2018年02月04日

第71話 古の超兵器P2


「主砲発射まで、あと5.4.3.2.1……撃てーっ!!!!!」

 轟音と共に、旗艦べ・テルギスから巨弾が射出される。
 重量1.5トンにも及ぶ巨弾を打ち出した45口径41cm連装砲2基は空気を震わせ、その発砲炎は海上をも振動させた。
 べ・テルギスから発射された時限信管を搭載した主砲弾は着弾まで1分以上を要する。

「敵、回避運動を始めました」

 直径が250mにも及ぶ円盤状の敵は、僅かに進行方向を変える。
 しかし、時速200km以上の速度で進行しているため、僅かな角度のズレでも着弾予想地点から大きく外れてしまう。

 やがて、主砲の時限信管が作動、猛烈な爆炎が放射状に広がり、空に大きな花を咲かせる。
 
 各艦の発射した主砲弾も、同様に着弾まで時間を要し、空に巨大な爆発が多数出現する。
 爆発箇所では轟音がこだまし、直下の海上を震わせた。

 ドドドド……ゴウォォォォォ……

 付近に響き渡る轟音。
 なおも侵攻する敵空中戦艦……。
 同艦の直下の海は、ヘリコプターの猛烈なダウンウォッシュを受けたかのように波うち、侵攻してくる。

「やはり対空用を謳っているとはいえ、主砲弾で空にいる敵を相手するのは無理がありますな」

 参謀バーツは司令カオニアに話しかけた。

「そうだな……対空火砲で迎え撃つか……ん!?あれは何だ?」

 すでに艦隊まで20kmほどまでに近づいた敵空中戦艦……同艦のリング状の部分下部に設置された三連装砲らしき物体が、艦隊を向く。

「攻撃が来るぞ!!!」

 カオニアが吠えた次の瞬間、敵が何かを発射した。
 青い尾を引く敵の三連装砲は、多少の時間のズレをもって連続して3発を発射した。

「な……なにぃ!!」

 光弾はカオニアの乗艦する旗艦べ・テルギスを飛び越え、後方を航行していた重巡洋艦リゲールに3発すべてが着弾、猛烈な爆発をあげる。
 少し遅れて高音交じりの発射音が付近にこだました。

『リゲール被弾、現在被害確認中』

「しょ……初弾で当てて来やがった!!!!」

 カオニアは全身に電撃が走るほどの衝撃を受けた。

「バ……バカな!!!」

 どうやったらそんな芸当が出来るのか、理解が追い付かない。

『敵艦のリングが回転を始めました』

 見張り員の報告なしでも見える。
 敵艦は中央部を固定したまま、周りのリング部分が回転を始めていた。
 よく見ると、リング部分下部には先ほどリゲールに対して攻撃を行ったのと同様の兵器が全部で6つ付いているようだった。
 同兵器が艦隊を向く。

 次の瞬間、再び敵艦が発砲し、消化作業中のリゲールを捕らえる。
 再び爆炎に包まれるリゲール……攻撃は続き、9発もの直撃弾を受けた重巡洋艦リゲールは、大きな火柱を上げ、真っ二つに折れて海上から姿を消した。

『リゲール轟沈……』

 旗艦べ・テルギスの艦橋は沈黙に包まれた。
 
 戦闘開始からあまりにも早い重巡洋艦の轟沈。
 かつてないタイプの敵、そして考えられないほどの正確な射撃を前に、艦橋にいる誰もが衝撃を覚えた。

『敵艦、進路を変えます!!』

 むやみに近づいてくれば、対空火砲をお見舞いする手もあっただろう。
 しかし敵は、我が艦隊から一定の距離を取り、旋回するように飛行しながら対空火砲の射程外から攻撃を加えて来る。
高射砲は射程圏外であり、届く艦は主砲をもって応射しているようだが、時速200kmもの高速で飛翔する敵艦には全く当たらない。

