、指揮を飛ばす必要があった。

「では引き続き避難誘導を……」

 ニースが指示をしようとしたときだった。

「ギョォォォォァァァァァツ!!!」

 土煙の中から雄叫びが上がる。
 ゆっくりと化け物のシルエットが浮かび上がった。
 ミラは化け物を向く。

「馬鹿な……あれで生きているというのか……ん??」

 化け物の周囲が七色に輝く。

「あれは……まさか高位の回復魔法?ダメージは追っている、しかし……」

 動かない……しかし化け物は何れ回復するだろう。

「進言します、ニース様は聖王都より避難してください」

「まだ王都に民が残っています。私が逃げ出す訳にはいかないのです」

「自らの意思で残ろうとする者もいるため、全ての民を誘導するのは実質的に不可能です。
正直、三分の二もの人口が一時的に聖都を離れられただけでも信じられないほどの驚異的数値です。
 ニース様は、まだこのクルセイリース大聖王国に必要な人材です。
 貴女は生きなければならない!!」
 
「私は民のために命をかけることを惜しむ事はしません!!」

「……失礼」

 ミラは、ニースの額に手を当てた。

「な……何を……」

 ニースはその場に倒れ込む。
 ミラは部下に指示を出す。

「魔法で眠らせただけだ。
 ニース様を聖都から出来るだけ遠くに運んでくれ、必ず安全な場所まで運ぶんだ。
 私はニース様の代理としてギリギリまで民の避難誘導を行う。
 彼女はこの国のために必要な人材だ。
 まったく……最後までおてんば娘だったな」

 騎士ミラは苦笑いする。
 彼は民の避難誘導に全力を投じるのだった。

◆◆◆

「はあっ……はあっ……はあっ……」

 騎士ミラは息を切らして走る。
 彼はギリギリまで民の避難誘導を行い、化け物が動き始めたため、馬を飛ばしていた。

「そろそろ良いだろう」

 もう十分に離れたはずだ。
 ミラは聖都から離れた山の中腹から、聖都を眺める。

 多くの場所で火災が発生し、大火は夜空を赤く焦がす。
 
「動き始めた……」

 神話に出てくる化け物は動き始め、大きな口を開けた。

「なっ……」

 おぞましい光景……家ごと生命と魂をかみ砕く音が遠くまで離れていても聞こえる。

「く……食ってる……」

 ミラは、日本国であったガハラ神国の使者の会話を思い出す。
 八岐大蛇は魂を喰らい、喰われた魂は消滅すると……。
 恐怖が全身からこみ上げる。

 旧式の飛空艇が化け物を攻撃しているが、まったく何もないかのように無視して王都臣民を食べる。

 何故こんなことになってしまったのか……愛する聖王国の護るべき民はおぞましい化け物に食われ、美しかった聖都は燃える。
 
 日本国において、事前の情報は仕入れていたはずだ。
 歴史のターニングポイントはいくらでもあったはず……でも間に合わなかった。

「……ぐっ……ぐぅ……」

 ミラは悔しさに涙を流す……しかし、時は戻らない。

 八岐大蛇はクルセイリース大聖王国の残存する民を喰らいつくし、ワカスーカルト方面に向かうのだった。


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posted by くみちゃん at 17:37| Comment(16) | 小説

第143話命をかける者たちP4


◆◆◆

 クルセイリース大聖王国 聖都 セイダー 西側上空 
 王家直轄飛空艦隊 旗艦 メガ・クルス

『クルスカリバー効果無し』

 無機質な報告が艦内に響く。

「おのれ、化け物め!!拡散フレアで焼いてしまえ!!」

『拡散フレアモード起動』

 飛空艦隊の艦首が光り、空中に描かれた魔方陣が赤く光る。
 魔方陣中心部から猛烈な炎が大蛇に向かって射出された。
 中距離艦隊級極大火炎魔法 拡散フレア が使用される。

