2017年08月16日

第68話 バルチスタ大海戦P2

◆◆◆

 ムー機動部隊第2艦隊所属 メルティマ マリン航空隊

 機動部隊から飛び立って十数分、敵との相対速度を考慮すると、そろそろ敵が見えて来るはずだった。
 メルティマ航空隊10機は編隊を組んで飛行する。

「それにしても未だに信じられないな……。」

 魔法文明がほとんどのこの世界において、唯一と言って良いほどの高度機械文明国ムー。
 上位列強国まで上り詰めたその「力」は本物であり、旧式機に比べてマリンは加速、旋回性能、そして申し分ない最高速度を誇っている。

 初めてこの「マリン」型艦上戦闘機を操った時は、何と恐ろしい兵器を祖国は作り出してしまったのかと驚いたものだった。
 しかし、突如として現れた敵、グラ・バルカス帝国……。
 かの国の力は先のカルトアルパス奇襲で恐ろしいほどの性能を発揮していたという。

 愛機を操るメルティマは、自分の練度に絶対の自信を持っており、作戦会議でもグラ・バルカス帝国の航空機に関して注意喚起されたが、全く負けるとは考えていなかった。

 彼は日本国の航空機の性能も技術者から聞かされた事があったが、あまりにも性能が隔絶しており、自分も未体験であり、信じる事が出来ないでいた。
 時折漏れて来る日本国への旅行者からの噂も、いくらなんでも誇張しすぎだと考えていた。

『機影確認!12時の方向、低空!』目の良い隊員が報告をしてくる。
 離陸後の10数分は、上昇し続けてきたため、どうやら上を取れたようだった。

 空戦は高空をとれるほど、運動エネルギーを味方に付ける事が出来るため、有利に物事を運ぶ事が出来る。
 マリンの最高速度と、急降下の運動エネルギーを加え、10機による一斉攻撃で偵察機を確実に葬る。

 メルティマは幸先が良いと口元を吊り上げた。
 敵機との距離は徐々に近づく。

「敵はこちらに気付いていないのか?」

 等速直線運動を続ける敵……生まれる微かな疑問。

「いや、航空隊で気付かぬはずなど……そこまで練度が低いはずがない!!!」

 微かに出た疑問は油断を誘うと感じ、その考えを打ち消した。
 戦場において「油断」は決してしてはならない!

「なんだ?あの飛行機……本当に主翼が1枚しかないのか」

 何度も資料で見た敵の航空機が眼前にある。見慣れた複葉機とは異なる形状の航空機……『異界の敵』に微かな恐怖が宿る。

(いや、いける!!!)

 本能の警告を知識の理論で打ち破る。
 敵航空機との距離はさらに近づいた。

 部下にキャノピー越しに、手で合図を送った……攻撃開始!
 メルティマ航空隊10機は反転、急降下を開始した。

 ムー国の誇る艦上戦闘機「マリン」は急降下を行う。
 最高速度は時速380kmであるが、重力加速度という高度を味方につけ、さらに速度を上げる。早すぎる速度に機体はガタガタと震え、風切り音は室内に轟音となって鳴り響いた。

「え!?」

 微かな気付き、想定と現実の差……。
 こちらは重力をも味方につけ、速度を上げているというのに、敵はすでに真下を通過し、ドンドンと遠ざかる。

「し……しまった!!!」

 圧倒的な速度差を感知した時は、時すでに遅く、彼の小隊は敵機に突き放されていく。

「くっ!!」

 にじみ出る悔しさ、明らかな自分のミス……。
 信じられないが信じざるを得ない機体性能の差……彼は怒りをもって無線で本体に報告した。

◆◆◆

 世界連合艦隊上空に、グラ・バルカス帝国の航空機が現れた。
 迎撃に出たメルティマ小隊は引き離されたようだ。
 我が物顔で艦隊上空を飛び回る偵察機、ムーの誇る艦隊直営も、敵の速度に翻弄されて全く追いつけず、射程距離にすら入れていないようだった。

「くっ!何という屈辱だ!!」

 上空を見上げるムー艦隊司令レイダー、飛び回る敵機のあまりの速さに彼は嫌な予感に包まれた。

「ん!?」

 前方を行く神聖ミリシアル帝国の艦隊から光弾が連続して上空に打ち上げられた。

「凄いな……この距離から届くのか!!」

 8隻の艦隊から連続して打ち上げられた対空魔光弾は空に無数の線を走らせた。
 敵の周辺にも無数の線が走り、グラ・バルカス帝国の偵察機は逃げるように飛び去って行った。