『駆逐艦タイタン、重巡洋艦エララ轟沈!!』

 敵との距離を詰めたいが、速度が違いすぎる。
 海のように平面ならばまだ手があるだろう。
 しかし、三次元……立体的に飛ぶ艦に対し、放物線を描いて飛翔する砲弾は、全く当たらなかった。

「足の速い駆逐艦は、敵に進路を取れ!!」

 前世界、そして今世界においても無敵を誇ったグラ・バルカス帝国海軍は、神聖ミリシアル帝国の発掘した、古の超兵器、パル・キマイラ1機に翻弄される。



 空中戦艦パル・キマイラ

「敵、中型艦轟沈……次のターゲットに移ります」
 
 無機質な報告が艦内に流れる。
 艦橋に設置された大型ディスプレイにはこちらの攻撃を受け、爆発炎上する敵艦が写っていた。

「古の魔法帝国……やはり古代兵器は恐ろしいな……」

 メテオスは一人つぶやいた。
 
 周辺国家を瞬く間に制圧、列強レイフォルをあっさりと倒し、そして世界第2位の列強国であるムーを圧倒、さらに我が帝国で最強と呼ばれし第零式魔導艦隊すらも破った敵……。
 我が国の本国艦隊ですら手を焼く出来が、発掘兵器であるたったの1艦に翻弄される。
 超兵器を操る側からすると、ひどく弱い軍隊にさえも思えて来る。

 このような恐ろしい兵器群を作り出した古の魔法帝国……。
 いかに神聖ミリシアル帝国が偉大であったとしても、古の魔法帝国が……圧倒的な魔力量を誇るかの国が復活すれば、とても敵わないだろう。
 人類の敵が復活した時、いかに戦うのか……その最前線にいるのが自分達だと思うと、来るべき敵の強大さに頭が痛くなる。
 
 メテオスが一人思いに耽っていると、後から細身の男が近づいてきた。
 一応ルールなので、仮面をつけているが、顔から突き出る耳はエルフのそれであり、仮面がやけに似合っている。
 艦の技術を統括する技術部長コルメド……。

「メテオス様、やはり古の魔法帝国の超兵器はすごいですね」

「砲の飛翔速度、我が方の速度、そして敵の速度を相対的に計算し、敵の未来位置に向かって行う射撃……我が軍と同等の敵での実戦運用は初めてだがこれほどまでに当たるとはね……」

 空中戦艦下部に設置された15p3連装魔導砲から放たれる砲弾は100発100中とまではいかないまでも、かなりの確率で命中弾を出していた。
 下部に設置されているため、水平方向以上上には向かないため、射程距離は限られるが、海抜高度200mから撃ち下される砲弾は、通常の水平射撃よりもはるかに射程距離を伸ばしていた。
 メテオスのつぶやきに対し、技術部長コルメドは、ゆっくりと自分の考えを述べる。

「古の魔法帝国の魔導演算装置は、まだ解明出来ていません。我が国の演算装置を高性能化し、そして敵との距離を3次元で正確にとらえ、自らの移動状態を確実に把握できるのであれば理論上我が国にも作れるはず……実用化すれば戦力は比較にならないほど向上するでしょう。
 しかし……」

「そう……まだ実験段階ですらない兵器、理論と実験、実験と実戦配備にはとてつもなく大きな「差」が存在する。古の魔法帝国は我が国の現在の技術水準の遥か上を行く」

「はい、我が国が実用化するのは遥か未来です……それにしても、この超兵器と戦わなければならない敵は哀れですね」

「ふん……バカな猿は自滅する運命なのだよ……私の慈悲で生き延びる機会は与えてやった。まあ魔法無しでこのレベルまで達する事が出来るのは、驚愕に価するが……古の魔法帝国の兵器と教えてやったにも関わらず、向かってくるのはただの愚か者だ。
 私はね……バカは嫌いなのだよ」