 猛烈で大きい炎であったが、大蛇の大きさが規格外のため、体の一部を火で炙るように見える。

「ギョアァァァァァァァツ!!!」

 大蛇の一つの口が大きく開き、空に一閃の光が走る。
 光に触れた2隻の飛空艦が真っ二つに裂けて空から落つ。

『カーラス、スルズメイ轟沈!!』

「おのれっ!!目だ、目を潰すぞ。リュウセイを使用!!準備完了後すぐに撃て!!」

 艦隊の前方に構築された魔方陣の色が変化する。
 中心部から猛烈な数の光弾が射出された。

 夜空に飛び交う光弾は、圧倒的なる大きさの化け物を包み込むかのように連続して当たる。
 しかし……。

 赤いレーザービームが夜空を駆けた。
 当たった船は真っ二つに折れて地上に落ちる。

『トルビ、メルジロ轟沈!!』
 
「お……おのれぇ!!」

 打つ手が無い……メガ・クルス艦長 サルガル は絶望の面持ちをする。
 傍らには白髪、白髪の男が立っていた。

「今使用可能なすべての一斉射撃でさえ通用しない。王家直轄軍の指揮権を渡すことは本来ありえないが、非常時であり、今は貴方の力が必要だ。
 シエドロン殿」

 クルセイリース大聖王国第1飛空艦隊長であり、聖王女ニースと共に日本国を視察したシエドロン、日本視察において、政治的思惑とは異なる日本の真実を本国に報告したため、軍王ミネートの策略によって、飛空艦隊司令の座をターコルイズに交代させられてしまった歴戦の猛将。
 彼は聖王女から非常招集の魔信を受け、王家直轄飛空艦隊と合流していた。

「承知した」

 シエドロンは眼下の燃える聖都を見る。
 
「……おのれ、ゆるさんぞ……化け物め」

 彼は静かな怒りに燃える。

(しかし……打つ手は無い事には変わりない。
 一撃を加えない事には聖都は灰になる可能性が高い……。
 通じる1撃……奴に通じる一撃……はっ!!)

「あれしか……無いのか」

 覚悟……。

「艦長、王家艦隊はリンク飛行とリンク操作機能のある艦は何艦存在するか?」

「リンク飛行?確か旧式艦6艦を除き、残り全ての艦がリンク飛行及びリンク操作可能です」

「さすが王家……最新の艦がそろっている。
 助かったぞ……可能な艦は旗艦へのリンク飛行をさせよ、私が全てを行う。
 現時点をもってリンク可能艦は総員退艦指示、残る旧式艦6艦は西方向へいったん離脱し、我らが攻撃後、化け物が残っていたら引きつけて聖都から化け物を遠ざけさせてくれ」

「なっ!?まさか」

 シエドロンは艦長に向く。

「全艦隊の全残存魔力を使用し、多次元魔力爆縮放射砲……メルガランテを使用する」

「し……しかし、あれは……艦隊が全て失われます。それに知っておいででしょう?あの魔法は魔方陣に参加している者の魔力を極限まで吸う。
 それは艦に限られず、乗員の残存魔力すらもすべて吸われるのです。
 飛行の維持すら出来ない。
 艦隊がすべて失われるのですよ!!」

「……我らの現時点最大火力が通用しない。
 そして、聖都の民が死に瀕している。
 今使わずしていつ使うのだ?」

「ですが……あれは禁じられた魔法だ。使用すればシエドロン殿、貴方は助からない。
 確実に死ぬ。
 貴方は確実な死を選ぶ気なのですか?」

「私はあなた方王家直轄艦隊とは違う。クルセイリース大聖王国の軍人だ。
 私1人の命で、王国臣民が……聖都が助かる可能性があるのなら、安いものだ。
 こんな死に方が出来る者はそうそういない……むしろ幸せというもの……。
 艦長、問答している暇は無い。
 指揮権を委譲された私の命令だ。早く総員退艦を指示してくれ」

