2018年06月27日

第78話終わりの始まりP2

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 アルー西側、ムー国陸軍第24任務部隊 

 アルーから西に伸びる塹壕、長く、蛇のようにうねった塹壕は、アルーから20km近く伸びている。
 塹壕とは、地面よりも低く掘られた人間の通れる溝のようなもので、中を兵が通ると、砲撃や銃撃戦において、弾が頭の上空を通過するため、普通に地面を進むに比べ、生存率が劇的に上がる。

 その塹壕の中で、最前線にいた歩兵、ケイネスは、国境方面を双眼鏡でにらんでいた。

「な…何だ?あれは!!」

 見通しの良い地平線の向こう側に、土煙が上がっている。
 その量は多く、やがて煙の下からは、黒と緑かかった色の形の車が現れた。
 少し旧軍が好きな者がそれを見たならば、九七式中戦車に似ていると考えることだろう。
 見慣れぬその物体に、ケイネスが本部に報告しようとした矢先……

 重低音のような地響きと、炸裂音が後方から聞こえた。
 彼は振り返る。

「つっ!!!」

 街では連続して砲が炸裂し、所々で猛烈な土煙をあげる。
 砲撃が着弾した建物は、ガラガラと音をたてて崩壊していった。

「大砲の着弾!?ばかなっ!!完全に目視圏外だぞ!!!」

 驚愕……。

『敵襲!!敵襲!!総員戦闘配置に付け!!!』

 遅れてくる報告。

 守るべき街が砲撃にさらされるなか、ケイネスは前から来る敵に備えるのだった。


 砲兵陣地

 上空では敵航空機が現れ、我が物顔で飛行する。
 時々狙いを定めて投下される爆弾は強烈で、アルー防衛基地からは多くの炎が上がっていた。
 空を見上げると、ムーの誇る最新鋭機マリンが参戦し侵略者たちをたたき落とそうと、勇猛果敢に戦う……しかし……迎撃に上がった友軍機はたちまち後ろにつかれ、曳光弾を交えた機銃でたたき落とされる、燃え上がる友軍基地から時々上がる対空砲火もむなしく空を切っていた。
 幸いにも日本国の指導により、上空から見ると森に溶け込むように偽装された砲兵陣地は敵に見つかっていないらしく、攻撃は受けていなかった。
 しかし……砲兵陣地は蜂の巣をつついたような状態となっていた。

『敵黒色車両、おそらく戦車と思われる。これよりあれを戦車と称する、砲撃用意!!繰り返す、砲撃用意!!!』

 砲兵アーツセイは迅速的確に準備を行う。
 まだ敵戦車はこちらの射程距離に入っていなかったが、その戦車よりもはるか後方から砲撃してきたグラ・バルカス帝国の砲撃……アルーの守護者たる自分が反撃出来ない悔しさ……砲兵アーツ・セイは、技術格差を感じざるをえなかった。

◆◆◆

 ムーの街アルー

「きゃーー!!」

「うわーーーー!!」

 街の所々に砲撃が着弾する。
 着弾箇所では、猛烈な爆発と共に、瓦礫が崩れ落ち、土煙をあげていた。
 防空壕も無いこの街では、住民が「当たればいきなり死ぬ」というかつて経験した事の無い恐怖から、逃げ惑う。

 度重なるムー国政府からの避難勧告があった、しかし、住民単位では、世界第2位の列強国本土には絶対に攻撃をしてこないだろうと、根拠無く思い込む者が多く、そういった者たちの言葉を信じた住民、そして家族たちは、避難が遅れ、今に至る。
 自由を重んじたため、政府の力は住民に対して弱く、強制力を発揮することが出来ない政治体制の弊害が、現れていた。

 街はパニック状態となる。



「イネス、私たちの判断ミスにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい、あなた達を先に……避難させるべきだった」

 イネスと呼ばれた娘の母親は、涙を流して後悔の念を話す。

 アルーの街に住まう貴族、パーメル家……政府から避難勧告が出た後、住民を先に避難させようと、奮闘した……彼らの働きかけによって、考えが変わった住民も多く、万単位の住民は救われているだろう。