 ディスプレイに写る敵艦が炎上する。
 特に小型艦は、防御力が弱いらしく、撃ったそばから轟沈していく。

「敵の中心を撃ちたいな……」

 ここにいる小さな軍を滅した後、敵艦ひしめく本隊に突入する予定がある。
 今戦っている敵は現在のように、射程外から撃ち続けていれば滅する事が出来るだろう。
 しかし、相手が敵本隊となると、そのやり方では時間がかかりすぎる。
 
敵砲の射程内での戦闘行動を、本隊衝突の前に想定しておく必要があると、彼は考えた。
およそ軍人からすると、有り得ない決断を下し、彼は乗務員に指令した。

「敵旗艦を攻撃したまえ」

「それでは、敵対空砲の射程に入りますが、よろしいので?」

「構わぬ。本隊との衝突前に小規模戦闘として経験しておきたいからね……。付近に敵航空機はいないな?」

「レーダーに反応なし」

「魔素を展開、下部の装甲を強化し敵旗艦を攻撃したまえ!!」

「了解」

 空中戦艦パル・キマイラは艦隊外周からの攻撃をやめ、あえて危険の伴う旗艦への突撃を開始する。

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第71話 古の超兵器 P1

グラ・バルカス帝国 第1打撃群 旗艦ベ・テルギス

 日本人が見たならば、旧日本軍の長門型戦艦に似ていると感じるだろう。
 そんな戦艦ベ・テルギスの艦橋では、慌ただしくサイレンが鳴り響いていた。

 ウゥ―――……ウゥ―――

「総員戦闘配備!!総員戦闘配備!!!」

 不安を掻き立てるサイレンの音と共に、艦内には伝令官を通じて戦闘配備の指令が流れ、兵たちは慌ただしく走り回る。

「左舷第3高角砲配置完了!!」

「左舷第4高射機関砲配置完了!!」

 艦橋には次々と配置完了の報告が届き、艦隊は戦闘配置に移行していった。

「司令、艦隊は戦闘配備を完了いたしました。この相対速度であれば、あと20分ほどで接敵する事になるでしょう」

 全長が250m超にも及ぶ飛行要塞……空中戦艦といっても差し支えないほどの敵が迫る。 
 前世界、ユグドにおいても空飛ぶ戦艦など、聞いたことが無い。
 少なくとも攻撃を仕掛けていた飛行部隊が全滅している事を考えるに、一筋縄ではいかないだろう。
 かつてない敵が迫る現実に、参謀バーツは焦りを隠せない。

「焦るな、バーツ。貴君の焦りは兵へ伝搬するぞ」

「はっ!!失礼いたしました」

「して……どう見る?」

「どのような物体が来るのか……見当もつきません。全く……魔法というのが存在する世界は理解に苦しみます。敵が強いのか……弱いのか……装甲がどの程度あるのか……どのような兵器を使用してくるのか……
 すべてが不明で、いきなり命をかけた戦場でそれが判明する。
 戦力分析が出来ない敵に、どう戦えば良いのか全く解りませぬ」

 バーツは純粋に不安を口にした。
 司令カオニアは僅かに笑う。

「そうだな……どういった敵か解らない以上、我々の王道的な戦い方で行くしかあるまい」

 司令カオニアは、海を眺める。
 戦艦8、重巡洋艦8、駆逐艦20、計36隻もの艦隊が海を割き、進む姿は壮観そのものであり、重厚な帝国艦隊を眺めていると、決して負ける事は無いという自信さえも出て来る。
 しかし、敵、神聖ミリシアル帝国と我がグラ・バルカス帝国はすでに海戦を経験している。にも関わらず、単艦で突っ込んでくるという圧倒的な自信、彼は決して油断してはならぬと心を強く持つのだった。



 空中戦艦パル・キマイラ

 様々な機器が並べられ、作業員の前の空中には先進的な魔法具を使用したディスプレイに映像が浮かび上がる。
 今の日本人がそれを見たならば、先進的なSFに出て来る艦橋のように見えるだろう。
 艦長席前に写る大きなディスプレイには眼前の風景が映し出され、上下とも鮮明な視覚画像として映し出される。

