2019年11月10日

第95話 覇王の行進2 P3

 
◆◆◆

 グラ・バルカス帝国第2先遣隊 旗艦クエーサ

「まだ無線発信元は見つからんのか!!」

 第2先遣隊は、第1先遣隊の先を行く。
 発信元の解らない警告文は、司令アウロネスをイラつかせていた。

「一体どうなっている?何故見つからん!!」

 もう無線探知から数時間が経過している。
 いつ行われるのか解らぬ攻撃、しかし未だ見つからない敵に、アウロネスは、隣に経つ第2艦隊副司令に苛立ちをぶつけた。

「確実に索敵は行っていますが、見つかっておりません。
 ……いったいどうやって無線を発したのか……」

「海軍本部は、日本国が強い可能性を指摘している。
 誘導弾などという大それた想定もあるが、おそらくは欺瞞情報。
 高精度の大口径砲を装備し、対空能力は極めて高い可能性があると指摘されている」

「オタハイトを攻撃した本国艦隊が全滅していますからな……攻撃部隊が小部隊だったとはいえ、高精度の大口径砲は脅威ですな」

 海軍本部からは、幹部に対しては日本国が強い可能性があるとの情報が伝えられていた。 欺瞞情報の可能性も合わせて指摘されている。
 経験上連戦連勝を重ねてきた幹部にとって、どうしても信じられない情報も混じっていた。

 しかし、謎の無線、そして探知出来ないという不気味さが彼らをイラつかせる。

「敵が現れたら大艦隊で踏みつぶしてくれるわ!!奴らの国全体の保有艦艇数は我が先遣隊の、第2艦隊よりも少ないと聞く。
 帝国の砲の威力、艦艇の最高速力は理論上これ以上上がりようが無いレベルまで達している。 
 艦艇の性能が多少良く、命中率が高かろうと、圧倒的物量でたたきつぶしてくれるわ!!」

「そうですな。
 敵は少数。しかも大口径砲も我が軍よりも大きい砲は確認されていません。
 異界の蛮族共と、我が国のような差は決して無い。
 命中率が良かろうと、我が軍の敵ではありません」

 第2艦隊副司令も、海軍本部の情報を一笑に付した。

「しかし、穏やかですな……」

 何処までも穏やかな海を眺める。
 グラ・バルカス帝国艦艇の姿は力強く。何者が来ても決して負けることなど無いと信じるに足りるほどの威容を放つ。
 無線は不気味だが、考えすぎかもしれんと、アウロネスは自分の本能を理性で否定した。
「ん?」

 微かな違和感。

「レーダーに光点を確認!!距離……」

 レーダーを見ていた者が大声で報告する。直後、前方を逝く駆逐艦が突如として衝撃波を放った。
 次の瞬間、駆逐艦は炎に包まれた。

 ズガァァァァッ!!

 遅れて響き渡る爆音。

「なんだっ!!いったい何が起こった!!!」

 余裕をもって進んでいたグラ・バルカス帝国第二先遣艦隊に緊張が走る。

「駆逐艦イトクーワに着弾!!」

「くっ!!何て威力だ!!」

 駆逐艦イトクーワよりも遙かに大きな、戦艦の主砲を遙かに超える、見たことも無いような爆発。
 戦場に戦慄が走る。

「イトクーワはどうなった!?」

 目をこらして爆発の方向を見る。
 ゆっくりと煙が晴れ、海上には波打つ海面のみ……浮かぶ物は何も無かった。

「イトクーワ轟沈!!」

「今のは何だ!?機雷か?」

「いえ、イトクーワは上部から爆発しました。機雷でも、魚雷でもありません!!!」

「今のはいったい何なのだ!!たった1発……探知は出来なかったのか!!」

「レーダーには艦隊直近で薄い光点が移った直後、爆発がありました!!!」
 
 潜水艦「おうりゅう」のはなった対艦誘導弾ハープーンは、固体ロケットブースターで7秒間加速した後、ターボジェットによる飛行に切り替わる。
 マッハ0.85の速度で海面スレスレを飛行し、レーダー探知の網をかいくぐった。
 敵艦隊が近づいてきたところで一度急な上昇に転じ、斜め上からグラ・バルカス帝国駆逐艦に突き刺さる。
 着弾したミサイルはその威力を開放し、大爆発を引き起こす。
 爆圧の外側の空気は音速を遙かに超え、衝撃波を生み出した。
 駆逐艦の艦体よりも遙かに大きな爆発が、海に出現したのだった。

