2019年05月03日

第91話 帝国撃沈2 P3


◆◆◆

 グラ・バルカス帝国 首都ラグナ 高級料亭 ミルトコウモ

 2人の男が話している。

「これで日本国も終わりだ。バカ皇太子が1人、正義感に刈られて行ってくれたおかげで軍需産業も潤うな。
 エルチルゴ、今回は本格的大規模侵攻になるぞ」

 エルチルゴと呼ばれた正装をした男は卑しい笑みを浮かべる。

「帝王府副長官ともあろうお方が、殿下を悪く言うのは、聞かれたらとんでもない事になりますぞ。
 お気を付け下さい」

「おっと、軽率だったな。しかし、潤っただろう?」

 卑しい顔を浮かべる。
 
「はい、おかげさまで。オルダイカ様のご配慮により、我がカルスライン社はかつてないほどの受注に震えています」

 戦時国家となったグラ・バルカス帝国。世界を相手に戦い、さらに世界の果てともいえる日本国への大規模攻撃が想定されたため、かつて無いほどの量産体制となっていた。
 元々カルスライン社が他社に技術では圧倒していたが、受注の橋渡しや入札予定価格を帝王府副長官、オルダイカがリークしていたため、大金が流れ込む。
 カルスライン社のエルチルゴは、アルセンに大きく頭を下げた。

「砲弾の大規模量産、そして軍艦すらも量産するという、国家総動員体制に入ったと言っても過言では無いからな。
 カバルが捕らえられたということはそれほどに重い。
 まあ、危険が切迫する地域に皇族が行くことを強制的に止める手立てはあったのだがな。 帝王府権限で差し止めるなど、過去に数例はあり、今回もしようとした者はいたが、俺がもみ消した。
 結果、総動員体制となって、潤った……だろう?
 ところで、例の物はあるのか?」

「オルダイカ様……お悪いですね。
 おっと、早くお渡ししなければ。
 これはお礼では無いのですが、オルダイカ様の大好きなお菓子でございます。お納め下さい」

 盆にのせられ、紙がかけられたものがオルダイカにの前に出る。
 彼は盆に乗せられた紙をめくった。

 グラ・バルカス帝国で流通している最高通貨の札束が重ねられていた。
 顔が緩む。

「これは、ほんの気持ちの現れでございます。
 後ほど、これの100倍の額をトラックでお届けいたします」

 一生遊んでも、個人では使い切れないほどの額がそこにはあった。

「ほっほっほまるで私が催促しているようではないか」

「いえいえ、とんでもございません。
 これはほんの気持ち、決して求められて出した訳でも、見返りを求めて出した物などではありません。
 ところで、オルダイカ様、第3次受注についてですが」

「解っておるわ!!ほっほっほ……しかしエルチルゴや、お主も悪よのう」

「オルダイカ様ほどではございません」

『ハッハッハッハッハ』

 帝国に蠢く闇、本件侵攻を、一部の者達は歓迎をもって迎えるのだった。


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第91話 帝国激震2 P2


◆◆◆

 第2文明圏 列強ムー 首都オタハイト 日本大使館

 会議室に、8人の男が座っていた。
 日本国外務省、グラ・バルカス帝国担当 朝田、ムー担当 御園 その他職員
 そして、グラ・バルカス帝国外務省事務次官 パルゲール、大使ダラス、その他職員。
 帝国サイドの目線は鋭く、ピリピリとした空気が流れる。
 その中に朝田の印象的だった女性の姿は無い。

「おや?今回はシエリアさんは来られないのですか?」

「シエリアは他業務がある。今回事務次官である私パルゲールと本来担当のダラスとで来た」

 外交官の若き幹部シエリアはグラ・カバル殿下の居所を探るため、多数の官庁や他国との調整に忙しく、日本国へ通達するという大仕事には参加出来ないでいた。
 しかし、皇太子殿下のお命を左右するほどの大仕事である。
 万が一齟齬が生じて処刑でもされたらとんでもないことになる。
 担当だけに任せる訳にも行かず、本国の事務次官レベルが出て来たのだった。
 