「メテオス様、あと10数分ほどで接敵いたします。敵はミスリル級戦艦ほどの艦が2隻、ゴールド級戦艦ほどの大きさの艦が2隻、一回り小さい艦が4隻、さらに小型戦艦8、魔法船ほどの艦20、計36隻で構成される艦隊です」

 報告する者も、報告を受ける者も、種類は違えどマスクをかぶり、一見して異様な風景が広がる。

「そうかね……全滅したまえ」

「ははっ!!!」

 圧倒的な自信、戦力分析などまるで意味をなさない事、敵戦力など最初から眼中にないかの如く、艦長メテオスは言い放つ。

「艦長、戦闘配備に移行いたします」

「許可する」

「総員、戦闘配備!!システム確認を行え!!!」

 職員が慌ただしくディスプレイを叩き、戦闘システムをチェックしていく。

「全システム異常なし」

「戦闘モード起動」

「魔力回路出力上昇」

 無機質な声が艦内に流れる。
 かつて、全世界を支配し、他種族を恐怖のどん底に突き落とした古の魔法帝国……ラヴァーナル帝国の使用していた戦闘艦、空中戦艦パル・キマイラは、神聖ミリシアル帝国の意志により、異界の敵、グラ・バルカス帝国の戦艦部隊を滅するため、単艦で突き進む。


 14分後〜

「く……くるぞ!!!」
 
 司令カオニアは吠える。
 すでに対空レーダーにははっきりと捕捉していた空中戦艦、その戦艦が、はっきりと北東の空に見える。

「本当に浮いている!!!」

 事前の情報として知っていても、実際に浮く「それ」を見た者は、感嘆する。

「主砲用意!!弾種対空弾!!」

 艦隊の主砲に時限信管を装着した主砲弾が装填される。
 時間を調節し、空中で爆発させることにより、空の敵を撃つ。

「右13度、仰角27度、主砲発射まであと1分22秒」

 敵との相対速度が計算され、各艦で主砲の角度が振り分けられる。
 旗艦べ・テルギスに設置された41cm連装砲はその巨体をゆっくりと動かし、敵空中戦艦を向いた。

「最上甲板の兵は退避せよ」

 主砲発射時の爆炎で、兵が死なぬよう、むき出しになった部分にいた者達が最上甲板から艦内に退避した。
 
「司令、対空主砲弾は計算とその時のタイミングが命です。司令の発言前に、時間が来たら発射する……それでよろしいですね?」

 参謀バーツは司令に確認をとる。

「もちろんだ」

 彼は向き直り、はっきりと指示を出す。

「対空主砲弾、最適タイミングで各艦攻撃開始!!」

『最適タイミングで各艦攻撃を開始セヨ』

 司令は無線で迅速に伝達される。


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posted by くみちゃん at 19:49| Comment(12) | 小説

2017年11月14日

2巻特典その3 ガイとエレイ

『ガイとエレイ』

■ トーパ王国 城塞都市トルメス ミナイサ地区

「いやぁぁぁぁ!! 助けてぇぇぇぇ!!!」

「ゴ、ゴラ。暴れんな」

 醜悪な魔物がエレイの手を引く。彼女はこれまでに犠牲となった者と同じように、魔王に出す料理の食材にされるのだ。
 魔物の力は強く、必死で抵抗しても足を引きずられながら連れて行かれる。
 同胞たちは、助けようとすれば自分に矛先が向くことを知っている。だから誰も助けてはくれない。
 エレイを見る、申し訳なさそうな、悲壮感に溢れる目。
 救いがないと知り、絶望から無意識に叫び声を上げた。