 この魔法は不完全で、内部の者もまとめて死ぬ。
 強力だが不完全な自爆魔法だ。
 シエドロンは死ぬつもりだと知った艦長は、あふれる感情を抑え、ゆっくりと頷いた。
  
「……了解」

 クルセイリース大聖王国の王家残存艦隊からは多くのパラシュートが開くのだった。


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posted by くみちゃん at 17:36| Comment(9) | 小説

第143話命をかける者たちP3

のたうち回る化け物、山々が破壊される轟音が響く中、ダルサイノは静かに目を瞑った。
 轟音がまるで別の世界の出来事であるかのように、心が静まる。

「総員残弾を置き、下山。聖都臣民の避難誘導に当たれ」

 ダルサイノから出た言葉に、部下達は耳を疑う。
 武器もまだある。 
 目以外は銃弾など通さない程強力な鱗で覆われていたとしても、撤退は許されないだろう。 まして、目を狙うなら同時に多くの者が攻撃した方が当たりやすいに決まっている。
 部下達は命令の不可解さにかたまる。
 
 ダルサイノは再度命じた。

「さっさと下山して避難誘導をしろ!!
 のたうち回るあの蛇の目に弾を当てる事が出来るのは、この俺だけだ!!
 お前達は邪魔だ、速く聖都臣民の避難誘導を行え!!
 ……自分たちの家族も避難させる事を忘れるなよ」

 固まる部下に檄を飛ばす。

「ここから先は俺の仕事だ!!さっさと行け!!行けえええっ!!!」

 部下達はダルサイノの意図に気づく。

「銃神ダルサイノの命に従います……どうか、無事帰ってきて下さい」

 振り返らず、化け物を睨み付けるダルサイノの大きな背中……部下達は目に焼き付ける。

 彼らは下山を開始する。


 一人残されたダルサイノは微笑んだ。

「これが……俺の最後の大仕事だ」

 彼は長年使い込んできた銃を手に取った。

◆◆◆

 ターン……ターン……ターン

 クルセイリース大聖王国伝説級魔導狙撃銃「エターナルクルス」の銃声が連続してこだまする。
 山をも越える体躯を持つ大蛇の目を狙う。

 魔法により、5kmは重力の影響を受ける事無くまっすぐに弾道が安定し、その後放物線を描いて飛翔する伝説の名工が作りし銃がなければ、とても戦えないだろう。
 のたうち回る蛇の眼球付近に弾丸が集中する。

 しかし、動き回る彼らの目に当てる事は困難を極めた。
 減り続ける銃弾、化け物は何処から狙撃されているのか解らず、のたうち回りながら付近の山々を粉砕していく。

 ダルサイノのいる山が粉砕されなかったのは、運が良かっただけだった。

「くそっ!!当たらない」

 銃神ダルサイノは焦る。
 やがて、部下の置いていった銃弾が残り1発となる。

(落ち着け、息を止めて銃身をブレさせるな、緊張でガク引きだけは絶対にするな!!)

 ダルサイノは銃身のブレを防止するため息さえも止め、集中力を上げる。
 自分の心臓音がやけに大きく感じた。

 ターン

 銃声がこだまする。
 銃弾は魔導レールにより、5kmは安定して進み、そこから放物線を描く。
 訓練され尽くした銃神の腕で、銃弾は化け物の目にまっすぐと向かっていった。
 
 !!!!

「くっ!!くそっ!!!」

 化け物の瞬きによって銃弾は跳弾し、まぶたを微かに傷つけるにとどまる。



 聖都の燃える炎が天を焦がす。
 最後の1発が外れ、ダルサイノは絶望と共に立ち尽くしていた。

 万策が尽き、もはややれることは何も無い。 
 化け物はまぶたを傷つけられ、怒りに狂う。
 奴は聖都に頭を向け、進み始めた。

「終わった……これまでか……」

 絶望が全身を支配したとき、光の閃光が天空を駆ける。

 閃光は大蛇に当たって爆発した。

「なにっ!!」

 ダルサイノは西の空を見る。

「あれはっ!!!飛空……艦隊?王家の残存艦隊!!」

 聖都の燃える炎によって照らし出された空、船にプロペラを付けた艦隊が見える。


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posted by くみちゃん at 17:35| Comment(9) | 小説

第143話命をかける者たちP2


 焼け焦げた鼻をつく匂いが離れていても伝わる。

『敵認定!!攻撃を開始します!!』

「パト・イナリ分隊から攻撃許可が出ています!!

