2017年07月12日

第67話 大戦前夜 P1

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 世界の富が集まる神聖ミリシアル帝国……その中でも最も栄し首都ルーンポリスの中心部に、皇帝の住まう皇城があった。

 帝国の対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部の部長、ヒルカネ・パルぺは皇帝陛下からの直々の呼び出しがあり、皇城を訪れていた。
 陛下からの直々の呼び出しとあって、緊張しながら部屋の前に立つ。
 ドアが開き、皇帝陛下の従者の指示に従って部屋に入った。

 部屋の中にはテーブルと椅子が設置してあり、テーブルの上には帝国の名産品の紅茶が置かれ、微かな湯気を上げていた。
 その先には世界の王たる皇帝ミリシアルが座っていた。

「座るがよい、茶でも飲みながら話そう。」

 彼は陛下に言われるまま、椅子に腰かけた。

「緊張しているのか?まあ茶でも飲め、うまいぞ。」

 世界の中心に住まう帝の前で緊張せぬはずがない。
 1省庁の1部長を皇帝陛下が呼びつける事態、異例中の異例なのだ。
 彼は1口お茶を口に含む。緊張で味など感じなかった。

「陛下、このたびはどういったご用件でしょうか?」

 対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部……帝国の各地で発掘される古の魔法帝国の超兵器……この超兵器を分析し、自国の国力増強に使用するのはもちろんの事、時々未だ使用可能な状態で発掘される兵器の補修、分析、そして運用までもを担当している部署。
 来るべき古の魔法帝国との戦いの際には最も必要とされる部門の長が呼ばれたという事は……。

「余が君を呼びつける理由、想像がついているのであろう?」

「魔帝復活の兆候を掴んだのでしょうか?」

「いや、グラ・バルカス帝国の件だ。」

 ヒルカネ・パルぺはたかが1文明圏外国家のために、神聖ミリシアル帝国の超兵器運用部門の長である自分が呼ばれる意味が良く理解出来なかった。

「港町カルトアルパスを急襲した野蛮な民の国ですか、アグラ国防長官が3艦隊を派遣し、さらに世界連合がレイフォル沖合に展開する艦隊を殲滅するために向かっていると伺っています。」

 沈黙……。
 皇帝陛下がゆっくりと話はじめる。

「余は念には念を重ねる主義でな、本大戦に古代兵器の投入をしようと思っている……このグラ・バルカス帝国艦隊を殲滅するために、空中戦艦パル・キマイラを、そうだな……2隻ほど派遣せよ。」

「なっ!!!!」

 古の魔法帝国の発掘兵器、『空中戦艦パル・キマイラ』、国内で7隻が発掘され、運用可能な数はたったの5隻しか無い古代兵器、このうち2隻もの超戦力の投入、しかもそれが対文明圏外国家であることに、彼は耳を疑った。

「失礼ながら陛下、パル・キマイラはまだ良く構造が理解できない部分があります。万が一にでも撃沈されたら代わりはありません。新たに作る事が出来ないのです。どうかご再考を!!」

「作れない事も、代わりが効かない事も解っておる。私は嫌な予感がするのだ。」

「と、いいますと?」

「国防長官アグラは3艦隊もあれば十分に撃滅できるとの試算を出した。
 しかし……我が帝国は来るべき全種族の……種としての存亡をかけた戦いを少しでも有利に進めるために、発掘された遺跡群から古の魔法帝国の力を推測し、世界史上最大の帝国を仮想敵国として発展してきたため、他国と大きな力の差がついている。」 

 ヒルカネは皇帝陛下の言葉をかみしめるように頷く。
 彼は続ける。

「差が付きすぎて、他国に対して性能面において勝ちすぎているのだ。」

「しかし、それは良い事ではないのですか?」

「国家としては極めて良い事、最高と言っても良く、解析も技術も軍も、良くやってくれていると思う。 
 しかし……連戦連勝は、仮に気を付けていても目をくらます場合がある。
 国防長官アグラは優秀だ。決してグラ・バルカス帝国を侮ってはいないだろう。だが、心の奥底に油断があるように感じるのだ。
 科学文明国家……侮ってはいけない敵だ。」