 突如、魔物に剣撃が浴びせられる。マントを羽織った白馬の騎士が颯爽と現れ、自由になったエレイを優しく抱き留める。
 微笑む騎士の顔が、逆光でよく見えない。

「顔を……見せてください……」

 徐々に鮮明になっていく騎士の顔に、エレイは目を見開いた。

「えっ――ガイ!?」



 びっしょりと全身を濡らす汗。
 悪夢から目を覚ましたエレイの視界の先には、見慣れた天井が映る。

「あ……夢か。何でこんな夢を……」

 今見た夢に、困惑するエレイ。

「私が結婚するのはモア様のはずなのに……」

 夢の中でのガイは、満面の笑顔だった。現実で魔物から助けてくれたときも、正直カッコいいとは思ったが――。

(でも私は……私が好きなのはモア様のはず……! 何故こんな夢を……)

 いつまでも心に残る夢は、いくら振り払おうとも消えてはくれない。

(ダメ! 結婚はこれからの未来を決めるものだもの。恋愛感情だけではどうしようも……って、何でガイのことが好きなんて前提で考えてるのよ、私は!!)

 エレイの感情は迷走するのだった。

■ ミナイサ地区 ガイ宅

「おい! もうそろそろ行かないと遅れるぞ!」

 モアが玄関先で、早くしろと急かす。

「……こんなんでいいのか?」

 着慣れないトーパ王国騎士の礼服を着たガイが、困惑しながら姿を見せた。

「ほう」

 傭兵時代は伸ばし放題だったヒゲと髪をきれいに整え、礼服を着たガイは、一端の騎士に見えた。

「俺がこんな服を着るのは場違いな気がするぜ……」

「何を言っている、今日からお前は正騎士になるんだ。王の前で執り行われる正式な式典だぞ? 礼服で行くのは当たり前だろ」

「ヘイヘイ」

 モアとガイは、国王も参加する特別式典に出席するために、トルメス城に向かった。

■ トルメス城

 大広間で、魔王出現で滞っていた、様々な式典が進行する。兵たちが整列し、音楽隊が音楽を奏でる。
 そしていよいよ、騎士の叙任式が始まった。

「前へ!」

 号令を受けて、正騎士モアと傭兵ガイが王の前に進み出る。
 王は傭兵ガイに近づき、剣を肩に乗せた。

「傭兵ガイ。貴君はその類稀なる実力と、比類なき勇気を以て、日本国自衛隊員と行動をともにし、強力かつ凶悪な魔王軍に捕らえられていた人質を、死さえ厭わずに命をかけて救出した。その功労は特に多大である。故に、トーパ国王ラドスの名の下、貴君に貴族の階級と正騎士の称号を授ける。トルメス防衛騎士団の任、よろしく頼んだぞ」

「ははっ! 謹んでお引き受けいたします!!」

 モアとガイは、片膝をついてラドス国王陛下にひれ伏す。
 モアは親の男爵よりも上位となる子爵を、ガイは下級勲爵士を授けられた。
 2人はこの日より、城塞都市トルメスのミナイサ地区で、防衛騎士団として勤務を開始する。

■ ミナイサ地区 外縁部

 食料品倉庫で、食品を貪る者がいた。
 顔は醜悪そのもので、ところどころ傷ついている。
 魔王が倒れたとき、騎士の一撃を受けていて逃げ遅れた魔物だった。その魔物――ゴブリンロードはその後、街の外れにあった食料品倉庫へ逃げ込み、徐々に体力を回復させていた。
 倉庫の食料をすべて食べつくしたゴブリンロードは、満たせない空腹と人類に対する増悪を胸に、行動を開始する。

■ 翌日 ミナイサ地区 騎士団詰所

「ガイ、昼過ぎに回ってきた警戒情報、もう読んだか?」

「いや、まだだ」

「どうも最近、町のあちこちで食料が荒らされる事件が続いているらしい。……もしかすると、魔王軍撤退時に逃げ遅れた魔物かもしれん。食料品を扱う場所への注意喚起と、魔物の捜索にあたれとのことだ。騎士団長が各員の訪問先を割り振っているから、ちゃんと確認しておけよ」