「許可する。各時敵がどんな動きをするのか、しっかり見て確認しろ!!」

 通常、狙撃で遙か離れた化け物を狙うこと等出来ない。
 しかし、クルセイリース大聖王国の名工の作りし魔導狙撃銃はその名のとおり、魔力によって弾道を導き、銃として見ると信じられない程の射程を手にしていた。

 ダルサイノから西側の山にいたパト・イナリ分隊が、狙撃を開始する。
 夜の山に銃声がこだました。

 着弾補正を行うためだろうが、狙撃に曳光弾が使用された。
 夜の山を多くの弾が飛び出し、化け物に向かう。
 
 やがて、レーザーを発した化け物の頭に多くの弾が命中し、そのうちの1発が片目を潰す。
「ギョアアアアァァァアァツ!!!」

 化け物の頭の一つはのたうち回り、光が飛んできた山を睨み付けた。

「まずいっ!!」

 化け物の目からは再度赤いレーザーが発せられ、パト・イナリ分隊のいた山を粉砕する。
 山に大きな貫通痕を残し、土煙が上がった。

「パト・イナリ分隊通信途絶!!」

「な……なななっ!!山ごと粉砕したぞ!!」

「化け物めっ!!」

 常軌を逸した攻撃力、ダルサイノは一瞬で決断した。

「目だ!!目を狙うぞ。
 各分隊に攻撃部位を割り当て、光球魔法を空に使用し、奴の注意が閃光球に集中して動きが鈍った瞬間に一斉射撃ですべての目を同時に潰す!!
 曳光弾は使うなよ!!」

「りょ……了解!!しかし相手は動く目標、それをすべて同時にたったの1発で打ち抜くなんてむちゃくちゃです!!」

「ああ、むちゃくちゃだ……むちゃくちゃだけど、俺らがやらなければ聖都の……守るべき命は消える。
 俺は日頃の地獄の特訓に付いてきてくれたお前達を信じる。
 俺達の腕ならば、必ず全ての目を射抜けるはずだ。
 やるぞ……やらなくてはならない。
 今までの厳しい訓練や、我らの生きてきた理由は、今この瞬間に任務を成功させる事だ。
 まさか化け物相手になるとは思わなかったがな。
 ボーナスは弾むように言っておく」

 各人は己の与えられた使命の重さを痛感した。

「割り当て完了……いつでも行けます」
 
「よし……閃光球を敵前方上空に出現させよ!!」

 空に徐々に光が現れ、大きな輝きを放つ。
 大蛇はなにが起きたのかと、空中に現れたほのかな光を見つめた。

「今!!各隊攻撃5秒前、4……3……2……1……撃てえぇぇぇぇぇぇつ!!」

 ターーーン!!

 同時に破裂音がこだました。
  
 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は、同時発射を行い、化け物の多くの目を潰す事に成功した。
 しかし……。

「い……1発外れたっ!!!」

 誰かが叫んだ。

 ギュオォォォォォアアアアアッ!!