 ヒルカネは皇帝の言葉をかみしめる。

「かしこまりました。仰せのままに……古代兵器、空中戦艦パル・キマイラを2隻、グラ・バルカス帝国討伐に派遣いたします。」

「頼んだぞ、軍部の方には話をしておこう。万が一、1隻でも落とされるような事があれば、すぐに撤退せよ。」

「古代兵器が落とされるような事は考えられませんが、承知いたしました。」

 出撃日の許可をもらい、多少のやり取りの後、ヒルカネは部屋を退室した。

「……これで負ける事はあるまいが……傲慢なる異界の帝国は殲滅せねばな……。」

 皇帝ミリシアルは窓の外を眺める。
 繁栄を極めし帝都を眺めながらそうつぶやいた。

 神聖ミリシアル帝国は、第2文明圏旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国海軍を滅するため、世界史上最強の国家、古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)の発掘兵器、『空中戦艦パル・キマイラ』2隻を同海域へ派遣する事を決定した。

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2017年05月01日

第66話 侮りし帝国P4


◆◆◆ 

 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 世界流通の要たる港町カルトアルパス、住人たちは岸壁に集まり、港の光景に息をのむ。
 眼前には世界の中心たる中央世界の強国達が集い、大艦隊を形成していた。
 
 その数は見える範囲だけでも250隻を超えている。

 この艦隊はムーの東方沖で第2文明圏の艦隊を交え、世界史上最強とも言える布陣でレイフォル沖へ向かう事となる。
 連合艦隊出陣の日……町はお祭り騒ぎとなった。
 グラ・バルカス帝国もこれで大打撃を被るだろう。

 港中に音楽が響き渡る。聞いていると、何か力を与えてくれそうな音だった。

「出港!!!」

 魔力によって増幅された声が響く。
 中央世界の連合艦隊は西方に展開する異界の軍、グラ・バルカス帝国を滅するために出港していった。

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 国家の異界への転移という大事件の後、その版図を拡大し続けている大帝国、グラ・バルカス帝国。

 強大な帝国を維持するため、必要な物資は現地人に機械の操作方法を教え、強制労働をさせるという形で補われていた。



 帝国 帝都ラグナ 軍本部の会議室〜

 帝国軍の幹部が集まり、会議が行われていた。
 会議には、帝国の3将とも言われる

〇 帝都防衛隊長 イジス
〇 帝国海軍東方艦隊司令長官 カイザル
〇 帝国監査軍司令 ミレケネス

 も参加していた。
 特にカイザルにあっては帝国の軍神とも言われ、彼の1言1言に軍部が注目するほどの影響力がある。
 軍の若手幹部が会議室の幹部に説明を行う。

「お手元の資のとおり、スパイからの情報ですが、異界の連合軍が本日、出港いたしました。
 カルトアルパスから旧式艦約250隻、そして神聖ミリシアル帝国の首都から空母を含む艦艇多数の出港を確認しています。
 敵軍はレイフォル沖を目指している模様です。」

 概要説明が終わる。

「……ついに奴らが本気を出して来たか……。」

 自分達を倒すために向けられた異世界の主力とも言える大艦隊……軍部に僅かな緊張が走る。

 つり目の女性……帝国監査軍司令ミレケネスが発言を始める。

「本来ならば、帝国監査軍が対応すべき事案ではありますが、敵の量は多く、神聖ミリシアル帝国の艦対も向かってきている。
 監査軍だけでは荷が重いですね。」

「フフ……。」

 会議室に似合わぬ笑い、帝国海軍東方艦隊司令長官 軍神カイザルが話始める。

「確かにな……帝都の防衛は帝都防衛隊と西部方面艦隊に任せ、我が兵……帝国海軍東部方面艦隊主力の力をもって一気に叩き潰す事としよう。」

 彼は一気に敵主力を殲滅するつもりだった。
 軍神とも言われる彼の言葉に口を挟む者はいない。

「東部方面隊主力が出るのであれば、ムーも神聖ミリシアル帝国の主力も、本戦いで消滅してしまうでしょうな。」

「久々の東方艦隊の全力出撃、全世界以来ですね。」

 幹部たちが感想を述べる。
 すでに軍の方針は決まり、雑談のような会議が続いた。

「そういえば、同じ異世界からの転移国家と思われる日本国は、敵艦隊に混じっているのか?」

 日本国の事が心のどこかに引っかかるカイザルは若手幹部に尋ねた。

「いえ、今回は確認されておりません。仮に参加していたとしても、大勢に影響はないかと考えられます。」

「しかし、日本国の巡洋艦は多数の我が帝国海軍航空隊を落とした。巡洋艦が多数いれば脅威になる可能性もあるのではないか?」

「はっ!確かに対空能力は特化しておりますが、対艦能力は極めて低いと考えられます。対艦戦闘を他国の船に任せ、対空に専念されると厄介ではあると考えられますが、それに対応する戦術も考えてありますし、今回の侵攻には日本国は参加していませんので、問題は無いかと思われます。」