「総員戦闘配備!!敵の攻撃だ!!全力で向かい撃て!!」

 何の攻撃があったのか、理解できない。
 しかし、アウロネスは上空からの何らかの攻撃があったと判断する。
 命令は正確に伝達された。
 艦内に緊迫したブザーが鳴り響く。
 休憩中の兵達も、慌ただしく持ち場についた。
 空母は加速し、次々に戦闘機の発艦を始め、上空警戒中の戦闘機も、さらに索敵範囲を広くした。

「いったい何処から攻撃したというのだ!!」

 空に敵の反応は無い。
 海上にはもちろん無く、海中においても未だ見つかっていなかった。

「第31航空隊から報告!!艦隊2時の方向より低空を飛翔物体接近中!!距離30km!!
 目測速度時速約1000km、航空隊による迎撃、間に合いません!!」

「時……時速1000kmだと!?戦闘機でも追いつけぬか……いかん!!対空戦闘用意、全力で撃ち落とせ!!各艦の判断で撃ち方はじめ!!」

 距離30kmは恐ろしく近い。
 時速1000km前後であれば、艦隊上空までたったの100秒程度で来てしまう。
 しかし、100秒の準備時間があり、距離と方位を特定出来れば、迎撃の可能性は上がる。

 前方を走る艦隊から対空砲撃が始まる。
 目視標準、曳光弾を交えた対空砲火は空に光の雨を降らす。
 多くの艦から放たれる雨のような対空砲火、目標が上昇したため、水平射撃に近かったそれらが一斉に上を向いた。

「あれかっ!!」

 細長い物体が飛翔しているのが何とか見える。
 今まで攻撃対象が確認できず、撃つ事が出来なかった艦が攻撃に加わった。
 空に向かって光の雨が多数打ち上げられる。

 1発食らえば駆逐艦であれば轟沈する。
 恐怖のあまり、彼らは必死で迎撃した。

 耳を劈く射撃音……打ち上げられる光弾はあまりにも多く、幻想的に空を彩る。
 
「撃ち落とせえぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 アウロネスは攻撃してくる兵器を見上げて叫んだ。

 奇跡の一撃。
 旗艦クエーサから打ち上げられた対空砲のうちの1発が、ハープーンを弾体に設置されたレーダーで捕らえた。
 帝国自慢の近接信管は正常に作動し、弾は空中で爆発、爆圧がハープーン後方を大きく削る。

「やったぞぉっ!!!」

 アウロネスが拳を握り混んだ。
 姿勢制御能力を失ったミサイルは、ゆっくりと回転し、落下した。
 海面に衝突した対艦誘導弾は大爆発を起こす。

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 歓声がわき起こる。

「見たかっ!!これが帝国の力だっ!!」

「帝国の防空網、お前らには破れんぞ!!」

 恐怖から一時的に開放された兵達からは強気の発言が出る。
 旗艦クエーサでも同様の歓声が巻き起こった。
 周囲が沸き立つ中、司令アウロネスの額には汗が伝っていた。

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第95話 覇王の行進2 P2

◆◆◆

 女帝ミレケネスは旗艦バルサーの艦橋で海を睨み付ける。

「まだ、敵は発見出来ないのか!?」

「はっ!!無線が出たと思われる場所付近を索敵しているのですが、未だ発見に至っておりません。
 また、艦隊内と思われた場所は、索敵及び念の為に爆雷投下を実施したのですが、敵は未だ見つかっておりません」

