グラ・バルカス帝国領 レイフォル地区 レイフォリア
放射冷却によって急激に下がった空気中の温度が海水温よりも低くなったため、海の水分は急激に蒸発し、濃い霧が発生する。。
少しだけ高台にある、海の見えるオープンテラス風の食堂、雰囲気の良いオープンテラスだが、霧のせいで台無しである。
食堂では2人の男が食事を取っていた。
一人は人間、そしてもう1人はドワーフ族だった。
洒落た食堂には似合わない2人であったが、彼等はそんなことは気にせず、朝食のパンとミルクを食べながら話す。
「おいおい、聞いたか?どうもグラ・バルカス帝国の本国艦隊が、神聖ミリシアル帝国のたった1艦に敗れ去ったらしいぞ」
昨日酒場で聞いた話を、ドワーフの男が大声で話す。
酔っ払っていたので詳細は覚えていないが、どうも憎きグラ・バルカス帝国が敗れ去ったようだと聞き、テンションが上がる。
「それが本当なら、とんでもない事だ!!」
聞いた人間族の男も、久々の朗報に、全身が震えた。
「おい!!何を話している!!!!」
声が大きすぎた。グラ・バルカス帝国兵に聞こえたようだった。
「おい!!何を話していたかと聞いているっ!!!」
真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
「いえ、最近の天候の話しをしていました」
「嘘をつくな!!帝国の本国艦隊という話しが聞こえたぞっ!!卑しい蛮族の貴様らがこの帝国軍人様に隠し事をする気か?」
どうも冗談の通じないガチガチの頭をもった軍人のようだった。
長い間に渡って蓄積した抜け出ることの無い閉塞感、そしてたまりきった鬱憤が、2人のレイフォル人の行動を狂わす。
「……ってんだよ!!」
「はぁ!??」
「お前らご自慢の本国艦隊が、神聖ミリシアル帝国艦のたった1艦にあっけなく全滅させられたって話してたんだよ!!」
敗戦の報を聞いていない末端の帝国陸軍軍人は、蛮族共の不遜極まる態度に怒りを覚えた。
「お前ら蛮族は、まだ我がグラ・バルカス帝国軍の強さを的確に認識できないのか??
お前らの言う本国艦隊とは、おそらくイルネティア王国周辺に展開する空母機動部隊の事を指すのだろう。
それらの部隊の打撃力は、お前らこの世界では列強だったレイフォル国すべての艦隊が100倍いたとしても、この1部隊に決して勝てぬほどの戦力だ。
増してこの世界の最高国家とはいえ、たった1隻が勝てる艦隊ではない!!」
「お前は下っ端だから、教えられてないんだろう?
それに、お上様から教えられたことがすべて本当だと思っているのか?ラルス・フィルマイナの現状を見てみろ。
少しは与えられた情報だけではなく、自分の頭で考えてみたらどうだ?」
軍人は目を丸くした。
今まで不遜な輩はいたが、帝国軍人をこれほどまでに侮辱する人間はいなかった。
衝動的に拳を振り上げる。
「貴様ーーっ!!!」
ドワーフの頬から鈍い音がする。
「仮に、イルネティア王国周辺艦隊がいなくなっても、すぐに本国から強力な艦隊が送られてくるはずだっ!!
たった1隻で覆るような戦力では無い!!!」
「てめぇ!!殴りやがったなっ!!」
ドワーフも、帝国軍人に強力な一撃を加える。
人間族も混じって、大声を張り上げ、殴り合いに発展した。
やがて人だかりが出来、他の帝国軍人にも知られる事となる。
「お前らぁ!!何をやっとるかぁ!!!」
怒号に軍人の拳が止まり、直立不動となった。
「はっ!!この者達が、帝国艦隊が神聖ミリシアル帝国艦に敗れ去った等とぬかしたものですから……」
階級が上の者なのだろう。
「貴様ら、現地人のぶんざいで、帝国軍人を殴るとは……覚悟は出来てるのだろうな?」
加わったグラ・バルカス帝国軍人はがドワーフに襲いかかろうとした時だった。
強く照り尽くす太陽により、急激に暖められた空気の温度は、海水温よりも高くなる。
驚くほど早く、霧が晴れていった。
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強く照りつける太陽により、急激に暖められた空気の温度は