 他国の大使に対しての言葉遣い、朝田は多少の不快感を覚えた。
 パルゲールの身長は少し低い。身長は160cmくらいだろうか、頭は禿げ上がり、優しそうな雰囲気を醸し出す。 

「ほう……」

 突然の事務次官の登場、本件交渉にかけるグラ・バルカス帝国の意気込みは本物であり、皇太子の引き渡しに関する交渉であることは間違い無いだろう。
 
 事務次官パルゲールはゆっくりと話し始めた。

「日本国は我が国のグラ・カバル皇太子殿下を捕らえているな?」

「捕らえている?違いますね」

「では、捕らえててはいないのか?」

「彼は非戦闘員です。バルクルス奪還作戦に巻き込まれ、怪我を負っている状況で日本国に連絡が来ました。
 我々の医療技術無しには彼は救えなかったため、本国へ移送しました」

「そうか、では日本国にいることに間違いは無いのだな?」

 パルゲールは確認するように話した。
 一瞬の沈黙。

「ええ、あなた方の皇太子は我が国で治療を受けています」

 パルゲールの顔色が変わる。

「そうか、では命ずる。すぐに皇太子殿下を安全な状態で我が国に引き渡せ」

 目つきが鋭くなる。
 いや、殺気すら感じるほどの鋭い目つき、ドスの効いた声、会議室の空気は一気に悪化した。

「現在はまだ治療中です。非戦闘員であり、患者の健康面での配慮もありますので、今すぐ引き渡す訳にはいきません」

「我が国の医療は優秀である。お前たちの治療は必用としていない。これは命令だ。
 すぐに引き渡すのだ」

「敵国とはいえ、外交の場で命令口調ですか?」

 外交は相手を敬う気持も必用である。
 敵国とはいえ、命令口調であるグラ・バルカス帝国外務省事務次官、一国の事務次官ははるか格上ではあるが、国が違うため、当然部下では無い。
 朝田は多少の挑発を入れる。

「我が国はグラ・バルカス帝国である。
 日本国は転移国家と聞いているが、支配面積の少ない東の弱小国が、我が国と対等だと思うな。
 お前たちの捕らえたお方のためであれば、大軍がいともたやすく動く。
 戦争状態にあるが、距離があるため、戦略上の理由で貴国は後回しにされていたにすぎない。
 お前たちの国を先に滅ぼす事などたやすい」

 朝田の不快感は上がっていく。

「日本国政府としては、治療後もしばらく皇太子殿には日本にいていただくつもりである。 一定期間滞在した後、再交渉する事になるだろう」

 パルゲールの目つきがさらに悪くなる。

「殿下を捕らえる……事の重要性が解っているのか?弱小国が……連合に参加しなければ自らの意思すらも決定出来ない金魚の糞のような国、敵対国を属国化出来ないほどの弱小国家が、殿下を捕らえる、この意味を知れ」

「口が悪いですね、非礼の極みだ。あなた方の国は、少し礼というものを学んだ方が良いでしょう」

「貴様、意味が解っているのか?お前は日本国の代表として我が国の意思決定に影響を及ぼすほどの人物の前で発言をしいているのだぞ?
 お前の回答次第では……東京はあっさりと灰燼に帰す」

 朝田の方眉がつり上がる。

「ほう……東京に核でも使うつもりですか?」

「核??」

 核という言葉に反応が無い。
 むしろ知らないかのような対応に、朝田は言葉を変える。

「言い間違えました、東京に大規模攻撃でもするつもりでしょうか?」

「お前の返答次第では、大艦隊が東京沖合を埋め尽くすぞ。距離が侵攻を妨げるとは思わぬ事だ。
 我が国が本気になれば、距離など問題ではない。
 圧倒的物量をもった圧倒的大艦隊……貴様らが体験したことの無いような大艦隊が、東京に砲撃の雨を降らせるだろう。
 レイフォルの首都レイフォリアが体験したような単艦による攻撃とは訳が違う」

