2024年08月25日

第144話命をかける者たち2P3


■ イージス艦ちょうかい 

「人型兵器、倒れます!!」

 敵の放った黒い球を射出する攻撃の後、土煙の中から赤いレーザーのようなものが放たれ、人型兵器の右腕を吹き飛ばした後、大きく倒れ込む。
 土煙の中からやがて、大きな化け物が姿を表した。
 
「おお、何と大きく、おぞましき姿だ!!」

 すでに距離は50km近く離れているはずなのに、あまりにもはっきりと形が解るほどに大きい。
 他の自衛官も、その姿に嫌悪感を抱く。

「ん?」

 無線を聞いていた者が怪訝な顔をして報告する。

「人型兵器から無線が発せられています……これは……奴の故障?」

「どうした?」

「スピーカーから出力します」

 彼はスピーカーからの音声に切り替えた。

『強い……強すぎる!!だがこのままでは……このままではまだ少数残っているワカスーカルトの民が!!
 隣町のイルソベも……何も知らぬ聖王国臣民が化け物に喰われてしまう!!
 護る!!護る!!!命に……この命に代えても彼らの生命はこの私が護る!!!
 化け物め、負けん!!負けん!!絶対に負けはせぬぞっ!!
 我はクルセイリースの守護者!!ワカスーカルト防衛司令長官!エル・ガンエンなり!!
 我が命を賭して祖国を守り抜く!!
 ぐうぅぅぅっ……全砲門化け物へ!!
 魔導砲連撃!!放射!!』
 
 人型兵器に設置された700門もの魔導砲の連撃が始まる。
 砲は連続して化け物に当たり、大きな爆発を起こす。
 しかし……。

「化け物、動き始めました!!」

 文字通り砲弾の雨を、まるでただの雨にぬれているだけのように、化け物は前進を開始する。
 
 艦長小圷は目を瞑った。
 敵ながら、自らが護るべき民を護らんとするエル・ガンエンの決意に胸が熱くなる。
 カッと目を見開く。

「副長、あの人型兵器は敵だ……しかし、奴は自らの民を必死に……命をかけて護ろうとしている……熱い男だ」

「はい……」

「あの化け物は傍受した無線によると、町の民を食べるようだな」 
  
「そのようです」

「化け物は少なくとも味方では無く、さらにあれが日本に来たらやっかいだ。
 海が渡れるのかどうかも解らないが、少なくとも今、陸において対応しておいた方が、良い。
 眼前でジェノサイドが行われる可能性があるなら、それを回避する措置を行うべきであると思うが、どう考える?」

「私も、同意します」

 副長との会話中、化け物の目が赤く光った。
 化け物から放たれたレーザーはイージス艦ちょうかいの30m南側を通過する。
 レーザーは海に当たり、瞬間的に蒸発した海の水が大きな爆発を起こし、艦を超えるほどの水しぶきが上がった。

「うおぉぉぉぉぉぉつ!!」

 ちょうかいは爆発による波で激しく揺られる。

「なんてことだ、生物の攻撃がここまで届くのか!!!」

 考えが甘かった。小圷はもっと早期に距離を取らなかった事を後悔する。

「迷っている暇は無い。攻撃を受けたため、正当防衛を実施!!艦隊艦誘導弾を使用。目標、巨大生物!!」

「了解!!」

 隊員達は、高い練度で的確に動く。
 レーダーを監視していた南野は、反射面積のあまりの大きさに生唾を飲む。

「自衛隊はとんでもない化け物と戦う運命なんですかね」

 彼は緊張しながらつぶやいた。
 
 通常は海上兵器のみを叩く艦隊艦誘導弾だが、50km近く離れていてもはっきりと目視出来る山よりも大きい敵にぶつける事は容易だろう。

「先ほどの大爆発にも耐えるほどの装甲を持ったあれほど巨大な相手に、対艦誘導弾が通用しますかね……」

 副長が疑問を呈す。

「とんでもない化け物だが、おそらく背骨はあるだろう……背骨を折る!上から的確狙え!!」

「無茶をおっしゃる……しかし、やってみましょう」

「……敵巨大生物、艦対艦誘導弾(SSM1−B)2発、発射準備完了」

「てーーっ!!」

 対艦誘導弾発射筒から90式艦隊艦誘導弾が射出される。
 固体ロケットブースターにより、煙を出しながら空へと向かう。

 やがて、一定加速を得た誘導弾は、巡航を開始する。


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posted by くみちゃん at 23:54| Comment(11) | 小説

第144話命をかける者たち2P2

◆◆◆

 海上自衛隊 第4護衛隊 イージス艦ちょうかい

 イージス艦ちょうかいは、沖合に舵を取り、突如現れた化け物と距離をとりつつ厳重な監視を行っていた。

「敵人型兵器、巨大生物と戦い始めました」

「すごい、何て威力だ!!」

 遠目に見ても解る巨大な爆発。
 まるで山が吹き飛んだのでは無いかと思えるほどに強烈な爆発だった。

「奴らは味方ではなかったのか?」

 彼らの首都上空から一斉に空飛ぶ船のレーダー反応が消えたと言う報告、そして巨大生物と戦い始めた状況から見るに、「あれ」は彼らにとっても敵なのだろう。
 クルセイリースで何か異常な事が起こっているのは間違いなさそうだ。

