2019年11月17日

第96話 覇王の行進3P3

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国第2先遣隊

 日は傾き、空が赤く染まる。
 日没を前にして、旗艦クウェーサに乗艦する司令アウロネスの精神は崩れそうになっていた。
 1発、1発と一定時間を置いて行われる敵の攻撃。
 全力で対空砲を発射するも、効果が無く、そのすべてが着弾して轟沈する。
 発射地点は未だつかめず、どこから攻撃されているのかも解らない。

 数時間にも及ぶ攻撃は休まる気配が無い。
 仲間達の突然……数百人単位の死、いつ自分に訪れるか解らぬ死がそこにある。
 数時間にも及ぶ緊張状態は兵達の精神を削り、士気は著しく下がっていた。

「間もなく日没か、敵の誘導ロケットも、光が見えなければ攻撃が出来ないかもしれない」

「夜間攻撃能力が無いことを願いますな」

「しかし……まだ敵の発射位置が見つからないのは何故だ?」

「解りませぬ。おそらく敵は潜水艦と思われますが、潜水艦ならば海中でエンジン音が出るはず。
 これだけの艦隊行動は、非常に雑音が混じりますが、敵も多いはず。
 駆逐艦が捕らえないはずがこざいませぬ」

「いったいどうなってやがる!!」

 考察は続く。
 
 レーダー監視員は、全力でレーダーを見つめる。
 敵のロケットは海面に近い位置を飛んでくるため、惑星の丸みが邪魔をし、レーダーに写りにくい。
 上空に航空機を飛ばしているが、海面に溶け込むように塗装されているものも中にはあり、全集中力をもって画面を見つめていた。
 僅かに映り込む光点。

「2時の方向から攻撃来ます!!距離35km!!」

 外周の駆逐艦が対空砲を打ち始めた。

「くそっ!!また来やがった!!」

 敵のロケットは瞬く間に距離を詰め、上昇を開始した。

「あの位置なら……巡洋艦ヒルヨか!!」

 アウロネスはロケットを睨み付けた。

 ドウ…ン……

「なにっ!!!」

 別の方向から腹に響く重低音。
 アウロネスは爆発音のあった方向を見る。
 第二艦隊で最大の空母カペラの後方から大きな水柱が上がっていた。
 上部構造物に爆発は無く、艦の何十倍もの高さまで水柱が上がる。

「カペラ被弾!!後部スクリュー損傷、速力低下!!」

「今のは魚雷。雷撃かっ!!くっ!!潜水艦が艦隊内部にいるぞっ!!全力で探せ!!!」

「各駆逐艦はロケット攻撃以降、後退で速力を5ノットまで落とし、短信音を使用して潜水艦を検索しています。
 しかし、未だ探知に至っておりません!!」

「そんなバカな事があるか!!!帝国駆逐艦ソナーならば、5ノットで3324mの距離まで探知出来るはずだ!
 現在雷撃を受けた以上、必ず探知範囲内にいるはずだ!!
 まさか……魔法をしようしているのか?」

 アウロネスは、自分たちの武器の常識で魚雷の射程距離を考える。
 射程50kmを超える誘導魚雷が使用されているという考えには至らなかった。
 議論している間に対艦誘導弾は巡洋艦ヒルヨに着弾し、大きな炎を上げる。

(この世界には魔法というデタラメな機械が存在する。
 音波を跳ね返さず、消してしまうものがもしもあればとんでもないことになる)
 
 彼は思考を巡らす。
 しかし、現実はゆっくりと考える間を与えてはくれなかった。
 再び空母カペラに大きな水柱が上がった。

「カペラ、再び被弾!!」

 空母カペラの右舷に大きな破口が発生する。
 89式長魚雷の威力は、グラ・バルカス帝国の想定を遙かに超え、注水区画よりも内部を傷つける。大量の海水が艦内に流れ込み空母は傾いた。
 発進準備をしていた艦載機は、最上甲板を滑った後、おもちゃのようにパラパラと、海面に墜ちていく。
 右側を攻撃され、浸水しているため、左側に注水し、艦の平行を必死で保とうとした。 しかしダメージコントロールの限界を超える。

「カペラ、注水限界を超えました!!転覆します」

「お……おのれぇぇぇぇ!!」

 アウロネスの目が怒りのあまり、血走った。
 眼前で空母が転覆する。
 空母内部の爆弾は、ゴロゴロと転げ回りやがて1発が爆発、爆発は他の爆弾を次々に誘爆させ、爆発は上へ向かう。
 転覆した空母の船底から大きな爆発が出現、空母カペラは艦が真っ二つに折れ、乗務員を救出する間も無く海へと沈む。