「そうか……。」

 会議は終了する。
カイザルは、何故か日本国の事が気になるのだった。

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第66話 侮りし帝国P3


◆◆◆

 夕刻〜

 ナグアノはその日の仕事が終わり、家に帰る準備を行っていた。

「部内郵便が届きました。」

 声がかかり、1つの袋が彼の前に置かれた。
 レイフォルの現地人を雇い、一般人のフリをしてムーに向かわせ、様々な情報を集めさせる。
 そのうちの1つが、彼の元に送られてきた。

 ナグアノの部署に分析させた方が良いとの判断があったのだろうが……。
 ナグアノはうんざりした気持ちになった。
 ほとんどの場合、この手の情報はゴミである場合が多い。
 一般人が集めて来る情報など、たかが知れているのだ。
 明日開けても良いが……。
 
 郵便は、メモで小さく「日本国に関する情報」と記載してあった。
 
 帰ろうとしていたナグアノは何故か封を開けたい衝動に駆られ、郵便物を見つめていた。

「開けないのか?」

 同僚が話しかけて来る。

「ん?……日本国に関する情報?ああ、あの国か。」

「港町カルトアルパスの戦闘記録から、日本国の巡洋艦は、装備している砲も我が方と比べて豆鉄砲であり、装甲も紙のように薄い。
 彼らは技術も高そうに見えるのに、船速も25ノット程度と遅い。
 不思議に感じる。」

「確かに、艦の対空砲火の命中率が良かったようであり、もう少し強くてもおかしくはない気はするな。
 命中率を上げる事に特化し、装甲の概念が少ないのかな?」

「あるいは出力の大きいエンジンが作れず、装甲を犠牲にせざるを得なかったのかも。」

「まあ良い、明日出来る仕事は明日すれば?
 俺はもう帰るな。お疲れ様」
 
 同僚は帰宅していった。


 残されたナグアノは胸騒ぎが止まらず、袋に手を伸ばす。
 これほど本能が早く開けろと訴えかけてきた案件は、過去に無い。
 ビリビリと音をたて、封筒が破かれた。

 中には1冊の本、そしてメモのような紙が添えられていた。

『ムーにある日本国の本屋、TUTAYANで手に入れました。』

 本の題名はムーの言語に翻訳されて書かれているため、情報分析部のナグアノには読む事が出来た。
 本にはこうある。

『別冊宝大陸 日本とグラ・バルカス帝国が戦えばこうなる!』

 題名からして興味を引く内容ではあるが、彼は読み進める事とした。
 カラーの写真が印字してあり、雑誌にしては紙の質が異常に高い事に僅かな驚きを感じる。
 彼はページを開いた。

「バ……バカな!!!」

 あまりの内容に、彼の手は震え始め、背中に冷や汗が流れる。

 本には我が国の艦艇の性能や、戦い方、そして戦闘機の性能が予想として記載されており、そのどれもが詳細の数値は違えどほぼ正しい。
 さらに驚いたのが、極秘とされていた我が国最強の戦艦グレードアトラスターについての記事があり、

『第二次大戦中の大和型に酷似!!』

 と記載され、性能や断面図、どの部分が重要区画装甲になっているのかまでもが記載、そのどれもがほぼ正しい。
 最高速度と高射砲の性能、そして主砲の射撃管制方法には間違いが見受けられた。

 特に驚いたのが、グレードアトラスターの砲の口径は極秘中の極秘であり、軍部でさえも40センチメートル砲と思っている者が多い。
 しかし、この本にははっきりと46センチメートル砲と記載してあった。