「……いったい何処から無線を発したのだ……」

 ミレケネスの額に汗が伝う。
 無線が発したのは5回、いずれも離れた場所からであった。
 しかもそのうち1回は艦隊の中……潜水艦以外に思い当たる節はない。

「まさか……超高空……?いや、超高空からでも接近してくれば、レーダーが気づくはずだ」
 
 主要艦艇には対空レーダーが設置してある。
 どの艦艇からも、未だ敵航空機を発見したという報告は入っていなかった。
 すべての艦艇のレーダーが故障する確率は、ゼロに近い。

 人工衛生から発せられた無線による警告は、グラ・バルカス帝国海軍を大いに混乱させる事となった。

◆◆◆

 グラ・バルカス帝国第2先遣艦隊東方約130km 海中

 深度150m……海上の光が遮られた暗い海中に、黒色の葉巻型の物体が音も無く進んでいた。
 日本国海上自衛隊そうりゅう型潜水艦11番艦「おうりゅう」……日本国における最新鋭の潜水艦であり、海上自衛隊発の非大気依存推進(AIP)の潜水艦、長期間海上に出ること無く航行する事が可能となっている。
 船体に張り巡らされた水中吸音材は、ソナーに頼る海の中において、非常に見つかりにくい構造となっていた。

「艦長、まもなく帝国艦隊が射程距離に入ります……すごい数です」

 艦数400隻を超える大艦隊。第2時世界大戦時の技術力……圧倒的物量を前に、さすがに緊張する。
 相手の混乱を目的とした作戦。まずは潜水艦による攻撃を加える。
 その1番槍に「おうりゅう」が当たる事となった。
 無言の船内が、さらに緊張を加速させる。敵の情報は、随時衛生経由で送られてくる。
 敵との距離が110kmを切った。

 艦長は、目を瞑る。
 自分の一言で、何の恨みも無い者達が逝く。
 しかし、自分達が攻撃に加わらないと、日本国民の多くが殺される。
 自衛隊たる者、あってはならない事というのは解っているが、人を殺したくは無かった。 国の為とは言え、国民の為とは言え、正直殺したくはない……しかし……。
 そんな私情は捨て去らなければ……。
 敵は東京へ侵攻する可能性が予想されていた。
 東京には、自分の家族、そして隊員達の家族がいる。
 家族に刃を向ける者達に容赦をしてはならないと自分を納得させた。

 艦長は目を見開く。

「攻撃開始!!可能な限り敵を沈めるぞ!!」

 海上自衛隊そうりゅう型潜水艦 おうりゅう は、その刃をグラ・バルカス帝国艦隊に向ける。
 後に、歴史の転換点と言われた大海戦が幕を開けようとしていた。

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第95話 覇王の行進2 P1

ロデニウス大陸 南側海上

 雲一つ無い空。
 青く透き通った空は何処までも広がり、海は穏やかに波打つ。
 海鳥たちはのんびりと浮かんでいた。
 どこまでも平和な風景、天国のような風景はその者たちの到来により、一瞬で緊迫した様相に変わる。
 波を裂き、力強く鋼鉄の船が進む。空には上空警戒の鋼鉄の鳥が現れ、不快な音を鳴らした。
 当初現れた鉄の船は、急激にその数を増やし、艦隊となって進む。
 艦隊は西から東へ進み、さらに南西からやってきた他の艦隊と合流しようとしていた。
 
 チエイズ王国で補給を済ませ、出発したグラ・バルカス帝国第1先遣隊、そしてグルート騎国から出発した第2先遣隊は、この海域で合流しようとしていた。
 その数合計440隻……。

 グラ・バルカス帝国第1先遣隊司令ミレケネスは、旗艦、超戦艦バルサーの艦橋から海を眺めていた。
 帝国3将と呼ばれる実力の持ち主、女帝ミレケネス……年の割には若作りであり、影ながらのファンも多い。