「見つかってしまったな……」

 今から訪れるであろう敵機の大軍を想像し、レイダーは気を引き締めるのだった。


 世界連合西方海域 上空〜

 グラ・バルカス帝国の航空機に全く追いつけなかったメルティマ小隊は、そのまま敵の進軍が予想される空域に進出し、現れる可能性のある敵編隊を早期に発見、迎撃するために警戒飛行を行っていた。

「前方に機影確認!!」

 目の良い部下から報告が入る。
 
 目を細めて前を見た。

「つっ!!」

 徐々に見えて来る黒い点、青空に現れたシミのような斑点はその数を徐々に増やしていく。
 その数は1つや2つでは無く、いや、十や二十ですらなく加速度的にその量を増やす。

「何てことだ!!ひゃ……100機を超えているぞ!!!」

 部下が無線を飛ばす。

「バカなっ!!あんな高性能機が100以上も……しかもたったの1回で出撃してくるというのか!!」

 彼の小隊に恐怖が伝染していく。
 高度差はほとんど無いように思えた。
 彼の小隊にとっては絶望的な戦力差……確かな死の予感がする。
 家族の顔が脳裏に浮かんだ。

 メルティマの本能が全力で逃げろと警笛を鳴らす、しかし……軍の最新鋭機、しかも練度の高い自分が逃げ出したら他の軍人も逃げ出しかねない。
 確実に死ぬと解っていても……。

 ムーのため、家族のために本能を理性で押さえつけた。

「いくぞっ!!」

 自らを鼓舞するかのように部下に無線を流し、スロットルをいっぱいに開放する。
 エンジンは最大限の出力を発し、プロペラは力強く回転した。

 敵との距離は急速に近づく。

「あと少し……あと少しだ!!」

 もう少し7.92mm機銃の射程距離に入る。
 すれ違い時の機銃掃射であれば当たるだろう、そう思った時だった。

「ぐじっ!!」

 微かに聞こえた無線の後、斜め後方を飛行していた部下が爆炎に包まれた。
 そして線状の光弾が後方上空から撃ち下される。
 さらに別の味方が数発を受け、機体は大きな炎に包まれた。

「くそっ!!太陽を背に!!!」

 メルティマは敵の照準から逃れるため、操縦桿を横に倒す、機体は鋭く操縦桿に反応し、90度横を向く。続けて一気に手前に引き、急速旋回を始めるメルティマ機、機体の翼端からは白い尾を引く。
 次の瞬間、先ほどまでの自分の進行方向に火線が走った。
 慌てて首をあらゆる方向にまわす。

「ちきしょう!!!」

 共に戦ってきた部下が、次々とハエのように落ちていく。
 多数の敵機が近くを飛翔し、下方へすり抜けた。

「おのれっ!!なんという速さ、そしてとんでもない機銃の威力だ!!!」

 数発当たっただけで機体が砕けるほどの威力、そして敵の1撃離脱時の速度を見たメルティマは回避運動を行いつつ無線で報告を行う。
 ムー国には未だ配備されていない航空機用の20mm機関砲、弾道は安定しないものの、着弾時に大きな威力を開放、数発当たっただけで次々と撃墜されていった。

 何も攻撃を行う事が出来ず、ただひたすらに回避運動を行うメルティマ……。気付けば部下はすべて撃墜され、自分だけとなっていた。

「早いだけでなく、旋回性能もすさまじい!!」

 気を取り直し、敵を撃墜すべく操縦桿を操る、彼の機首は何とか敵の方向を向いた。
 すでに射程距離の遥か先を行く敵機……絶望的な性能差だった。

「せめて……せめて追いつける速度があればっ!!……ぐがっ!!」

 機体後部に衝撃が走る。
 振り返ると水平尾翼と垂直尾翼が吹き飛んでいた。
 安定性を失った機体はめまぐるしく回転を始め、雲の海へと落下していく……。

「……これまでか……。」

 メルティマ機は回転しながら雲の海に落下していった。

 ムー機動部隊第2艦隊所属、メルティママリン航空隊10機は、世界連合艦隊西方約130km付近空域において、グラ・バルカス帝国東方艦隊空母機動部隊より飛び立った第一次攻撃隊約108機と会敵、護衛戦闘機と空戦に至り、全滅した。

タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 22:31| Comment(1) | 小説
この記事へのコメント
>離陸後の10数分は、上昇し続けてきたため、どうやら上を取れたようだった

水平線に隠れる偵察は難しい惑星だと思いますが予想より低い高度で偵察してきていますね

雲が低くて高度を上げられなかったのかな……
Posted by at 2017年08月17日 03:07
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