「空母カペラ……轟沈!!」

 艦橋は一時沈黙した。
 グラ・バルカス帝国の艦艇が沈む。無力感が漂う。

「どうなっている!!何故雷撃してくる距離にある潜水艦が探知出来ない!!」

 絞り出すような声、得たいの知れない怖さ。
 
「解りませぬ……空母に魚雷を当てたとなると、相当に近い位置にいるはず。
 目視範囲にいてもおかしくないのですが、未だ見つからない」

「奴らの潜水艦は、我が帝国を上回る技術力でつくられたか、もしくは相当に練度が高いのか……」

「魚雷探知!!弾数2、距離12km、2時の方向からまっすぐこちらへ向かってきます!!」

 再び艦橋に緊張が走った。

「発射方向を全力で探査、魚雷位置を各艦に伝達、回避せよ」

「了解!!」

「距離が10kmで探知出来た。今回は回避できるでしょう」
 
「2発だけ撃つとは思えん。もっと弾数が多い事を想定しなければ。
 付近の潜水艦の察知をさせないため、あえて長距離から発射し、我らを欺罔させようとしているのかもしれない。
 必ず近くに潜水艦がいるはずだ。
 なんとしてでも探し出さなければ」

 グラ・バルカス帝国が水雷戦を行う場合、実有効射程距離は5kmから25kmと言われている。
 無誘導のため必中などという事はもちろん無く、数発撃って1発当たれば御の字だ。
 まして、10kmも先で魚雷発射と、斜角を探知された場合、絶対に当たることは無いだろう。
 旗艦クウェーサは、ゆっくりと回頭する。その時だった。

「敵魚雷、進行方向を変えました!我が方に向かってきます。直撃コース!!」

「な……なんだとぉ!!」

 アウロネスが驚愕している時も艦長は的確な指示を出し、再び艦首を別の角度に向ける。
「魚雷再び向きを変えました」
 
 自分たちに向けられた刃が、誘導してくる魚雷という反則的兵器、通信士は悲鳴のような声をあげた。

「ま……ま……まさか、まさか誘導魚雷だというのかっ!!」

 誘導ロケットが存在したのだから、誘導魚雷の存在も、十分に考えられた。
 しかし、未来兵器を予想して戦うと言うことが、古い軍人の場合、どうしても出来ない。
「い……いかん!!すぐに帝国本隊に、誘導魚雷の存在を教えなければ!!
 通信士、すぐに帝国本隊に無線通信、現在までの戦況の概要を流せ!!」

 通常は、ある程度戦果が決まり、まとまった後に報告するのが帝国の慣例であるが、アウロネスは早急に報告する必要性を考え、通信士に指示した。

「了解!!」

 通信士はすぐに帝国本隊に無線通信を送ろうと試し見る。しかし……。

「送れたか?」

「いえ……返信がありません、のみならず、他の艦とも連絡がとれません!!」

「報告!!レーダー画面が真っ白になりました。レーダー使用不能!!」

 迎撃不能の攻撃、そして向かってくる魚雷。
 手足を縛られた状態で、無線とレーダーという、目と口も塞がれた。
 司令アウロネスの手は震え続けるのだった。


タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 22:49| Comment(26) | 小説
この記事へのコメント
更新ありがとうございます
Posted by at 2019年11月17日 22:50
おそらく変換ミスですが
魔法をしよう→魔法を使用
かと
Posted by at 2019年11月17日 23:03
短信音ではなく探信音では?
Posted by at 2019年11月17日 23:33
敵の新兵器をちゃんと報告できて偉い
Posted by at 2019年11月17日 23:42
一箇所ミス。
魚雷が命中した場合は、被弾ではなく被雷と呼ぶはずです。
Posted by at 2019年11月18日 00:40
日没近いのに艦載機を戻していないから夜間着艦覚悟の運用に見える

無理して何とかしようとしてるのが読み取れて良い
Posted by at 2019年11月18日 01:04
89式長魚雷なら、艦底起爆で空母だろうが一発で撃沈できるのに、何でわざわざ側面に当てるの?
理解出来ない
Posted by at 2019年11月18日 08:49
誘導弾であることを知らせる趣旨があるとはいえ、AAM、USM、長魚雷を捕捉できるのはいくらなんでも目が良すぎるww
Posted by at 2019年11月18日 08:53
89式魚雷だと、基本、有線誘導ですので敵艦に直撃はしませんよ?
敵艦の艦底下で爆発して大きな気泡を造り、落とし穴に落とすようにして対象のキールをへし折り沈める方法を使います。
3千トン級以下の艦艇なら1発で真っ二つに割れて轟沈します。ちなみに、米海軍のニミッツ級空母だと4発必要と言われています。
Posted by at 2019年11月18日 09:02
日本側が無線妨害をしたタイミングがわかりにくいですね
攻撃開始直後から無線妨害していて旗艦通信士が今気付いたのか
それとも
レーダー妨害と同時に無線妨害もしたのか
Posted by at 2019年11月18日 10:40
レーダーアンテナは指向性があるから妨害電波の反対に向けたら船で反射された妨害電波になるはず

