ナハナート王国北西海域 上空 空中戦艦パル・キマイラ
パチン
メテオスが指を鳴らすと、艦橋上部にモニターが映し出される。
日本国における超望遠レンズよりも高性能、遙か200km先の海域を見通す千里眼。
超望遠魔導波検出装置によって、グラ・バルカス帝国艦隊が映し出されていた。
メテオスの目に、一際大きい艦が飛び込んでくる。
「グレードアトラスター……憎いねぇ。今すぐにでも君たちをひねり潰してやりたい気分だよ」
ワナワナと右手が震え、もっていたグラスから液体がこぼれ落ちる。
「僕を冒涜した罪、ゆるさないよ」
頭に浮かぶ先日の光景、友軍の空中戦艦パル・キマイラに敵の超大型戦艦の主砲が直撃し、魔素による装甲強化すらも貫き、醜く海に落ちる。
僕は負け犬のように撤退した。
このパル・キマイラが、この古の魔法帝国の超魔導技術の塊が落ちたのだ。
憤怒による手の震えは概ね1分間続いた。
「しかし……健気だねぇ」
グラ・バルカス帝国艦隊映像の横には地図が投影され、日本国自衛隊の位置が光点で示されていた。
圧倒的な量の点に対して僅か8個の点。
戦力比は明らかだ。
「彼らも命令されているのだろうが……自殺は良くないねぇ。
物事を成すには準備と、それに至るプロセスと投入される戦力を図る事が必要だ。
やれと言ったからやれ、という事だろうが……数を用意するという準備も無視して投入されている時点で彼らが可哀想でならない。
精神論は全く合理性に欠く」
彼はグラスの液体を口に含む。
圧倒的数の光点に向かっていく僅か8つの点が、余りにも健気に見え、怒りが少し和らいだ。
対空レーダーは今なお使用出来なかったので、自衛隊の光点は彼らの申し立てた座標を職員が手入力した位置であるため、多少のズレがあるかもしれない。
グラ・バルカス帝国艦隊の数は今なお400を超える。
日本国護衛艦隊たったの8隻が向かっているようだが、とてもナハナートを守れる戦力とは思えなかった。
空中戦艦パル・キマイラの探知能力には限界があり、現在の正確な艦隊数は把握していないため、大幅に敵艦が減っている事実に彼らは気付く事が出来なかった。
「日本国自衛隊か……ムーを超える科学文明国家、か……。科学文明は合理の塊であると思っていたが、非合理的な戦力投入。歪な国で実におもしろいねぇ。
日本国はどんな兵器を使うのか。見せてもらうよ」
彼はイスに座って足を組み、モニターを眺める。
その時だった。
映像に映っていた艦隊のうち、12隻から猛烈な爆炎が上がる。
艦橋がざわつく。
敵艦隊は雨のように対空砲を撃つが、全く関係なく次々と艦を包み込むほどの爆発が続く。
メテオスは目をカッと見開いて立ち上がり、モニターを食い入るように見た。
「なんだ……いったい何が起こっているのだ!!明らかにパル・キマイラの魔導砲より威力が高い。いや、圧倒的に高い。比較にならないほどに高い。
まさか、この位置から撃ったというのかね!?
こんな所から当たるわけが無いのだ」
艦隊間距離はまだ100km以上離れている。
常識を遙かに超える射程距離だった。
「はっ!!」
メテオスは、敵艦周辺への海上への着弾、外れ弾が無いことに気づく。
行き着く結論はただ一つ。
「まさか……まさか対艦型誘導魔光弾!?」
傍らに立つ技師と目が合う。
「我が国でもまだ研究段階です、誘導魔光弾の全容は解明できていません……彼らは科学技術立国、魔法を使用せずにそんな事が可能なのか、本当に信じられません!!!」
画面はスクロールされ、次々と着弾する対艦誘導弾によって炎上するグラ・バルカス帝国海軍艦隊の姿が見える。
外れ弾は無く、次々と攻撃を受けるグラ・バルカス帝国。
最強かつ最高たる神聖ミリシアル帝国と、引き分けるほどの強さを持つグラ・バルカス帝国艦隊が、あっさりと滅せられていく。
古の魔法帝国の如き兵器が敵を滅していく姿に、メテオスは震えずにはいられなかった。
「そんなバカな。そんな事があっていいはずが無い!!
誘導魔光弾の大規模攻撃など……科学でこんな事が出来るはずが無い!!
魔法こそが強さの根源、科学でこの領域まで届くはずがないっ!!!」
メテオスはあまりの衝撃に呆然と立ち尽くす。
空中戦艦パル・キマイラには録画も可能な装置が搭載されているため、この映像は神聖ミリシアル帝国上層部も見ることになるだろう。
しかし、それは同時に古の魔法帝国への恐怖ともつながった。
「もし古の魔法帝国が相手だったとしても、グラ・バルカス帝国でさえも手も足も出ないと言うことか」
奴らの復活は近い。
魔導機関の出力が違いすぎるとはいえ、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦も少しは戦力になると考えられてきた。
しかし、誘導魔光弾の大規模攻撃を食らえば、ミリシアルの戦艦部隊であっても超短時間で滅せられる可能性がある。
初めて見る誘導魔光弾に近い攻撃、圧倒的格差、古の魔法帝国の影に、メテオスは震え続けるのだった。
タグ:日本国召喚
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メテオスは夜間戦闘を見ていなかったようですね
パルキマイラは夜明け前にグ帝艦隊に接近していたようですが、戦闘観測手段がなかったのでしょう
弾薬使い果たして日本軍てば当分戦闘不能ですね
しかしそういえば竜人たちとの
交渉はどうなったのでせうか
あれが世界に与える影響パネエと思う
キマイラ側は敵が1000隻くらいいたのを認識してなかったの?
それが400くらいに減らされてるのを疑問に思わないの?
単純に敵の数を観測出来てない状態でここまで来たの?
600隻も撃沈されてる事に、なんの反応もしないのは変なのでは
それだけ撃沈されてると知った時点で、日本軍に対する認識が変わるのでは
しかも、同盟国に配置されていただけ
この情報をみてなんで上から語れるのか謎だな
さらに同盟でないグ帝がやられるのをみて
魔帝の脅威を感じるってのも変な話だ
魔帝より日本を警戒した方がいいんじゃないか?って流れになるならわかるんだけどね
→常識を遙かに超える射程だった。
→装置が搭載されているため
→外れ弾は無く、次々と攻撃を受けるグラ・バルカス帝国艦。
かなあ?
Posted by at 2020年07月30日 14:28
書籍は文字数が2倍から、箇所によっては数十倍の文字数になるので、ウェブ版では余計な部分をカット (まだ書いてない) しただけでは?
現に今回の夜戦などカットされまくってますし
まったくです。
攻撃する側から見れば「命中」。攻撃を受ける側から見れば「被弾」が、正しいと思うのですが。
直木賞作家の下層戦記は言語に絶するものがあったしなろう作家でこの程度なら許容範囲
よくないよ、指摘しても全然校正しないんだから
→とてもナハナートを守れる戦力とは思えなかった。
→こんな所から当たるわけが無いのに」