「戦いの監視を怠るな」

 神話の戦いが眼前で繰り広げられる。

■ キル・ラヴァーナル操縦室

「はあっはあっはあっ!!」

 エル・ガンエンは息を切らして眼前のモニターを見る。
 モニターには吹き飛ばされた大量の土砂が巻き上がっている様子が映っていた。
 神話級兵器の最大攻撃に、生物などが耐えられるはずがなく、土煙と共に、消滅した可能性すらあった。 

「はあっはあっ……あれほどの威力の攻撃を喰らって生きていける生物などいるはずがない……やったか?」

 エル・ガンエンは大量の土砂を睨む。

「え?」

 土砂の向こう側、微かにシルエットが映った。
 モニターに見える化け物が微かに赤く光ったと思った瞬間。

 轟音と共にキル・ラヴァーナルが激しく揺れる。

「くっ!!何だ!!」

 石版の一部が赤く点滅している。右腕が消滅し、尻餅をつくように、キル・ラヴァーナルが倒れてしまった事を石版は示していた。
 人型兵器であることから、操縦室は常に上を向くよう設計されており、エル・ガンエンは計器を見て自らの状況を認識した。

「あ……あれが……効果が無かっただと?」

 動き始めた敵に驚愕と恐怖を感じる。
 神話に登場してきた化け物、かつては神が介入しても封印するのがやっとだったと言われる怪物。
 しかし、技術は進歩しており、キル・ラヴァーナルをもってすれば、必ず勝てると考えていた。
 恐怖が全身を駆け巡る。

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 エル・ガンエンは兵器を立ち上がらせ、砲門700門を使用して攻撃する事を決める。
 微かな操作ミスだった。
 焦燥、緊張、極度の疲労から、彼は石版の操作ミスで、科学の力を使用した電気式無線を常時発信状態にしてしまうのだった。

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posted by くみちゃん at 23:51| Comment(5) | 小説

第144話命をかける者たち2P1

 遅くなりました。
 すいません。

ーーーーーー

クルセイリース大聖王国 ワカスーカルト

「おのれ……おのれ……おのれぇぇえぇぇぇぇっ!!!」
 
 ワカスーカルト防衛長官、エル・ガンエンは怒りに燃えていた。
 軍王ミネートの側近「メナス」の裏切りにより、聖都地下に封印されていた極めて巨大な化け物が復活し、聖都は灰燼に帰し、さらに聖都臣民の多くが喰われたという報が入る。

 彼の実家は聖都にあるため、心配で胸が張り裂けそうになる。
 現場は極めて混乱しており、両親と妹が助かったのか、それとも喰われたのか……全く情報が入らない。
 化け物は聖都の民を食い、このワカスーカルト方面へ向かってきているとの情報を得たため、彼はワカスーカルト手前で化け物を食い止める事を決意し、黒月族の古代兵器キル・ラヴァーナルを町の東へ移動させていた。

 ワカスーカルトは日本国との戦闘前に多くの住民の避難は完了していたが、まだ動けぬ少数の者達や、自らの意思で町に残った者達もおり、彼はワカスーカルト防衛長官としての職責を自覚し、聖王国臣民を護るため、邪神を倒すために前に出る。

 キル・ラヴァーナルの操縦室には外の映像が反映されていた。
 やがて眼前にある山の先に、闇よりも暗い黒い影が現れた。

「来やがった!!」

 操作の宝石を右手に巻き、操縦室前の石版に手を触れる。
 エル・ガンエンが石版を撫でると古代文字が光輝き、室内の石が魔導の力によって動く。 やがて、キル・ラヴァーナルの長射程最大威力兵器が選択された。
 
「ちょろちょろ動く敵には使えなかったが、お前みたいなデカい的にはちょうど良い」

 キル・ラヴァーナルの前方空間が黒く歪む。
 黒いボールが出現し、周囲の空間を圧縮し始めた。
 黒いボールの周囲には、微粒子の摩擦により電位差が発生し、雷のようなものを形成する

「ぐうぅぅぅうぅっぅつ!!」

 エル・ガンエンの表情が苦痛に歪む。
 神話級兵器を動かすという事は、術式構築に相応の魔力を消費する。
 クルセイリースにおいては途轍もない魔力の持ち主である彼だが、黒月族の兵器を動かすという事は、相当な苦痛を伴っていた。

 最強クラスの威力を持つ兵器を起動させる。
 苦しみは化け物に対する怒りと気合いで乗り越える。

「ぐううぅぅっ!!はあっはあっはあっ………」

 口からヨダレを垂らす。

「見せてあげよう、神話級兵器の……キル・ラヴァーナルの雷を!!」

 キル・ラヴァーナルの最低可動部以外全ての攻撃魔力を使用した攻撃魔法、空間圧縮魔法が発動する。

「天の炎を喰らうがよい!!」

 エル・ガンエンは発射の為の魔力を入力した。
 キル・ラヴァーナルから放出された黒くて巨大なエネルギー球はまっすぐに八岐大蛇に向かう。
 周囲の空間を歪ませ、エネルギー球が通過した場所の下にあった大地は削れる。
 黒く輝くエネルギー弾は大蛇に命中し、その威力を解放、大きな爆発が出現した。


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posted by くみちゃん at 23:49| Comment(14) | 小説