 凄まじい雄叫びと共に、蛇がのたうち回る。
 隣にあった山が他の狙撃部隊ごと潰され、大きな土煙があがった。
 まだ目が一つ残っている。
 この土煙が晴れた後、怒り狂った化け物は聖都に何をするのか、想像するだけでも背筋が凍る。



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posted by くみちゃん at 17:34| Comment(9) | 小説

第143話命をかける者たちP1

「ヴオォォォォォォォォ!!!!!」

 聖都全体に響き渡る地響きのような雄叫び。
 その雄叫びに地面が揺れる。

「うあぁぁぁぁつ!!!」

「きゃぁぁぁぁっぁつ!!」

 聖都の民は狼狽し、あまりの凄まじさ、禍々しさに……我先に逃げ出した。
 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は、『それ』が見える山に3部隊に分かれて昇る。

 銃神ダルサイノとその配下は聖王国の名工の作りし銃を背負い、山を駆け上がっていた。

「はあっ、はあっ……はあっ……ダルサイノ様、とんでもないのが現れましたね」

 隊員達は重い装備を背負って山を駆け上がる。
 訓練により鍛えられた肉体はその負荷に耐え、心地よい汗が出た。

「ああ、敵と判断するまでは、絶対に攻撃するなよ。
 配置についたら全部隊に伝えろ」

 普段は虫たちの心地よい鈴の音のような鳴き声が響く山々も、禍々しい生物の出現で、虫さえも黙り、静粛に包まれていたため、ダルサイノの指示は部下達にはっきりと届く。

「了解……こんなのと戦う事になるかもしれないなんて……残業手当、しっかりつけて下さいよ」

 部下は笑いながらダルサイノに話す。
 上下の厳しいこの聖王国において、銃神とまで呼ばれた男に気さくに話すことが出来る。
 この会話が許されるのは、銃神の性格の良さ故であった。

「敵では無い事を願う。あれが敵なら我らは王国臣民のために……聖都臣民が避難する時間を稼ぐために命をかけなければならない」

 ダルサイノの真っ当な発言に部下は苦笑いした。

「……ついていませんね、聖王国建国以来途轍もなく長い時間が経過しているのに、なんで神話の化け物が、私がいるこの時代の、しかもこの日に来るのか。
 来週南部のループ島に家族旅行に行く予定だったんですよ」

「そうか、ではしっかり働いて来週は思いっきり遊べよ」

「フフフ……了解」

 走りながら行われる何気ない会話。
 自分の命が消えるかもしれない緊張感。
 そして守るべき者が背後におり、決して引けぬ決意、様々な感情が入り交じる。
 やがて彼らの部隊は化け物の尾を囲むように各山に配置につく。

「それにしても……デカいな、あれが尻尾だけだと思うと、勘弁してくれと言いたくなる」

 彼らの額に汗が伝う。
 絶望的戦力差を本能で認識しながら笑った。

「まったくですよ、終わったら本当にしっかりと休みを下さいよ。また急な呼び出しは無しですからね」
 
 恐怖を押し殺すように笑う部下、その手は震えていた。

『ギャオァァァァァァッァァツ!!!!!!』

 鼓膜が破れるのでは無いかと思われるほどの雄叫びが響き、地面が大きく裂け、大きな地震が起こった。

「うおぉぉぉおっ!!」

 近くの岩にしがみつく。
 やがて……。

 大きな地響きと共に、黒い体が姿を現す。1本と思っていた尾ひれは8つ現れ、頭も8つ現れた。
 その体躯はあまりにも大きく、自分たちを例えるならば、ワイバーンにアリが戦いを挑むようなものだ。

「大事な事なのでもう一度言うぞ、全部隊に絶対にこちらからは攻撃するなと指示せよ」

「はっ!!」

 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は山に隠れ、身を潜める。
 緊張がピークに達したその時……化け物の8つある頭の内の一つ大きく上に上げた。

「ヒュオォォォォォォ」

 目が赤く光り、レーザーのようなものが放たれる。
 
「なっ!!」

 ガァァァァァァァン!!

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 強烈な爆発音と地響きにたまらず声が出る。
 
 赤いレーザーは聖都に命中し、レーザーの当たった箇所は大きな爆発を起こす。
 まさに聖都を切るという表現が正しい。

 大きな爆発が山々にこだまし、吹き上がる炎が夜空を赤く照らした。

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posted by くみちゃん at 17:33| Comment(13) | 小説