なので船のある角度は白くなるが船の無い角度だと海なので反射が少なく白くならないはず

勘の良いレーダー要員なら強力な電波照射が原因で発生源のおおざっぱな角度に気がつくかも
Posted by at 2019年11月18日 17:47
グ帝国の巡洋艦以上の戦船に載せてある下駄履き飛行機が、長波探信儀を活用出来ていないなんて。
グ帝国の潜水艦に自動つりかけそうち
Posted by ンデレヴィーヤ at 2019年11月18日 21:50
>5ノットで3324mの距離まで探知出来るはずだ!
有効桁が4桁もあるなんてなんてすごい精度だ!!!
って、この手の数字の有効桁は1、2桁でしょうに。
多分何かの数字をmに変換したんでしょうけど、
元の数字の有効桁よりも精度が上がることはないですよ。
Posted by at 2019年11月18日 21:59
「潜水艦ならば海中でエンジン音が出るはず。」
エンジン?
ここは「駆動音」とかの方がいいんじゃ?
Posted by at 2019年11月19日 03:11
愚帝国では、潜水艦に自動懸吊装置が実用化されていないようですね。
そして、水中航行はもとより、雷撃の際にも発動機によるバランス調整の必要が、あるかの様に見受けられます。
また、水上戦力による掃海戦では専ら、軍艦の聴音機による索敵と爆雷投下が主流であろうことが伺えます。
以上の推察から愚帝国がいた異世界では、仮装巡洋艦による通商破壊作戦や、ユトランド沖海戦などは発生していないものと考えられる。
もっとも、日本国召喚は、あくまで実際の日本とは似て非なる別物の邦ですからねぇ。
Posted by ンデレヴィーヤ at 2019年11月19日 07:30
誤字:各駆逐艦は〜後退で速力を5ノットまで落とし、
   ×後退 〇交代
Posted by kml at 2019年11月19日 20:39
無線妨害可能な距離迄近づけたということじゃないかな?
Posted by at 2019年11月20日 12:45
P5の文面よりも、P3の文面のほうがツッコミどころが多いから、コメント捗り〜
Posted by at 2019年11月20日 15:38
〉敵の誘導ロケットも、光が見えなければ

「光が無ければ目が見えず」のほうが分かりやすいかと。
Posted by at 2019年11月20日 21:14
いつも楽しく読ませていただいています。
誤字報告
まして、10kmも先で魚雷発射と、斜角を探知された場合、絶対に当たることは無いだろう。 

斜角→射角
Posted by at 2019年11月20日 22:31
>>Posted by at 2019年11月18日 21:59
いいね、その違う単位系の数字が無理に自動翻訳された結果の齟齬。
強調するなら「およそ3324mの距離まで探知出来るはずだ!」とかだと、謎の自動翻訳されてるのが、もっと強調されるね。
Posted by at 2019年11月21日 07:28
「各駆逐艦は後退で5ktまで落として〜検索している」
 この部分を読み解いてみる
@「後退で〜検索している」
→聴音器械が艦首水線下にあり、波切り音を消して探知能力を底上げするために、後進しつつドン亀(敵潜水艦)を探している。
A「交代で5ktまで落として」
→短信音、つまりアクティブソナーとして探深音を出す駆逐艦と、反射音を拾おうとする駆逐艦とが役割を交代しながら、恐らくは水雷戦隊単位で微速前進しながら、敵潜水艦を探している。
 以上のような情景が想定できる。
 他の皆さんはどんなものでしょうか?
Posted by at 2019年11月21日 09:59
>>Posted by at 2019年11月20日 21:14
>「光が無ければ目が見えず」
だと、ロケットの中に特攻隊員の目があるようにも感じるので

「光が無ければ目標を捕らえられず」

くらいが分かりやすいかも。
Posted by at 2019年11月24日 00:05
有効射程距離が5kmから25km? ちょっとおかしいですね。
第二次大戦当時の魚雷は、有効射程どころか最大射程すら10kmも無いはずです。酸素魚雷を除けば。
第一、無誘導の魚雷では、5kmも離れればまぐれ以外に当たりません。
高確率で命中が期待できるのは、せいぜい3kmまでです。
Posted by at 2019年11月26日 17:36
伊58は1500Mでインディアナポリスに魚雷6発射して3発命中
 優秀なんだなあ
Posted by at 2019年12月02日 11:17
ゴーヤは優秀でち!
Posted by at 2019年12月07日 05:44
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