「司令、間もなく第2先遣隊と合流完了致します。
 第2艦隊司令より、挨拶文も入っています」

 第1、第2先遣艦隊合流後は、第2艦隊が先を進む。
 第2艦隊でも艦船210隻と十分な戦力であり、日本国の前線基地到達前の露払いはこの第2艦隊の役目であった。
 合流後は、帝国3将たるミレケネスを艦隊司令とし、第2先遣隊司令アウロネスは副司令となる予定であった。

「ふぅ……」

 弱く吐息を吐く。

「しかし……我が軍は圧倒的だな……」

 旗艦バルサーを囲むように輪形に対空に特化した戦艦、巡洋艦が配置し、さらに外側には水平線まで艦隊が見える。
 付近には、帝国の誇る大型空母が誇らしげに進んでいた。
 大型艦200隻以上という大艦隊が行く光景は、圧倒的な光景であった。

「司令、外周警戒戦闘機隊から入電、南方約300km海上で、ワイバーン40騎が艦隊へ向け進行していたため、全機撃墜したとの事です。
 全機撃墜、損失ゼロ、被弾機無しです」

 通信士から報告を受けた戦艦バルサーの艦長、レスポートが司令に報告を上げる。

「ふむ……また弾薬の無駄遣いをしたな」

 ミレケネスは興味の無い顔で、つぶやいた。

「まったくです。異世界の蛮族どもは、力の差が理解出来ていません。
 奴らも夜間飛行能力は持ちませんので、何の脅威でもありません。
 訓練と、弾の無駄遣い……強いて言うなら気が休まらない事が問題ですが……状況を見て、旗艦に関しては、敵の驚異度を測定し、問題ないならば体勢を縮小するといった事も検討するつもりです」

 チエイズ王国を出発し、艦隊が日本国に進路を取った後は帆船による攻撃は止んでいた。 これは当初の想定を下回り、帝国海軍は疑問に思っていたが、単純にグラ・バルカス帝国の艦隊速力が、各国の想定していた海軍侵攻速力を遙かに上回り、全く追いつけていないという状態が発生していた。
 代わりにワイバーンは五月雨のように飛んできていたが、帝国の防空網にあっさりと引っかかり、次々と撃墜されていた。

「圧巻の行進ですな、この大艦隊を見て、怯まぬ者はこの世界に存在しないでしょう」

「……そうだな。圧倒的物量は、小賢しい作戦をすべて押しつぶす」

「ほ……報告!!」

 司令と艦長の間に通信士が割って入る。
 通信士の顔は困惑していた。
 司令と艦長の話を遮るほどの事態、少しの緊張が走る。

「どうした!?」

「無線機から、警告文を受信いたしました。
『日本国より警告、直ちに引き返せ、さもなくば攻撃する』繰り返し5回受信しました」

「ほう、位置のばれる危険を伴ってまでも無線を発するとは、バカのすることだな位置の特定は出来たのか?」

「それが……現時点解らないのです」

 困惑する通信士。

「何だと?何故解らないのだ!!」

「位置が……5回とも大幅にズレています。その内の1つは我が艦隊の中と算出されます。現在発信元の割り出しに全力を尽くしていますが……電波の強さと位置情報が合わないのです」

「複数の発信元があるのだろう。しかし内一つが艦隊内だと?まさか、潜水艦が紛れ込んでいるのか?」

 レスポートが疑問を呈す。

「潜水艦が発するタイプの周波数ではありません。海の中の可能性は低いかと」

 ミレケネスが目を見開く。

「合流は後だ!!
 海中から無線発信のために有線で海上まで発信器を出して行った可能性も高い。
 発信元で遠い所は航空機による索敵を実施、艦隊内での発信元には駆逐艦を急行させ、付近に爆雷を投下せよ!!」

「はっ!!」

 命令は正確に伝達された。

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