 しかし、鉄道が未だ整備されていない国境の町、自家用車を持っている者も少なく、政府が出した車両でもなお足りず、自分たちの避難を後回しにしてしまったため、戦火に巻き込まれる事となった。

「イネス、オートバイの乗り方は解るわね?」

「うん」

「もうここは危ない!!今すぐメルンをつれて逃げて!!」

 16歳の娘、イネスは父のオートバイに乗る姿にあこがれ、やがて自分でも運転できるレベルに達していた。

「でも……でも、お父さんとお母さんを置いてはいけないよ!!!」

「ごめんね……でも、このままではみんな死んでしまう。今すぐにげるの!!」

「ムーは世界で2番目に強いんでしょ!!基地も近くにあるし、なんとかしてくれるはずよ!!!」

「ムー国軍は強い、でもグラ・バルカス帝国もとてつもなく強いの、神聖ミリシアル帝国でさえも手を焼くほどに……古の魔法帝国の超兵器でさえも落とすような……化け物みたいな相手なの、お願い、あなたとメルンは私たちパーメル家の宝物、命に代えても守らなければいけないもの……いきなさい!!!」

「イネスは、目に涙を浮かべ、走り出す。6歳の妹、メルンをバイクの後部座席に乗せ、エンジンをかけた」

「東へ逃げなさい!!空洞山脈を抜け、ハルゲキの街に向かうの、そこで叔父さんを訪ねなさい、きっと力になってくれるから!!」

 街の所々は、砲撃にされられ、爆音がこだまする。
 イネスは妹、メルンをバイクの後ろに乗せ、ゆっくりとアクセルを開けつつクラッチをつないだ。
 570CC単気筒のバイクはタタタタといった音をたて、加速を開始する。
 パーメル家の娘、イネスは妹メルンと共に、アルーの街を脱出したのだった。

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第78話終わりの始まりP1

ムー国 国境の町アルー

 少し高原に位置する国境の町アルー。
 この高原には平野部が多いが、街は少し小高い丘に作られている。
 近代戦では用がなくなった古い城壁の外側は、丈の低い草が生え、所々土がむき出しになっていた。
 小高い丘の上部にわずかにある森、その中に設置された砲兵陣地で、2人の兵が話をしていた。

「なあ、聞いたか?グラ・バルカス帝国とムーが衝突した場合、このアルーが最前線になるらしいぜ」

 同僚の発するこの言葉に、砲兵アーツ・セイは身震いする。

 突如としてムー大陸の西から現れたグラ・バルカス帝国
 周辺国家を瞬く間に制圧し、列強レイフォルをも打ち破る。
 それでも、ムー国は余裕を持って対応していた……しかし、神聖ミリシアル帝国カルトアルパス沖合において、ムー国の誇る最新鋭艦隊が、壊滅的な打撃を受ける。
 軍部に激震が走った。

 さらに、神聖ミリシアル帝国さえも参加した世界連合とグラ・バルカス帝国の戦い。
 神聖ミリシアル帝国と、ムー国は……世界1位と2位の強国の意地とプライドをかけて戦った。
 しかし、結果は痛み分け……神聖ミリシアル帝国に至っては、古の魔法帝国の超兵器を投入したが、それさえも撃沈されたと聞く。
 軍上層部は絶望的な技術格差を埋めようと、躍起になっているらしい。
 一般兵の間では、自分が戦わなくてはならず、伝説的な強さを誇るグラ・バルカス帝国は恐怖の対象となっていた。

「敵は強いだろう……それでも……アルーの民の守護者は我々だ!!砲兵として、絶対に敵に当ててやる!!!
 いかに敵が強いと言えど、同じ人間だ。
 砲が当たれば必ず死ぬし、陸上で砲が通じぬ武器など、あるわけがない!!!」