「な……何故だ!!」

 彼はムー語の辞書を片手に読み進める。

「し……し……信じられん!!」

 空母機動部隊の運用方法、戦闘機の最高速度と航続距離、そして弱点、対空火砲に近接信管が使用されている可能性や、極秘中の極秘であるレーダー技術の原理と想定される性能の幅についても記載されており、詳しく書かれている。
 さらに、陸戦兵器についての記載もあり、まだこの世界で他国に対して使用していないはずの戦車についても図面、運用方法、砲の口径、装甲等が予想として書かれていた。
 
 戦車の予想については数台あり、弱いものからかなり強力なものまで想定されており、当たっているとは言えないかもしれないが、我が国の戦車がその幅の中に含まれてはいた。

 それほどまでに詳細に予測し、我が国の強き装備等を余すことなく記載しておきながら、それでも日本国が圧勝するとの記載に彼は目を疑う。

「これほどまでに予想しておきながら、圧勝だと?なめおって……。」

 何故言い切れる!その根拠は何だ!?と思いながら彼はページを進める。
 そこには……日本国に実在すると言われる兵器群が写真入りで紹介されていた。

「こ……これは?SSM1B……?」

 資料には『艦対艦ミサイル』と記載があった。
 重量660kgの爆弾が、時速1150km以上で距離にして150km以上飛翔し、動く敵に対しても爆弾が磁石のように敵に吸い付けられ、着弾する。
 海上スレスレを飛翔するため、レーダーにも写りにくく、グラ・バルカス帝国の技術では迎撃が難しいとある。

「この誘導弾という兵器……我が国では概念すらないぞ!」

 独り言が……あまりの驚き、心で思う事が声となって出て来る。
 誘導弾が海上スレスレを飛翔する事でレーダーに写りにくいと記載があるあたり、レーダーの特性を日本国が理解している事になる。

「イージス艦?」

 同時に200以上の目標を追尾し、その中から12以上の目標を並行して逐次迎撃出来る個艦、艦対空誘導弾という兵器を使用するため、これでは航空機はほぼ撃墜されてしまう。
 さらにこの艦は対艦誘導弾を迎撃する事を目標に作られているため、信じられん事に主砲でミサイルと呼ばれる兵器を迎撃出来るようだった。
 仮に距離に応じたミサイルの迎撃と、主砲の迎撃を潜り抜けても、最後に分速3000発もしくは4500発の20mm機関砲が迎撃をしてくる。

「こ…こ…これでは!!」

 仮にこの艦を含む艦隊がやってきた場合、帝国の空母機動部隊から飛行機がいなくなってしまう。
 潜水艦についても記載があり、日本国が対潜水艦の作戦を行った場合の想定、そして日本国の潜水艦についても記載があった。
 これについては詳しい数値が得られなかった。

 この他も、航空機、戦車についての記載があり、そのどれもがグラ・バルカス帝国のそれとは隔絶した性能が記載してある。
 特に戦闘機は音速を超え、空飛ぶレーダーサイトのような航空機や対艦ミサイルを大量に積める戦闘機など、信じられないような性能だった。
 写真を見るに、我が国では構想段階のジェットエンジンを実用化し、熟成されている。

 この本によって、神聖ミリシアル帝国強襲時に撃沈した敵巡洋艦は、巡洋艦ではなく、沿岸警備隊のような組織だったと判明した。
 逆に言えば沿岸警備隊程度の敵を相手に我が帝国の戦闘機が多数撃墜された事になる。

「こ……これは上申しなければ!」

 ナグアノは国家の戦略を揺るがしかねない、いや、このまま突き進めば、この本の情報が本当であれば国家の存亡すらも揺るがしかねない現実に戦慄が走った。
 しかし……彼の脳裏に不安がよぎる。
 信じてもらえるだろうか?いや、信じさせなければならない!!

 彼は上申のための書類を作り始めた。


 翌日〜

 ナグアノが仕事場に来ると、仕事場がざわついていた。
 
「どうしました?」

 彼は側にいた先輩に尋ねる。

「いや、東部……この世界では第3文明圏と言われている付近の沖合に偵察に出ていた東部方面潜水艦隊所属の潜水艦が1隻、消息を絶ったらしい。帰還予定からすでに1カ月が経過し、軍部は何らかの事故にあったのではと判断したらしいぞ。
 この世界で初めての大規模事故だからちょっとしたニュースになっているぞ。」

 東部方面潜水艦隊といえば……日本国の近海!!

 ナグアノは戦慄を覚えるのだった。

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