 少し得意そうに話す。
 朝田は日本国とグラ・バルカス帝国の技術的な圧倒的差は理解していたが、弾薬は足りるだろうか?という微かな不安を覚えた。
 しかし、日本国政府の指示を的確に伝える。

「我が国の意思は変わらない。現時点、身柄の引き渡しは出来ない。
 治療後、少し時間をおいて検討する。
 あくまで我が国が決める事であり、貴国に決定権はない」

「殿下を人質とするというのか?」

「いや、人質ではない。非戦闘員でもある。犯罪でも犯さない限りは身の安全は保証する」

「言葉を換えても同じ事だ。引き渡さない、時期も明確にしないのならば、お前たちは熾烈な攻撃を受ける事になる。
 本当に良いんだな?」

「我が国の意思は変わらない」

「貴様本気で言っているのかぁ!!!お前たちが捕らえているのは帝国の……グラ・バルカス帝国の次期皇帝陛下なのだぞぉっ!!!
 その意味が……その意味が解っているのかっ!!」

 響き渡る怒号。

「殿下に万が一の事があったら……殿下に万が一の事があれば、皇帝陛下の烈火の如き怒りを買うぞ!!
 降伏程度では済まない。
 お前たちの国民全員が処分の対象にされても致し方ないほどに重要な案件なのだ!!
 お前の対応によって、国民全員が処刑されるかもしれぬほどの重い決断と知れ!!」

 朝田は怯まなかった。

「何度も言おう。我が国の意思は変わらない」

 沈黙。
 パルゲールは低い……ドスの効いた声で話し始めた。

「そうか、自国の民の命を、貴様はたった今絶った。もう話すことは無い!!」

 交渉は決裂に終わる。
 グラ・バルカス帝国外務省事務次官は、本国軍に対し、日本国に対する大規模攻撃を要請するのだった。

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posted by くみちゃん at 20:11| Comment(56) | 小説

第91話 帝国激震2 P1

 この世界において、有らざる巨艦が海を進む。
 波を裂き、圧倒的なる存在感。
 レイフォルを単艦で攻め滅ぼし、数多の戦場で敵を葬ってきた。

 神聖ミリシアル帝国が保有する古の魔法帝国の空中戦艦でさえも葬った異界の軍艦は、生ける伝説となり、この世界において恐怖の象徴となっていた。

 グラ・バルカス帝国史上最大にして最強の戦艦、グレードアトラスター。
 その巨艦の艦上で、正装をした者達が海を眺める。

「間もなくムーへ上陸か……」
 
 外交官ダラスは海を眺めながら回想していた。
 日本国へ皇太子殿下を安全に引き渡すよう、通告を出すという大仕事。

 用件があるため、レイフォルにあるグラ・バルカス帝国外務省出張所まで来るように指示するも、日本国政府は「用件がある方が来い」との内容通知を送り返してきた。
 帝国に対して不敬にもほどがある。

 ダラスの心は日本国に対する怒りと、軍の一部が現に負けたという苦しい現実が入り交じり、複雑な感情となった。

 船はやがて停船し、ムーの小型船が姿を現す。
 内容を簡潔に告げて、日本国大使と会う約束を取り付けた。

 ムーの小型船を乗り継ぎ、首都オタハイトに入る。
 帝国ほどの発展は無いが、歴史と清潔感がある。
 走っている車はデザインや性能が古そうだった。

「やはり、50年以上は遅れているな」

 ダラスは日本国大使館へ向かう車窓から外を見た。
 幸せそうに歩く人々、帝国に比べてのんびりと時間が流れているようにも思えた。

「すぐにムーも制圧してその腑抜けた笑顔を恐怖に変えてやる」 

 ダラスはつぶやいた。
 やがて、白い建物が見えてくる。
 建物の上には白地に赤丸の旗がはためく。

「着いたか……殿下を捕らえるとは……ゆるさんぞ……」
  
 敵意をもって、ムー国内日本国大使館を眺める。
 
 やがて、大使館の扉が開かれ、内部に案内された。
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posted by くみちゃん at 20:09| Comment(8) | 小説