「でもな……この前日本国の本が、ムーでも販売されていたが、戦車と呼ばれる、装甲を持った車みたいなのが、砲をつけているという変な兵器が日本にはあるらしい。
 この装甲は、ムーの放つ砲をはじくほどに強いらしいぞ。
 カルトアルパス沖海戦で、グラ・バルカス帝国に日本の巡洋艦は撃沈された。
 帝国は日本よりも強力な可能性があると言うことだ。
 ……もしも、戦車と呼ばれる兵器、敵が投入してたら……」

 砲兵たちは、戦う意思を強めながらも、まもなく来るであろう圧倒的ともいえる敵の影におびえるのだった。

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2018年06月21日

第77話迫る戦火3P4


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 グラ・バルカス帝国領 レイフォル地区 東側 帝国陸軍第8旅団

 空は晴れ渡り、雲が所々に見える。
 空気は少しだけ肌寒い。

 ムー国の国境の町、アルー西側約30kmに位置するグラ・バルカス帝国陸軍の、最前線基地、バルクルスで、帝国陸軍の砲兵が整然と並ぶ。
 先には第4師団の戦車隊がエンジンをかけ、いつでも出撃出来る状態となっていた。
 また、陸軍航空隊は、新設された飛行場から発進し、上空で旋回、戦闘準備を完了していた。
 そう、グラ・バルカス帝国は、今、ムーへの侵攻を開始しようとしていた。
 軍が整然と並ぶ壮観な風景を眺めながら、帝国陸軍第8旅団長のガオグゲルは、部下の第4師団長ボーグと話をしていた。

「ボーグ君、帝国陸軍は強い」

「はっ、その通りであります!!!」

「その中でも、君の第4師団は飛び抜けて強い、君たちにかかる期待は大きいぞ!!」

「ははっ!!帝国最新鋭の戦車を主体とした機械化師団であります。最前線は、戦車で突破し、ムー国陸軍など、あっさりと撃破して見せます!!」

「通達では、日本国も参戦する可能性があると言っているが……日本国の強さは未知数だがな……」

「日本国は、ムー国に陸軍を送ろうとしているらしいのですが、まだ準備が出来ていないと伺っています。
 どちらにせよ、『戦力を放棄』すると憲法で詠っているような軟弱な国の陸軍など、恐れるに足りません!! 
 仮に敵対したならば、我が最新の機械化師団であっさりと滅してみせましょうぞ!!」

「時にボーグ君、君の師団では、兵にストレスがたまっていないか?」

「ははっ!!皇帝陛下のため、士気は極めて高いのですが、やはり望郷の念から、精神的にストレスが高いのも事実でありますが、我が軍は屈強です。
 それは肉体に止まらず、精神面でも屈強でありますのでご心配には及びません」

「ボーグ君、兵の精神衛生は、強さに直結するのだよ。少し考えを改めたまえ。
 今回の、ムー侵攻作戦では、多数のムー国民の難民が出るだろう。
 君たちが敵国人を、どう扱おうが、私は全くとがめるつもりはない」

「……はっ!?」

 ガオグゲルの発言が理解出来ずに固まるボーグ。
 ガオグゲルは小さな声で発言した。

「ここには前世界のような戦時国際法などない。略奪を一切咎めないと言っているのだよ」

 ボーグの顔がにやける。
 ガオグゲルも、ゲスのような顔を浮かべた。
 

 外務省が入手したとされる日本国の情報は、軍上層部に的確に伝えられた。
 万が一を考慮し、軍はムー侵攻部隊を増強したが、内心それはよくある欺瞞情報であると判断していた。
 この時、グラ・バルカス帝国陸軍に、日本国が脅威であると感じる者は一人もいなかった。

「さあ、殺戮の宴をはじめようか……この瞬間、私が一言声を発すれば、多くの者の人生が終わるこの決定権……たまらんな……」

 彼は小さくつぶやいた。

「……攻撃開始」

「てーーーっ!!!」

 最前線基地バルクルス前に設置された、榴弾砲、平和に暮らそうとするムー国人を時刻にたたき落とす業火が火を噴く。

 この日、グラ・バルカス帝国は、ムー国国境アルーの街に砲撃を開始、侵攻を開始した。
 
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posted by くみちゃん at 22:38| Comment(1176) | 小説