 モアに促されて、待機室入り口にある掲示板の前へと移動するガイ。

「どれどれ……俺は第2中央町と東町か。ん?」

 割り当てられた中には、エレイが切り盛りする飲食店が含まれている。
 下級勲爵士という曲がりなりにも貴族となって、初めての仕事。ガイは最初にエレイの店に行こうと決めた。
 仕事を口実に好きな女に会いに行けると、心躍らせながら出かけた。

■ ミナイサ地区 第2中央町

 魔王が討伐され、平和が戻った城塞都市トルメス。死者3千人を出すという未曽有の惨事となったが、1日でも早く町を復興させるため、人々は忙しそうに働く。
 特にミナイサ地区は一時的に魔王に占領されたこともあり、被害が大きい分、住民の復興への意欲も強い。
 ガイの幼馴染で、想い人でもあるエルフの女性エレイも、自分の店を1日でも早く再開させるため、片付けと開店の準備に取り掛かっていた。

「よし! 今日の夕方からお店を再開するぞー!!」

 張り切って仕事するエレイは、店内の片付けを終え、裏の食料庫の扉を開けた。

「え……?」

 中に入って食材を手に取ると、明らかに何かに食いちぎられた跡がある。
 ――ガタン!
 何かが落下して、大きな音を立てた。

「ひぃっ!」

 反射的に振り返ったエレイの視線の先には、体を癒しつつあるゴブリンロードがいた。
 ゴブリンロードはエルフの姿を見て、本能的に飛びかかる。
 魔物の目が憎悪に燃えている。自分を殺そうとしているのを、エレイはすぐに理解した。

「い……いや……いやあぁぁぁぁぁ!!! 何で、何でこんなとこにいるのよぉ――――っ!!!」

 エレイは手元にあった大きなかごを魔物に向かって投げつけた。
 かごはゴブリンロードの顔面にぶつかるも、その程度で止まる突進ではなかった。
 手の届く場所にある、魔法で強化した氷やバケツなど、あらゆる物を投げつける。

「こんなところで! こんなところで!!」

 神話で語られた魔王の侵攻の渦中、歴史に残るトーパ王国兵の奮戦と日本国の支援により、死と隣り合わせの最前線で自分は生き残った。あの戦いの当事者たちは、誰しもが歴史書に名を刻まれるだろう。
 そんな動乱を生き残ったのに、こんなところで――
 魔物に押し倒されたエレイの両手を抑えられ、身動きが取れなくなる。

(死にたくないっ……!!)

 どうしようもない気持ちがこみ上げ、涙が溢れてくる。

「いやぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!」

 大口を開けたゴブリンロードの牙が、エレイの喉に迫った。

 それは他人事のように、漠然とした光景だった。
 ゴブリンロードの喉から、騎士剣の切っ先が突き破って生えたのだ。

「俺の女に……何してやがる」

「グ……グギィッ……」

 聞き覚えのある声。
 こと切れたゴブリンロードの骸を蹴り飛ばした彼は、エレイに手を差し伸べる。

「大丈夫か?」

「ガイ!」

 エレイはその手に縋り付き、本能的にガイにしがみついていた。

「お、おい。エレイ? どこも怪我してないか?」

 窮地を救ってくれた。
 2回も、命をかけて助けてくれた。それだけで、エレイの胸は張り裂けそうになる。

「愛してる……」

「えっ!?」

「助けてくれてありがとう、ガイ……愛してるわ!」

 激しい感情が溢れ出し、大声で泣くエレイ。
 ガイは何も言わず、ただ彼女を優しく慰めた。

 魔王軍の出現に端を発した、元傭兵と囚われの女性の物語は、王国中に瞬く間に広まった。
 そして後日、一組の夫婦が誕生した。国を挙げて盛大に祝福され、末永く幸せに暮らしたという。

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