2024年01月29日

第143話命をかける者たちP1

「ヴオォォォォォォォォ!!!!!」

 聖都全体に響き渡る地響きのような雄叫び。
 その雄叫びに地面が揺れる。

「うあぁぁぁぁつ!!!」

「きゃぁぁぁぁっぁつ!!」

 聖都の民は狼狽し、あまりの凄まじさ、禍々しさに……我先に逃げ出した。
 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は、『それ』が見える山に3部隊に分かれて昇る。

 銃神ダルサイノとその配下は聖王国の名工の作りし銃を背負い、山を駆け上がっていた。

「はあっ、はあっ……はあっ……ダルサイノ様、とんでもないのが現れましたね」

 隊員達は重い装備を背負って山を駆け上がる。
 訓練により鍛えられた肉体はその負荷に耐え、心地よい汗が出た。

「ああ、敵と判断するまでは、絶対に攻撃するなよ。
 配置についたら全部隊に伝えろ」

 普段は虫たちの心地よい鈴の音のような鳴き声が響く山々も、禍々しい生物の出現で、虫さえも黙り、静粛に包まれていたため、ダルサイノの指示は部下達にはっきりと届く。

「了解……こんなのと戦う事になるかもしれないなんて……残業手当、しっかりつけて下さいよ」

 部下は笑いながらダルサイノに話す。
 上下の厳しいこの聖王国において、銃神とまで呼ばれた男に気さくに話すことが出来る。
 この会話が許されるのは、銃神の性格の良さ故であった。

「敵では無い事を願う。あれが敵なら我らは王国臣民のために……聖都臣民が避難する時間を稼ぐために命をかけなければならない」

 ダルサイノの真っ当な発言に部下は苦笑いした。

「……ついていませんね、聖王国建国以来途轍もなく長い時間が経過しているのに、なんで神話の化け物が、私がいるこの時代の、しかもこの日に来るのか。
 来週南部のループ島に家族旅行に行く予定だったんですよ」

「そうか、ではしっかり働いて来週は思いっきり遊べよ」

「フフフ……了解」

 走りながら行われる何気ない会話。
 自分の命が消えるかもしれない緊張感。
 そして守るべき者が背後におり、決して引けぬ決意、様々な感情が入り交じる。
 やがて彼らの部隊は化け物の尾を囲むように各山に配置につく。

「それにしても……デカいな、あれが尻尾だけだと思うと、勘弁してくれと言いたくなる」

 彼らの額に汗が伝う。
 絶望的戦力差を本能で認識しながら笑った。

「まったくですよ、終わったら本当にしっかりと休みを下さいよ。また急な呼び出しは無しですからね」
 
 恐怖を押し殺すように笑う部下、その手は震えていた。

『ギャオァァァァァァッァァツ!!!!!!』

 鼓膜が破れるのでは無いかと思われるほどの雄叫びが響き、地面が大きく裂け、大きな地震が起こった。

「うおぉぉぉおっ!!」

 近くの岩にしがみつく。
 やがて……。

 大きな地響きと共に、黒い体が姿を現す。1本と思っていた尾ひれは8つ現れ、頭も8つ現れた。
 その体躯はあまりにも大きく、自分たちを例えるならば、ワイバーンにアリが戦いを挑むようなものだ。

「大事な事なのでもう一度言うぞ、全部隊に絶対にこちらからは攻撃するなと指示せよ」

「はっ!!」

 銃神ダルサイノ率いる特化狙撃部隊は山に隠れ、身を潜める。
 緊張がピークに達したその時……化け物の8つある頭の内の一つ大きく上に上げた。

「ヒュオォォォォォォ」

 目が赤く光り、レーザーのようなものが放たれる。
 
「なっ!!」

 ガァァァァァァァン!!

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 強烈な爆発音と地響きにたまらず声が出る。
 
 赤いレーザーは聖都に命中し、レーザーの当たった箇所は大きな爆発を起こす。
 まさに聖都を切るという表現が正しい。

 大きな爆発が山々にこだまし、吹き上がる炎が夜空を赤く照らした。

タグ:日本国召喚
posted by くみちゃん at 17:33| Comment(13) | 小説
この記事へのコメント
更新きた叫びか、枕詞この。
Posted by まさゑの孫(北斗の拳妄想伝の初代スレの名無しです) at 2024年01月29日 17:34
おい、次の記事はやく!
Posted by まさゑの孫(北斗の拳妄想伝の初代スレの名無しです) at 2024年01月29日 17:36
更新して、ありがとうございます。
Posted by at 2024年01月29日 17:51
更新ありがとうございます

>なんで神話の化け物が、
一般兵士が気づいたということは、建国神話に邪神の姿形や復活について、具体的に記されていたことになります。
聖王女はガハラの予知で知ったような感じでしたが・・
Posted by at 2024年01月29日 18:34
お久しぶりです。
更新お待ちしておりました!
Posted by at 2024年01月29日 19:09
>大きな地響きと共に、黒い体が姿を現す。
>吹き上がる炎が夜空を赤く照らした。

化け物の復活の様子が見えたということは、あたりはまだ明るいことになります。
最後の場面ではすでに夜になっています。
ということは、化け物の復活から攻撃までの間に、多少の時間が経過していることになります。
Posted by at 2024年01月29日 19:35
残業手当の概念がある社会だったんだ…

対空砲火のために兵士の命を吸い取る暗黒メガコーポも真っ青な代物があるのにw
Posted by at 2024年01月29日 21:54
ここ最近更新が無いと思い数日前からググって検索してたら
ブログ自体にアクセスできない状態でした…
更新&削除になってなくてホントに良かったです
Posted by at 2024年01月29日 22:15
ヴオォォォォォォォォ!!!!!
Posted by at 2024年01月30日 08:52
ヤマタってこの世界だと魔帝以後なんかね
イルクスとどっちつおいの?
Posted by at 2024年01月30日 10:44
みのろう先生、ご苦労様です。

>>イルクスとどっちつおいの

いや、比較対象になるのはエモールの三龍くらいのものかと。
Posted by ハインフェッツ at 2024年02月01日 15:17
久々の更新、ありがとうございました
Posted by at 2024年02月02日 07:46
更新乙です
Posted by at 2024年02月03日 23:47
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]